第六章 下準備(1)
短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
身体が動くようになるまで丸二日ほどかかり、ようやく外出禁止令が解かれた俺は、上半身裸に七分丈の麻のズボンと素足という裸族スタイルではあるが、そんなこと些末事など気にする暇もなく久々に味わう外の空気に酔いしれていた。
なんでも俺がこの世界に来ていた服に興味があるからと、早々にミリアが何処かへ持っていてしまい、代わりにと手渡されたのがこの麻のズボンというわけで・・・・・・。パンツ履いてなかったらごわごわな生地が敏感な部分に(男なら分かるだろう)当たってしまうところであった。とてもじゃないがまともに履いてなどいられないであろうことは目に見えていた。
今でも太ももの部分がチクチクと肌に刺さる感じがして、無性に掻き毟りたくなるほどだ。よく昔の人はこんなのを履けたもんだ、と逆に感心さえした。
しかもゴムとかないご時世だから、ずり落ちてくるのを止める手段は紐しかない。その上伸縮性もないもんだから中々上手く結べないときたもんだ。
なんだろう。感じで言うならすごく布の品質が悪いスーツのズボンを穿かされている気分だ。腰回りに密着していて指二本分の隙間もないのに加え生地も悪いから、密着している分めちゃくちゃ肌がかぶれる。
まぁ、替えの衣服があるだけマシと思いたいけど・・・・・・。現代日本に暮らす若者の肌にはこのズボンは流石にベリーハードであった。これならまだ裸でいた方がマシな気もするが、ここには女ばかりなのを思い出し、全裸モードに移行するのは止めることにした。
さて、とルーシアの家の庭先に出た俺はとりあえず手ごろな岩に腰を下ろし、これからの事を考えることにし、今まで得た情報を踏まえて順番に並び替えてみることにした。
まず一つ。この世界は地球とは別世界であること。俗に言う”パラレルワールド”かと推測できる。
二つ目。魔女たちも一枚岩でなく、幾つかの派閥が存在すること。とりあえず今分かっている派閥は二つ。魔女を至高の存在とする”魔女派”と人間との共存を提唱する”人間派”に属する魔女がいるということ。
三つ目。この世界を統べるのは魔女派を仕切るヴァネロペとかいう女。こいつの元へ行けば全てが分かる。俺の推測ではそのヴァネロペこそが俺たちの、いや正確には俺の契約者なんじゃないかと考えてる。だってそうじゃないと俺がこの世界に召還された理由が見当たらないからだ。
四つ目。これが一番重要なのだが―――――――、ヴァネロペに会うためには”人間派”の戦力を増大させなければならない。まぁ、簡単に言うと魔女を増やすという事で・・・・・・。
俺はそこまでを木の枝で地面に書いてみて、ハァ・・・・・・と重々しい溜息を吐いた。よくよく考えてみたらめんどくさい事に巻き込まれたものだ。つうか一般人でしかない俺に魔女を仲間に引き入れるという大役を任せるなんて、と憤慨もするし呆れもした。
やはり常人の思考ではないな、と。
それになんだ。その、あの”ジャンヌ・ダルク”が魔女だって? いくらなんでもそんな嘘に騙される奴いねぇよ。そりゃあの時は驚いたけどよく考えてみたら、ジャンヌ・ダルクは衆人観衆の中処刑されて、しかもその死体は灰になるまで燃やされて川に捨てられたっていうのを、昔テレビで見て知っていた。
あれ? でも遺体がないのならその処刑されたのはジャンヌ本人でない可能性も? それにこの世界にいるのは自称中世~近代時代の魔女と言い張る女もいるくらいだ。もしかしたら本当に生きているのかもしれないと思い直し始める。
けれど、まだその本人を見ていないので100%信じたわけじゃないが、かと言ってすべてを否定するのは些か早計のような気がするし、と腕を組みながら唸っていると、
「ねぇ、ちょっと。アンタ、もう体大丈夫なの?」
不意に頭上から幼い女の声が投げかけられたのに気付き、俺は考えるのをひとまず中断し、声がする方へと顔を上げた。
すると、そこには初めて見る少女二人組が俺の事を見下ろしていた。その態度は対照的で一人目は勝ち気で仁王立ちしながら俺の事を睨みつけていたが、その背後に控える少女はオドオドとした様子でチラチラと勝ち気少女の背から俺の事を盗み見していた。
