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【第07話】謎の2人


 白翼の青年の剣撃を、もう一人のレイが受け止めた。

 金属音が、森に鋭く弾ける。


「貴様……何者だ」


「万能勇者だよ。俺もな」


 気だるげに答えながら、剣を弾き返す。

 青年の眉がわずかに歪んだ。その顔には驚きより、値踏みするような色があった。


「……分身が使えたとはな。小癪だが見直したよ」


「いいからかかってこいよ」

 白翼の青年の剣が弧を描いて振り下ろされる。

 もう一人のレイはそれを受け流し、火花を散らした。

 さらに踏み込み、青年の懐へ潜り込む。

 だが──翼が唸った。

 羽ばたきが空気を叩き、衝撃波のような風圧がレンの身体を吹き飛ばす。


「……チッ」


 舌打ちしながら地を蹴り、再び間合いを詰める。剣撃が三度、四度と交差した。

 金属音が森に反響し、枝葉が激しく揺れる。

 火花が散るたびに、周囲の空気が一瞬だけ焦げる匂いを帯びた。


 そこへ、背後から声が飛んだ。


「勇者様」


 振り向いたレイの視界に、赤茶色の長髪の少女が映る。どこか見覚えのある顔立ちだった。


「もう足は動くはずですよ。早く逃げてください」


「お前……ユイ?」


「イユです」


 即答だった。一ミリも迷いがない。


「ちなみに、そっちの彼はレンです」


「今決めただろそれ」


 攻撃を受け流しながら、レンがぼやく。


「とにかく早く逃げてください」


「あの、私の足が動かないんですけど」


 セレナが不満げに声を上げた。足首のあたりに薄い光の輪が絡みついている。


「あなたはだめです」


「はい? なぜです?」


「胸に手を当てて聞いてください」


「意味が分からないです」


 そこへエミルが一歩前へ出た。


「すまないが、彼女も助けてやってくれないか。大事な仲間なんだ」


 イユはエミルをしばらく見据えた。感情の読めない目だった。


「この人だけはだめです。寝首をかかれて殺されますよ」


「そうなれば、私がそれまでの男だったというだけの話だ。頼む」


「……でも」


「離してやれ、ユイ。ここで時間を取られるとまずい」


 レンが剣を鳴らしながら言った。


「イユです……わかりました」


 小さなため息と共に、拘束が解ける。

 セレナが足首を確かめるように動かした。

 エミルはイユに向かってきちんと頭を下げた。


「恩に着る」


「早く行ってください」


 その言葉を合図に、一行は森の奥へと走り出した。


「貴様ら……神に選ばれし僕をないがしろにするとは……!」


 青年の声が怒気を帯びる。翼がざわりと逆立った。


「まだいたのか。流石、神に選ばれただけはあるな」


 レンが軽く肩をすくめながら皮肉を返す。


「貴様ァ!」


 翼を大きく広げ、青年が斬りかかる──その瞬間、彼の身体が空中で不自然に止まった。


「なぜだ……! 貴様か、小娘!」


 視線の先、イユが静かに手をかざしていた。その指先に薄く光が揺れている。


「終わりだな」


 レンの剣が振り下ろされる。


 だが青年は、骨が軋む音を立てながら無理やり身体をねじった。

 刃は翼をかすめ、白い羽が数枚、ゆっくりと宙に舞う。

 次の瞬間には大きく後方へ跳躍していた。


「拘束を無理やり解くとは……なかなかやりますね」


 イユが静かに呟く。感心とも呆れともつかない声だった。


 白翼の青年は空中で体勢を立て直し、忌々しげに二人を睨みつけた。

 羽の切り口から、白い何かがはらはらと落ちていく。


「……次に会った時は、必ず殺す」


 白翼が翻る。そのまま空の高みへと消えた。

 森に、静寂が戻った。

 レンは剣を収め、小さく息を吐く。


「これで少し時間が稼げるといいが」


 視線の先には、木々の間に遠ざかるレイたちの背中。

 木漏れ日はもう夕方の色をしていた。

 オレンジに染まった森の中で、白い羽根だけがまだ、ゆっくりと落ち続けていた。

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