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第三十章 貴方に会いたくて(79)

長らくお待たせして申し訳ありません。


楽しんでいただけたら幸いです。

ケティの作戦を簡単に説明するとこうだ。


まずマリ・ド・サンスの注意を向けるために、ケティとロゼが左右から一気に攻撃を仕掛ける。負傷しているロゼは援護担当で戦うのは主にケティ本人だそうだ。


そして彼女の意識もとい注意が完全にケティたちに向いたところで、俺が彼女の背後に回って無力化する、というものであった。


実戦経験の無い俺でも分かりやすく、実に効果がありそうな作戦なのは分かる。分かるのだがーーーーーー、どうにも卑怯な戦法な気がして止まない。


いや、戦に卑怯も何もないのかもしれない。


いくら姑息で卑怯なやり方でも勝った方に正義があるのだ。その事は歴史が証明している。


負け犬は無様に地べたに這いつくばりながら、勝者に傅き後ろ指を指されながら生きていくしかないのだ。


歴史とは勝者によって作られる。


だから彼女の作戦も、俺次第で“悪“か”善”かに決まるのだ。


気合い、いや、覚悟を決めなければ。


俺はケティから渡された短剣の柄を掌の皮が剥けて血が滲むほどに強く握りしめた。


痛くはない。


これから行うことの非道さと、これから彼女が味わう痛みと苦しさを思えば、こんな痛みなどなんてことはないのだから。


一線を越えたらどうなるのか。


分からない。


妹以外の人間なんて塵芥の存在しか見てなかった思っていた俺。


いざとなれば平気で他者を蹴落とすことなど容易だと思っていた俺。


だがどうだ。


そのいざという時がきた今ーーーーーー、俺は躊躇している。二の足を踏んでいる。


所詮俺の覚悟は口先だけであった。


平和な国でしか強気な態度を出せない負け犬の遠吠えでしかなかった。


だからそう。


これはチャンスなのだ。


いや、今改めて俺の覚悟を、妹への変わらぬ愛を試されているのだ。


だから、今度こそ・・・・・・、俺は真の“外道”に墜ちよう。


これはエゴだ。己のエゴで人の命を奪うことこそ正に鬼畜の所業だ。


そこには何の正義も大義もない。


己のために人を殺す外道だと知られる前に、最愛の両親が亡くなっているのがせめてもの救いだろうか。


ゴシッ、と鼻頭を雑に擦りあげる。


ボサッと突っ立っている場合ではない。世の中の憂き世を知らなかった世間知らずな高校生はもうここにはいない。終わりにしなければいけない。


これから一匹の獣に成り下がろう。


俺はケティの合図を待つ。


彼女の合図で俺は変わる。


フゥーーーーーー、と息を吐く。


肩の力を抜いて、心に迷いを無くして、いざという時にはすぐに行動に移せるように。


そして、その時は訪れた。



「ーーーーーーー行くぞ!! くたばれやぁぁぁぁぁ!!」



囮役らしく、ワザと大きい声や音を立てて、今まで身を潜ませていた繁みから剣を高く振り上げて、マリ・ド・サンスの前へと飛び出すケティ。


そしてそんな彼女を後方で援護するロゼ。


本当にワザとらしいくらいに大声をあげて、敵へと突撃する二人を迎え撃たんと凶悪すぎる牙を剥くは一人の魔女。


最早彼女の目には自分以外の動く者は何でも敵であるとしか認識しないのだろう。それが証拠にマリは動物だろうが一切の容赦なく屠っている。


自分の使い魔である鴉たちも例外ではなく、凶悪なまでの攻撃魔法を撃ち込んでいる。


生死の境にいるせいなのかは分からないが、マリはどうやら錯乱状態にあるみたいだ。


もう自分が何者なのかも分かっていないのだろう。


人として全てを失った彼女を止めるには、やはりこれしか方法はないのだと改めて痛感した。


「・・・・・・」


ケティたちが上手く彼女の気を引いてくれる間に、俺も行動に移さないといけない。なるべく彼女の視界に入らないように意識しながら、マリの死角へと素早く移動する。


苦しませず殺すには急所を狙わないと。


けれど一度も人に危害を加えたことがない(当たり前であるが)普通の一般人である俺に、果たして彼女を楽に殺せる技術や度胸があるのかと。


それ以前に素人の俺の攻撃がいくら我を失っているとはいえ、魔女であるマリに致命傷を与えることが出来るのかも不安になった。


今更だ。


というか意気地が無さすぎだろ俺。


何時までもグジグジと。男ならば一度決めたことには責任を持たないと。あーだこーだと難癖をつけるものではない。


背後から殺るには彼女を抱き締めて首をかっ切るか、心の臓を刺し貫くしかない。


そしてその時は、たった一回しかないことも。


自然と呼吸が早くなる。


何、なんてことはない。ないハズだ。


ケティたちが命を懸けて作ってくれたこの千載一遇の好機を、俺の恐れや慢心で台無しにしてはいけない。


奥歯を噛み締めて俺は地面を強く蹴りあげて駆け出す。


満足に動かない両足。まるでフルマラソンを走り終えた後のように重く、まるで自分の足じゃないみたいだ。


それでも俺は駆ける。


何が真実で、何が嘘で、何が正義で、何が悪なのかも分からない。


だがそれでも一つだけ確かなことがある。


彼女が、マリが俺に向けていた笑顔はーーーーーー、偽りではないと。


だから止めるのだ。


妹と同じ笑みを浮かべていた、本当は優しい心を持つ彼女を止めるために。


この無意味な争いを、マリが一時でも信じ、笑い接してくれた俺自身の手で。



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