秋の終わりの足音
たぶん驚いて力の制御間違えたとかだと思います。
やっと秋が終わります。リアルはもうすぐ夏なのに(笑)
●11月■日
お月見から数日経ち、朝晩はすっかり冷え込むようになってきた。
冬将軍がだいぶ近づいてきているようだ。
こちらへ転移前の我が家周辺は雪がそこそこに降る地域だったのだが、こちらはどうなんだろう。
たくさん降るようなら大きめのスコップを買っておいた方が良いかもしれない。
そんな不安を覚えた私は、まずは同居人であるてまりさんへ訊ねてみる事にした。
「てまりさん、この辺ってどれぐらい雪降るのかな?」
私の問いに対するてまりさんの答えは、きょとんとした顔で首を傾げてから身ぶり手ぶりで頑張って答えてくれた。
「そっかぁ、てまりさんは元からここにいた訳じゃないんだね」
我が家がここへ『現れた』時点で、てまりさんは我が家を住処にしてくれたとわかり、嬉しくてついついいつもより多めに頭を撫でてしまった。
しばらくてまりさんとキャッキャウフフしていた私だったが、結局疑問が解決していない事にハッとして、次なる質問相手へとてまりさんと同じ質問をする事にした。
もちろんそれは、良き隣人であるカッパくんだ。
カッパくんからの答えはというと……。
「きゅわ、きゅわわわぁ! きゅわっ!」
大きく手をバタバタさせた後、ドヤッとして決めポーズをするカッパくん。
ごめん、可愛いけれど、ほとんど伝わって来ないんだ。
たぶん、カッパくんは雪遊びが大好きなんだとは思う。
ひとまず、カッパがクマみたいに冬眠する生態じゃなくて良かった。
冬の間会えないなんて寂しすぎるから。
「……雪遊びは楽しみだね、カッパくん」
期待に満ちた目で見つめてくるカッパくんには、とりあえずそう答えておいた。
「最初からこうすれば良かったんだよね」
そう独り言を呟く私が立っているのは、頼りになるお隣さんの玄関前だ。
カッパくんに質問した後、一応ハーピーさんにも同じ質問をしてみたけど、ユキサムイ、ユキツメタイキライ、という答えが返ってきた。
ハーピーさんの小屋の中に、そっと敷き藁と毛布を追加しておいた。
その話は脇に置いておいて。
インターホンを押して、招かれるままに中へと入る。
「やぁやぁ、いらっしゃい」
「うふふ、また何かあったのかしら?」
お二人共元気そうで、揃って笑顔で迎えてくれた。
「お邪魔します。あ、これお土産です」
手渡したのは我が家の家庭菜園産の野菜の数々だ。
「あらあら、嬉しいわ。ありがとう。あなたの作るお野菜美味しいから、私もこの人も大好きよ」
「ぜひ今度コツを教えてもらいたいものだね」
嬉しそうに笑って喜んでくれた奥様に、おじさまも乗っかって悪戯っぽい笑顔でそんな事を口にする。
「あはは……良かったです。家庭菜園に伝えておきますね」
私の言葉は冗談だと思われたらしく、ご夫婦揃って「まぁ」といった感じで声を上げて笑ってくださった。
この反応から想像するに、いくらモンスターやあやかしが跋扈する世界でも、我が家の家庭菜園は異常のようだ。
何となく察してはいたよ。
手土産に野菜でも……と呟いた瞬間、ニョキニョキ野菜を増やしてくれる畑なんて普通なわけない。
通されたリビングのソファの上で、さすがの私も空気を読んで曖昧に笑っていると、仲良しご夫婦は楽しそうに笑って話しかけてくる。
「で、今日はまた何か聞きたい事があるんだって?」
「なにかしら? あ、まさか、赤い月の日に外へ出たとかかしら?」
「いやいや、まさかそんな訳ないだろ? え? 違うよね?」
私が口を挟む間もなくポンポンと夫婦の会話が進んでいき、私はいつの間にか赤い月の日にお月見をしていた件を自白させられていた。
その後、私の話を聞いたお二人から、笑顔でガッツリとお説教されました。
今日の教訓。
赤い月が出ている日は、ヤバいものがヤバいテンションで出歩く日なので危険区域では月が出ている間は室内待機が基本。
その他の地域でも危険性は高く、外出は推奨されていない。
赤い月の日の夜の危険性をみっちり叩き込まれて、私のライフはゼロよ! 状態になりながらも何とか降雪量に関する情報をゲットして帰宅する。
「ただいま〜、てまりさん」
へろへろになって戻って来た私に、心配そうな顔をしたてまりさんがギュッと抱きついてくる。
「大丈夫だよ、てまりさん。ちょっと心配してもらっただけだから」
頭を撫でながらそう伝えると、てまりさんは安堵した様子でにっこりと可愛らしい笑顔を見せてくれる。
「あ、そうそう、雪の事はちゃんと聞けたから。そこそこ降るらしいよ」
お隣さんも越して来て数年だからそこまではっきりは断言出来ないとは言われたけど、毎年ぎりぎり屋根の雪下ろしはしないで済むぐらいの積雪らしい。
