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星の降る町  作者: 笹霜
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40/42

40.令

翌日。


宮原銀河は、不思議な連絡を受けた。



「…放課後、保健室に来て欲しいって璃絵ちゃんからLINE」



クラスメイト、丹羽ほのかからそう言われて、銀河は目を丸くした。


璃絵は今日も欠席―――いや、保健室ならぬ美術室登校。


だが美術室ならともかく保健室に呼び出されるとは、と考えて、銀河は得心がいった。


朱鞠内先生がいるからである。


「なあに?逢瀬?逢瀬?」


ニヤニヤ笑いかけてくる鞘堂エリスに冷たい一瞥だけをやって、ほのかには「ありがとう」とだけ礼を言った。「あーん宮原君冷たいわね」なんて冗談めかして言うエリスは放っておくに限る。


放課後、鞄を引っ提げて保健室に顔を出す。


意外なことに保健室には璃絵以外誰の姿もなかった。


璃絵だけが空きベッドの一つに転がってスマホをイジっていた。


「あ、お銀君」


「おう」


「妙な知らせが入った」


ベッドから身を起こしながら璃絵は怪訝そうな表情を銀河に向けていた。ぼさぼさのツインテールを撫でつけながら、『腑に落ちない』という形容がピッタリの表情をしていた。


「妙な知らせ?」


「すぐには信じられない…」


「何があったんだ?」


銀河が尋ねると、璃絵は首を傾げて、それから、『さっきのこと』と前置きをして話し始めた。



―――電話があったのだという。



姉からだったという。


美術室に居候していた璃絵はその電話に気づいて受けた。


そして、そこで、驚きの連絡を受けたという。


電話口の璃絵の姉は開口一番、驚いた口調であったという。



『璃絵。お前何をした?』


『え?』


『何があったのか私にも良く分からんが、父さんも母さんも青ざめた顔をしていたぞ。先程二人とも玉川本家に呼ばれたんだが、何かキツく言われたらしい』


『…?』


『お前が暴れているのは知っているし、水嵐や黒鎧王が戻らないのも承知しているが、それにしても…』


お前が黒鎧王や水嵐を撃破したらしいのも驚きだが、と姉は言いつつも。


『玉川本家から、璃絵については何もするなというキツいお達しがあったらしい。もう父さんも母さんも諦めざるを得ないのだが、何かやったのか?』


『…』


『水嵐や黒鎧王をお前ひとりで撃破したとも思えないし、そこも含めて何があったのやら。父さん母さんも話してくれる気配がないし…。ただ、璃絵に自由にして良いという伝言だけを伝えてくれというから伝えるが』


『…黒鎧王も水嵐も、私一人じゃないし…』


『まあそれは薄々感じていたが諜報部隊も結果が芳しくないし、姉には伝えて欲しいなあ』


電話口の姉はどこか呑気でもあったが、好奇心を丸出しにした口調でもあった。


だが璃絵もイマイチ事態は分からない。


『…でも、良く分からない』


『そうなのか』


『分かったら伝える』



ともあれそんなことで、電話が切られたという。


しかし自由にして良いと言われたところで、すぐにそれも信じられず。


ひとまず銀河を呼んだが、銀河にも当然何かが分かる訳でもなかった。


「何があったんだろうな」


「…先生が何かしてくれたのかな」


「氷川の家ってコトでか?」


「もしくは昨日の、先生のお師匠様とか」


「あの葵さんか」


とんでもない気配を感じたし、先生方もなるべく触れたくなさそうな気配をあの人からは感じていた。それくらい桁違いなのだという。


余り銀河は話をかわさなかったが。


「…何があったんだろう」


しかしそう璃絵がボヤいた直後、保健室のドアが開いた。


やってきたのは朱鞠内緋鞠であった。


その紅の眼が二人を見て、「ああ、いたいた」と軽い笑みを浮かべてみせる。


「美術室に二人ともいないからどこ行ったのかと思ったよ」


「どうしたんですか先生」


「二人とも学長室へ。これでいなかったら校内放送使おうかと思ってたんだけど良かった」


学長室―――となれば、咲月さんからの呼び出しである。二人顔を合わせて頷くしかなかった。


多分今回のコレに関係があるのだろうとは何となく思う。


緋鞠先生もついてくる。


廊下を歩きながら、銀河が「璃絵に連絡があったそうで」と切り出すと、緋鞠は頷いた。


「ああ、やっぱりあったか」


「あったって?」


「お姉先輩が手回したんだよ。それくらいはお茶の子さいさいなのさ」



―――璃絵の予測は的中していた。



学長室に入る。


学長の椅子は空っぽであったが、対面式の長い黒革のソファーに、二人の女性が向かい合って腰掛けていた。


一人は知った人物である。


早花咲月であった。


ただ、学長らしいスーツ姿ではなく、例の橙の狩衣姿。彼岸花に蝶の乱れ飛ぶ意匠をあしらったソレである。客人の前ではあったが、深く腰掛けて、リラックスしているように見えた。


向かい合うのは、二十半ばと見える女性であった。


色素の薄い短い髪をしていた。どことなく儚げなイメージを抱かせる。咲月とは違い、白い狩衣を纏い、青い袴に下半身を包んでいた。


その姿を見た璃絵が、ぎょっとして立ちすくむ。


一方で緋鞠が「おお」と声を上げた。


「来てたんだ、お(れい)


その言葉に、白い狩衣の女性は目を上げ、緋鞠に向かって軽く頭を下げた。


「久しぶりです緋鞠。今回は御迷惑おかけしました」


「んー。別にいいんだけど。お姉先輩の差し金だし」


「でも、私がもっと早く跡部の動きに気づいていたら…」


「お姉先輩も始めからお令に通報しとけばコト簡単に済んだのに」


「だって今回の本質は璃絵ちゃんと跡部の家の戦争というか喧嘩だもの。私がのっけから出ていってどうするの」


そう言いながら、咲月はコーヒーカップを口にした。令、と呼ばれた女性は「おかけになったらどうです?」と促し、緋鞠は早速その隣に腰掛けた。


璃絵は咲月の隣に。銀河はさらにその隣に腰掛けた。


令、と呼ばれた女性は、璃絵に目を向け、


「…すみません。元々は私の我儘で。お付きの人が欲しい、なんて言った結果、こんなことになるなんて」


「令様が謝られることは…!」


「ちょっと洩らした一つの言葉がこのようなことを招くこともあるってコトね」


咲月の言葉に、令、と呼ばれた女性は頷く。


緋鞠が銀河に目を向けた。


「あ、紹介するねお令。この子お銀。お姉先輩から聞いていると思うけど」


「初めまして」


そう言って、女性は頭を下げた。逆立ちしても美人な顔だちだと銀河はその時初めて気が付いた。





玉川令(たまがわれい)です。陰陽師玉川派、本家当主を務めております。以後、お見知りおきを―――」


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