謝罪は大事
おはようございます。
このままでは夏になる頃に冬編になるなぁと思いながら、秋を深めて参ります。
●11月△日
先日美人さんからお借りした着物を寝ている間に紛失してしまった私は、スーパーへお高い卵を買いに来ていた。
もちろん紛失した事は隠したりせず、即行で連絡して本人へ謝罪済みではある。
その際、心の広い美人さんは全く気にしていない様子で微笑んで許してくれた上、何故か満足げな様子で私の頭を撫でていたが、やはり私としては申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
それに伴い、物で誤魔化せるような事ではないが、少しでも謝罪の気持ちを表したかったのだ。
ネットで調べたらおそろしい値段の物がゴロゴロあったが、現物が来るまでに少々時間がかかるので結局スーパーで買う事にした。
その結果、今のスーパーは侮れないと事を私は知った。
なんと、この間買ったちょっと高い卵よりさらに高い卵があって、それは一パックで千円を越え、比喩ではなく目が飛び出るかと思ってしまった。
そのお高い卵を少し迷ってから二パックカートへ入れて足早に卵売り場から離れる。
急いで離れないとおそろしい値段の卵を戻したくなってしまうからだ。
多少お財布に余裕は出来たけれど、さすがにぽんぽん千円越えの卵を買う勇気は小市民な私にはない。
あとはこれを全て味玉へと作り変え、美人さんへと謝罪と感謝を込めて送るだけだ。
美人さんは生も好きらしいが、最近の一番は味玉らしいし、私が作った物を気に入ってもらえてるのは嬉しい。
そんな気持ちが洩れて口元が緩んでしまっていたのか、
「……卵パーティーでもするんですか?」
と聞き覚えのある声から笑みを含んだ感じの声音で話しかけられてしまった。
「やぁ、少年。これは謝罪の品なんだ」
私のカートの中を不思議そうに見ている少年に苦笑いしながらそう簡単に説明しておく。
さすがに「とあるあやかしさんからお借りした物を無くしたので……」とかは言ってはいけないヤツだろう。それぐらいは私でもわかる。
「卵がお好きな方なんですか」
「うん、そうなんだ」
下手に会話を続けると余計な事まで喋る自信がある私は、簡潔な相槌だけで返答を終わらせておく。
いい子な少年はそれ以上追及して来る事もなく、卵が好きな謝罪相手の話題はそこで終わった。
そのまま嬉しそうに笑っている少年と並んで店内を回って買い物を続ける。
ハロウィンにしていた仕事内容を話してくれる少年は無邪気な子犬のようで可愛いが、その内容は結構バイオレンスだ。
そして、どうやらあの無謀な動画配信者は残念な姿で発見されていた模様。
まさかニュースで濁していた部分を知人から知らされるとは思わなかったよ。
同時に、私はゆるいお兄さんからまた助けてもらったんだという事を改めて実感してしまう。
迷惑系動画配信者と私の生死を分けたのは、どう考えてもゆるいお兄さんの存在だ。
彼がいなければ私はほぼ百鬼夜行なお祭り騒ぎとかち合い──恐ろしくなったのでこれ以上想像するのは止めておこう。
「君の上司にもきちんとお礼をすべきかな」
想像するのは止めたが、ついそんな事を呟いてしまう。
しかし、命を助けてもらって炭酸飲料とか揚げた鶏とかいなり寿司では釣り合わないだろう。
ゆるいお兄さんは卵という訳にはいかないだろうし。
少年ならゆるいお兄さんの好みがわかるかと見やると、首を傾げられてしまう。
「え? 隊長にですか? 何かありましたか?」
「何度か命を助けてもらったから、みたいな?」
不思議そうに私を見た少年に説明すると、困ったような笑顔で、
「あぁ……たぶん隊長は受け取らないと思います。助けた相手などから金品を受け取るのは規則で禁じられていますし」
とわかりやすい説明をしてくれた。
「そういえば、前もそんな事言われたかも。じゃあ、感謝だけたくさんしておこうかな。この間も助けられちゃったし……」