元の我が家は豪雪地帯に建っていたのでそれぐらいの積雪なら問題ないだろうと一安心だ。
安堵で胸をなで下ろしていると、てまりさんがキラキラとした眼差しで私を見上げている事に気付く。
「皆で雪遊びしようね」
きっとカッパくんも喜んでくれ……。
そこまで想像して、私ははたとおそろしい事実を思い出して、思わず家庭菜園へと駆け出す。
多くの爬虫類や両生類は寒さに弱く、冬眠してしまうのだ。
カッパはどちらになるかわからないが、あの皮膚の感じはそれっぽいと思う。
「カッパくん!」
勝手口から外へ飛び出しながら、カッパくんを呼ぶ。
残念ながら姿は家庭菜園の何処にも見えない。
「ドウシタ?」
私の慌てた様子にハーピーさんがとてとてとてと歩いて近づいてきて、心配そうに声をかけてくれる。
「あ、ごめんね、驚かせて。ちょっと心配になる事を気付いちゃったんだ」
別にカッパくんが冬眠しても春になれば会えるんだけど、冬の間カッパくんに会えないなんて……。
思いの外、寂しくて思わず体が動いてしまった。
それをハーピーさんへ自嘲気味に笑いながら説明すると、ハーピーさんが気合の入った表情を私へ向けて、突き出すように胸を反らせる。
「オレ、イル!」
「えと……ありがとう、ございます?」
ドヤッとしてもふっとなったハーピーさんの頭と羽毛部分を撫でていると、遠くから「きゅわーっ!」という声が近づいてくるのに気付いて、そちらへ顔を向ける。
ハーピーさんの撫で心地はなかなかに良き。特に羽毛部分。
ちょっと無心になりながら撫でている私の前に、かなりの勢いでカッパくんが飛び込んで来る。
「きゅわ! きゅわ、きゅわわ!」
私の目の前で急ブレーキをかけたカッパくんは、キリッとした顔で私を見て大きく頷いてくれた後、きょろきょろと周囲を見渡す。
私に背中を向けて、何かから庇うように。
これは言い辛いやつだ。
ちょっと慌てて呼んじゃっただけだって。
どう見てもカッパくん、私に何か緊急事態が発生したと思って来てくれたんだよね。
頼もしい甲羅に覆われた背中を見ながら、私は申し訳なさマシマシな感じでその背中へ、
「ごめん、カッパくん。急に会いたくなって呼んじゃった……」
なんて自分でもメンヘラさんかよ! と突っ込みたくなる事実をぶっちゃける。
そうなの? という表情をして振り返ったカッパくんに頷いてみせると、えへへという感じの笑い方をしながら抱きついてきてくれる。
そこへ、
「……そういう事でしたか」
と困惑混じりの落ち着いた声音が少し離れた位置から聞こえてくる。
どうやらきゅうさんまで心配して来てしまっていたみたいだ。
「無事なご様子なので撤収してください」
姿は見えなかったが、そんな台詞と共にきゅうさんの気配と足音が遠ざかっていく。
「きゅうさん、ごめんね! 心配してくれて、ありがとう! あと! 冬眠ってしたりする?」
謝罪と感謝と。ついでに疑問点も叫んでおく。
「いえ、お気になさらずに。いつでも呼びつけてもらっても構いません。……あの方を含めて、我々は冬眠いたしません」
遠ざかる足音が一瞬止まり、少し笑みを含んだような声音が茂みの向こうから答えてくれる。
「そっか、良かった。……カッパくんも来てくれてありがとう」
不安が解消されて、安堵に胸を撫で下ろしていたが、抱きついてきているカッパくんを思い出して感謝を告げる。
「雪が降ったら、皆で雪遊びしようか」
「きゅわ!」
「オレモ!」
キラキラとした笑顔になったカッパくん、ハーピーさんもパァッと笑顔になって羽をバタつかせてアピールをしてくる。
可愛らしい二人の反応に頬を緩めていた私は、不意に遠い空から聞こえてきた雷鳴に驚いて顔を上げる。
見上げた空は、きゅうさんの声が聞こえた方──つまりはカッパくん達がいつも来る方向からもくもくとした暗雲が漂い始めている。
「あれ? 天気予報、一日中晴れだったのに」
明らかな雨の気配に首を傾げながら、私は雨に追いつかれる前にカッパくんを連れて家の中へと避難する。
ハーピーさんは自主的に小屋の中へ避難したのを確認済みだ。
しばらく後、雷鳴と共にザァッと雨が降り出し、その雨音を聞きながら秋の終わりを感じつつ、カッパくんとてまりさんとまったりお茶をして過ごしたのだった。
──雨の原因となったのが、私の急なカッパくん呼び出しに慌てた美人さんだと後日知り、そちらにも謝罪する事になるのをこの時の私は知らなかった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*´∀`*)
美人さん、きゅうさんによって登場すらさせてもらえませんでした。
次話から冬の章となります。真逆の季節へと進んでいくぜー。




