幕間 戦準備
楽しんでいただけたら幸いです。
驚いた。
あぁ、本当に驚いた。
正に驚天動地といった心境だった。
何の気なしに見つけた兵士人形に、まさかそんなカラクリが仕掛けられていただなんて。
ケティはクラリスの手からその人形を受け取りつつ、
「ーーーーーそんな高度な魔法が、ねぇ。お前の観察眼を信用しない訳ではないが・・・・・・」
まじまじと改めて人形を観察する。
何度見てもやはりオカシイところなど一つもない。見受けられない。
悔しいな・・・・・・、あの女に見えて、私に見えないという真実が。
やはり魔女とは神に選ばれた存在なのか。ケティは心の一点にモヤァと黒いモヤが染み出してくるのを感じた。
嫉妬なのかどうかも分からないがーーーーー、良くない感情なのは確かだ。
ケティは悪しき感情を否定するかの如く、手に持った人形を再度クラリスへと投げ返す。
「まぁ、いい。ならばお前がその異界とやらの入り口を開いてみせろ。私たちはその間に武具などの手入れなどをするから」
首をしゃくって周りにいた少女たちーーーーー、ロゼたちへと引き連れてクラリスの邪魔をしないように移動する。
少々クラリスに対して威圧的な口調になったのはーーーーー、反省すべき点だが。
此度のアラタ奪還隊の中心人物たるロゼと呼ばれた少女は、その名の如く霞のように気配を自在に消せる暗殺者でもあった。
彼女の家系は代々貴族や王族のお抱えの暗殺者一族であり、ロゼもその家系に恥じぬ立派な暗殺者であった。
正直に言ってマトモに闘えば勝ち目はないであろう。そうケティに言わしめるほど彼女は殺しのプロであった。
そんなロゼが何故この世界にいるのは定かではないがーーーーー、彼女は人間派に属する魔女の中でも特にヴァレンシア様を信奉している。
その流れでヴァレンシア様の従者であるケティのことも一目置いており、ケティの言うことを為すこと全て賛同し行動に移す。
ロゼはケティの命令を受けると、すぐさま行動に移し始める。テキパキと実に効率良く他の少女たちに指示を飛ばし、これからの戦いに備えての準備に取りかかる。
武器や防具の手入れ、備蓄や備品の不足がないかなどなどーーーーー、仮に不足があったらリストアップする旨を口達する。
実にストイックな女だ。
だがそんな女だからこそーーーーー、ケティは信頼に値するすると評していた。
もし、もしもだ。
最悪な事態になった際は全指揮をロゼに譲り、自分が殿を務め上げるつもりでいた。
死にはしない自分にこそ、殿をするのに相応しい。
ケティは眩く輝く純銀製の剣の刀身を指先でゆっくりとなぞる。
ーーーーーあぁ、綺麗だ。
(この剣であの女の首を斬り飛ばす瞬間が待ち遠しいよ、本当に)
想像する、想像してみる。
バターを掬い取るように滑らかに滑る剣。薔薇の花弁が舞うようにして・・・・・・、真っ赤な鮮血と共に斬り飛ぶ女の首。
そして我が身にかかる殺した女の血を浴び、自らが切り落とした首を掲げて雄叫びを上げるーーーーー、実に雄々しい己の姿を。
数人、数十人、数百人もの人間の首を刈ってきた。多くの血を吸ってきた我が愛剣に、今宵もまた新な贄が捧げられる。
(ーーーーーせいぜい楽に殺してやるさ)
それくらいしかしてやれないものな。
苦しみも、絶望も、痛みも、そして死の恐怖すらも感じぬ様にあっという間に殺してやろう。
ケティは手入れし終えた剣を軽く振ってみる。刃先に触れた草が何の抵抗もなく寸断された。
狂いなき切れ味に満足げな笑みを浮かべるケティ。
ちょうどその時だった。
クラリスの呪文の解析が終わったのは。




