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ロストハーツクロニクル  作者: すずめ
第3章 失われた魔法
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12.注目

週別ユニークユーザ100人超えました!

本当にありがとうございます!

「案内と言っても、そこまで派手なものはないんですけど……何か見たいものとかありますか?」


 特に目的地もないのか、ゆったりとした歩調のスズリが振り向き、尋ねる。


 そうは言われても、だ。


「そもそも、ここには何があるんだ?」


「そうだね。説明が欲しいかな」


「あ、そうですよね。……そろそろ時間ですし、お昼ご飯食べながらでいいですか?」


 二人の求めに思考しつつ、スズリは提案。

 その言葉を受け、ユウヤは自分のお腹をさする。


「昼メシ……そう言えば、腹減ったな」


 ぐう、と胃が空腹を主張した。


 慌ただしく動いていたこの数時間、昼食に適した時間などとうに越している。

 気にする暇もなかったというのに、ひと段落した途端にこの有様。

 つくづく、人間の体というのは勝手なものだ。


 音が聞こえたか、スズリは苦笑い。

 そして、現れた時から携えていた小さな籠を上げて見せる。


「さっき、母に持たされたんです。皆さんの分もあります。この時間なら人通りも少ないですし、あの木の下で食べましょうか」


 そうして指差したのは、樹齢数百年と言われてもおかしくないほどに育った一本の木。

 距離が開いているにも関わらず、木の天辺を仰ぐと日差しが目に入る。

 里に足を踏み入れた瞬間には目に入っていたそこへ、日陰を求めて足早に向かった。



◆◇◆◇◆



 木陰は涼しく、先程までは生温いと感じていた風も爽やかに思える。

 大きな木に背を預け、長く一息。


 今日という日はまだ半分ほど残っているというのに、既にこの疲労だ。

 他の面々も似たり寄ったりな状態。

 せっせと準備をするスズリの手伝いを買って出る気になれないほど、ユウヤは疲れていた。


 せめてもの抵抗として、気だるさにずり下がりそうになる体を何とか留める。

 無理な姿勢のためか、妙に息苦しい。

 このまま動きたくない。しかし、意識してしまった呼吸は苦しく、どこにも楽を見出せなかった。


 ユウヤに自身を痛めつける趣味はない。

 息苦しさが(まさ)ってしまい、諦めて起き上がる。


「皆さん、どうぞ食べてください」


「ああ、ありがーー」


 スズリが開けた籠の中には均一に整えられたおにぎりがあった。

 ユウヤは手を伸ばしかけ、一旦停止。そして引っ込める。


 そんなユウヤの行動を、スズリは不思議そうに見ていた。


 むう、と唸り、ひとまずは考える。


 どうやら自分は口が悪いらしい。

 タクヤ曰く気弱なこの少女を怖がらせないためにも、言葉は選んだ方がいいだろう。


「スズリ、ちょっといいか」


「は、はい」


 どもったスズリに、引っかかるものを感じるが、それは無視する。


 どうせ顔だ。ユウヤは顔が怖いというほぼ満場一致の評価を受けている。それは悲しいかな、正しいらしい。

 そして、むやみに笑顔を振りまくことができるほど、ユウヤは器用ではない。


 ここ数ヶ月で知った思わぬ弱点。

 それは外見に加え、染み付いた言葉遣いだ。克服は難しい。


 言葉遣いはアレンをほぼそのまま受け継いだものだ。

 一緒に暮らしていた結果、自然とこうなっていた。

 ちなみに、アレンはさらに乱暴な口調である。


 外見に関して言えば、ユウヤに責任はない。

 存在するのであろう、親の顔が見てみたいものだ。

 それは親に会いたいという気持ちからではなく、単純な興味として。

 どんな親を持てば、やたらに顔を指摘される子どもが生まれるのだろうか。

 ここまで存在を匂わせないと、元からいないのではないかとさえ疑ってしまう。

 別にそれでもいいのだが。いようがいまいが、今のユウヤには関係のないことだ。


 それはさておき。


 諸々諦め、肩の力を抜きながら言う。


「すっげぇ見られてねぇか」


 もはや、誰が先に口にするか秒読みの展開ではあった。


 ユウヤたちを遠巻きに眺める視線がいくつもある。

 一番初めに向けられたものとは違い、突き刺すような鋭さはなかったものの、なぜか野次馬のようなそれを浴びせられている。

 これでは食べ物も喉を通らないというものだ。


「人通りが少ないってのはどうしたんだい。人しかいないよ」


 小さく笑ったタクヤに、スズリは申し訳なさそうに体を縮こまらせる。


「すみません……でも、既に皆さんのことは里の人たちに知らされているはずなので、悪い意味で注目を浴びているわけではないと思います。リズベット様は、その、大変なことになるかもしれないんですけど」


