第十一章 深手(3)
楽しんでいただけたら幸いです。
皮膚が焼けつくような痛みに喘ぎつつ、俺はその痛みに急かされるようにして意識を取り戻す。あまりの痛みからか喉の奥から猛烈な吐き気が押し寄せてくるのを耐えつつ、俺は自身が今置かれている状況を確かめてみるべく、閉じていた瞼をゆっくりと開けてみることにした。
しかし、あまりの気だるさからか瞼を開けるのも億劫で・・・・・・、俺の傷ってばこんなに重傷だったのか? たいして痛くなかったからそんなに大怪我じゃないと思っていたけど。どうやらそれは俺の勘違いだったようで。
それか俺のこの症状は血の流し過ぎたことによる”貧血”のせいかもしれない。吐き気に気だるさなんて貧血の初期症状に見事当てはまるじゃないか。
ということは、俺はこのまま血を流し過ぎるとマジでヤバいという事か。
このままではまずい。非常にまずい。
億劫だなんて言っている場合じゃない。ここは気合で起きるしか俺が助かる術はない。
寝ていたら死んでしまうぞ!! と俺は閉じようとする瞼を意地で開けると、全身を覆う気だるさを消し去るべく、「すぅー」と大きく息を吸って体内を渦巻く悪気を全て吐き出した。
すると少しは体が楽になったので、俺は改めて現在の状況を把握すべく周囲へと視線を向けると、何やらすごく見覚えのある場所だという事に気づいた。
その場所とは―――――――――――。
「ここは、ケティが収容されていた小屋か? なんで、俺はここに・・・・・・」
そう。ケティが地下牢から場所替えされて収容されていた小屋に俺はいた。正確に言うと、つい先ほどまでケティが寝かされていたベットの上に、であるが。
ともかく今俺がここにいるという事は、俺を助けてくれたのはもしかして――――――――――。
いや、何を馬鹿な事を考えているんだ、と俺は自分の考えた推測を即座に否定した。
だって、そんなことはありえないはずだ。彼女はまだ体力が回復しきっていない。気絶した俺をおぶさってこの小屋まで運んでくるなんて不可能だ。脱力した人間の体はものすごく重いのだ。俺も幼少時のころにその様な経験があるからよく分かる。
衰弱した少女に大の男である俺を担げるわけはない。ないのだが・・・・・・、なら誰がここに俺を運び入れたのだ? ジャンヌ? クラリス? それともジャンヌに操られたままの少女たち?
いくつもの可能性を思いついてみるが、それだけはないと即決する。というか思いつくまでもない。
今のジャンヌは俺を助けようなんて腹はないだろうし、クラリスに至ってはもしかしたら助けはするけど、この小屋に俺を運ぶ必要がないので今回は外れるであろう。そしてあの少女たちは論外だ。ジャンヌの命令無しに自発的に動くとは思わないからだ。
ならば、一体誰が? 森に巣食う魔物たちか? いや、もっとないな。
あいつらはそんな高度な事を考える頭はないであろう。死にかけの俺を見たら百%の確率で餌にするであろうし。
ならばやはりケティか? そう考えたらしっくりくるというか。何せ小屋に一つしかないベットの上にはケティじゃなくて俺が寝ているのだから。
となると、あれほど衰弱していたケティが体力を回復できたのか? なんて考える必要もないであろう。何せ真実はとうに分かっているのだから。
ケティの体力回復の真相はずばり―――――――――――、ジャンヌお手製のスープを飲んだから。
あのゲキブツスープにそれほどの効果があるとは思えないのだが・・・・・・、しかし、ケティの回復ぶりを見るにその効果は絶大のようで。
ならば俺も体力回復のために飲みたいところであるが、そのゲキブツスープを作れる本人はすでに敵の手に落ちてしまい、そのスープを作ることはほぼほぼ不可能であろう。
それに折角アンリとナタリアたちから貰った薬も無くしてしまったのを思い出し、まさに万事休すだと俺は絶望感のあまり手のひらで顔を覆って嘆く。
あの薬があればこの足の怪我もあっという間に治ったのに、本当に神様は理不尽で無慈悲だ。肝心な時に使えないなんて。まぁ、ケティの傷を治せただけでもよしとするか。あの薬が無ければケティは本当に危なかったのだから。
その点については深く感謝しているけども、それとこれは別というか。
はぁ、やめよ。考えても無駄なだけだ。
とりあえず体を起こしてみなければ。寝たままだと体の状態がよく分からない。俺が一番負傷しているのは右足首だし、上半身を起こしてみないとよく見えないからな。
それにしても考え事をしているうちに、全身を苛んでいた気だるさや吐き気はどこかに消えていったようだ。これならば少しは自力で動くことも可能だなと、「よっ」と掛け声と共に腹筋に力を込めて上半身を起こしてみることにする。
だが力を入れる度に全身に激痛が走り、俺は痛みに負けて起き上がることを断念した。
まずい、このままじゃここから逃げる事も出来ないぞ。このくらいの痛みが何だ。今が耐え時だぞ俺。ここで耐えなきゃ俺の人生は詰むぞ!!
