【第03話】俺がレイだ
「なんで……俺がもう一人いるんだよ」
レイは呆然と呟いた。
目の前の青年は、自分によく似ていた。
顔立ちも、立ち姿も、剣を握る癖すら見覚えがある。違うのは、そこに宿る力と余裕だけだ。
「……いきなり何を言ってるんだ、お前」
青年が怪訝そうに眉をひそめる。
「体が弱くなったと思ったら、自分の偽物まで出てくるし……夢なら覚めてくれよ!」
「助けてやったのにその態度か。俺が偽物? 猪に蹴られて頭でも打ったか」
話が噛み合わない。
どちらの言い分も相手には異常にしか聞こえず、混乱だけが積み上がっていく。
「よかった、まだ近くにいた!」
そのとき、明るい声が飛び込んできた。
草むらの向こうから、紫のローブを翻して少女が駆けてくる。
金茶色の長い髪をポニーテールにまとめ、勝ち気そうな目をしていた。
「なんで逃げるのよレイ! 私もついていくから!」
「誰だっけ、あんた……幼馴染の――リーナ?」
「リズよっ! 誰よこのチンチクリン!」
「レイだよ」
「いや、レイは俺だ」
「じゃあ俺は誰なんだよ!」
「知らないわよっ!」
三人分の声が草原に飛び交う。
収拾がつく気配はまるでない。
青年の方のレイが、大きくため息をついた。
「……猪に蹴られて脳までやられたか。ここに置くわけにもいかない。医療所に運ぶ」
「回復魔法で治る!」
少年のレイは意地になって呪文を唱えかけ――そのまま視界が暗転した。
「ちょっ、気絶した!?」
「傷もふさがってないのに、無理やり魔法を使おうとしたのね……。精神力も残ってないのに」
「町に戻るぞ」
それだけ言って、青年のレイはさっさと歩き出した。
――医療所で手当てを受けたあと。
少年のレイは食堂のテーブルに突っ伏していた。
猪に負けた。
もう一人の自分がいる。
回復魔法を使おうとして気絶した。
どれから整理すればいいのか分からない。考えようとするたび、頭の奥がずきずきと痛んだ。
「勇者じゃない俺に、何が残ってるんだよ……」
「まあまあ、飯代はまけとくから元気出せって」
料理を運んできた店主が、苦笑しながら皿を置いていく。
そのときだった。
妙な視線を感じて、レイは顔を上げた。
食堂の奥。窓際の席。
白銀の髪を揺らす少女が、蒼い瞳でじっとこちらを見つめていた。
品定めするような、静かで鋭い目。
少年のレイも、青年のレイも、ほぼ同時にその少女へ視線を向ける。
少女は小さく微笑んだ。
「こんにちは、勇者様」
その一言で、二人とも動きを止めた。




