第六章 下準備(2)
短いですが楽しんでくれたら幸いです。
ナタリアとアンリに連れられて村の中心へと案内された俺は、その道すがら左右に立ち並ぶこじんまりとした造りの木造住宅へと視線を向けていた。住宅というよりは物置小屋といった方がしっくりくるというか。とてもじゃないが人なんか住めないであろう大きさではあったが、まぁ今と昔とでは背の高さとか違うらしいし、このくらいの大きさが平均的なのであろう。
それにこの世界は男はいないと聞いていたから、あまり家屋自体を大きく造る必要性がないのであろう。ナタリアたちから聞くところによると部屋の中にはベット数台しか置いてないらしく、食事するところはキチンと決まっているらしい。
理由としては火事が発生するのを防ぐためにあるらしい。木造家屋でしかも狭い土地に密集して建てられていると、もし火事が発生した場合に飛び火して大火災になってしまうかららしい。その為食事する場所は住宅地から少し離れた場所に建てているらしい。
村の規模は小さく、大体1km四方に村を創建しているらしい。家屋の数は10軒ほどで、一つの家に4~5人ほどで住んでいるとのこと。単純計算すると約50人ほどの少女が暮らしていることになる。
基本村での暮らしは自給自足であり、女であるからといって男が主になってする仕事も進んでやる。この村に暮らす少女は何かしらの仕事に従事しており、ナタリアとアンリはこの村で薬草医をしているらしく、薬の元になる薬草を山へ拾いに行った際に俺を見つけて助けを呼んでくれたとのこと。
つまり、彼女たちが命の恩人というわけだ。
「本当に助かったよ。ナタリアとアンリに見つけてもらわなければ、俺は今頃どうなっていた事か」
「そんな、たまたまだから。あまり気にしないで」
謙遜することないのになぁ、このセリフでナタリアは控えめでいい子なのが分かる。
「けれど本当に大したことなくて良かったわね。あまり酷かったら私が調合した薬でも駄目だったかもしれないし」
「? 俺の傷って魔法で治したんじゃないのか?」
「魔法も使うことは使うけど、基本薬で大丈夫な場合は魔法は使わないことにしているのよ。何にでも魔法に頼らないのが”人間派”の方針なの。だからルーシア様も日常生活ではあまり魔法を使わないことにしているのよ」
「ふ~ん、そうなのか。にしても、まだ昼間なのに他の住人の姿をあまり見ないような気がするけど?」
一体どうしたんだ?と辺りを見回しながら呟くと、アンリとナタリアの顔色が一斉に曇る。
その曇り様に何だか聞いてはいけないことを言ってしまったようだ。
慌てて先ほどの言葉を撤回しようとしたが、そうする前にアンリの口が開く。
「――――――――実は数十年前に勃発した魔女派たちとの戦いで半数の仲間が犠牲になってしまったの」
正しく衝撃発言であった。
まさかそんな悲しい過去があったなんて・・・・・・、とこちらも悲しい気持ちを抱くも、ふとした疑問が鎌首を擡げる。
「あれ? そういや確か死んでも生き返るんじゃなかったか? その魔法かなんかで」
「確かに魔法で瀕死級の怪我などは完治することは出来るわ。けれど、私たち”人間派”はそういった状況に陥った場合は本人の意思で死ぬことを選べるの」
とアンリ。その表情には悲しみのような憂いのような、何とも言えない感情が浮かんでいた。
「多くの仲間が”死”を選んだわ。不老不死なんて聞こえはいいけれど、決して羨ましくもなんともない。大切な人と共に老いる事のない悲しみや辛さ。それはね死ぬことよりずっと苦しいもので、彼女たちはそんな悪夢のようなサイクルに耐えきれなくなったのねきっと」
「じゃあ、アンリやナタリアも、その”死”を選ぶのか?」
俺にとって死ぬことは絶対避けたいこと。だって死んだら何も残らない。記憶だっていつかは薄れていくもので―――――――、現に俺の父母との思い出は7歳の時から止まっており、時たまその記憶も思い出せないこともある。写真だって事故当時の記憶を思い出してしまうから、もう何年もアルバムを開けておらずずっと棚に入れたままだ。
けれど、彼女たちはもう何百年と若い容姿のまま生き続けており、もう生きていく事にも飽きてきたのかもしれない。この世界に来た当初は喜んだのであろうか? 理不尽な暴力から逃れられたことによる幸運に感謝したのだろうが?
けれど彼女たちに待ち受けていたのは魔女たちからの理不尽な差別。結局地上と何ら変わらない、むしろ地上にいたころより酷くなった日々。それがほぼ永遠に続くとなれば―――――――、死に恋い焦がれるのも止む無しなのかもしれない。
死によっての開放を彼女たちは望んでいるのやもしれない。
そう思うと何だかとてもやるせない気持ちになる。しかし、俺には一生彼女たちの苦しみを理解することは出来ないであろう。薄情と思われるかもしれないが、所詮そんなものなのだ。男には一生分からない苦しみの中を彼女たちは生きているのだ。
先ほどの俺の問いにアンリはあまり悩みもせずに、
「さぁ。なってみないと、分からないわ」
とだけ答えた。そのアンリの言葉に賛同するようにナタリアはしきりに首を縦に振っていた。
その達観した物言いに、俺はこれ以上この話をするのを止めた。あまり話していて気分のいいものじゃないしな。
ということで、俺は半ば強引にこの陰鬱した雰囲気を変えるべく話を変える事にした。
「で、他の住人は結局何をしてるんだ?」
「? あぁ、ちゃんと言ってなかったっけ? みなこの時間は仕事してるんだよ。人数が減った分一人が請け負う仕事の量が増えちゃって。皆朝早くから夕方まで頑張って働いているの」
「それもあるけど、今日は住人総出で山へ狩りに行っているの。もうそろそろ食料が少なくなってきたのもあるし、近々山向こうの村から商会の子が来るから物々交換用の品物を揃えなくちゃいけないから」
狩りねぇ・・・・・・。本当に自給自足生活送ってんだな。ん? 待てよ? みな総出でって言ったよな? なら何でアンリとナタリアはここにいて、俺に会いに来たんだ?
嫌な予感が全身に忍び寄る。こういった場合の予感は的中することが多いのだ。
「ふ~ん、そうなんだ。で、みな総出ならなんで君たちは残ってるんだ?」
聞かなきゃよかったとすぐさま後悔する。
それは何故かって? それはアンリの発した内容にあった。
「決まってるでしょ。アンタを呼びに来たのよ」
・・・・・・・やはりな。だと思ったよ。
けれど、俺にはまだ”病み上がり”という立派な言い分があるわけで、このまま断ろうかなと思ったが、
「あぁ、断ろうとしても無駄よ。先ほどミリアから体力作りのためにも、ぜひ狩りに同行させてください
との仰せが出てるから。主治医がそう言ってるんだから、患者のアンタは従わないとね」
なんと先回りされていたのだ!!!!! あの女、容赦ないぜ。本当に医者見習いなわけ!? 普通は病み上がりの人間に狩りに行けなんて指示出さないよ普通。
とてつもない絶望に体の力が抜けていくのを感じつつ、悪魔のような笑みを浮かべるアンリと心配そうな表情を浮かべるナタリアを見やりながら、俺は悪徳業者に売られる子牛のように強引に山へと連行されるのであった。
暮らしについては今回書けなかったので、次回には書けたらいいなぁと思います。
基本村に住む女の子たちはみな働き者です。男にしか出来ないような仕事も完ぺきにこなします。
そのような描写も書けたらいいなぁと思っていますので、気長にお待ちください。
では、また次回に。




