第五章 第二世代本能寺システム開発!! 第13話「暴走する縦割り組織と第二世代オーブンの地獄」
第五章 第二世代本能寺システム開発!!
第13話「暴走する縦割り組織と第二世代オーブンの地獄」
「……よし。これで、ようやく俺も『経営層』の仕事に専念できるというわけだ」
秋の朝日が白々と差し込む、喫茶『本能寺』のバックヤード。
明智光秀は、真新しいマグカップに注がれたブラックコーヒーをゆっくりとすすりながら、壁に貼り出された模造紙を見上げ、深く、そして長い安堵の息を吐き出した。
ちなみに、そのマグカップに注がれているコーヒー豆は、購買担当の佐々成政がどこからかタダ同然で仕入れてきた、異様に安く、出処も不明な代物である。 一口飲むごとに舌の奥がピリピリと痺れるような感覚があるが、今の光秀にはそんな些細な毒性を気にする余裕はなかった。 むしろ、過酷な労働によって悲鳴を上げ続ける胃痛を麻痺させるにはちょうどいいとすら思っている。
目の前の壁に燦然と輝いているのは、昨日までの喫茶『本能寺』とはまるで違う、新しい組織の姿――すなわち『組織図』だった。
【社長】織田信長
【統括】明智光秀
【研究開発部】松永久秀(第二世代システムの開発・運用)
【営業部】柴田勝家(新規顧客の獲得・客引き)
【購買部】佐々成政(食材・備品の最安値仕入れ)
【接客部】前田利家(ホール業務・クレーム対応)
【財務部】丹羽長秀(資金繰り・予算管理・コスト削減)
「素晴らしい……。何度見ても、涙が出るほど美しい……」
光秀は、組織図を見上げながら感動に打ち震えた。 「実に論理的だ……! これぞ近代企業! これぞコーポレート・ガバナンス! ついに我々も、名実ともに企業としての第一歩を踏み出したのだ!」
これまでの喫茶『本能寺』は、狂気のオーナーである織田信長が思いつきで投下する無茶振りを、光秀と万能バイトリーダー・羽柴秀吉の二人が血反吐を吐きながら処理する、典型的な「超絶ブラック個人商店」だった。
営業も、仕入れも、接客も、クレーム対応も、そして地獄の厨房業務も。
すべてが光秀と秀吉の二人に集中し、毎日が過労死とのチキンレースであった。
しかし、昨日、ついにその歴史が変わったのだ。
かつては全国規模の巨大金融機関だったが、今や地方信用金庫以下にまで落ちぶれた『足利金融』。
没落しているくせに、貸出条件だけは「利益の五十パーセント上納」「年利十五パーセント」「追加担保要求」という、反社も青ざめる暴力的かつ高飛車な条件を突きつけてきたあの金融機関から、光秀は決死の覚悟で三千万円の融資を引き出してきた。
それほど危険な借金を背負ってまで、経営を次の段階へ進めることを光秀自身が決断したのだ。 その結果として誕生したのが、この縦割り組織図である。
「これで、俺は現場の泥臭い労働から完全に解放される……」
光秀は震える拳を握りしめた。
「営業は柴田殿がやる。仕入れは佐々殿がやる。接客は前田殿がやる。財務は丹羽殿がガッチリ管理する。そして研究開発は……松永殿が」
そこで、光秀の顔が少しだけ引きつった。
昨日、本願寺から何食わぬ顔で帰還したばかりの松永久秀。
第一世代本能寺オーブンの設計者であり、倫理観と安全性を完全に欠如させたマッドサイエンティスト。
問題は山積みだ。だが、それでも前向きに考えるしかない。足利金融への法外な利息の返済が始まる以上、一刻も早く厨房処理能力を引き上げ、利益を莫大に増やさなければ会社が即死するのだから。
「そして俺は……」
光秀は、組織図の自分の名前をうっとりと見つめた。
【統括】
「全体を管理する。各部署から上がってくる報告書に目を通し、優雅にハンコを押し、経営戦略を練る。これこそが経営陣! これこそがエリートビジネスマン! もうエプロンを締めて皿を洗う必要はないんだ!」
光秀の口元が緩む。
「ふふ……」
