第39話 奪われた特別
最初に噂を聞いたのは、酒場だった。
「結局さ」
中堅冒険者が、杯を傾けながら言う。
「レオンが特別だったから、
安心できたんだよ」
向かいの男が、苦笑する。
「今はどうだ」
「誰でも“それっぽく”やれる」
笑い声。
だが、その奥に棘がある。
「俺たちが命張ってたのは、
レオンがいたからだ」
「今は?」
「……基準、だとよ」
酒が、強く流し込まれる。
俺は、少し離れた席でそれを聞いていた。
気づかれてはいない。
だが、言葉ははっきり届く。
「特別が、なくなった」
ぽつりと漏れたその一言が、胸に残る。
――
翌日。
ミナトが、険しい顔で戻ってきた。
「……一部の冒険者が、
基準を“手抜き”だって」
「手抜き?」
「レオンさんほどの奇跡がないって」
彼は拳を握る。
「自分たちが特別扱いされなくなったからだ」
支援が標準化される。
それは、格差が縮まるということだ。
だが、格差があった側は。
「俺たちは、レオンと組んでたんだぞ」
街道で、直接声をかけられた。
古株の冒険者。
「誇りだった」
真剣な目だ。
「今はどうだ。
どこの若造も同じ理屈で動く」
怒りではない。
喪失だ。
「……特別でなくなるのが、怖いか」
俺が問うと、男は目を逸らした。
「怖くないわけあるか」
正直な答えだった。
「俺たちは、あんたと組んでた」
その事実が、彼らの価値だった。
今は?
「基準は、誰でも読める」
男は、低く言う。
「俺たちの積み上げは、
何だったんだ」
その問いに、簡単な答えはない。
「無駄じゃない」
俺は言う。
「でも、特別でもない」
沈黙。
「特別じゃないと、価値がないか?」
男は、しばらく黙ったまま、やがて笑った。
「……意地悪だな」
だが、その笑いは、どこか寂しい。
夜、焚き火の前。
「反発、増えるよ」
エリスが言う。
「分かってる」
「唯一無二の光は、眩しいけど分かりやすい」
火を見つめながら続ける。
「広がった光は、
誰のものか分からなくなる」
それが、怖い。
ミナトが、静かに言った。
「俺、レオンさんに憧れてます」
真っ直ぐな目。
「でも、同じになりたいわけじゃない」
その言葉に、救われる。
特別は、確かに誇りだ。
だが、それがなければ立てない世界は、
脆い。
俺は、特別を奪ったわけではない。
分けただけだ。
それでも。
奪われたと感じる者がいる。
支援の標準化は、
能力の平準化ではない。
だが、そう見える瞬間がある。
火は、広がっている。
温もりも。
だが同時に、
影も濃くなっていく。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




