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女神(アイドル)たち舞い歌いて、邪を祓う  作者: 暇崎ルア
第4章 悪意には、甘き実りを

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呪詛

 口の中には、あの味がまだ残っていた。苦い抹茶の味と、あまったるい余韻を残す人工甘味料の味。

 楽屋の鏡を見ると、あたしの隣にはあたしが立っている。同じ髪型、同じ背丈のもう一人のあたしが。

 鏡に映ったあたしは、あたしの耳元に口を近づける。その口元が、にいっと斜めに高く引き上げられる。


「壊しちゃいなよ」


 あたしの姿をしているのに、声だけはあたしよりも低い。


「気に入らないものは壊すべきだって」


 そうでしょ? きっと、すっきりするよ。

 冷たい吐息が、耳元にかかる。


「……いいかもしれないね」


 あたしも口角を上げて見せた。

 あははははははっ!

 もう一人のあたしは、大きく口を開けてけらけらと笑った。

 ひとしきり笑ったあと、楽屋から廊下に出る。一階に降りると、電話をしている長身の男と出くわした。


「咲堂樹里さん」


 すれ違ってしばらくしてから、声を掛けられる。振り返ると、さっきの男が苦虫を噛み潰したような顔でこっちを見ていた。


「誰?」

「失礼致しました——わたくし、アイドルグループ『万物の歌神』のマネージャー、因幡と申します」


 ああ、あいつがいるグループのマネージャーか。気に入らない。


「何だよ、こいつ」


 隣に立つもう一人のあたしも、男を睨みながらそう言っている。


「——すみません、一瞬だけ立ち止まっていていただけますか?」

「は?」


 何であたしがそんなことをしなきゃいけないの?

 そう反論する間もなく男はあたしに向かって、何かを呟き始めた。日本語に聞こえないような、意味不明の言葉。


「ぐえっ」


 もう一人のあたしが苦しそうにえずく声が聞こえて、あたしまで気分が悪くなってきた。

 訳がわからないけど、聞いていて気分の良くない言葉だったし、身体も頭もずしんと重くなった。

 目の前が一瞬、真っ白になる。あたしはこのままどうなるんだろう。

 ふざけんなよ、どうしてあたしがここまで苦しまないといけないんだ。どうして、どうして。あたしは被害者なのに。ふざけんなよ。


「あああっ、くそっ。もっと、あんたの力を借りないと」


 もう一人のあたしの苛ついた声。

 途端に、ぐいっと後ろから顔を掴まれる感覚があった。たくさんの指が口の中に入ってきた。

 口の中がすごく甘ったるい。まるで、甘い花のつぼみを噛んだみたい。


「——なんということだ」


 力ない声が聞こえて、意識が戻る。

 目を開けると、布製のマットを敷いた青い床と黒い大きな革靴が見えた。身体が重くなったあたしは、どうやらそのまましゃがんでいたみたいだ。

 痛む首を持ち上げると、さっきの男があたしを見下ろしていた。目を大きく開いて、信じられないものを見るような目つきで。

 やめろよ。どうしてあたしをそんな目で見るんだ。誰のせいで苦しんでいると思ってるんだよ。


「あっち行けよ!」


 もう一人のあたしが叫んだ。男の方を憎々し気に睨みながら。

 そのあとはどうしたのかわからない。気がつけば、自分の楽屋に戻っていた。


「もう大丈夫、あたしはあいつよりも力をつけたから」


 楽屋の姿見の中、隣に立ったもう一人のあたしが呟く。

 あたしのおかげ?

 おうむ返しに呟いたあたしを見て、もうひとりのあたしがにいと笑う。


「あんたの中の想いにもっと力を与えたの。そうすれば、今のやつみたいにやられなくて済むから」


 何を言っているのかはよくわからなかった。だけどあたしの中の何かが変わったのはわかった。

 それにすごく気分が良かった。


「そう、良かったね」


 あたしも笑みを返した。


 *


「こっちこっち、因幡くん——って、めちゃくちゃ顔色悪いじゃん!? どうしたの!?」

「——すみません、なかなか手ごわい悪霊と対面しまして」

「わーお……やっぱそれって、さっき急に電話切れたのと関係ある?」

「大いにあります、実は……」


「——あー、なるほどね。憑かれちゃったのかな、咲堂樹里さんも」

「そうでしょうね——結局、あの悪霊を祓うことはできませんでした。無念です」

「この間といい、苦戦が続くねえ——それで彼女も御剣社長と接触してる可能性はないの?」

「その可能性は高いと思っています。後ほど、彼女のマネージャーに確認しておきます」

「オーケー、頼んだよ——さて、この件だけど。やってもらうか、うちの女神たちに」

「あまりこういうことは堂々と頼みたくないのですがね」

「まあね、でもしょうがないでしょ——それにあの子たちなら負けないと思うし」

「——だといいのですが」

「あの子たちを信じなよ——うちの子たちが只者じゃないっていうのは、オーディションの時点でわかってたんだから」

「……そうでしたね」

「あとは作戦を決めるだけ。これから考えよう」

「そうですね。まずは誰にお願いするかですが……」

「それはもう、決まってるでしょ。咲堂樹里に近づける適役が」

「やはり彼女ですか」

「うん、あの子しかいないよ」

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