「リズでいいわよ。それより、私が大変なことになるってどういう意味なの?」


 堅苦しいスズリをよしとしないリズが一つ言い、彼女の言葉の指すところを尋ねた。


「だって、あのスミレ様の娘なんですよ? それはもう大変ですよ」


 何度聞いても答えを期待することはできなさそうなスズリの返し。

 リズは困ったように眉を下げ、再び質問する。


「スズリ……ちゃん。もう少し具体的に言ってもらっていい?」


「や、やめてください! スミレ様のご息女に、そのような恐れ多い……父様に叱られてしまいます! 呼び捨てでお願いします!」


 スズリは裏返る声をそのままに顔を青ざめさせ、怒涛の勢いで首を振る。


 青い顔がその動きによって赤く染まっていくという不思議な現象を目の当たりにしてしまった。

 そんなくだらないことを考えながら、おにぎりを頬張る。


 当事者でなければ、随分と気楽なものである。とは言え仲間である以上、全くの無関係という訳でもなく。


 リズは今の発言からスズリとどう接するか図りかねているようで、多少の焦りを含みつつ会話を試みていた。


「そ、そんなことはないでしょう?」


「ありますよ! だってリズベット様は、あのスミレ様の……!」


 拳を上下に揺さぶり、声にならない声で何かを訴えるスズリ。


「どんだけすごいの、君の母親は」


「こっちが聞きたいわよ」


 タクヤの何とも言えない表情に、リズは心なしか細い声音で返す。


 弱った、と困り果てるリズは、目を合わせようとしないスズリに何とか向き合った。


「その呼び方はあまり慣れないの。呼び捨てするから、リズって呼んでもらえる?」


「そ、そんな……私なんかが……」


「いいじゃない。私たち、従姉妹でしょう?」


 自らを卑下するスズリの手を握り、リズはその顔をゆっくりと近づけていく。


「いくら従姉妹でも、スミレ様のーー」


「ねえ、スズリちゃん」


「や、やめてください……!」


 必死に顔を背けるスズリに構わず、今度は掴んだ手を徐々に引くという所業に出るリズ。

 自分は動かないあたり、リズもずるいものだ。


 おにぎりのちょうどいい塩気具合に感動の思考で溢れているユウヤは傍観を選ぶ。


「スーズーリーちゃーん」


「ひぃっ!」


 スズリはリズの緩い拘束から脱出し、素早くその場を離脱した。


「リズ、スズリさんが……」


 その距離、僅か数歩ほどの離脱先。

 ユアの後ろに隠れ、顔だけを覗かせるスズリがそこにいた。


「ほら、怯えてるよ」


「どうしろって言うのよ」


 タクヤの指摘に頬杖をつき、頬の形を歪めながらリズ。

 もうお手上げといったところか。


「スズリさん、スズリさん」


「私のことは、どうか気にせず……」


 スズリは自分の背を優しく叩くユアに対してまで卑屈になっている。


 ユアは眉を下げて困惑を示した。


「ど、どうして、ここまで……」


「このお姉さん、怖いもんねぇ? ……あだっ!」


 肩に強めの一発をくらい、タクヤは退場。悲しい男だ。


「別に怖がらせたいわけじゃないのよ。そう呼ばれるのはなんだかむず痒くて……お願いだから、ね?」


 ずい、と一気に距離を詰めたリズはこれ以上ないほどに笑顔だ。


 スズリはこちらに向けて助けを求めるような視線を送るが、しかし。


「観念しなよ、お嬢さん。こうなったらリズは引かないから」


 タクヤは笑いを噛み殺しながら、打つ手なしと宣告。

 同意見であり、ユウヤ個人としてもあまりに他人行儀なスズリに落ち着かないところはあった。

 頷きつつ、茶で舌を湿らす。


 ついぞ、スズリに救いの手が差し伸べられることはなかった。


 彼女は散々悩み、唸った後。


「リズ、様」


「ーーはは! うまいね、お嬢さん。確かに、リズは後につける言葉のことはなんにも言ってなかった」


 タクヤは腹を抱えて笑い転げる。

 一方、リズが抱えたのは頭だ。


「……お願いだから、それ以外にしてくれる?」


「うう……スミレ様の、ご息女を……」


「スズリちゃん」


 その言葉を最後に、リズはただ微笑む。


 無言の圧力がスズリを襲う。

 忙しなく変わる顔色に、スズリの葛藤が目に見えるようだ。


 重圧に耐えかね、スズリは目を泳がせながらも言った。


「あ、う……リズさん」


「うん、これでよし」


 満足を声に乗せたリズに、タクヤはけらけらと笑う。


 実に長かった。ユウヤはその間、おにぎりを三つほど食べ終えている。


 ユウヤとしてはまだ足りないが、物事には限度というものがある。

 いくらたくさん入っているからといって、これ以上は駄目だ。


 自重しようとしたユウヤの横で、お腹いっぱい、と呟くユアの声が聞こえる。

 ユウヤはさりげなく、数えた総数からユアの食べた分を引く。


 ほう、と事実を確かめ、計算終了。

 ユウヤはもう一つ手に取り、食べ始める。


 一連の流れはタクヤに見られており、小さく笑う息が聞こえた。


 そんなこととはつゆ知らず、リズは改めて話す。


「じゃあ、スズリ。この里でお母様がどんな存在だったか、聞いてもいいかしら」


「ーーはい。私が生まれる前にいなくなってしまったのでばば様や父様から伝え聞いた話ですけど、お話しします」


 こうして、やっと進展を見せた会話。

 ユウヤはその感動するほどの進歩に喜びさえ覚えていた。


 そして、五人は気がつかない。


 話はまだ、本題にすら入っていないということに。

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