幕間 野営で交わす談笑(2)
楽しんでいただけたら幸いです。
一塊の鹿肉を食べやすい大きさー要は一口大ーに切り分けていく。惚れ惚れするくらいに綺麗なピンク色の肉だ。
切り分けた際に付いた血や脂を拭うべく、ローナは手近に生えていた大きめの葉を手に取る。
本来ならば清潔な布で拭くのが正解なのだが、まぁこの際仕方がないであろう。
一口大に切り分けた鹿肉を短刀で、事前に串状に削っておいた小枝に刺していく。桜色の肉の表面にパラパラと気持ち多目に塩を振りかける。
シンプルだがーーーーー、これが一番美味しい。
本音を言えば・・・・・・、胡椒があれば尚良かったのだがーーーーー、アレは本来ならば我々一庶民が気軽に口に出来ない代物だ。
市場に出れば金と同等か、それ以上の値が付く、とてもとても高価で希少な香辛料らしい。
どこで入手したのかは分からないがーーーーー、以前ルーシア様が夕食の際に出してくれたのを思い出すローナたち。
今思い出しても・・・・・・、アレは本当に美味であった。
口に入れた瞬間、仄かに香る柑橘系の匂いにピリピリとした痺れにも似た辛さーーーーー、あぁ、思い出しただけでも涎が自然と溢れ出す。
でもまぁ無い物ねだりしても仕方がない。
ルーシア様でさえも、おいそれと口に出来ないような代物を欲するなんて百年早いのだ、ローナたちは己の身の程をよく弁えていた。
それに塩だけでも十分に美味しい。
特に食材が新鮮なら尚更だ。
「ーーーーー良し。準備もできたし、早速焼いていくか」
切り分けた肉を全て串に刺し終えた様子のローナ。一仕事終えたばかりの彼女であったが、休むことなく次の仕事に取りかかる。
その傍らでパリパリに皮がこんがりと焼け、ふっくらと身が焼けた熱々の魚の塩焼きにかぶり付くフリュとシェル。
ったく、盗み食いとはいい根性をしている。
焼けた魚の匂いに腹の虫が激しく自己主張するが、今はそんなことをしている時間はない、と空腹を訴える自身の脳からの指令を振り払うかのように空いたスペースへと串を刺していく。
ローナの葛藤にも気づかないシェルとフリュ。彼女たちはパクパクと実に美味しそうに魚を食べながら、
「あっ、ローナにファズ。ねぇ、ファズたちもどう? 魚美味しいよ」
「我ながら上手に焼けたと思う」
パンパンに両の頬を膨らませたフリュとシェル。まるでその姿が団栗を頬袋に詰め込んだ栗鼠のようにローナたちに見えた。
そんな愛らしい姿で可愛く言うもんだから・・・・・・、ほんの一瞬揺らぎそうになったローナであったが、
「いや、今は忙しいから。後で貰うよ」
持ち前の精神力と根性で誘惑をはね除けたが、
「わぁ~!! 本当だ~!! この魚すごく美味しい~!!」
相方であるファズはまんまと誘いに乗ってしまい、フリュから受け取った魚の塩焼き串へとパクパクとかぶり付いていた。
先程の張り詰めた雰囲気が、嘘のようなファズの暢気な対応を目の当たりにしたローナは、思わずボウボウと火が燃え上がる焚き火へと突入しそうになった。
ったく、心配して損したよ。
ローナはこんがりと焼けた鹿肉串を、大きめの葉の上に並べていく。肉の良い匂いに釣られたのか、それともただ単に魚を食うのに飽きたのか。
両の目をギラギラとさせたシェルとフリュたちが、目にも止まらぬ早さで肉串を奪い取ると、
「あ~!! フリュってばズルい!! そっちの方が大きいじゃん!! こっちと取り替えてよ!!」
「ダメ~!! シェルの方だってこんがりと焼けて美味しそうじゃん。それに肉の大きさは一緒だって!!」
キャー、キャー、ワイワイと騒ぎながら、野営地内を駆け回る二人の少女。
魚で腹を満たしたというのに、まだ肉が入る隙間があるのか、と苦笑するローナ。
案じなくとも、まだまだ肉はある。
ローナは黙々と肉を焼いては置く、を繰り返す。単純作業ではあるがーーーーー、これが中々にキツい。
肉が焦げないようにしないといけないから少しも目を離せないし、ずっと火の側にいるから暑くて暑くて仕方ない。それに煙にいぶされて目がショボショボして堪らなく辛い。
あぁ、本当に辛い。
ローナはゴシゴシと目を擦りながら、それでも肉を焼く手は止めない。
背後で無邪気に騒ぐシェルとフリュたちの声を聞きながら、数分前とは打って変わって大人しく魚の塩焼きを大人しく食べるファズへと視線を向ける。
(ーーーーーやはりさっきのは演技だったのか)
心優しいファズのことだ。
フリュたちを心配させまいと、敢えてああもワザとらしいほどに明るく振る舞ったのであろう。
本当に・・・・・・、不器用な女だよ、お前は。
ローナはフッと息を吐いて、ファズの隣に腰を下ろす。
丁度キリ良く残り数本。それで全ての肉が焼け終わる。
ファズの悩みを聞くのに丁度良いであろう。
願わくば肉が焼け終えるまでに解決出来たら良いのだが。
ローナは友の悩みを聞くべく、これまたワザとらしいほどに大きく咳払いをして口を開くのであった。