俺はキリキリと痛む激痛を我慢しながら、普段は数秒ほで出来る動作であるが、数倍の時間をかけてどうにか上半身を起こすことに成功した。
体を起こすだけでもこの重労働・・・・・・。やはり俺が思ったより体へのダメージは深刻なようだ。まぁ、一応崖から落ちたんだし、この怪我もそれ相応というか。そもそもこの程度の怪我で済んだこと自体奇跡というか、悪運が強いというか。
ただでは転ばないとはこの事か? いや、意味が違うか。
ともかく第一関門は突破だ。
問題は次の関門だ。果たして、無事に俺はこの関門を突破できるのか。
あぁ、心臓に悪い。緊張のせいか嫌な汗が滲み出てきたし、もし最悪な結果だったらと思うと怖くて次に進めない。
もし右足がとんでもない方向に捩じれていたりとか、いやそれならまだマシな部類だろう。極めつけは右足首から下が無いということも考えられる。
そういえば切断されてすぐの時は、まだ足の感覚があるから気づかないと本で読んだことがある。視界に入れて初めて自身の足がない事に気づくのだとか。
あの時俺は朦朧としていたし、その可能性は十分にある。ならば足があると思っていたのは錯覚に過ぎなくて、本当は俺の右足は崖に落ちた際の衝撃で無くなってしまったとか。
駄目だ。そんなネガティブなことを考えちゃ。もっと前向きに考えないと。何事もポジティブが肝心だ。
そうだよ。俺は少し気にしすぎなんだよ。崖から落ちたくらいで人体が欠損するかってんだ。そこに丁度鋭利な刃物とかが落ちているならともかく。
落ち着け俺。体の状態を確かめるだけなんだ。何も怖い事はない。
自分にそう言い聞かせて俺は自身の右足へと視線をやる。怖いもの見たさというか。とりあえず自身の足の状況を把握しない事には今後の計画も立てれない。
少しずつ視線を下半身へと移動させ、とうとう右足首を拝見しようと呼吸を整える。
それを数回ほど繰り返した後、思い切って視線を右足首へと向ける。
視界に映った足首は赤黒く腫れあがっており、とてもじゃないが動くのもままならないほどであった。こんな足じゃ歩くことも困難だ。
一体どうしたものかと頭を抱えて悶絶していると、数回ほどノック音が響くと、俺の返事も聞かずに小屋の扉が勢いよく開いた。
扉の開いた音に釣られるようにして視線をそちらに向けると、俺は数時間ぶりに見る少女の姿に目を見開けて唖然とする。
その少女とは――――――――――――、
「・・・・・・・ケティ」
ジャンヌに囚われ衰弱しきっていた少女、―――――――――――ケティの姿がそこにあった。
ケティが飲んだスープはある意味でゲキブツですね。
飲んだだけで体力が回復するなんて、私も欲しいくらいです。
でもトカゲ汁とかは勘弁願いたいです(汗)。
では、次回に。




