【第46話】帰還
戦いは、終わった。
誰も、すぐには動かなかった。
崩れた石の間を風が抜け、かすかに埃の匂いが漂う。
レイがゆっくりと剣を下ろした。
「終わったか」
ゼノが周囲を見回す。
「多分な」
短い返答。
しばしの沈黙。
レイが、ぽつりと呟いた。
「……ルナの身体も、取り戻させてやりたかったが」
腕輪が、わずかに光る。
『いいの。このままで』
ルナの声。
レイは続けた。
「腕輪を見つけた時、全部救えるかもしれないと思ったんだがな」
短く息を吐く。
「……結局、大したことはできなかった」
ゼノは何も言わない。
ただ横で立っている。
腕輪の光が、わずかに揺れた。
『いいのよ』
ルナの声は、穏やかだった。
『逃げることだってできたのに、あなたは残った』
一拍。
『それだけで、十分すぎるわ』
レイは目を細めた。
「カイムに頼めば、身体に戻るくらいは何とかなるかもしれんが」
『それでも、いいの』
迷いのない声。
『操られてたとはいえ、やったのは私だもの』
レイは小さく息を吐く。
「……そうか」
ゼノが顎で示す。
「お前に用事があるみたいだぞ」
レイが視線を向ける。
リズが歩いてくる。
無言で近づき──そのまま抱きしめた。
「元気そうじゃない」
静かな声。
一拍。
「よけろっつって、あんたの剣を避けられれば苦労しないのよ!」
膝蹴り。
レイの体がくの字に折れた。
「ここは……天国か?」
倒れたまま、カイルが呟く。
「残念ながら」
すぐ横から声。
ユイだった。
「うわ、でた」
「ひどいですね」
ユイは、くすりと笑う。
「マジで死ぬかと思った」
クレインが肩を回す。
「やれやれですね」
セレナが息をつく。
「やはり現実は厳しいな」
エミルは空を見上げた。
「ここは現実と言えるんでしょうか」
リリィが首をかしげる。
誰も答えない。
だが、その曖昧さが今はちょうどよかった。
「さて」
カイムが手を叩く。
「そろそろ帰りますか」
レンとイユに目を向ける。
「あなたたちは、カイルについて行ったほうがいいですよ」
レンは首を振った。
「いや、エミルたちの方でいい」
あっさりと言い切る。
カイムが眉をひそめる。
「消えても知りませんよ?」
「どっちでも大して変わらないだろ」
レンは肩をすくめた。
「だったら、元の世界のほうがいい」
イユは何も言わず、静かに頷く。
「なあ、ミユキ」
タケル王がぽつりと呟いた。
「なんですか」
「死ねなかったなあ」
ミユキは少しだけ考え──
「この際、我慢して生きたらどうですか」
さらりと言う。
「生きている間は」
タケル王が苦笑する。
「仕方ねえなあ」
それきり、二人は黙った。
「さて」
カイムが振り返る。
「そろそろ本当に行きますよ」
視線がバルドルへ向く。
「あなたは来ないんですか?」
バルドルは静かに首を振った。
「俺はここでいい」
「引きこもりですか」
カイムが肩をすくめる。
「それも悪くないと思いますけどね」
一歩近づく。
「戻れるのは、今回きりだと思いますよ」
バルドルは目を閉じた。
「構わない」
短く言う。
それ以上、何も語らなかった。
光が揺れる。
空間が歪む。
カイルたちの姿が、ゆっくりと薄れていく。
レンとイユは、カイルの隣に立っていた。
「おい、俺」
カイルが言う。
「なんだよ」
「ありがとな。助けてくれて」
「当たり前だろ。俺なんだから」
少しだけ間が空く。
「……そっちも頑張れよ」
「ユイのこと、お願いしますね」
イユが静かに言った。
「わかってるって」
光が強まる。
世界が歪む。
そして──
それぞれが、それぞれの世界へと帰っていった。




