お月見しよう
お月見は11月ではありません。
●11月□日
今日は朝からいい天気だ。
朝のニュース番組を眺めつつ、卵かけご飯と味噌汁というシンプルな朝ご飯を食べる。
てまりさんはあまり食事を必要としないみたいだけど、味噌汁を飲みたがったので私と並んで美味しそうに飲んでいる。
本日の味噌汁の具は豆腐とわかめ。豆腐が期限切れそうになってたから、豆腐多めだ。
元の世界でもほぼ毎朝見ていたわんこを紹介するコーナーをぼんやり眺めていた私は、続いて始まったお天気コーナーの話題を聞いて視線を外へと向ける。
今現在、窓の外には秋晴れの青い空が広がっており、この天気は夜まで続くそうだ。
見た事のないお天気お姉さんが、こちらも見た事のないゆるキャラと「綺麗な月が見えるのでごちゅう……」「夜の外出はひかえ……」みたいな掛け合いをしているのを何ともなし聞き流し、ふとある事を思いついてしまった。
「……今日の夜は綺麗な月が見えるのか」
こんな話題を聞いちゃったなら、お月見するしかないよね。……暦的には十五夜じゃないけど。
ちなみに今日のお犬様は、猫の尻に敷かれているケルベロスくん。
失礼ながら、不憫可愛かった。
日課になっている家庭菜園の手入れ……ほぼ庭の散歩と収穫しかしていない……を終えた私は、家庭菜園へレジャーシートを敷いて一人でまったりと日向ぼっこタイムへ突入だ。
面倒な作業は家庭菜園自身がやってしまってるのであまり私の出番がなくて寂しいが、張り切っているであろう家庭菜園に対して、やるなとは言い難い。
この寛ぐスペースも、私が座りやすいようにしてくれたのか小石やデコボコが全くない。
家庭菜園がスパゲティ……じゃなくて、スパ……なんとか化してる気がするんだけど。
特に迷惑を被っている訳ではないし助かるばかりなのだから、感謝だけは忘れずにいればいいのではないかという結論に落ち着いた。
その後、ふと「張り切る家庭菜園ってなんだろう……」という疑問が湧きそうになったのを、麦茶で流し込んで腹の奥へと押し込んでおいた。
そこへちょうど黒猫さんがやって来たので、遠慮なく撫で回させてもらう。
まったりと猫の親和性は高いと思う。
「こうしてじっくり見ると、やっぱり黒猫さんって大きいかも?」
私の伸ばした足にだらんと体を伸ばして上体を乗せている黒猫さん。
足にかかる幸せな重みを感じながら、体を伸ばしている黒猫さんへ話しかけた。
脳裏に浮かんでいたのは、今朝テレビで見たケロベロスくんをお尻の下に敷いていた普通サイズの猫である。
見下ろした先にいるのは機嫌良さそうにピンッと立てた二又の尻尾をゆらりと揺らす黒猫さん。
「んにゃん?」
「ちょっと大きめなところも可愛いよ」
大きいの嫌? と言われた気がしたので、しっかりと否定しておく。
可愛いは体のサイズには影響されないのだよ。
もちろん「ちっちゃくて可愛い〜!」という感じの可愛いもある。
異論は認めよう。
誰かと討論する事はないから必要ない宣言か。
私、友達ほぼいないし、ネットとか書き込まないし。
そもそもこちらへ転移しちゃったから数少ない友達向こうだし。
なんだか脳内が悲しい方向へ流れかけたので、黒猫さんのサラサラツヤツヤな毛並みに顔を埋めさせてもらい、猫吸いをして癒しをいただく。
「にゃ」
「んー、日だまりの匂いがするねぇ」
「んにゃにゃにゃぁ」
「私も何か匂いがする?」
なんかまたフレーメン反応されて、そんな感じの事を言われてる、たぶん。
そして、原因はわかってるんだよ、今回に関してだけは。
あれだけ匂いを確認して、無表情でドヤッとして帰って行かれましたからねぇ、美人さん。
私から匂っているであろう美人さんの匂いというのが残念ながら私にはわからないのだ。
でも、美人さんと近づいた時に、清涼な水っぽい匂いがするから……あの匂いがするんだろうか。
その匂いだったら、好きな匂いだから全然嬉しいよね。
十分ほど猫吸いを堪能させてもらった後、ふと思いついてしまった事があったので黒猫さんに訊ねてみる。
「美人さんの服に顔を埋めて匂いを嗅いでみたら怒られるかな?」と。
黒猫さんは…………ちょっと呆れた顔をして「にゃん」とだけ答えて、ピンッ立てた尻尾を揺らして去って行ってしまった。
「されてもお怒りにはなりませんよ。お喜びになるのでは?」
黒猫さんを見送っていると、笑いを堪えるような声で黒猫さんの代わりに答えを紡ぐ声が背後から聞こえ、ビクッと肩を揺らしてしまう。
