【第03話】俺がレイだ
「なんで……俺がもう一人いるんだよ……」
レイは、目の前の青年を呆然と見つめた。
痛む体、動かぬ四肢──そして、かつての自分を映したような姿。
「……いきなり何言ってるんだ、お前」
青年──レイが怪訝そうに眉をひそめる。
「体が弱くなったと思ったら、自分の偽物って……。夢なら覚めてくれよ……!」
「助けてやったのになんだその態度。俺が偽物? 猪に蹴られて頭でも打ったか?」
互いの言葉はかみ合わず、混乱だけが深まる。
「よかった、まだ近くにいて!」
明るい声が割って入った。
草むらの向こうから、紫のローブを翻して女性が駆けてくる。
金茶色の長い髪をポニーテールにし、勝ち気な笑みを浮かべて。
「なんで逃げるのよ、レイ! 私もついていくから!」
「誰だっけ、あんた……幼馴染の──リーナ?」
「リズよっ! 誰よこのチンチクリン!」
「レイだよ」
「いや、レイは俺だ」
「じゃあ俺は誰なんだよ!」
「知らないわよっ!」
口論が続く中、青年のレイがため息をつく。
「……猪に蹴られて脳までやられたか。ここに置くわけにもいかないし、医療所に運ぶ」
「回復魔法で治る!」
少年のレイは呪文を唱え──そのまま崩れ落ちた。
「ちょっ、気絶した!?」
「傷もふさがってないし……なんで精神力もないのに魔法が使えるのよ」
リズが首をかしげる中、青年は短く告げた。
「町に戻るぞ」
◇ ◇ ◇
医療所で手当てを受けた少年のレイは、食堂のテーブルに突っ伏していた。
「猪に負けるし、俺がもう一人いるし……生きてる意味あるか……」
「まあまあ、飯代はまけとくから元気出せ」
料理を運んできた店主が苦笑する。
そのとき、少年はふと強い視線を感じた。顔を上げる。
食堂の奥、窓際の席。
白銀の髪を揺らす少女が、蒼い瞳でじっとこちらを見つめていた。
「こんにちは、勇者様」
その一言で、少年も、青年も──動きを止めた。