冬の日常
どんどん暑くなって来てますね。
作中はどんどん寒くなっていってます(*ノω・*)テヘ
●12月◯日
早朝、玄関を開けて外を確認した私は、見事なまでに真っ白な外の光景に、思わずてまりさんを振り返る。
「見事なまでに真っ白だよ、てまりさん!」
私の大声に驚いた様子で現れたてまりさんは、おずおずと私の背後に隠れるようにして、私の手を握りながらそっと玄関の外の様子を窺ってる。
子猫が警戒しているみたいで可愛いなぁとほっこりしていた私だったが、外から吹き込んだ冷たい風によって「へぷしっ」という気の抜けたくしゃみをしてしまう。
その瞬間、警戒しきっていたてまりさんがバッと素早く動き出して私の脇を通り抜けたかと思うと、開かれていた玄関の引き戸を勢い良く閉める。
それは驚きの声を上げる間もすらない早業だった。
あのおずおずとしていた可愛いてまりさんは幻だったのかと思うほどの動きに、私は思わず瞬きもしないでてまりさんを凝視する。
そんな私の視線を感じたのか、てまりさんはこちらを見上げてにっこりと微笑む。
非の打ち所がない百点満点の愛らしい笑顔だった。
──可愛いからなんでも許せてしまった私がいたりする。
「急に寒くなっちゃったから出しそびれてたけど、今日はこたつを出します」
先ほどくしゃみをしてしまったせいで、玄関先は寒いと心配顔のてまりさんから茶の間へと引っ張って来られた私は、半端な冬支度となっている室内を見渡して今日の予定を説明する。
もちろん説明している相手はてまりさん…………それと、いつの間にか室内にいてにっこにこな笑顔を浮かべたカッパくんだ。
「きゅわ?」
笑顔のまま首を傾げるカッパくんに、私は手を伸ばして茶の間に鎮座する長方形のローテーブル……というかちゃぶ台をぺちぺちと叩いてみせる。
ローテーブルとちゃぶ台の違い、ついつい調べちゃったよ。
和室に置いてあるし、床に座って食事するのに使ってるから、うちのはちゃぶ台呼びでいいんだと思う。
それとも、天板が外れて、布団をセットしてこたつとして使えるようになってるんだから、こたつテーブルと呼ぶのが正解なのか。
「きゅぅわ?」
「あ、ごめんごめん。別に何でもいいよね、クイズしてる訳でもないんだし」
テーブルの呼び名について思いの外真剣に考え込んでしまっていたようで、心配そうに首を傾げたカッパくんとてまりさんの視線を受け、私は自嘲気味に笑って天板へ手をかける。
すでに裏側のネジは緩めてあるので抵抗なく天板は持ち上がる。……当たり前だけど片側だけ。
一人で持ち上げるには、少しこの天板は大きすぎるよね。
「……カッパくん、そっちを持ち上げてもらえるかな」
「きゅわ!」
見守ってくれていたカッパくんをちらりと見やって手伝いをお願いすると、任せとけと胸を叩いて私が持っているのと反対側に手をかけて天板を持ち上げてくれる。
天板に乗っている物はないので、私とカッパくんでも問題なく天板を運んでいく。
足元が見づらいと思ったのか、てまりさんが車の誘導のように手で「オーライオーライ」とやってくれているのに導かれながら、天板を邪魔にならない位置まで持っていく。
「カッパくん、下ろすよ。手を挟まないように気をつけてね」
「きゅわっ!」
私の注意の言葉を受け、当社比二倍なキリッと顔で返事をしてくれたカッパくんだったが……。
見事につま先を天板の下敷きにしていた。
そこまで重い天板じゃないので痛みはなかったようだけど、挟まれた足を見て目を真ん丸くしてきょとん顔になっていた。
「……カッパくん、足も気をつけて欲しかったかな」
「きゅわぁ」
てへっとばかりに手で顔を覆って照れ隠しをするカッパくんは可愛かったが、怪我にも繋がる事態なので心を鬼にしてしっかり目に注意をしておく。
一緒になって注意してくれたてまりさんが、お姉さんぶっていて可愛かった。
しっかり目に注意をし、私も気をつけたのでその後は特に問題は起きず、無事にこたつのセッティングは終了。
コードが一瞬行方不明になったりもしたが、てまりさんがすぐ見つけてくれたので早速こたつを点けてみる。
「きゅわぁ?」
こたつ布団を捲って中を覗き込んでいるカッパくんが、赤い光に照らされた内部を見て不思議そうに首を傾げる。
「ほら、こうやって足を入れて暖まるんだよ」
カッパくんの可愛らしい反応にくすくすと笑った私は、座ってお手本としてこたつへ足を入れてみせる。
「きゅ……?」
こてんと首を傾げたカッパくんは、私の隣にぺたりと座って恐る恐るといった表情でこたつへ足を入れる。
「きゅわきゅわぁ!」
すぐカッパくんの顔がパァッと笑顔になり、私とこたつを交互に見て興奮した様子で声を上げている。
気に入ってもらえたようで良かった。
てまりさんはというと、いつの間にかカッパくんがいるのと反対側の私の隣に陣取ってこたつへ足を入れていて、可愛らしくにこにこと笑っている。
