パナマ運河侵攻
1941年11月3日午前10時
パナマ共和国パナマ運河
パナマ共和国はアメリカ合衆国の不当圧力により『パナマ運河周辺の土地をアメリカ合衆国に永久的に割譲する』と明記された憲法を有していた。しかしそれも1935年のデトロイトへの武力制裁を受け、『パナマ共和国解放決議』が国連安保理と総会で採択。これによりパナマ共和国は国連の名の下に憲法を改正。パナマ運河はアメリカ合衆国からパナマ共和国の物となった。この措置によりアメリカ合衆国は両洋艦隊として運用していた太平洋艦隊と大西洋艦隊を分離して運用する事となった。東海岸と西海岸で造船所は独立して建造するしかなくなった。
パナマ運河防衛司令部2階司令官室
「中佐、戦争はどうなるんでしょう?」
「どうなるかは分からないわ。」
陸軍パナマ運河防衛隊司令官カリーナ中佐はそう言うと、葉巻に火を着けた。副官のネルス大尉は灰皿を持ってきた。
「太平洋では大日本帝國がアメリカ合衆国と睨み合いを続けてるわ。欧州戦線とロシア戦線は枢軸国側優位。政府は連合国寄りの中立を宣言しているけど、国内では枢軸国側につくように求めるデモが頻発しているわ。」
「けど政府は絶対に枢軸国側につかない。」
「その通り。パナマ運河が祖国に還って来たのは国連決議のおかげ。枢軸国側につくと言う事は、アメリカ合衆国に味方する事になるわ。あの国とは二度と関わらない事を政府は決めてる。そして何より枢軸国側につくと、その解放決議を積極的に推進した大日本帝國を裏切る事になるの。」
「確かに大日本帝國を裏切る事になりますね。」
ネルス大尉はそう言うと大きく頷いた。
「そう。けど残念ながら祖国にアメリカ合衆国と戦争出来るだけの軍事力は無いわ。だから連合国寄りの中立を宣言したの。これを大日本帝國以下連合国側は承諾したわ。その為、国民がいかにデモをしても政府は連合国寄りの中立を変えないわ。」
「仕方ないですね。」
「?」
ネルス大尉の言葉にカリーナ中佐は首を傾げた。それを尻目にネルス大尉はホルスターから拳銃を取り出し、カリーナ中佐に銃口を向けた。
「!?大尉!!血迷ったか!!」
「威勢が良いですね、中佐。まあそれも今のうちです。」
「裏切るのね?」
「裏切る?私達は最善の判断をしたまでです。」
「最善の判断ですって?連合国を、大日本帝國を裏切る事が最善の判断と思うの!!」
カリーナ中佐は机を強く叩いて立ち上がった。それを見てネルス大尉は溜め息を吐いた。
「これだから年寄りは。」
パァン!!
「クッ……」
ネルス大尉はカリーナ中佐の右肩を撃ち抜いた。
「貴女は表舞台から退いてもらいます。」
「殺すの?」
「フフフ。さぁ、どうでしょう?」
「けど、たかがパナマ運河防衛隊の司令官を殺してどうするの?直ぐに陸軍本隊が奪還に来るわよ?」
「首都のパナマを忘れると?」
「!?もしかして!!」
「同志が既に全土で、クーデターを開始しています。」
「成る程。計画的なのね。」
「ありがとうございます。」
「さぁ、殺りなさい。」
カリーナ中佐は堂々と言い切った。それを受け、ネルス大尉はカリーナ中佐の眉間を撃ち抜いた。
「中佐、お疲れ様でした。」
ネルス大尉はカリーナ中佐の亡骸に敬礼をした。その時、司令部が大きく揺れた。
「なに!?」
慌てて窓際に駆け寄ったネルス大尉は、驚きの光景を目の当たりにした。
「密約はどうしたの!!何でアメリカが攻撃しているのよ!!」
ネルス大尉は思わず叫んだ。基地上空には白い星の識別表を取っ付けた航空機が縦横無尽に飛び回っていた。
「まさか、もう一度占領する気なの?」
かつてパナマ運河を支配しておりそれを叩き出されたアメリカ合衆国が再び取り戻そうとするのは予想出来た。ネルス大尉の言ったようにアメリカ合衆国とパナマ共和国は密約を結んでいた。正確にはパナマ軍とアメリカ合衆国との密約である。パナマ軍がクーデターを起こしアメリカ合衆国と枢軸国側にパナマ運河の優先通行権を与えるとの事であった。しかし今の状況は由々しき事態である。密約をアメリカ合衆国自身が破棄し、再び明確にパナマ運河を占領するべく軍事行動をとっていた。
