第十一章 深手(4)
短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
「あぁ、目が覚めたのか」
驚きで唖然としていた俺を尻目に、水の入った木桶を手にしたケティが、俺が目を覚ました事に安堵の表情を浮かべて小屋の中に入ってきた。
木桶を持つ片手とは別の手に握られていたのは何やら緑色の草の束であった。ぱっと見は雑草にしか見えないけれど・・・・・・、そんな雑草をわざわざケティが刈り取るなんてありえないから、おそらく薬草か何かであろう。
それにしても信じられないな。あんなに衰弱していたケティが・・・・・・。
俺の戸惑いに気づくこともなく、ケティは手にした木桶を床に置き、桶の中の水に浸していた布を手に取ると、ギュギュっと力を込めて絞りつつ水を切る。だがまだ全快していないのか、絞りが足りないようで布から水滴がボタボタと垂れ落ちる。
そのことが気に食わないながらも、これ以上は無理だと判断したのか、ロクに水も切れていない布を俺の額へと押し付けた。べちゃとした嫌な感触が額を中心に広がり、押し付けられた布から水がボタボタと垂れて俺の着ていた衣服を濡らす。
「あぁっ、済まないなアラタ。どうやらまだ本調子じゃないようだ。布も満足に絞れないとは!!」
くっ!! と悔しそうに唸るケティ。自分に浸るのはいいけれど、一先ずこの額に押し付けている布を取ってくれませんかね。濡れた上着が肌に張り付いて気持ち悪いし、なんだか少し寒くなってきた。このままでは風邪をひいてしまう。怪我もした上に病気になってしまったら本当に逃げ出せなくなってしまう。
それだけは避けなければ・・・・・・、しかし、ケティが厚意でしてくれることに水を差すのもなぁ。彼女だって本調子じゃないのに、俺をここまで運んでくれた上に今の今まで介抱しくれていたのだ。文句を言うどころか本来は感謝しなければいけない立場なのだ。
あぁ、けれどこのままでは・・・・・・。
究極の二択が俺を急きたてる。こういう時優柔不断な奴は苦労する。この時ばかりは外国人のようにハッキリと言える性格になりたいものだ。
しかし、こうやって悩んでいる間にも俺の服はますます垂れた水を吸うばかり。もう上着だけじゃなくて下着すらも水を吸い始めていた。
もう服としての機能を果たしていないのだから、いっそのこと裸で過ごした方がまだいいとさえ思えてくる。だが寸前のところで理性が働いてどうにか思い止まることが出来た。自分一人ならともかくここにはケティもいる事だし、流石に年若い女性の前で全裸になるわけにもいかない。
気持ち悪さより羞恥心が勝ったという事だ。まぁ、当然の結果であろう。
そうこうしているうちにケティは額に押し付けていた布を外して、腹いせ紛れに手にした布を桶の中に投げ込んだ。それからふと思い出したように雑草にしか見えない草の束を取り出すと、それを少量ほど手に取って手の中で揉み合わせる。
揉み合わせたことによって出てきた草の汁が重ねた手の隙間から滲みだしてきており、潰した草特有の青臭い臭いが鼻につく。
とてもじゃないがいい臭いとは言えないソレを、ケティは何の躊躇いもなく潰した草を赤黒く腫れあがった俺の右足首に張り付ける。ぬちゃぁと粘着質の感触が足首に広がったのと同時に、ひんやりとした温度に驚いてしまい、思わずピクッと体が震えてしまう。
しかし、驚いたのは最初だけで熱をもった足首に、このひんやりとした温度がすごく気持ちがいい。
どうやらこれは薬効作用のある草だったようだ。今でいう湿布薬の代りといったところか。作用としては消炎鎮痛作用のある薬草のようだ。
にしてもよく見つけてこれたよなぁ。元傭兵とか言っていたし、その手の採取はお手の物なのかな。
「どうだ、アラタ。少しは楽になったか?」
「ん? あぁ、だいぶ楽になったよ。にしてもよく見つけてこれたよな。すごいよケティ」
「褒めなくていいぞ。その草はジャンヌの家にあった物を拝借しただけだからな」
と何気なくすごい事を宣うケティ。
というか、なに? ケティてば病み上がりなのに敵の本拠地に忍び込んだの? ケティさんマジパネェす。
俺は信じられない生き物を見るかのように目を剥いてケティを見つめる。しかしケティはどこ吹く風とばかりにそっぽを向いて口笛を吹く。
「アイツの家はもぬけの殻だったんだ。巡回しているかとも思ったが、案外拍子抜けでな。あのジャンヌが操っていたはずの少女たちの姿も見えなかったし。ならばと思ってほんの少しばかしくすねさせてもらったんだ。ここから脱出するための必要物資をな」
と、得意げに鼻を擦りながらパンパンに膨れ上がった麻袋を掲げるケティ。
オタク得意げに言っているけど、やっていることはただの盗みだからね、と心中でツッコむ俺。
それにしても彼女の発言の内容が引っかかる。
クラリスに操られたジャンヌはともかく、ジャンヌに操られた少女たちもここにはいない?
何だか嫌な予感がするな。
まるで俺たちを油断させているようにも思えてくる。現にケティは少し調子に乗っている。
俺たちを調子に乗らせておいて、油断しまくっているところを一気に攻める気か? あの狡猾そうなクラリスならばそれもあり得る。
ならば早々にこの場から離れた方がいいか。
「なぁ、ケティ。俺の足の怪我の程度はどのくらいなんだ?」
「ん? 私は医師じゃないから正確な事は言えないが・・・・・・、骨折まではいってないように思う。だが酷い捻挫なのは変わりない。正直言ってしばらく安静にした方がいいのだが。アラタはそう思ってはいないのであろう?」
「あぁ。―――――――――――ケティ、”今夜”ここを発つぞ」
俺はケティの言葉に重々しく頷くと、そう宣言したのであった。
これ以上、ここに留まっては危険だ。
俺のシックスセンスがそう訴えるのだ。ならば、俺はそれに答えるだけだ。
この直感は外れた事が無い。
ケティも俺の真剣な表情を見て、神妙な表情を浮かべて頷いたのであった。
湿布って臭いですけど、あのひんやり感触は気持ちいいですよね。
一度味わうと病みつきになります。酷い筋肉痛も湿布したら治る気がします。
それでも流石に酷い捻挫は治りませんけど(笑)。
では、次回に。
※少し体調が優れないので、明日の更新を休ませていただきます。大変申し訳ありません。




