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第十二章 脱出(8)

 楽しんでいただけたら幸いです。

 先に動いたのはアラタであった。


 彼は自分を守る様にして立ち塞がるケティを軽く押しのけつつ前へ出ると、真っ直ぐにクラリスの瞳を見つめながら自身の考えが決して変わる事が無いという意思を伝える。


 俺の決意の言葉を黙って聞いていたクラリスは「ふぅ」と溜め息を一つ吐くと、渋々という風にであるがこれ以上反対の意思を見せることは無くなった。


「分かったわ。貴方がそこまで言うなら、ね」


「!? お、おい!!」


 クラリスの言葉を聞いて黙っていられないのがケティだ。あんだけ頑なに”ジャンヌ・ダルクを殺す”と口にしていた彼女が、こうも簡単に自身の作戦を撤回するなんてケティには到底信じられなかった。


 ケティは構えていた剣の先端を軽く地面に突き刺すと、半ば取り乱した様子でクラリスへと掴みかかる。どこにそんな余力が残っていたのか、掴み上げたクラリスの襟首の裾がビリィと音を立てて裂けた。


「本気なのか!? 言わせてもらうが、アラタは強酸スライムにすら手こずるほど弱いのだぞ!! そんな男があのジャンヌと真面にやり合って勝てるはずがない。無様に殺されるだけだ!!」


「そんなことは私も百も承知よ。だけど、彼があそこまで言うんだもの。何か策があるのでしょう」


 そうよね、とまるで同意を求めるように俺の方へと視線を送ってくるクラリス。いや、この場合は同意と求められているより、寧ろ俺自身を試していると言った方が的確であろうか。


 もしかしたら、このクラリスという女は全てを見通しているのか? 生憎彼女の人形のように整っていながらも、どこか冷めた印象を覚える顔からは何の意図も感情も読み取ることは出来なかった。


「ならば、何故!? お前も言っていたはずだ。アラタが殺されるのを黙って見ているわけにはいかないと!!」


 なのにお前は自身の口にした言葉にすら責任を持てないのか!? と激高するケティ。


 そんな彼女をチラリと一瞥したクラリスは、自身の服の襟元を掴むケティの手を鬱陶しそうに叩き落とすと、


「大袈裟ね。何も彼にすべてを託そう、任せようとは考えていないわよ」


「? どういう意味だ?」


 理解できないという風に首を傾げるケティ。そんな彼女を見てクラリスは「これだから脳筋は」と呆れを含んだ溜息を吐くと、


「言葉通りの意味よ。アラタに全てを任せようと思ってはいないってこと。彼の身に危険が及べば、貴女かこの私がジャンヌの相手をするという事よ」


「そういうことか。ならば最初からそう言えばいいものの」


「最初からそう言っているじゃない。理解力のない馬鹿はこれだから」


 ヘッと小馬鹿にした発言を口にするクラリス。


 そんな二人のやり取りを端から聞いていた俺は、


(いや、それじゃ余程察しの良い奴じゃないと分からないだろうよ)


 とクラリスの物言いに内心ツッコミを入れる。


 だが、どうやらクラリスもケティも俺のやることに賛同してくれたようで・・・・・・、まさに百万の味方を付けたような頼もしさを感じた。


 流石に俺一人ではだいぶ不安が残っていたが、彼女たちが付いていてくれるなら何も恐れることはない。他力本願な気もするが、自身の力不足は本人が一番よく知っていたので、ここは余計な見栄を張らずに彼女たちの助けを借りることにした。


 話が纏まりかけた頃合いを見計らうように、俺たちとの密約の時間はこれにて終了と言わんばかりに、


「―――――――――さて、それじゃあ私はそろそろ引き上げるわ。これ以上長引くとあの子に勘ぐられそうだしね」


「えっ、ちょっと待てよ。方向性が決まっただけで、まだ具体的なことを何も相談してないだろ」

 

 自分勝手に話を切り上げて早々に退散の構えを見せたクラリスに、俺はついつい声を荒らげて引き留めようとする、が。


「相談も何も。一応私と貴方たちは敵同士なのよ。それにここに来るのだって大変だったんだから。これ以上の長居は怪しまれる可能性もあるし」


 一度警戒されると、作戦の実行も難しくなるわとクラリス。


 半ば脅しにも聞こえるクラリスの発言に、俺はこれ以上何も言えなくなってしまう。


 クラリスの言う通り。本来敵同士であるクラリスが俺たちに接触するために、どれほどの危険を冒しているのか。彼女の都合も考慮して発言しなければいけない立場なのをすっかり忘れていた俺。


 そんな自分を恥じた俺は素直に頭を下げた。


 まさかクラリスも俺が頭を下げるなんて露ほども思わなかったのか、慌てた様子で頭を上げるように促す。その口調はどこか戸惑い気味であったように思う。


「あ、頭を上げなさいよ。ったく、調子が狂うわね」


 男の癖に頭を下げるだなんて信じられない、とブツブツ呟いていたクラリスであったが、どこか思うところがあったようで・・・・・・、


「――――――――まぁ、そっちに全てを丸投げにするのもどうかと思うし。五分ほど時間を引き延ばすことにするわ」


 なんとクラリスの方が折れてくれた!!