つい付け足した一言は、もちろん先日のハロウィンの一件を思い出してのものだ。
ゆるいお兄さんが来てくれなかったら、確実に私はあの動画配信者の二の舞になっていただろう。
一人で納得してうんうんと頷いていたのだが、私の呟きを聞いた少年の顔色が変わる。
「この間……って、まさか、ハロウィンに外へ出たんですか!? いくら、あなたがあの存在に……」
私の呟きを聞いて声を荒げた少年は、途中でハッとした様子で自らの口を手で覆い、きょろきょろと周囲を見渡す。
そうだよね、少年はいい子だからこんな所で大声出しちゃったって、気にするよねぇ。
可愛らしい少年の反応を見てほけほけとしていた私は、自分が大声の原因だとしばらく気付かず、無言で見つめてくる少年の困り顔でやっとそれに思い至る。
「あー……えぇと、あの、とても反省してマス」
私はバツの悪さから視線を外しながら謝罪を口にして、誤魔化すようにポリポリと頬を掻く。片言になってしまったのはふざけた訳ではなく申し訳なさからだ。
「……無事で良かったです」
瞬き三つ分程の間私をなんとも言えない表情で見つめてきた少年は、吐息と共にそれだけを口にしてから表情を緩め、あからさまな安堵を滲ませてふわりと微笑む。
その変化を見た私はさらに申し訳なくなってしまい、五体投地で謝罪をしようとして少年に全力で止められた。
確かにスーパーの店内でするには向かない謝罪方法だったとここで反省しておく。
●11月▲日
謝罪の品を買いに行ったスーパーで少年と遭遇し、心配かけてしまったので五体投地しようして止められたりしたが、最終的に「今度お茶でも」という話で終わった。
さすが少年。いつの間にか自然な流れで連絡先を交換して、お茶する事になってたよ。
コミュ力高い少年を思い出して口元を緩めていると、てまりさんから不思議そうに首を傾げられてしまう。
「なんでもないよ、思い出し笑いだから」
てまりさんの頭をぽんぽんと軽く撫でた私は、冷蔵庫から完成した味玉の入っているタッパー容器を取り出す。
二パック買ってきた卵は全て茹で、味玉を数種類仕込んである。
その際のやり取りを思い出すとついつい頬が緩んでしまう。
二十個のゆで卵の殻剥きは大変だったので、てまりさんとカッパくんにも手伝ってもらったのだ。
でも全部剥いてもらった後に、二十個あった卵が十八個になっていたのはなんでだろうねぇ。
ほっぺたを膨らませてモグモグしている悪戯っ子二人はとても可愛かったが、喉を詰まらせそうで怖かったのでそっと麦茶を出しておく。
「つまみ食いは美味しかったかな、悪戯っ子さん達?」
ゆで卵を食べ終えた二人へ声をかけて頭を撫でると、揃って「えへへ」という擬音が聞こえそうな笑顔を見せてくれて、萌え殺されるかと思った私がいる。
「食べたいって言ってくれればいくらでもあげたのに…………あー、つまみ食いしてみたかったか」
二人の頭を撫でながら独り言めいた呟きを洩らした私だったが、私の顔を見上げる二人のキラキラとした表情で色々納得してしまい、苦笑いするしかない。
「つまみ食いって、なんか美味しいから仕方ないか」
「きゅわわ」
私の言葉に元気良く返事をするカッパくん、隣ではてまりさんも同意を示して無言で大きく頷いている。
「うちでは少しぐらいつまみ食いしても構わないけど、他所じゃしちゃいけないよ? 君達が悪い子扱いされたら、私泣いちゃうから。それと、食べちゃ駄目って言われたものは、つまみ食い禁止。約束出来るかな?」
全面的につまみ食いを禁止にしようかとも思ったが、見上げてくる二人の可愛さに負けて思わず譲歩してしまった。
「きゅわっ!」
揃ってびしっと元気良く挙手するいい子な二人と順番に指切りをした。
そんな一連のやり取りを思い出したせいでさらに緩んだ頬。
二人が可愛すぎるのが悪い。
さらに不思議そうな表情になったてまりさんの頭をもう一度撫で、味玉入りのタッパー容器を重ねてビニール袋に入れておく。
あとはカッパくんかきゅうさんに渡して、美人さんの元へ届けてもらえばいいだろう、そう思っていたのだけど……。