そして、ついに笑い声が漏れる。
「ふふふ……ふははははは! ついに俺の時代が来たぞ!!」
「何を朝から一人で笑っとるんじゃ、光秀」
背後から、呆れたような声がした。
「ひっ!?……秀吉!」
振り返ると、そこには全身を謎の黒い煤で汚し、すでに疲労困憊の表情を浮かべた羽柴秀吉が立っていた。
「お前、どうしたその姿!? まだ開店前だぞ!?」
「厨房の仕込みですわ。あの第一世代オーブン、最近ワシが近づいただけで勝手に威嚇するように火を噴くようになりましてな。まつ毛が全部焦げましたわ」
「見れば分かる! じゃなくて、お前、今日から負担が減るはずだろう!」
「……減る?」
「そうだ」光秀は当然のように答えた。「各部署が専門業務を担当する。お前は厨房の実働だけを担当する。つまり、今までのような雑用からは解放されるはずだ」
「……そうですか」
秀吉は、壁の組織図をじっと見上げた。
「ワシの名前、どこにもないですけど」
「…………」
光秀は黙った。
「ワシ、どこの部署です?」
「……現場?」
「部署名は?」
「…………厨房?」
「組織図にないですけど」
「…………」
「大増員して組織化したのに、一番重要な現場労働者であるワシだけ組織図に入ってないって、どういうブラックジョークです?」
光秀は、そっと視線を逸らした。
「……考えておこう」
「絶対考えとらん顔ですやん!!」
その時。
「明智統括」
氷のように冷たい声がバックヤードに響いた。財務部長・丹羽長秀である。彼は銀縁の眼鏡を押し上げながら、手元のタブレット端末を冷徹な視線で見つめている。
「秀吉の所属についてですが、彼は全部署の『共通リソース』です」
「共通リソース?」秀吉が首を傾げる。
「ええ。特定の部署に所属させず、すべての部署から発生する業務の最終的な受け皿として機能させる。非常に合理的な配置です」
「それ、一番都合よく使い潰される奴隷のポジションちゃいます!?」
「言葉には気をつけてください、羽柴殿。これは経営戦略です」
丹羽は秀吉の抗議を冷たく切り捨てると、光秀に向き直った。
「それより統括。松永部長が、足利金融から借り入れた三千万円の融資を『全額、研究開発費として今すぐよこせ』と要求してきています」
「全額!? 馬鹿な、そんなことしたら運転資金がショートする!」
「当然です。ですから財務部として、三千万円すべてを研究開発費にするなど論外だと突っぱねました」
「よくやった丹羽殿! さすがは財務の要だ!」
「はい。当面の運転資金と、各部署の最低限の予算を確保した結果、松永部長に渡せる予算は『三百万円』が限界です」
「十分の一に減額されてる!?」
「ケチくさいことを言わないでいただきたいですね」
不意に、バックヤードの扉が開き、白衣を翻した松永久秀が現れた。
「私は第二世代システムの完成を急いでいるのです。そのためには、最先端の機材と特殊な呪物……ゴホン、部品が必要なのです。三千万全額投資していただかないと」
「駄目です。財務部として絶対に承認できません」
丹羽がタブレットを盾にするように冷たく言い放つ。
「松永殿」光秀も慌てて加勢する。「あの三千万円は、我が社の血と汗と涙の結晶にして、未来への命綱です! 一つの部署に全額突っ込むなどという暴挙が許されるわけがないでしょう!」
「……チッ。どいつもこいつも、本願寺の連中と同じようにケチなことを」
松永は不満げに舌打ちをした。
「まあいいでしょう。資金が足りないなら、別のリソースを使うまでです」
「……別のリソース?」
光秀が嫌な予感を覚えた。
「ええ。幸いにして、この店には今、最高の『実験環境』が整いつつあります。お金が足りないなら、人間の感情をリソースにすればいいのですから。試作炉そのものは第一世代の部品と、これまで集めた廃材でほぼ完成しています」
――ドォォォォォォン!!!
