お月見の裏側
本日2話投稿となります。
こちら2話目ですので、1話目からお読みいただけると嬉しいです(^^)
視点変更あります。
●11月□日 裏側
[少年の場合]
「あー……さすがに今日は無理ですね」
通知音を鳴らしたスマホを取り出し、その画面を見た少年はそこに映し出されたメッセージに思わずそんな言葉を口に出していた。
メッセージの送り主は、少し前にちょっとした縁で顔見知りになった相手だ。
内容はお月見のお誘い。
普段なら喜んで! と答えるところだが、今日は無理だ。
今日は満月。しかも赤い満月が昇る日だから。
メッセージを送ろうとした指先が画面の上をさ迷い、結局返信は出来なかった。
スマホをポケットにしまう少年が思い浮かべていたのは、一緒にいるだけで気が抜けていってしまう、そんなふわふわとした相手の少し困ったように笑う表情だ。
「行くよ〜、朱月」
「はい!」
引かれる後ろ髪を引き千切って、少年は呼ぶ声の主である青年へと駆け寄る。
見上げる夜空には赤い月が昇っていた。
[美人さんの場合]
静謐な森の中。
無表情ながら物憂げな雰囲気で佇むのは、着流し姿のこの世の者とは思えない美貌の青年。
落ち着きなく視線をさ迷わせる青年へ近寄ってきたのは、すらりとした体躯のカッパだ。
「今日は呼ばれていないのですから、混ざってはいけません」
九重の名を持つ側仕えのカッパに話しかけられた青年は、無表情ながら明らかに不服そうな雰囲気を漂わせて九重を見つめる。
双方無言のまま見つめ合うこと、数分が過ぎ──九重が深々とため息を吐く。
「今日は月が赤いですから、あの敷地内にいたとしても何かあるかもしれません。……離れた位置から見守るぐらいなら良いのでは?」
苦笑いをした九重が提案したのは、苦肉の策というか、九重が出せる唯一の譲歩案だった。
九重の言葉を聞いた青年は、うむとばかりに重々しく頷いてゆっくりと歩き出す。
着流し姿で足元も気にせずすたすたと歩く青年だが、不思議と葉擦れの音も落ち葉を踏む音一つさせず、その気配は限りなく薄い。
どうやら青年は、参加したいのは半分冗談でほけほけしている家主が心配だっただけらしい。
こうして過保護な見守り付きのお月見は開始され、何事もなく和やかに夜は更けていく。
例えここの敷地外の外では、鉄錆びた匂い漂う風景が繰り広げられていても、青年がいるこの敷地内には何の関係もない。
青年が腰を落ち着けたのは、少し距離はあるがお月見をしている家主達がよく見える位置だ。
もちろんそこはただの森の中で座るような場所があるような所ではない。
しかし、青年がちらりと視線をやると、まるで最初からここにありましたけど? と言わんばかりに切り株が現れる。
腰かけるのに適した切り株が、生えた訳でもなく文字通り『現れた』のだ。
ここに他者がいれば二度見不可避な光景だろうが、あいにくといるのはその現象を当然のように受け入れて切り株に腰かける青年のみ。
その青年の瞳が見つめているのは、両側をカッパと幼女に固められた状態でほけほけと月を見上げている人物だ。
視線の先では何事もなくのんびりとした時が流れ、それを見る切り株に腰かける青年も無表情ながら穏やかな雰囲気を漂わせて彫像かと思うほどに動かない。
その余裕あふれる様子が変わったのは、お月見会場に突然の『お客様』が現れた瞬間だ。
ピクリと微かに表情を動かした青年が、勢い良く切り株から立ち上がる。
「ご心配はいりません。座敷童が共にいて、屋敷の主が害される事があるとでも?」
諌める声は皿を手に持ちながらゆっくりと近づいて来た九重だ。
「…………わかっている」
そう答えた青年は、九重へ一瞥すら向ける事なく再び定位置となりつつある切り株へと腰を下ろす。
そんな青年の態度を気にした様子もなく、にこりと微笑んだ九重は手にしていた皿を差し出す。
「こちらをどうぞ」
「……これは?」
無表情で首を傾げる青年へ渡されたのは、黄色とオレンジ色の二色の団子が乗った某春のパンの祭りの白い皿だ。
「お月見団子のお裾分けです。あの方からの」
「……そうか」
微かに表情を動かした青年は黙々とお月見団子を摘んで口内へと運んでいく。
食べる手が止まらないところを見ると気に入ったらしい。
その後、お月見は解散となり、九重は眠気でふらふらの同族の迎えに向かい、一人残された青年はというと──。
誰もいなくなった家庭菜園に姿を現していた。
向かったのは闖入者であるハーピーに用意された鳥小屋だ。
結局外から鍵は掛けられていなかったため、青年を阻むものは何もない。
例え鍵がかかっていようが青年なら開けられそうではあったが……。
青年の気配を感じ取ったのか、眠っていたはずのハーピーは目を見開き、とまり木の上で固まっている。
「ここの主を決して害さないと誓え」
月明かりの中、うっすらと光を帯びたように見える青年が重々しく命じる。
命じられたハーピーはというと、迷う間もなく首がもげるのではないかという勢いでぶんぶんと縦に振り続ける。
生存本能の強いハーピーは、目の前の存在に逆らうなどという馬鹿な考えを持つ事はなかった。
ハーピーの反応に、青年は興味を失った様子で去って行ってしまった。
「オニフスベニンゲン……ナニモノ……?」
残されたハーピーに大きな疑問を抱かせて。
去ったはずの青年が次に現れたのは、赤い月がよく見えるであろう窓
──がよく見える隣家の屋根の上だ。
家主が窓から月を眺めている姿を静かに眺めている青年。
家主がわたわたとして何事か呟いた瞬間、青年が動き出す。
すたすたと屋根の上を歩いて移動して、家主の家の屋根へと姿を現し、呟きに対する答えを口にする。
二言三言家主と会話した青年は、念の為家主の額に唇を触れさせて自身の匂いを上書きして、再びすたすたと屋根から姿を消す。
──お月見に誘われた事が嬉しくて、飛び降りるつもりが落ちてしまった事は家主には気付かれなかった。
ほけほけとした家主の平穏は、今日もこうして守られていたのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
少し短め、主人公がほけほけしている裏側で起きている話でした。