「アメリカ!!許さないわ!!」
その瞬間、司令部に爆弾が命中。ネルス大尉は司令部の瓦礫の山に巻き込まれた。
1941年11月7日午前10時
大日本帝國帝都大阪都帝国ホテル6階大会議室
パナマ運河がアメリカ合衆国に占領されてから4日後。大日本帝國で連合国首脳会議が開かれた。欧州側の連合国は現在の状況で大日本帝國にまで来るのは不可能の為、駐日大使が代理として出席。中華連邦・満州帝國・タイ王国・神聖ロシア帝國は首脳が来日した。オスマン帝國はギリギリ首脳が参加出来た。
「それでは第32回連合国首脳会議を始めます。」
議長の東久邇宮総理が宣言した。
「今回はある憲章を採択したいと思います。資料をご覧下さい。」
東久邇宮総理の言葉に出席者は資料に目を落とした。
「この憲章、便宜上『太平洋憲章』としますがこれを連合国全てが等しく受諾する事により、枢軸国側との違いを明確にしたいと思います。」
東久邇宮総理が言った『太平洋憲章』は要約すれば以下の通りになる。
『太平洋憲章
第1項・大日本帝國以下連合国各国の領土拡大意図の否定
第2項・領土変更に於ける関係国の国民の意志の尊重
第3項・植民地支配の否定
第4項・自由貿易の拡大
第5項・経済協力の発展
第6項・労働基準及び経済的向上並びに社会保障の確保
第7項・航海の自由の確保
第8項・一般的安全保障の為の仕組みの確保
第9項・人種間に於ける差別の禁止
第10項・恒久平和の追求
第11項・新国際機関の創設
第12項・常設国際軍の編制』
以上が内容になる。
「議長、一言宜しいでしょうか?」
一同が未だ資料に目を通している中、サッチャー大英帝国駐日大使が手を上げた。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
サッチャー大使は礼を言うと立ち上がった。
「先程御提案がありました太平洋憲章でありますが、大英帝国は概ね賛同するものであります。ですが3項については反対するしかありません。これは我が大英帝国の経済力を大きく低下させる事になります。オランダ王国やポルトガル帝國等も反対かと思いますが、以下がでしょうか?」
サッチャー大使の問いにオランダ王国とポルトガル帝國の大使は大きく頷いた。
「この第3項について議長に御尋ねします。」
「分かりました。」
東久邇宮総理がサッチャー大使の言葉を受け、話始めた。
「現在枢軸国側は他国に侵攻し領土拡大を一心に目指しています。拡大した領土は植民地以下の扱いで不当なる搾取を行っています。それを連合国として断じて許さない事を決定します。その中でその不当侵攻を受けた地域を解放するにあたり、連合国に植民地を有する国がいてはいけないのです。そこで世界に冠たる植民地帝國である大英帝国以下、オランダ王国とポルトガル帝國には植民地の解放・独立をお願いしたい次第であります。冷静に考えて植民地経営は不採算極まりない事です。我が国のように植民地では無く、自国領土の正常な拡大として行うならそれは良い事です。ですが植民地として不当搾取を続けるならその地域の独立運動が高まり、治安維持の為に更なる費用が必要になるのです。それなら独立させて自由貿易を行えば大局的に見れば有益なのです。その事を早く気付くべきです。」
「成る程。植民地では無く、独立させ自由貿易を行う。確かにその方が有益ですね。我が国も独立運動には悩まされていますから。」
東久邇宮総理の言葉にエミネムオランダ王国駐日大使が頷きながら答えた。
「その通りであります。枢軸国側と明確な違いを見せる事により、連合国の意思と目的を世界中に宣言出来るのであります。」
東久邇宮総理の言葉に、会場は拍手に包まれた。サッチャー大使は決断を下すときだと悟った。
2日後、連合国首脳会議は太平洋憲章を正式に可決した。