店の表、ホールの方から、建物の基礎を揺るがすような凄まじい轟音が響き渡った。
「な、なんだ!?」
「開店時間ですわ」秀吉が遠い目をして呟いた。
光秀たちが慌ててホールへ飛び出すと、そこには近代企業などという生ぬるい言葉では到底表現しきれない、阿鼻叫喚の『地獄のテーマパーク』が広がっていた。
「さあさあさあ!! 入った入ったァ!! 本能寺のモーニングは宇宙一ィィ!! そこのお前も、そこのお前も! 四の五の言わずに席に座れェェッ!!」
店の入り口では、営業部長・柴田勝家が、鬼の形相で道行くサラリーマンたちを文字通り「物理的」に店内に投げ込んでいた。
「ちょっ、痛っ! 放せ、俺は隣のコンビニに行くんだ!」
「甘えんなァッ! コンビニのサンドイッチで満足するような腑抜けた胃袋に、うちの激熱ブラックコーヒーを流し込んで魂を燃やせェッ!!」
「いや、席が……もう満席じゃないか!」
「席がねぇなら相席だ! 相席が無理なら肩車しろ!! 回転率を限界まで引き上げろォォォッ!!」
「おい勝家!! 無茶苦茶すぎるだろう! 消防法に引っかかるわ!!」
光秀が叫ぶが、勝家は豪快に笑うだけだ。
「ガハハハハ! 統括! 俺は『営業部』のトップとして、客を限界まで引きずり込むのが仕事だ! 後のことは知らん!!」
「知らんってなんだ知らんって!!」
「おい、そこの客ゥ!!」
ドンッ!!
客席のテーブルが叩き割られんばかりの勢いで揺れた。
接客部長・前田利家である。
彼は、あまりの混雑と提供の遅さに文句を言おうとした客の目の前に立ち塞がり、二メートル近い長身から見下ろすように凄んでいた。
手にはなぜか、ピカピカに磨き上げられた金属製のトレイ――という名の打撃兵器が握られている。
「……なんか文句あるか?」
「ひっ……! い、いえ! 何もありません! むしろ、この満員電車のような密着感がアットホームで最高だなって……!」
「おう! そうだろうそうだろう! 俺たち『接客部』は、お客様に『最高のアットホーム感』を提供するのが仕事だからな! 何か不満があったら、いつでもこの前田利家に言えよ! 物理的になだめてやるからよォ!!」
「過剰なサービスでクレームをねじ伏せるな!! それ接客じゃなくて恐喝だから!!」
「安心しろ、明智ィ!」
厨房の奥から、顔を真っ黒に汚した購買部長・佐々成政がサムズアップしながら顔を出した。
その横には、見たこともない言語で『絶対安全』と書かれた不気味な段ボール箱が山積みになっている。
「食材費を三十パーセント削ったぞ!!」
「何を仕入れた!?」
「安い粉だ!!」
「どこの粉ですか!?」
「知らん!!」
「なぜ知らない!?」
「安かったからだ!! グラム一円の奇跡の粉だぞ!!」
「品質確認は!?」
「した!!」
「どうやって!?」
「舐めた!!」
「味覚検査じゃない!! そもそも暗闇で微かに発光してるじゃないかその粉!!」
「舌が三十分ほど麻痺したが死にはしなかった! ちゃんと火を通せば問題ない!!」
「問題しかないわ!!」
光秀が絶叫するが、丹羽は冷徹にタブレットを叩き続けている。
「素晴らしい。原価率は劇的に改善しています」
「丹羽殿まで!?」
「数字だけを見れば、非常に優秀です。各部署が、それぞれ非常に優秀に仕事をしています」
「数字の裏側で人権と法律が死んでるんですよ!!」
「誰も他部署のことなど考えていませんが、財務部としては利益が出ればそれでいいのです」
営業部が無限に客を入れ、 購買部が怪しい食材を持ち込み、 接客部がクレームを処理し、 財務部がコストを削る。 そのすべてが、秀吉一人に集中する。
「明智殿ォォォッ!! だから言ったでしょうがァァァ!!」
厨房の最前線で、ワンオペで立ち尽くす秀吉が、血を吐くような叫び声を上げた。
「営業が無限に客を入れ! 購買が持ってくるパンは発光しとるし! 財務は光熱費を削るためにオーブンのガスを止め! 接客はクレームを封じ込めるだけでオーダーの交通整理を全くしない! そのすべてのしわ寄せが……現場の共通リソースであるワシ一人に集中しとるんですわァァァァッ!!」
ゴォォォォォッ!!
