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万能勇者、敗北。そして二度目の人生は最弱から  作者: 虚無しお
第2部4章 それぞれの選択
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【第34話】万能対最強


 セントヴェナ国境付近まで、目立った妨害はなかった。


 拍子抜けするほど静かな道だったが、誰も気を緩めてはいない。

 レンたちは警戒を解かぬまま、王都へ続く街道を進んでいた。


「イシュタリアから移動もできないし、洗脳解除もできないし、散々ですねえ」


 イユが肩をすくめる。


「何が言いたいんですか、バグ」


 カイムが睨んだ。


「別に何も?」


「その顔で言われると腹が立つんですよ」


「仲良くしなさい」


 リズがぴしゃりと言うと、二人はそろってそっぽを向いた。


 そこで、タケル王が場の空気を吹き飛ばすように両手を合わせる。


「ナンミョーホーレンソー」


 一瞬、しんと静まり返った。


「適当にやると罰が当たるぞ」


 レンが眉をひそめる。


 そのやり取りで、空気はわずかに緩んだ。

 だが、胸の奥に沈んだ重さまでは消えない。


 やがて、丘を越えたそのとき――


「なんか、あっという間だったわね」


 リズがぽつりと漏らした。


 その言葉が終わるより早く、レンの視界に無数の影が広がる。


 街道を塞ぐように整列した軍勢。

 白地に金の紋章、イシュタリアを示す旗が、風の中でばさりと鳴った。


 イシュタリア軍。


 その中央に立つのは、見覚えのある男――レイ。

 そして、その隣にはルナ。


「……来たか」


 レンが低く呟く。


 その瞬間だった。


「おらぁ!!」


 地面が爆ぜるような勢いで、タケル王が飛び出した。

 一直線に、レイへ突っ込んでいく。


「あ、おい! 待て!」


 レンの声は、もう届かない。


 次の瞬間――


 ガギンッ!!


 振り下ろされた刀を、レイが腕一本で受け止めていた。


 全身の魔力を腕に集中させ、衝撃をどうにか受け流している。

 それでも足元の地面には、ひびが走った。


 タケル王の踏み込みが、それだけ重いということだ。


「これはこれは」


 レイが口元を歪める。


「ぼんずの王様じゃありませんか。お噂はかねがね」


「うるせえ!」


 タケル王が怒鳴る。


「真面目にやれ! 手ぇ抜いてるだろ。なめたマネしてっと殺すぞ!」


 二撃目。三撃目。

 刀が嵐のように振り下ろされる。


 レイはそれを捌き、躱し、時に魔法障壁で弾く。

 だが、その動きにはどこか余裕があった。


 それがまた、タケル王の怒りに火をつける。


 ギィン!!


 四撃目の衝撃が、大地を揺らした。





 その頃、別の場所でも刃がぶつかっていた。


 レンの剣を、ジークが受け止める。


「悪いが、ここで通すわけにはいかない」


「時間稼ぎか」


 レンは舌打ちした。


 周囲ではイシュタリア兵と仲間たちが入り乱れ、気づけば完全に孤立している。


 ジークは攻めてこない。


 崩しにも来ない。仕留めにも来ない。

 ただ、レンの足を止めることだけに徹していた。


 剣戟が続く。


 ジークは受けに回りながら、じりじりとレンを後退させていく。


「お前たちは、ここで終わりだ」


 ジークが冷たく笑った。


「そいつはどうかな」


 レンは剣を構え直す。


 一瞬だけ隙を見せる。

 ジークがそこへ踏み込んだ瞬間、レンは身体を流した。


 剣筋が空を切る。


 そのまま斬り返すが、ジークはすでに距離を取っていた。


 やはり仕留める気はない。


 奥歯を噛む。

 仲間たちの気配が、遠い。





 レイの全身を、魔力の膜が覆っていた。


 身体強化。

 さらに周囲には風の刃が展開され、タケル王の踏み込みを牽制する。

 火の魔法が爆ぜ、光の閃光が視界を焼く。


 普通の相手なら、とっくに詰んでいる。


 それでも――押しているのはタケル王だった。


 風の刃を刀で叩き斬り、

 火の爆発を踏み越え、

 光の閃光すら、目を細めるだけで突っ込んでくる。


 もはや人間というより、別の生き物だった。


「おつよいですねえ、まったく」


 レイが苦笑する。


「ふざけやがって」


 タケル王は吐き捨てた。


「これなら、あっちのあんちゃんの方がよほど強かったぜ」


 その言葉に、レイの眉がわずかに動く。


 次の瞬間。


 レイの体が、ふわりと浮き上がった。


 一気に高度を取り、地上を見下ろす。

 タケル王の姿が小さくなる。


 空中に魔法陣が展開された。


 火。

 光。

 風。


 三つの属性が絡み合い、巨大な砲撃となって地上へ落ちる。


 轟音。

 爆炎。

 土煙。


 着弾点を中心に、大地が大きくえぐれていた。


「流石にこれで――」


 レイが呟く。


「ひとたまりもないでしょう」


 煙が晴れる。


 だが、そこには誰もいない。


「……?」


 その瞬間だった。


 背後から、強烈な殺気。


「おらぁ!!」


 振り返るより早く、刀が振り下ろされる。


 爆撃の瞬間に跳び上がり、空中でレイの背後を取っていたのだ。


 あまりにも単純。

 だが、あまりにも有効。


 普通の人間にはできない。

 だが、タケル王はやってくる。


「やっべ――」


 そのとき。


 空気が静かに歪んだ。


「まったく」


 ルナの声。


 魔力の奔流がタケル王の剣を弾き、その軌道を逸らす。

 レイの動きが止まった。


「他の相手をしなさい」


「は」


 レイが静かに頭を下げる。


 ルナは続けた。


「リズを殺すこと。忘れていませんね?」


 レイの口元が、わずかに歪む。


「もちろんです」


 次の瞬間、レイの姿が消えた。


 タケル王は刀を肩に担ぎ、豪快に笑う。


「やっと面白そうなやつが現れやがった」

土日は2話ずつ更新予定です。

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