お月見を終えて
もうすぐ秋を終えて冬になる予定です。
リアルと逆を行く季節感となっております(笑)
本日2話投稿となります。こちらが1話目です。
●11月□日 夜更け
時計の短針が天辺へかかるだいぶ前にお月見会は解散となった。
カッパくんとてまりさん……ついでにハーピーさんが睡魔に襲われてしまい、かなり頭グラグラ状態になっていたからね。
解散を告げると黒猫さんはいつも通り「んにゃん」という可愛らしい挨拶を残して、二又の尻尾を軽く揺らし茂みの中へ消えていった。
目をショボショボさせていたカッパくんは、迎えに来たきゅうさんに手を引かれて帰ったので何とか無事に帰り着けるだろう。
問題なのはハーピーさんだ。
「ダイジョブ、トベル」
自信満々に答えるハーピーさんだが、私に見えているのは先ほどから背中側だ。
目がショボショボでほとんど開いてないし、さっきから話しかけているのがうちの家庭菜園自慢のキュウリ棚だ。
うん、どう見ても駄目だと思う。
飛び立った瞬間、木か壁に激突して落下してくる未来が私にすら見える。
「うちに入ってもらう……のは駄目なんだね、わかったよ」
ハーピーさんの惨状に、泊まっていってと言いたかったが、私がそれを言いかけた瞬間にほとんど寝落ちしていたてまりさんがカッと目を開ける。
そして、ギュッと私の服の裾を掴んだてまりさんはぶんぶんと首を横に振って、どこからどう見ても断固拒否の姿勢だ。
ハーピーさんの事をずっと警戒してたみたいだし、家の中には入れたくないんだろう。
「わかったよ、てまりさん。ハーピーさんは家の中に入れないから心配しないで」
座敷童なてまりさんにとって、住処は聖域みたいなものだろうし。
一人で納得して頷いてたら、むぅと膨れたてまりさんからぽかぽかと叩かれてしまった。
「え、なになに、ごめん、よくわからないけど、ごめんね?」
理由は不明だけど、何やら間違っていたようでてまりさんを怒らせてしまった。
怒っていても可愛いけど。
「ハーピーさんには、ほら、そこの小屋の中で寝て……って、え?」
理由がわからないものの謝罪をした私は、ハーピーさんには家庭菜園の隅の納屋に寝てもらおうと指差した……ところで間の抜けた声を洩らしてしまう。
私が指差したのは、家庭菜園にいつの間にか建てられていて、収穫物の管理に使わせてもらっている小屋だったのだが、いつの間にか増殖している。
訳がわからな過ぎていつの間にかの連呼になってしまったが、本当に『いつの間にか』としか言いようがない。
とりあえず、お月見開始前までは何もなかったはずなのだが、今確認したら増えている。
犯人(?)はわかってる。家庭菜園だ、どう考えても。
危険はないとは思うが恐る恐る扉を開けると、内装はもう一つの小屋とは違ってシンプルだ。
壁に棚はなく、ガランとした室内には横切るように丸太が一本渡されているだけ。
洗濯物を干すのに使うには太くてハンガーは掛けられなさそうだし、梁だとしたら低すぎだし、今度は細く感じてしまう。
用途がわからない丸太を前に首を傾げていると、ショボショボだった目をキラキラとさせたハーピーさんがゆらゆらと動き出して小屋の中へ入っていく。
「ハーピーさん?」
「ココ、イイ!」
そう言ってバサリと羽を動かしたハーピーさんが丸太の上にオンする。
ガシッと丸太を掴んだ猛禽を思わせる足を見て、私はやっと丸太の用途を理解した。
「あれ、とまり木か。つまり、ハーピーさん用のとり……カプセルホテルみたいなものだね」
危ない危ない。
鳥小屋って言いかけちゃったよ。
聞かれてないかとそっとハーピーさんを窺い見ると、すでに眠る体勢へと変わっていて、なんかもふっと丸まっていて…………可愛い。
「もふもふ……じゃなかった、おやすみ、ハーピーさん。よい夢を……」
変な言い間違えをしてしまったのは、あの畳まれた羽のもふっとはみ出した部分に手を突っ込みたい欲望が駄々洩れたせいだ。
「オヤ、スミ」
ハーピーさんが完全に目を閉じて寝息を立て始めるのを確認して、私は静かにハーピーさん用カプセルホテルとなった小屋を出て、扉を閉める。
外側にやたらとしっかりした鍵が付いていたのは見なかった事にしておく。
収穫物の入っている向こうの小屋に付いてる鍵よりゴツいのが付いてるのは、あの小屋を作り出してくれた家庭菜園の警戒度の表れなのかもしれない。
警戒心そのものなゴツい鍵を見て、私はやっと先ほどのてまりさんの可愛らしいぽかぽかの理由を悟る。
モンスターがほぼ空想の中の生き物だった世界から来た私は、まだ少し危機感が足りないのかもしれない。
見下ろすとてまりさんは私の足にしがみついたまま、必死に目を開けて眠気と戦ってくれているようだ。