秀吉の「怒り」の感情エネルギーが第一世代オーブンに流れ込み、異常な火炎を噴き上げる。
舌が麻痺する謎の粉を混ぜ込んだパンが、秀吉の怒りの業火によって強引に焼き上げられ、店内に香ばしくも危険な匂いを充満させていく。
「……実に、興味深い」
その地獄の光景を、松永久秀は少し離れた特等席から、手元のバインダーに細かく記録しながらうっとりと眺めていた。
「松永殿!」光秀が駆け寄る。「何をしているんです!? 見てないでどうにかしてください!」
「観測ですよ」松永は淡々と答えた。「感情の、ね」
「感情!?」
「ええ。組織を縦割りに分業化すると、人間の感情が部署ごとに分散する。そして、互いの目的――KPIが衝突すると、そこに凄まじい『怨嗟』が生まれるのです」
松永は、興奮した様子でペンを走らせた。
「営業が客を詰め込み、ストレスを発生させる。購買が粗悪品で不満を煽る。財務が予算を削って絶望を生む。接客がそれを抑え込む。この縦割り組織によって、怒り、哀しみ、そして怨嗟が大量発生している」
「…………」
「私は『第二世代本能寺システム』の完成を急いでいるのです」
松永は、燃え上がる第一世代オーブンを眺めながら、愉快そうに笑った。
「もっとも――」
白衣のポケットから、小さな端末を取り出す。
「これはまだ、第二世代本能寺システムそのものではありません」
「……何?」
「その中核となる、試作炉です」
松永が端末を操作する。
ガコンッ!!
厨房の床が大きく開いた。
その下から、第一世代オーブンの隣へと、禍々しい黒鉄の塊がせり上がってくる。
無数の配管。
複数のバルブ。
そして、正面に並んだ五つの接続端子。
「これが――」
松永は眼鏡を押し上げた。
「第二世代本能寺オーブンです」
「第二世代!?」
「第一世代は、個人の『怒』を直接火力へ変換する単純な構造でした」
松永は、燃え盛る第一世代を指差す。
「しかし、あれでは一人分の感情しか使えない。つまり、人間一人の処理能力が、そのまま厨房の処理能力の限界になる」
松永の笑顔が深くなる。 「だから、人間を増やした」 「……」 「複数人の『怒』を取り込み、そこから発生する『怨』を蓄積する。さらに将来的には、怒りだけではない。哀しみ、喜び、楽しさ――それらすべてを分離して処理する。……それが第二世代本能寺システムです」
五つの接続端子が、不気味に赤く点灯した。
「感情の並列処理。それが――第二世代本能寺システムの第一歩です」
「会社として最悪の技術革新だ!!」
光秀が絶叫した。
「さあ、皆さん」
松永が営業部、購買部、接客部の三人を見渡す。
「各部署の責任者として、存分に怒ってください」
「は?」
「あなたたちの『怒』こそが、新しい本能寺の燃料なのです」
「そんな理由で怒りたくねぇよ!!」
柴田が叫ぶ。
「もう十分怒っとるわ!!」
佐々が叫ぶ。
「こっちはクレーム処理でずっとイライラしてんだよ!!」
前田が叫ぶ。
松永は満足そうに頷いた。
「素晴らしい」
「何がだァァァッ!!」
次の瞬間。
柴田、佐々、前田の三人が、それぞれの端子を掴んだ。
ゴォォォォォォォォォッ!!
