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女神(アイドル)たち舞い歌いて、邪を祓う  作者: 暇崎ルア
第4章 悪意には、甘き実りを

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宮園楓花 過去

 全ての始まり、エポックメイキングは小学校の頃の学習発表会だ。そう楓花は確信している。

 四年生のとき、クラスの劇のオーディションで勝ち取った主役は魔法使いだった。体育館の小さなステージ上、小道具の小さな箒を手に自分の台詞を口にしたとき、本物の魔法使いになれた気がした。

「自分じゃない別の何者かになる」ということが楽しかったのかもしれない。「女優になりたい」と思うまで時間はかからず、気づけば養成所へと身を投じていた。

 手入れの簡単なハンサムショートと呼ばれる髪型で活動を続けていると、一部から「ボーイッシュな雰囲気漂う中性的女優」「爽やかイケメン女優」と言うキャラ付けもされるようになった。同時にメディア出演をするときの衣装もパンツルックのものが多くなった。特に意識して「中性的」に振舞っていたわけではないのだが、周りからはそう見えているらしい。

 そんな中で出会ったのが、高天原光明だった。バラエティ番組に出演したあとの楽屋で出会ったことを記憶している。


「宮園さん、いろんな可能性を秘めてそうだね~。磨いた分だけどんどん光るダイヤモンドの原石って感じがするよ」


 後の「ばんかみ」プロデューサーになる男は、初対面の楓花に楽しそうに告げた。

「恐縮です」と無難に返事を返すと、思いも寄らぬ一言が返ってきた。


「良かったら、今度アイドルのオーディションに出てみない? 実はアイドルグループ作る予定なんだけどさ」


 純粋に驚いた。高天原といえば、両親世代を代表するロックミュージシャンというイメージを抱いていたからだ。そんな人が「アイドルグループ」を作るとは。

 そして自分がまさか声をかけられるとも思っていなかった。


「宮園さんってどっちかって言うと中性的な感じあるでしょ——そこが俺の理想のアイドルグループに欲しいんだよな」


 楓花の受けた衝撃が伝わったのか、高天原は言い聞かせるように言った。

 彼曰く、自分が作るアイドルグループには多彩なメンバーが欲しいのだという。


「俺が言うのも何だけど、アイドルと女優のWフェイスっていうのも悪くないんじゃないかな。今後アイドル役引き受けるときとかに経験になるかもよ?」


 それは高天原の軽い受け売りだったが「楓花のようなメンバーがほしい」という言葉とともに最後に一押しとなった。それと同時に「アイドルという職業も、誰かのあこがれになること。新たな自分を演じることかもしれない」と考えたからかもしれなかった。

 脇役として抜擢されたテレビドラマの撮影をしつつ、一次の履歴書選考は難なくクリアした。理由はわからないが、会場が異様な雰囲気だった二次選考の面接でも何とか自分の経歴とアイドルになってやりたいことを伝えた。その結果「万物の歌神」というアイドルグループで、メンカラ緑色の「木の女神」になっていた。

 アイドル活動は思っていた以上に楽ではなかった。歌、ダンス、ファンとのコミュニケーションなど、こなさなければいけないことがたくさんある。だけど達成できた分だけ、女優としての楓花の力にもなるような気がした。思い切ってアイドルになって良かったとも思えた。

 その成果なのだろうか。とうとう関監督から直々に主演のオファーが来た。「役のイメージに楓花がハマっていて、女優としての実力も期待できるから」というオファー理由も聞いた。

 だが、周りの声が時々邪魔をするときがある。


『所詮、アイドルの知名度で取ったんだろ』

『女優としての純粋な実力で勝ち取った役じゃないだろうに』


 匿名のインターネットで、楓花に対してそんな言葉が投げられているのを偶然見てしまったことがある。

 ——そうなのかな。

 批判の声は限られている。しかし彼らの言うこともごもっともなのかもしれないと苦しくなることもある。今回主演への声がかかったのはアイドルとしての活躍がなければなかったのかもしれない、と。

 ——それでもいいじゃないか。

 そう思う自分もいる。

「アイドル」というレッテルがきっかけでも、自分のこれまでの女優としての実力を発揮すればそれでいいのだ。


「——ちょっと、宮園さん」


 大丈夫?

 耳元で声が響き、はっとした。

 顔を上げると、咲堂が怪訝な顔で楓花を覗き込んでいた。また視界が灰色になっていたようだ。


「……ああ、ごめんなさい。ぼうっとしちゃってましたね」

「あの、楓花先輩、疲れてるんじゃ……?」


 美亜も心配そうな目で楓花を見ている。どうやら相当暗い顔になっていたらしい。


「ううん、大丈夫だよ——ごめんね、心配かけて。考え事しすぎちゃってたみたいだ」


 固まっていた口角を再び持ち上げる。それまでの暗い考えを笑い飛ばすつもりで。

「もう、びっくりしましたよ。急に黙り込んだと思ったら、暗い目で俯いてるんですもん。宮園さんはいつだって『爽やか王子様』なんですから、そんな顔見られたら驚かれちゃいますよ?」


 ジョークのように言いつつも、咲堂の指摘は鋭かった。


「あはは、それは困りますね。気を付けます」


 ——そうだ、集中しなきゃ。

 今は大切な撮影のときなのだ。ここで余計なことを考えて、支障をきたしてはいけない。


「あっ、いたいた。キャストの皆さんだ!」

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