鹵獲戦車T-34
同時刻
西海道平壌帝國自動車本社工場大型倉庫
ここに帝國自動車幹部と国防総省陸軍庁・陸軍参謀本部の幹部、そして東京帝國大学教授が集結した。集まった理由はイガルカに於ける陸戦でT-34を鹵獲したからである。自走砲部隊の砲撃により無限軌道を破壊された所に九七式が集中攻撃を行い、歩兵部隊が車体を確保した。そのT-34は神聖ロシア帝国のシベリア鉄道・満州帝国国有鉄道、そして大日本帝國国有鉄道朝鮮線を経て平壌の帝國自動車本社工場へ運ばれた。
「大した戦車ね。これは九七式では勝負にならないわ。」
国防総省陸軍庁兵器局局長杉原高恵少将は呟いた。T-34に呆気にとられていた帝國自動車社長ヘックスフォード女史も漸く口を開いた。
「主砲も77ミリはあります。これは明らかに勝負にならないでしょう。中佐、戦いはどうでした?」
今年77歳になるフォード社長だが、まだまだ元気一杯であった。日本語も完璧で今では英語が喋られない程である。何せ大卒で入社した新人より、日本に住んでる期間は長いのである。日本人よりもはや日本人である。
フォード社長に聞かれ、坂上中佐が話始めた。坂上中佐は鹵獲T-34の護衛と実戦報告を兼ねて帝國自動車にやって来た。
「正直に言って勝負になりません。正面はこちらが750メートルに近付かないと撃破出来ないのですが、敵は1200メートルでも余裕でこちらを撃破していました。側面はまさに絶望的です。1800メートルでこちらは撃破されました。一刻も早く新型戦車を開発して欲しいです。」
「確かにそれは勝負にならないわ。」
フォード社長は坂上中佐の言葉に唸った。
「皆さん、この傾斜気になりませんか?」
参考人として呼ばれた東京帝國大学梅田友紀教授がT-34の傾斜装甲を指差して口を開いた。それには帝國自動車副社長内野有里子も頷いた。
「確かに私も気になってました。教授、あれはどういった事ですか?」
「…………ちょっと待って下さい。」
梅田教授はそう言うとT-34に近付き、装甲に触った。そして色々な方向から装甲を見ると、1人頷くと懐から紙と鉛筆を取り出して何やら計算を始めた。それを他の者は黙って見ているしか無かった。
数分後、梅田教授は笑顔を見せた。
「皆さん、分かりましたよ。」
「何ですか?」
「この傾斜をつける事が、装甲の厚みを増すのです。」
「?」
梅田教授の言葉に、一同は意味が全く分からなかった。代表して菊野那奈国防総省陸軍庁整備局局長が質問した。
「厚みが増すとはどういう事ですか?」
「たかだか45ミリの装甲でも55度の角度を付ける事で、直立した75ミリの装甲と同等になるのです。つまりは45ミリの装甲は直立させているば45ミリの装甲です。しかし55度の角度を付ければ45ミリの装甲の直線距離で長い所をはかれば75ミリ厚になるのです。この傾斜装甲であるば45ミリの装甲で実質75ミリですから、最初から75ミリ装甲よりも軽量化出来ます。」
「成る程。」
フォード社長は驚きの声をあげた。
「社長、残念ですが現在開発中の一式中戦車は開発中止ですね。」
「そうですね。これ程の戦車を見せられると一式中戦車は流産させるしか無いですね。教授の言われた傾斜装甲を採用して次々期中戦車である三式中戦車を早期に開発します。」
杉原局長の言葉にフォード社長は当然のように答えた。それに菊野局長が食い付いた。
「しかし一式中戦車は車体は完成していました。それを利用しない手は?」
「自走砲にでも流用します。新型戦車は重武装重装甲にしますので。」
フォード社長はそう言い切った。
「とにかく新型戦車をお願いします。そうして貰わないと、私達はまともに戦えません。」
坂上中佐はそう懇願した。
同時刻
フィリピンマニラ湾
第1艦隊旗艦超々弩級戦艦大和艦橋
「もっと撃ちなさい!!撃って撃って、アメ公を殺すのよ!!」
興奮しながら凄まじい事を言っているのは、第1艦隊司令官上戸紗耶香中将である。『猛牛紗耶香』と呼ばれる上戸司令官は、大日本帝國海軍一の猛将であった。現在第1艦隊はコレヒドール要塞に向け、総攻撃を行っていた。第1艦隊には大和級4隻が配備されており、51センチ砲の砲撃はコレヒドール要塞を土台から叩き壊した。第8艦隊の金剛級4隻の48センチ砲もコレヒドール要塞を叩き潰していた。高空には空軍の八式重爆撃機と九九式重爆撃機が爆撃を行っており、両艦隊の空母から飛び立った航空部隊も攻撃を行っていた。その支援により騎兵隊は強襲揚陸艦から大発・小発に乗り上陸作戦を行っていた。後続の輸送船団には陸軍部隊が乗り込み騎兵隊が上陸地点を確保し次第、上陸を開始する手筈である。まさに陸海空騎兵の総攻撃であった。
「司令官、落ち着いて下さい。そんな事を言わなくても大丈夫ですよ。」
参謀長の天海仁美少将が上戸司令官に言った。
「戦争だってのに、私は要塞への艦砲射撃よ?知香恵は南太平洋に艦隊を攻撃しに行ったのよ?」
「大丈夫ですよ。司令官は必ずや必用となられるお方です。今は騎兵隊の支援が作戦上大事な事です。」
天海参謀長は上戸司令官を慰めた。しかし上戸司令官はまだ納得していない。上戸司令官が言った知香恵とは、第2艦隊司令官の大森知香恵中将である。上戸司令官と大森司令官は従姉妹になる。その為に上戸司令官は大森司令官を知香恵、大森司令官は紗耶姉とそれぞれ呼ぶ。
「それにそろそろ、何かしら通信が…………」
『上陸を果たした第25騎兵師団より通信です。[上陸に成功せり。上陸支援艦砲射撃に感謝す。艦砲射撃は野砲1万門に匹敵するなり。]以上です。』
天海参謀長の呟いたその瞬間、通信室から連絡が入った。それは上陸を果たした第25騎兵師団師団長瀬島依子少将からのお礼通信であった。
「司令官は騎兵隊の守護神的な存在です。戦争が進めば攻略する拠点は増えます。それまで頑張って下さい。」
「そうね。参謀長、ありがとう。」
上戸司令官は天海参謀長に礼を言った。
コレヒドール要塞はその翌日、陥落した。