第二世代本能寺オーブンが轟音を上げる。
複数の人間から流れ込んだ怒りが、一本の巨大な火炎へと変換されていく。
「熱ッ!!」
「熱すぎるわ!!」
「厨房が戦場になっとるぞォォ!!」
「素晴らしい……!」
松永だけが恍惚とした表情を浮かべていた。
「これなら――人間一人の限界を超えられる」
その言葉を聞いた光秀の顔が引きつる。
「……待て」
「何です?」
「ということは」
光秀は、ゆっくりと五つの端子を見た。
「まだ、空きがあるんじゃないのか?」
松永が笑った。
「ええ。五人まで接続できます」
光秀は絶望した。
「絶対に俺を数えるなよ」
「統括」
背後から信長の声がした。
「貴様も行け」
「嫌です!!」
「統括だろうが」
「統括は全体を見る仕事でしょうが!!」
「ならば全体の燃料になれ」
「意味が分からんわァァァッ!!」
次の瞬間。
光秀の身体が厨房へと吹き飛んだ。
「うおおおおおおおッ!!」
強制的に四つ目の端子を握らされる。
「あと一つ空いていますね」
松永が呟いた。
「……え?」
光秀の顔が引きつる。
「ま、待て。まさか――」
「秀吉くん」
「嫌だてェェェェッ!!」
厨房の奥で、秀吉が絶叫した。
「ワシはもう第一世代ででら燃えとるんだわ!! 勘弁してちょうだいよ!!」
「人間一人の処理能力が限界だったから、第二世代を作ったのです」
「だからってワシを追加する理由にはならんでしょうが!! どえらい熱いんだて!!」
「第一世代の稼働データを最も多く持っているのは、あなたです」
「実験データ扱いすんなてェェェ!!」
しかし、信長が無言で秀吉の背中を押した。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
秀吉が五つ目の端子を握る。
その瞬間。
――ゴォォォォォォォォォォッ!!
五つすべての端子が一斉に赤く輝いた。
五人分の『怒』が、第二世代本能寺オーブンへと流れ込んでいく。
光秀、柴田、佐々、前田、そして秀吉。
それぞれが抱えていた、部署間の不満。
理不尽な指示への怒り。
終わらない仕事への苛立ち。
そして――互いに対する怨嗟。
それらすべてが、一本の巨大な火炎へと変換されていった。
オーブンの内部が青白く輝いた。
鉄板が赤を通り越して白く輝き始めた。
そして――。
それまで山積みだったオーダーが、凄まじい速度で消えていった。
「……捌けている」 光秀が呆然と呟く。 「溜まっていたオーダーが、どんどん捌けている!」 柴田が叫ぶ。 「売上も上がっとるぞ!」 佐々が叫ぶ。 「原価率まで改善しています!」 丹羽がタブレットを確認する。
信長が笑った。
「見たか!」
客たちは、なぜか異様な速度で提供されるモーニングに舌鼓を打っていた。
「なんだこの店……料理が出てくるのが早すぎる!」
「しかも妙に癖になる!」
数字の上では、大成功だった。
客数――過去最高。
処理速度――過去最高。
原価率――過去最低。
売上――過去最高。
利益――過去最高。
ただ一つ。
改善されなかったものがある。
「お前の営業が客を入れすぎるんじゃァァ!!」
「お前の粉が怪しいんじゃァァ!!」
「お前がクレームを物理で処理するからだァァ!!」
「全部俺のせいにするなァァァッ!!」
働いている人間だけが全員死にそうだった。
厨房に響き渡る、五人の怒号。
それを燃料として、第二世代本能寺オーブンは、さらに激しく燃え上がる。
――会社としては、大成功。
――人間としては、大失敗。
その日。
喫茶『本能寺』は、初めて知った。
人間を増やせば、労働力が増える。
そして同時に。
怒りも増える。
それこそが――
第二世代本能寺システムの、最初の成功だった。