可愛いと可愛いに挟まれて、危うく死因が『可愛い』になるところだったよ、私。
「あ、そうそう、こたつと言えばって物が足りてなかったね」
しばらくしてなんとか正気に戻った私は、こたつの相棒とも言っても過言……かもしれないけど、私的には外せない存在を思い出し、こたつから出て立ち上がる。
「きゅ、きゅ?」
なになに? とキラキラとした目で見てくるカッパくんへ私が差し出したのは、茶色の籠に山盛りにされた橙色の果実。
無駄に脳内でちょっと回りくどい表現をしてみたりもしたが、つまりはお馴染みの柑橘類のみかんだ。
やはりこたつの上にはこれが似合うよね。
ちなみにこれは買った物ではない。
うちの家庭菜園の隅にいつの間にか実っていて、ハーピーさんが取ってきてくれた物だ。
しかも、私好みの小振りで甘みが強いみかん。
うちの家庭菜園がスパダリじみてきて、私は駄目にされそうだ。
「きゅわぁ」
早速みかんを食べ始めて顔を蕩けさせているカッパくんも、駄目にされそう仲間かもしれない。
てまりさんの方はというと、せっせとみかんを剥いて私へ「あーん」と食べさせてくれている。
「てまりさん、も、食べて、ね」
変に途切れ途切れの言葉になったのは、口を開ける度にてまりさんがみかんを放り込んでくるからだ。
私の言葉聞いてにっこり笑っているてまりさんは、うちの家庭菜園と気が合うかもしれない。
みかんを食べ終えたので、気が重いが家の裏──つまりは家庭菜園の独壇場になっている裏庭の積雪状態の確認だ。
ハーピーさんの小屋にはファンヒーターを運び込んで使い方を指導してあるので、とりあえず朝起きたら冷たくなっていたなんて悲劇は回避出来ていると思う。
朝一番積雪に興奮してしまい、すっかり見に行くのを忘れていたのは内緒だ。
「さぁ、二人共、しっかり防寒してね」
カッパくんとてまりさんにお揃いの白い毛糸の帽子を被せ、それぞれ緑と赤のフリースを着せて、同じ色のミトンタイプの紐の付いた手袋を着けさせた。
「きゅわわ」
手袋を着けたカッパくんとてまりさんは、手袋を自慢するように向かい合って手を合わせてキャッキャウフフしている。
尊いとはこういう事を言うのだと知った。
手を合わせて拝んでおこうかと悩んでいたら、キャッキャウフフしていた二人がそれぞれ私の右手と左手を掴み、ぐいぐいと引っ張ってくる。
どうでもいいが、私も防寒対策済みだ。
とりあえず可愛さはない格好だ。そもそも求められてもいないだろうし。
そんなどうでもいい事を考えながら勝手口を開ける。
外を見て──一回閉める。
「きゅわ? きゅわわ!」
そんな私を見上げて不思議そうに首を傾げた後、笑顔で行こうよと誘ってくるカッパくん。
そういえばと思ったのは、カッパくんはこの外からやって来たんだなという当たり前の事実だ。
「そうだね、ハーピーさんの様子も見ないと」
そう呟いて気合を入れてもう一度勝手口の扉を開ける。
広がっているのは当然真っ白な雪景色なのだが、それに埋まっているはずの畑の畝は半分程ビニールのトンネルに覆われている。
雪にそのまま埋まっているのは、白菜や大根など雪に埋まっても大丈夫な作物なんだと思う。
──私はビニールのトンネルなんて作った覚えないから、わからないけど。
「あはは……きゅうり、大丈夫そうだね」
「きゅわ!」
力無く呟いた私に、カッパくんはキラキラ笑顔で力強く頷く。
そう、きゅうりの棚もビニールのトンネルに覆われ──もう小型のビニールハウス化しているのだ。
気のせいじゃなければ、うちの家庭菜園はカッパくんに甘いと思う。
「きゅわぁ」
まぁ、きゅうりを食べる幸せそうなカッパくんを見ちゃうと、甘やかしたくなるのは仕方ないか。
──私もそうだから。
もうこの家庭菜園はこういうものだと開き直った方がいいのかもしれない。
自嘲気味に自身へ言い聞かせながらハーピーさんの小屋を覗いてみると、ファンヒーターの前で丸まって暖をとっていた。
目を閉じてうつらうつらしている様子だったので、飛び込もうとしている悪戯っ子二人を制して扉をそっ閉じする。
一緒に黒猫さんも丸まって暖まっていたのは…………なんでかはわからないけれど、平和で尊い光景だったので良しとする。
「冬の間も退屈はしなさそうだ」
「きゅわわ!」
私の独り言にカッパくんが元気に答え、てまりさんがにっこり笑ってくれる。
こうして私の冬生活はのんびりスタートを告げたのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます!
誤字脱字報告も助かっておりますm(_ _)m
すっかり保育士さん状態の主人公ですが、相変わらずぽやんとスルーしております。
ある意味メンタルつよつよかも。




