第5話 【神匠】鍛冶師は勇者を救い出すことにした
勇者の聖剣をへし折った翌日。
ガルドはいつものように、朝食を片手に新聞を広げていた。
王都の事件や商会の広告、遠方から届いた珍しい素材の情報。鍛冶師にとって新聞は、なかなか有益な情報源なのだ。
そんな何気ない朝のひとときだった。
「……ん?」
ガルドの手が止まった。
新聞の見出しに、見覚えのある少女の顔が大きく掲載されていた。
『勇者シャルロット投獄! 聖剣を破壊し、魔王討伐を偽る!?』
「は?」
思わず声が漏れた。
記事を読み進めるにつれ、ガルドの顔から血の気が引いていく。
勇者シャルロットが王城にて王に魔王討伐の件で謁見。聖剣の破損を理由に魔王討伐の功績を疑われたこと。そして、王命によって投獄されたことが詳細に記されていた。
「な、なんでシャルロットさんが……!?」
ガルドは新聞を握りしめた。
昨日、彼女が持ち込んだ聖剣をへし折ったのは、紛れもなくガルド自身だ。
あのときは呪われた魔剣を処分しただけのつもりだった。
しかし、新聞の記事を読む限り、どうやらあの剣は本当に聖剣だったらしい。
「うわぁ……僕やらかしちゃった……!」
今さらながら、自分のやらかしの重大さに気づく。
もちろん、呪いを見抜き、聖剣をへし折ったことに後悔はない。
実際、それでシャルロットは喜んでくれたのだから。
だが、それが理由でシャルロットが投獄されるのは話が違う。
「僕のせいでシャルロット様が……」
ガルドは頭を抱えた。
記事には、彼女が聖剣を破壊した経緯について一切触れられていない。
シャルロットは【神匠】の鍛冶師であるガルドを庇ってくれたのだろう。
これほどの大事を引き起こした鍛冶師がいると知れれば、王国は目の色を変えて探し始めるはずだ。
シャルロットはそれを良しとしなかった。
平和、平穏が一番と考えているガルドのことを想い、黙っていてくれたに違いない。
「……下手すると、死刑になるかもしれない」
その可能性に思い至った瞬間、ガルドは椅子から立ち上がっていた。
居ても立ってもいられなかった。
自分のせいで勇者が命を落とすなど、絶対にあってはならない。
「僕が、僕が助けなきゃ……!」
しかし、どうすればいい?
相手は王国だ。いくら腕の立つ鍛冶師といえど、真正面から乗り込んでも理由をつけて拘束されてしまいそうだ。
ガルドはしばらく考え込んでいたが、ふと何かを思い出したように顔を上げた。
「……そうだ!」
工房の奥にある物置には、長年放置していた品々が眠っている。
「昔作ったお蔵入り装備が、たくさんあるじゃないか!」
ガルドは勢いよく物置へ駆け込んだ。
そこに並んでいるのは、彼が鍛冶師としての探究心を満たすためだけに作り上げた、試作品の数々だった。
神と悪魔の力を宿した聖魔の剣。
身に着けた者の身体能力を飛躍的に高める魔法の防具。
使用者の存在を消し去る隠形マント。
さらには、空間を跳躍する靴やあらゆる魔法を弾き返す盾まで。
「懐かしいな〜!」
ガルドは次々と装備を手に取っていく。
どれもこれも、完成した当時は自信作だった。
しかし、いざ売りに出そうと考えたところで、ふと我に返ったのだ。
こんなものを一般の冒険者に売ってしまっていいのだろうか、と。
剣を一振りしただけで山が割れ、防具を着ければ竜のブレスすら無傷で耐え、マントを羽織れば誰にも気づかれなくなる。
いくらなんでも、性能が過剰すぎた。
結局、どれもこれもお蔵入りとなり、物置の山の一部となったわけである。
「もう一生使うことはないと思ってたけど、役に立ちそうでよかった!」
ガルドは満面の笑みを浮かべた。
目の前に並ぶ装備は、どれも勇者救出の助けになるだろう。
まあ過剰な力かもしれないが。
大は小を兼ねるとも言うし、問題ないだろう。
なにより恩人を救うためなら、出し惜しみなどしていられなかった。
「よーし! 勇者様をお助けするぞ!」
ガルドは装備を次々と身に着けていく。
聖魔の剣を腰に下げ、魔法の防具を身にまとい、隠形マントを肩に掛ける。
その姿は、もはや一介の鍛冶師とは到底思えない。
どこぞの国の英雄か。
あるいは、魔王を滅ぼすために遣わされた神の使徒か。
そんな規格外の装備を身にまとった男が、工房の扉を勢いよく開いた。
「待っていてください、シャルロット様! 必ず助け出しますから!」
こうして、王都一の鍛冶師【神匠】ガルドが動き出した。




