【第07話】狂気の村
「で、何のためにこの村に来たわけ?」
屋敷の一室で、リズが腕を組んだ。
「依頼を受けた冒険者が、時々帰ってこない村があるらしい。酒場で聞いた。ここだ」
「盗み聞きでしょ?」
「まあな。だが、何かあっても俺が片づける。お前らは動くな」
「大した自信だこと」
「何があったんだ?」
カイルが尋ねると、レイは少し間を置いた。
「魔王教が、邪教の儀式で生贄を捧げてるって噂がある」
「魔王教……?」
ユイが小さく首をかしげる。
「あまり聞き慣れませんね。最近では、そういうものが流行っているのですか?」
「あー、なんかそんなのいたような気がする」
「ばっかみたい。帰りたい!」
「なら帰れ」
「もう夜遅いわよ!」
カイルが間に入るように笑う。
「まあまあ。四人もいるんだし、協力してさっさと終わらせようぜ」
「お前は二人分邪魔だから、実質一人だ」
「なんだとコラァ!」
リズが吹き出しそうになった、そのとき。
屋敷の扉がぎい、と音を立てて開いた。
白髪の老人が静かに外へ出ていく。
レイの目が細くなる。
「……動きがある。俺が行く。ついてくるなよ」
そう言い残し、闇へ紛れるように老人の後を追った。
離れへ忍び込む。
気配を殺し、壁の向こうの声に耳を澄ます。
「草は揃ったか」
黄色の着物を着た老人の声。
「抜かりなく」
灰色の装束をまとった、忍のような男が答える。
「この村も、もう用済みか」
「焼き払ってしまった方がよろしいかと」
壁一枚隔てたその会話に、レイは眉をひそめた。
淡々としすぎている。人命を語っている口調ではない。
「……そうだな。ところで、ネズミが紛れ込んでいるようだが?」
「俺のことか?」
声と共に、レイは闇から姿を現した。
「ご丁寧に悪巧みの相談まで聞かせてくれて感謝するよ。何を企んでるか知らんが――ありがとな」
「身の程知らずが……始末しておけ!」
老人の姿が、ふっと消える。
「おい、待て――」
追おうとした瞬間、室内に湿った土と腐葉土を混ぜたような匂いが広がった。
森で嗅いだ、あの草の香りに似ている。
違和感が頭をよぎった次の瞬間、仮面の男が剣を抜いて飛びかかってきた。
刃と刃が噛み合う。
一合、二合。
相手もそこそこやるが、レイの方がわずかに上だ。
「お前、なかなかやるな」
「貴様も素人にしてはな。だが――」
男は数歩下がると、天井を見上げた。
「俺の仕事の邪魔をした落とし前は、必ずつけてもらう。覚えていろよ」
そう言い残し、煙のように姿を消す。
「チッ……骨折り損か」
レイが剣を収めかけた、そのときだった。
「ちょっと! 遊んでないでこっち助けてよ!」
聞き慣れた声が廊下に響く。
「……何があった」
「村人が急に襲ってきたの! まともじゃないわ、この村!」
屋敷の入口へ駆けつける。
そこには、狂気に満ちた目で武器を構える村人たちがいた。
笑っている。声を立てず、ただ口元だけを歪めて、こちらへ近づいてくる。
人間の顔をしているのに、中身が抜けているような笑い方だった。
レイは剣を抜いた。