 えらくすんなりと発言を撤回しまくるクラリスを怪訝に思ったケティが、


「大丈夫なのか? いつものお前らしくないぞ?」


「・・・・・・本当に何度も失礼ねアンタって女は。別に、少しだけ気が変わっただけよ」


 ケティのしつこい追及にクラリスは気まずそうに視線を逸らす。ざわつく気持ちを落ち着かせようとしているのか、先ほどから何回も自身の髪の毛に指を巻き付けてたりして弄っていた。


 繰り返ししているせいか、ストレートな髪の一房がクルクルと渦巻いてしまっていた。クルクルヘアーを見てジャンヌに疑われたりしないのかな、と少しだけ不安になる。彼女の口ぶりだとジャンヌはすごく勘が鋭いようだから尚更であった。


 鋭い奴って本当に細かいところまで目に行くものだから、クラリスの髪の一部がクルクルになっていたらすごく気にするんじゃないのかな。


 だけど、本人はさして気にしていないようだし、これ以上俺が気にするのは野暮というものか。あまり女性の身体的な事を気にしたりするのはセクハラだしな。


 ともかく五分間という僅かな時間でも、ここに残ってくれると言ってくれたクラリスの好意を無駄にするわけにはいかない。


 俺は気を引き締めて、ジャンヌ・ダルクを正気に戻す為の作戦会議を始めることにした。


 時間は五分しかないので、会議と言ってもそんな大それたことをするわけでもなく――――――――――。


 実にあっさりと会議は閉幕した。その時間はたった四分ほどであり、会議の内容も実に簡単なものであった。


 その作戦内容とは――――――――――、以下のとおりである。


「・・・・・・で、話し合った結果。基本ジャンヌ・ダルクの相手は俺が。どうにか対話で正気に戻すことを前提に」


「そして、どうしてもアラタの手に負えなくなったら私たちのどちらかが、ジャンヌの相手をする。まぁ、基本は私であろうな。クラリスの場合は立場が立場だし、助太刀は中々に難しいであろう」


「そうね。それで、作戦実行の合図は私の魔法ということでいいわね。魔法は、そうね。初級攻撃魔法の”炎の鞭”でいいかしら?」


 炎の鞭。どことなく卑猥な感じがするんだけど・・・・・・、そんな意味合いは含まないのはクラリスの真顔を見たらわかるけど。それでも卑猥さを感じるのは俺が男だからだなうん。


 というか、炎の鞭が初級攻撃魔法かどうかすら分かんないし。


 初級魔法って炎玉とかそんなんじゃないの? まぁ、RPGじゃもっぱら戦士系統を選んでいた俺には、あまり魔法の程度なんか詳しくないけどさ。


 まぁ、ケティも突っ込まないし、それでいこう。下手に口にして事を荒らげたくないしな。


「あぁ、それでいいよ」


「ふむ、これでいくか。ぶっつけ本番なのが不安が残るけど・・・・・・」


「仕方ないわよ。時間もないのだし。それじゃあ、お互いが通じ合っているとバレないようにしましょう」


 特にそこの脳筋女は肝に銘じておきなさいよ、と念押ししたクラリスは、俺たちの前から音もなくその姿を消した。


 ったく、本当に魔法ってのは万全だよな、と羨ましくなったのも事実だ。


 しかし、ここで無為に時間を潰すのは勿体ないので、俺たちは夜までに目的地に辿り着くべく、また過ぎ去った時間を無駄にするまいと歩む速度を速めたのであった。


 黙々と林道を歩く二人の脳裏には一抹の不安がよぎる。


 だが、互いにそれは口に出さず、自身の胸の奥にしまっておくことにした。


 口に出してしまうと何だか本当に起こってしまいそうで・・・・・・。


 俺たちは口を開くタイミングを逸してしまったまま、目的地までの道中を一言も会話を交わすこともなく歩き続けるのであった。


 


 早いようで、もう四月が終わりますよね。

 今度の黄金週間はなんと長い人なら九日連休になりますね~。

 あっ、そういえば、アウトラスト2が発売になりましたね~。私は怖くてできませんが、ゲーマーの人が挙げた動画を喜んで拝見させていただいています。要は怖いもの見たさですね。ホラゲーが出来る人は尊敬しますよ、本当(脱帽)。

 

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