【第45話】遊びの終わり
戦いは、まだ続いていた。
タケル王の刀が唸る。
ミユキが受け流す。
レンが斬り込む。弾かれる。
再び振り下ろされる一撃。
それも、受け流す。
埒が明かない。
だが、タケル王の動きに迷いはない。
その刀が、今度はミユキへと真っ直ぐ振り下ろされる──
が。
「おおっと」
足を滑らせる。そのまま前につんのめる。
「あぶねえあぶねえ」
手をついて体勢を立て直し、何事もなかったかのように刀を構え直した。
ミユキが目を見開く。
「殿……もしかして」
少し距離を取りながら言う。
「洗脳が解けているのでは」
「おお?」
タケル王が自分の手をまじまじと見る。
「言われてみりゃ、そうだな!」
豪快に笑った。
「危うく殺すところだった。ワッハッハ!」
「笑い事じゃないですよ! もう!」
ミユキが呆れて叫ぶ。
その時。
「やっと見つけた。おーい」
間の抜けた声が響く。
振り向くと、カイムが駆けてきていた。
その背後には、巨大な人形。
魔王MKⅡだった。
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イシュタルは怒っていた。
肉体は失った。だが、意識が消えることはない。
それが神だ。
許せない。
こちらの世界にカイムが来た時点で、顕現の準備はほぼ終わっていた。
勝ちは確定していた。
だからこそ、暇つぶしに付き合ってやっていたのだ。
それなのに。
トラヴィスとかいう人間に、邪魔をされた。
自分で拾ってきた駒に、足元をすくわれた。
許せない。
視界の端に映るのは、魔王MKⅡの姿。
アイドリング状態で、乗っ取ってくださいと言っているようなものだ。
──これでいい。
イシュタルは笑った。邪悪に。愉快そうに。
肉体はない。だが、器はある。
意識が流れ込む。侵食。接続。支配。
魔王MKⅡが、ぼうっと光った。
「あっ、あっ、やめてイシュタル!」
カイムが顔を青ざめさせる。
「やめない」
即答。
「それ、作るのめちゃくちゃ苦労したんだって!」
「なおさらやめない」
笑いながら、出力を上げる。リミッター解除。最初から最大。魔力が溢れ出す。
「素晴らしい……!」
恍惚とした声。
これなら、世界を壊すくらいは容易い。
「殲滅じゃ、人間ども!」
轟音。空間が震える。
圧倒的な力。魔王人形が動く。振り下ろされる一撃。
「散れ!」
レンが叫ぶ。全員が跳ぶ。床が抉れる。爆音。衝撃。
タケル王が踏み込む。斬る。だが、止まる。
「チッ、硬えな」
即座に離脱。横から衝撃波。レンが受け流す。
「正面は無理だ、削るぞ!」
セレナがナイフを投げる。突き刺さる。わずかに動きが止まる。
その隙にレンが突っ込む。連撃。打撃。だが押し切れない。逆に弾き飛ばされる。
「ぐっ……!」
クレインが咄嗟に薬瓶を投げた。瓶は砕け、薬液が霧のように広がる。
――だが、敵の動きは鈍らない。
それどころか、漂った刺激臭にレンたちがわずかに顔をしかめた。
「まずいですね。下手に手を出すと、味方まで巻き込みます」
リリィがすぐに距離を取る。
「私たちは手を出さないほうがよさそうですよ」
「……そのようだな」
エミルも短く頷き、前に出るのをやめた。
レンは体勢を立て直す。再び突撃。
削る。離れる。削る。離れる。
ヒットアンドアウェイ。じりじりと消耗戦が続く。
だが。
「鬱陶しいわね」
イシュタルの声が響く。
魔力が、膨れ上がる。
空間そのものが軋むように震えた。
次の瞬間――光が弾けた。
無数のレーザーが地面を薙ぎ、遅れてミサイルのような魔弾が降り注ぐ。
床が抉れ、爆ぜ、視界が白と黒に塗り潰される。
逃げ場はない。
その瞬間。
透明な壁が展開された。衝撃が弾かれる。空間が軋む。
イユとユイが並んで立っていた。
「防護壁、です」
イユが息を切らしながら言う。
「多分、簡単には壊せないはずです」
ユイが静かに続けた。
その時。空間の端が、ぼうっと光った。
セレナが気づく。
「……あれ、レイさんじゃないですか?」
少し離れた場所に、三人の人影が立っていた。
レイ。ゼノ。そしてもう一人。
「ここは……?」
『イシュタルが消えた影響かしら?』
腕輪から、ルナの声が響いた。
「わからないが」
レイが目を細める。遠くで、巨大な影が暴れている。
「……暴れてる奴には見覚えがあるな」
バルドルの顔が引きつる。
「あれは……神ではない」
震える声。
「まさか……あの方が敗れたというのか」
魔王人形の攻撃が叩きつけられる。
一度。
二度。
三度――レーザーが薙ぎ払う。
さらに、ミサイルが降り注ぐ。
だが。
壁は壊れない。
「鬱陶しいわね! なんで壊れないのよ、その壁!」
その時。
魔王人形の動きが鈍る。出力が乱れる。魔力が揺らぐ。
「来ました」
ユイが笑う。
「リミッターを外したつけですね。あの子の強さを何も分かってない」
イユが続ける。
「あっあっ……待って、やめて……」
カイムが震える。顔が青ざめ、言葉にならない。
「今だな」
レンが剣を構える。三人の視線が合う。
「共同作業と行くか?」
レイが言う。
「ああ、リベンジしよう」
レンが応じる。
「最後だ、イシュタル」
『……気をつけてね』
ゼノが槍を握る。
三人が同時に動いた。
レンが正面から突っ込む。衝撃。一瞬、止まる。
ゼノの槍が側面から叩き込まれる。バランスが崩れる。
レイが蹴りで押し込む。
「今だ!」
ゼノが叫ぶ。レンが踏み込む。
「終わりだ!」
一閃。深く。確実に。
魔王人形の体が裂ける。崩れる。
だが。
まだ動く。
「しつこいな……!」
「もうやめて……」
カイムが叫んだ。
その時だった。
「どけ!」
タケル王が飛び込んできた。そのまま刀を叩きつける。
粉砕。完全破壊。破片が散る。
静寂。
砂埃が、ゆっくりと落ちていく。
タケル王が刀を肩に担いだ。
「魔王っつっても大した事ねえな」
軽く言う。
カイムがその場に崩れ落ちた。
「うわあああ! いくらつぎ込んだと思ってんのよ」
泣き叫ぶ。
タケル王が笑う。
「めでたしめでたし、だろ?」
「めでたくない! 何も!」
その声が、虚しく響いた。