危機感が足りない私に代わって、ハーピーさんを警戒してくれていたのだろう。
さっき断固拒否だったのも、まだ信用しちゃいけないという意味だったんだと思う。
「ごめんね、てまりさん。心配してくれてありがとう」
心配をかけた自分が情けなくもあるが、それ以上に心配してくれたという気持ちが嬉しくて頬が緩みそうになる。
しかし、ここで笑っていてはてまりさんからまたぽかぽかを食らうので、口元を引き結んでてまりさんへ頭を下げる。
もう、仕方ないわね! みたいな感じで許してくれたてまりさんは、とても可愛くてニマニマしてしまったのは仕方ないよね。
幸いにもニマニマしていたのは気付かれなかった。
てまりさんが眠気の限界を迎えてしまい、私の足にしがみついたまま眠ってしまったからだ。
ふふと笑い声を洩らしながら抱き上げても、てまりさんは目覚める気配はない。
「おやすみなさい、てまりさん。よい夢を」
なんだかてまりさんの寝顔が笑ってくれた気がした。
一人になった私は、お月見団子を乗せていた皿を片付けて、欠伸をしながら階段を上っていく。
階段を上りきった所にある窓から、やたらと大きな月が見えている事に気付いて足を止める。
この窓からこんなに大きく月が見えたっけと一瞬疑問を抱くが、家庭菜園から月が見えるようになっていたし、方角とか変わったのかとすぐに抱いた疑問は消えていく。
しばらく窓から見える赤い月を眺めていた私は、思い出したようにうんともすんとも言わないスマホへ視線を落とす。
「……結局、少年は来れなかったか」
誘ったのが遅すぎたせいだよね? と少々後向きな不安を抱きつつ、スマホの画面を見る。
そこには私の送った『今夜お月見するんだけどよければどうですか?』というメッセージが既読になって残されている。
「満月の夜は事故とか増えるっていうし、少年は忙しくて当然か」
人間にも影響があるぐらいだからモンスターや野生動物も大暴れしているんだろう。
そう考えると「お月見しよーぜ」とか言ってた私、空気読めない奴では?
それにそんな危険かもしれない日の夜に外でお月見してる私って……。
「今さらながら、私の行動かなり迂闊だった……?」
声に出してみたがもちろん答える声がある訳も──、
「……大丈夫、私がずっと見ていた」
答えありました。
窓の外の屋根の上から。
しかも潔いストーカー宣言と共に。
こういう時に現れるとしたら、何となくゆるいお兄さんかもと心の隅でちょこっと思ってましたが、まさかの美人さん登場しちゃったよ。
「そ、そうでしたか、ありがとうございました」
さすがにガラス越しでの会話は失礼かと慌てて窓を開けてお礼を伝えると、美人さんの髪と着物を揺らしてふわりと夜風が室内へ吹き込んでくる。
その風に乗って、夜の匂いと美人さんの匂い、それとどこか鉄錆びた匂いがした。
微かに匂う血のような香りが気になり、視線を外の方へとさ迷わせていると、それを遮るように美人さんが上体を曲げてずいっと顔を近づけてくる。
「……楽しそうだった」
顔面凶器ってこういう人の事を言ってるんだっけと軽い現実逃避をしていたが、無表情ながら少し寂しげに見える美人さんに思わず、
「よろしければ今度はご一緒にどうですか?」
という台詞が口から転がり出していた。
あと、美人さんが一緒なら満月の夜だろうと安全かもという、ちょっとした計算もしちゃっていた。
腹黒いかもだけど、美人さんがいる安心感はパないからね。
「……ん」
コクリと頷いた美人さんはほんのり微笑んでくれたので、正解だったようだ。
その後、私の額に軽く唇で触れた美人さんは、まるで平らな地面を歩くようにスタスタと屋根の上を歩き出し、屋根の端でパッとその姿を消してしまった。
飛び降りたというか、どう見てもストンと重力任せで落下する形で。
一瞬「落ちたっ!?」とギョッとしたが、そもそも簡単にここへ姿を現した相手なんだから問題ないかと気付く。
次回のお月見には美人さん用に卵系の料理を作っておこう。
そんな楽しい予定を立てながら、私はもう一度欠伸をして寝室へと向かう。
背中を向けた開け放たれたままの窓からは、赤い月が覗いている。
微かに香った血のような香りは記憶の隅にも残らず、背中を向けた私には見えていないけれど。
──次の日の朝。
窓を閉め忘れた事をてまりさんから盛大に叱られる私がいた。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)
ほけほけ主人公の周りは、特に大きな事件はなく赤い月の夜終わりました。
次の話は裏側となります(。>﹏<。)