驚く必要もない聞き覚えのある声だったが、冗談に思わぬ答えがあったせいで驚いてしまったのだ。
恐る恐る振り返ると、そこには予想通り穏やかな微笑みを浮かべたカッパくん……より少し上背のあるきゅうさんの姿。
きゅうさんの手には先日味玉が入っていたタッパー容器がある。
それを見て、もう味玉なくなったんだなと脳内で驚く私もいたが、それ以上の羞恥が私を襲っている。
「……きゅうさん、いつから聞いてたの?」
少し声を上ずらせた私の問いに、きゅうさんは穏やかな微笑みを浮かべたまま、チラリと黒猫さんの消えた方へと視線を向ける。
「あなたがあの猫又に顔を埋めていたあたりから、ですかね」
「……声かけて欲しかったなぁ」
黒猫さんはこちらの言葉を理解はしてくれているが、返事は猫語なので気兼ねなくいけるが、こうしてすらすらと話すきゅうさん相手だとなんか勝手が違うのだ。
こちとらコミュ力弱めなんだから、手加減して欲しい。
「とても幸せそうに埋まってらしたので」
「……日だまりの匂いがするもふもふには、抗い難い魅力が溢れてるんだよ?」
ふふっと微笑ましげな顔でこちらを見てくるきゅうさんに、もふもふの魅力を布教して照れ臭さを誤魔化しておく。
「…………もふもふ、ですか」
きゅうさんが思いの外真剣に悩み出したのは、少し予想外だった。
カッパはもふもふ成分ないから、落ち込ませちゃったのか。
だとしたら申し訳ない。
「カッパのしっとりツルツル感も素敵だと思うから」
とりあえず、そうフォローだけはしておいた。
実際、私は爬虫類や両生類も好きだから嘘ではない。
──カッパが何に分類されるかは知らないが。
きゅうさんが帰った後、早速てまりさんとお月見の準備を始める。
「まぁ、準備するって言っても、せいぜいお月見団子作るぐらいかな」
私の言葉を聞いたてまりさんが、パァッと笑顔になって足に抱きついてくる。
その可愛らしいリアクションに私も笑顔になって、てまりさんの頭を撫でる。
「てまりさん、手伝ってくれる?」
迷う様子もなく、すかさずたしっと挙げられる小さな右手。
「ありがとう、じゃあたくさん作っちゃおう」
やる気に溢れるてまりさんの様子に頬を緩めながら、私も気合を入れて材料の用意に入る。
カッパくん達が来てくれるかはわからないが、きゅうさんにお月見をする事は伝えておいたので、多めに作っておこう。
余ったら冷凍すればいいから遠慮なくどんどん作ろうと思う。
お餅好きなんで、白玉粉も常備してるんだよね、私。
どうせならただの白い団子ではなく、月を思わせる黄色い団子にしたい。
なので売るほどにあるサツマイモとカボチャをガンガン入れて団子にしようと、家庭菜園の隅にある小屋へ向かう。
「…………お月見するのに団子を作るけど、カボチャもサツマイモも足りてるから、追加はいらないので」
通り過ぎる際、なんとなく嫌な予感がした私は、独り言にしては大きすぎる声量ではっきりと宣言しておく。
視界の端の畝で残念そうに緑色がもさもさと揺れていたのは、きっと私の気のせいだろう。
こうして始まったお月見団子作り。
まずは白玉粉の生地に潰したサツマイモやカボチャを練り込んでいくのだが……。
ここで均等に混ぜてしっかり練らないと白玉団子の出来上がりが粉っぽくなる可能性がある。
てまりさんの小さな可愛い手には少し荷が重いので、てまりさんにはお団子を丸める作業をお願いしてしばらく待機してもらう。
生地がいい感じに出来た後、小さな手で頑張って団子を丸めるてまりさんは可愛かった。
私の作った見本と同じサイズにならず、ちょっと凹んだ姿も可愛かった。
出来上がった団子を味見して笑顔になった姿も──以下略。
可愛いを堪能し過ぎて、もうお月見しなくてもいいかなと思ってしまったのは、ニコニコ顔でお月見を楽しみにしているてまりさんには冗談でも言えなかった。
あと、ちらりと見えた家庭菜園だが、やたらと気合の入った整地をされている気がする。
これは絶対「お月見中止します!」とか言えないプレッシャーを感じるやつだ。
てまりさんが楽しみにしてるから言わないけどね。もちろん、私も楽しみにしているよ。
夜になって雨が降るなんて展開も、美人さんという味方がこちら側にいるので起きないだろうという確信もある。
私はひっそりと笑いながらお月見の準備を進めるのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)
本来の季節に入れ損ねたお月見イベント、ここで回収しちゃいました(*ノω・*)テヘ




