【第07話】本当の目的
「で、何のためにこの村に来たわけ?」
リズが腕を組み、うさんくさそうに尋ねた。
「時折、依頼を受けた冒険者が帰ってこない村があるらしい。ここのことだと、酒場で耳にしてな」
「盗み聞きでしょ?」
「まあな。だが、何かあったとしても、俺が一人で片づける。お前らは動くな」
「大した自信だこと」
リズが皮肉っぽく笑う。
「何があったんだ?」
カイルが素朴に問いかける。
「魔王教が、邪教の儀式で生贄をささげてるって話がある。あくまで噂だがな」
「魔王教……?」
ユイが小さく首をかしげる。
「あまり聞き慣れない名前ですね。最近では、そういうものが流行っているのですか?」
「あー、なんかそんなのいたような気がする」
「ばっかみたい。帰りたい!」
「帰れよ」
「もう夜遅いわよ!」
「まあまあ、四人もいるんだし。協力して、さっさと終わらせちまおうぜ」
「お前は二人分邪魔だから、実質俺一人だ」
「なんだとコラァ!」
リズが笑いをこらえる。
「まあまあ、勇者様落ち着いてください」
カイルをなだめるユイ。
そのとき──
屋敷の扉がきしみをあげて開き、白髪の老人が出ていった。
「……動きがあるようだな。俺が行く。邪魔だからついてくるなよ」
そう言い残し、レイは静かに老人の後を追った。
◇ ◇ ◇
レイは屋敷の離れに忍び込んだ。
おまけが三人に増えてしまったが、新興宗教にはまるような連中など、何人束になろうが自分の敵ではない。
そう、高を括っていた──が。
「草はそろったか」
黄色の着物を纏った老人が、静かに問いかける。
「抜かりなく」
灰色の服に身を包んだ、忍のような男が一礼する。
「この村も、もう用済みか」
「焼き払ってしまった方がよろしいかと」
「……そうだな。──ところで、ネズミが紛れ込んでいるようだが?」
「俺のことか?」
声とともに、闇からレンが姿を現す。まるで、ずっとそこにいたかのように。
「ご丁寧に悪巧みの相談まで聞かせてくれて感謝するよ。何を考えてるかは知らんが……ありがとな」
「身の程も弁えぬ無礼者が……始末しておけ!」
老人の姿が、何の前触れもなく、そこから姿を消した。
「おい、待て──」
その瞬間、室内に土のような、雨の降った後のような匂いが立ちこめた。
──これは、森の中でも時折感じた、あの草の香りに似ている。
レイが違和感に眉をひそめた直後、仮面をつけた男が剣を抜き、飛びかかってきた。
「貴様、今の状況が分かっているのか?」
刃と刃が交錯する。打ち合いは互角──いや、かすかにレイが押していた。
「お前、なかなかやるな」
「貴様も、素人にしては腕が立つ。だがな──」
男は数歩後ずさり、天井を見上げる。
「俺の仕事の邪魔をした落とし前は、必ずつけてもらう。覚えていろよ」
その姿は、煙のように掻き消えた。
「チッ……骨折り損か」
レイは剣を収め、男の去った方向へ目を向けたが──
「ちょっと! 遊んでないで、こっち助けてよ!」
聞き慣れた声が廊下に響く。
「……何があった」
「村人が、急に襲ってきたの! まともじゃないわ、この村!」
屋敷の入り口。
そこには、狂気に満ちた目で武器を構え、なだれ込んでくる村人たちの姿があった──。