ここまでタイプの違う友人も珍しいなと思いながら、とりあえず俺は彼女たちに話しかけてみることにした。
「あぁ、お陰様でね。それで何の用かな? そういや俺と君たちは初対面だよね? この辺に住んでいるのか?」
「ちょ、ちょっと!! そう矢継ぎ早に言わないで。え~と、用っていう用はないっていうか。この子がね、アンタの怪我の様子が気になるって言うからわざわざ見に来たっていうか」
「そうなのか。心配してくれてありがとうな」
「!? い、いえ!! 私はその当然のことをしたままでで!! その・・・・・・」
お礼の言葉を聞いた内気少女はモジモジと縮こまりながら、勝ち気少女の背に完全に隠れたてしまう。その背後からは何やら蒸気のような物が噴出されていた。
そんな恥ずかしがり屋の友人に痺れを切らしたのか、やや強引に背中に隠れた少女の体を前に押し出す。少女は突然の事に脳がついていかないのか、激しくつんのめりながら前へとその隠れた相貌をあらわにする。
イメージ通りの容姿を見て、俺は地球に置いてけぼりにしてしまった、たった一人の家族の姿と重ねてしまい、思わずその体を強く抱きしめそうになるが、どうにかその衝動を理性でもってして抑えることに成功する。
というか、ここの人間の少女たちを見ると、何だか妹の姿と重ねてしまう。それほどまでに俺はシスコン病を発症しているのだろうか? と自分で自分が恐ろしくなる。
まぁ、それはさておき、俺は改めて目の前の少女たちへと視線を向ける。
勝ち気な少女は肩越しまで伸ばしたプラチナブロンドが印象的な美少女で、隣の席に座っていた奴が持っていた漫画のヒロインに激似な容姿をしており、勝ち気そうな大き目な切れ長の碧眼には男である俺への警戒心に満ちていた。
そして内気な少女は肩越しまで伸ばした茶色な髪と、大粒の鳶色の垂れ目が印象的な美少女であり、どこか愛らしい小型犬を連想させた。色違いではあるが型がお揃いのワンピースを着用しており、よほど仲が良いことが窺える。現代でいうところの”双子コード”というようなものか。
対照的な二人であったが、仲はとても良いように見えた。そうでなければタイプの違う二人が行動を共にすることはないであろうから。人間関係はとてもシビアなもので、特に女性の場合は男よりも顕著であろうし。アイツらはすぐに群れるからな。まぁ、友人を必要としていなかった俺には無縁の話だが。
さて、話を戻そうか。
どうやらこの名前も知らない二人の少女はわざわざ俺に会いに来たという。その真相は不明ではあるがその心遣いは嬉しくもあったし、ここは一つ彼女たちと仲よくしておくのもいいかもしれない。
どうやら彼女たちもルーシアたちと共に暮らす人間だろうし、そんな彼女たちに親切かつ親しく接することは何も悪い事ではない。彼女たちの信頼を得るにはそれなりの誠意を見せねばならない。
なので、俺は家族以外にはあまり見せない最上級の笑顔を浮かべ、
「ここで出会ったのも何かの縁だし、友達になろうよ。よかったら名前を教えてほしいな」
「は、はい、喜んで。私の名はナタリアって言います」
「・・・・・・アンリよ」
茶髪の子がナタリアで、プラチナブロンドの子がアンリか。よし覚えた。
「ナタリアとアンリね。俺の名前はアラタって言うんだ。今後ともよろしく頼むよ」
スッと手を差し出す。
ナタリアとアンリは最初俺の差出た手の意味に戸惑うも、それが”親愛の証”だということに気づくと躊躇いがちではあったが、二人とも俺と握手を交わす。
先ほどの様子から彼女たちとはコミュニケーションの違いがあるようで。そう言えば欧米では親しい人の間では握手ではなく抱擁で親愛を示すと聞いたことがある。しかし、俺は日本人なので母国のやり方でやらせていただく。つうか、まだ会って間もない女の子に抱き付くとかハードルが高すぎて無理。
これでも十分頑張った方だよ、俺にしてみたらね。
お互い自己紹介も済んだところで、俺は彼女たちにこの村の事を教えてもらうことを思いつき、すぐさま行動に移すべく口を開くのであった。
第六章が開始しました。
次回は街の紹介と暮らしを書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
徐々に物語は動いていきますので、そちらの方も心待ちにしてくれればうれしく思います。
では、また次回に。