「…………来た」
まさかの本人が取りに来てしまったようだ。
謝罪の品なのにいいのだろうかと微妙な空気で見つめ合っていると、
「きゅわわ!」
と不意に元気の良い声が響いて、微妙だった空気を吹き飛ばしてくれる。
声の主は当然というかカッパくんで、勝手口の前でポツンとしている美人さんの背後からバァッと顔を覗かせ、パタパタと中へ入って来る。
そんなカッパくんに置いてきぼりにされた美人さんはというと、こちらは勝手口の前でポツンと佇んだまま動こうとしない。
何度かの来訪で気付いていたが、どうやら美人さんは私が招く言葉を口にしないと家の中へ入らないらしい。
とっくの昔に入って来ててまりさんとキャッキャウフフしているカッパくんが視界の端に見えているので、美人さん律儀だなぁと思いながら私は、
「どうぞ」
と笑みを浮かべて招く言葉を口にする。
「……お邪魔する」
やはり私の許可待ちだったようで、すぐに草履からスリッパへ変わるというファンタジーな足元変化を披露して挨拶と共に入って来る美人さん。
やはり着流し姿の美人さんは美人過ぎて、うちのキッチンには不似合いで少しおかしい。
そんな事を考えながら、私はお詫びの品を美人さんへ説明付きで手渡したのだけど……。
味玉を喜んでもらえたのは良かった。でも、なにゆえ受け取る際、顔を近づけて来て私の匂いを確認して満足そうなんでしょうか。
「きゅわぁ」
訳知り顔で頷いているカッパくんは可愛いけど、たぶんわかってない。そこがさらに可愛い。
てまりさんはというと、美人さんを見ながら大人びた仕草で肩を竦めてる。
てまりさんは何かわかってそうなリアクションだけども、そんな仕草もギャップがあって可愛い。
私の匂いをくんかくんかしている美人さんに関しては…………深く考えても仕方ないので、ひとまず笑って流しておく事にした。
◉11月某日
あちこちにナニかが暴れたような痕跡が残る森の中にあったのは、揃いの衣装をまとった複数の人間の姿だ。
血の臭いと死の臭いが漂う中、ブルーシートで覆われたナニかが運ばれていくのを面倒臭そうに見守る青年。
そこへ場違いなほどのキラキラとした笑顔で駆け寄っていくのは、子犬を思わせる雰囲気の少年だ。
二言三言言葉を交わした後、少年は周囲から自分達以外がいなくなったタイミングで表情を引き締め、恐る恐るといった風に口を開く。
「隊長、そういえばあの方とスーパーでお会いしたんですが……」
少年から隊長と呼ばれた青年は、ゆるく笑っているように見える表情をつくって少年へと顔を向ける。
「そう」
彼をゆるいお兄さんと呼ぶ人物が見たら、また「ゆるくない!」と内心でツッコミそうな返答だが、少年は慣れているのか気にした様子もなく話しかけ続ける。
「ハロウィンの際、隊長に助けられたと感謝されてました。……で、隊長、あの方へ何かされたんですか?」
「どうしてそう思うの?」
「近寄るだけで怖気が立つ程にかの存在の気配が強まってたんですが?」
少年の問いに青年は肩を竦めて苦笑いして首を横に振る。
「……んー、それは俺のせいじゃないから。あの女狐が、ちょっかいをかけたせいだよ」
「あぁ……それで……。かの存在はどういうつもりで……」
「さぁ」
少年の問いを一言ではぐらかした青年は、相変わらずゆるく笑って見える表情で視線を遠くへさ迷わせる。
笑顔のはずなのに、遠くを見やる目は全く笑っているようには見えなかった。
そんなやり取りが聞こえた訳ではないだろうが、とある家の中で盛大なくしゃみが響き渡って、小さな同居人を心配させる一幕があったりした事は、お互い知る由もなかった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)
主人公がシリアスになれない分、主人公が知らない所でちょっとシリアス。
でも、主人公は気付かず、ほけほけ(笑)
たぶん知っても、へぇ〜で流してほけほけしている、そんな相変わらずな主人公です。




