7話 VS大臣戦
此処は魔王城内部にある玉座の間。
魔王の指輪の力で膨大な魔力を手に入れた大臣は、王子の家臣を洗脳して操りフィル王子を拘束していた。
「た、頼む…命だけは助けてくれ…!!」
『ククク……天上王国の王子であり英雄であるお方が、抵抗すらせずに簡単に捕まってしまうとは……
更に、縛り上げられてからの第一声が命乞いとは、随分と面白い方ですね』
「うぅ……」
フィル王子は縄で縛られたまま床に転がされ、苦痛と恐怖により顔を歪ませながら嗚咽を漏らしていた。
『大丈夫、そう簡単に殺したりしませんよ』
「ほっ、本当か!?」
『ええ、本当です。貴方を天上王国の王…つまり貴方の父親の前で少しずつ体を切り刻んで差し上げるつもりですから。そう簡単に死ぬ事は出来ないでしょう』
「ひっ!?」
余りにも恐ろしい提案に、フィル王子は体を激しく震わせた。
『ですが、人前で切り刻むのは初めてですからね。折角ですし、試しにこの場で貴方の片足を切り落としてみましょうか…』
大臣は禍々しい玉座から立ち上がると、天に掲げた右手からゴウゴウと鳴り響く竜巻を作り出し、フィル王子目掛けて軽く放り投げた。
キ ィ ン !!
突然、フィル王子の前に巨大な盾が現れ、大臣の風魔法が弾かれた。
「これ以上大臣の好きにはさせんぞ」
巨大な盾の影から現れたのは、銀色の鎧に身を包んだゴドーの姿だった。
ゴドーは私が貸した『大英雄シリーズ』の防具を全て装備している。
大英雄シリーズの防具は全て魔物や魔王に対して有利な能力を持っている為、滅多な事が無い限り怪我を負う事は無いだろう。
「ゴ、ゴドー!?お前はゴドーなのか!?」
フィル王子は縄で縛られた体を必死に動かし、ゴドーの足元まで移動した。
「ゴドー!!助けてくれ!!大臣が化け物に…!!」
「どけ」
ビクッ!
「このまま足元に纏わり付かれたら戦闘の邪魔になる、どけ」
「は、はいぃ!!」
ゴドーの余りにも冷たい指示にフィル王子は驚きながらも、必死に体を動かしてゴドーの足元から離れた。
『おや、ゴドー…貴方生きていたのですね』
「俺達は貴様と無駄話をしに来たのでは無い。魔王に変わり果てた貴様を討伐しに来たんだ」
『育ての親に向かってそんな乱暴な言葉を投げかけるなんて……それに、貴方1人で何が出来ると言うのですか』
「……誰が1人で来たと言った」
『何?』
ザッ……ザッ……
外から足音が聞こえる。
出入り口に目をやると、そこには1人の人影が。
『ほう、まだ生き残りがいましたか…』
「ラ、ラファー…!?まさかラファーもいるのか!?」
ザッ、ザッ、と足音を立てながら出入り口から入って来たのは……
銀色の鎧に身を包んだゴドーの姿だった。
『……!?』
「ええっ!?何だこれ!?ゴドーが2人居る!?」
「まだ居るぞ」「俺を忘れてもらっては困るな」「随分と哀れな姿になったな」「お前は俺の親ではない!!」「世界の為に、貴様は此処で潰す…」『ゴドーの登場だ!!』「髪切ったか?」「貴様は前から不老不死に固着していたから、まさかと思ったが…」「他人に迷惑をかけてまで不死になりたかったのか…?」
『んなぁ!?!?』
「何でゴドーがこんなに沢山居るんだ!?」
ぞろぞろと足音を鳴らしながら、次々と出入り口から入って来るゴドー達に大臣とフィル王子は驚き狼狽し、目を白黒させている。
やがて、30人のゴドーが大臣を取り囲んだ。
『なっ、何なんだコレは!?!?』
「貴様もよくやる芸当だ」
『私が今まで作っていた分身は幻だ!!貴様が持ってきた奴は明らかに人間として存在しているではないか!?』
「どれもこれも、賢者のお陰だ」
『賢者だと…!?』
そう、この大量のゴドーは呪文カード『分裂』により作り出したものだ。
このカードは本来、場に出ている魔物と同じカードが手札にあれば、手札から直接場に召喚出来る呪文だった。
だが、現実で使用すれば『物』だろうが『鎧を着た人』だろうが、簡単に分裂させて増やす事が出来るのだ。
『魔力』がある限り幾らでも増やせる上に、いつでも『分裂』を解除出来るので、中々使い勝手の良いカードなのだ。
「覚悟しろ魔王!!」
キィン!!
ゴドーは大臣目掛けて思い切り剣を振るったが、大臣の腕で思い切り弾かれてしまった。
「はぁっ!!」「てぇい!!」
ブンッ!! ヒュン!!
『フンッ!全然当たらんぞ!!こんな振りで私を倒すなど…』
「よそ見をするな!!」
ズバァ!!
余裕で攻撃を躱し続ける大臣の真後ろに居たゴドーが、大臣の背中に向かって思い切り剣を振り下ろした。
攻撃は見事命中したようだ。
『グワァアア!!!』
「油断したな、大臣」
『こんなに沢山居たら1人くらい見逃すだろうが!!!!』
「隙あり!!」 「今だ!!」
ズンッ!! ズババッ!!
『グゥッ!?クソッ!何なんだ本当に……』
『ゴドーの技を受けてみろ!!』
ガシッ!!
矢継ぎ早に次々と攻撃を食らう中、やたら動きが激しいゴドーが大臣の前に躍り出て大臣の体を思い切り掴んだ。
『おい!!貴様だけ口調がおかしいぞ!!貴様ゴドーじゃ無いだろ!!』
大臣の言う通り、この主張が激しいゴドーはゴドーでは無い。
彼の正体は『変化』の呪文カードの力により外見だけ変化したゴコだ。
『今はゴドーだ!フンッ!!』
バキィ!!
体を素早く回して大臣の背後に回り込み、綺麗なバックドロップを決めた。
『グウゥ……!?ハエのようにウジャウジャと集りやがって……!!だが、これ以上貴様らの好きにはさせん!!』
グンッ!!
大臣の体が急に膨らみ始めた。ゴドー達が見ている前で、魔王城の天上を突き破りながらも尚大きくなっていき……
『グルルルルル……』
やがて大臣は、魔王城よりも遥かに巨大な、禍々しい姿のドラゴンへ変化した。
『これで貴様らのクドい攻撃も私には通用しないぞ!!フハハハハハ!!』
「確かに、俺達の攻撃は通用しないかもしれないな」
『……何だ?随分と余裕のある口ぶりだな……』
「周りを見てみろ」
『………ん?これは一体……』
魔王城の周りが大きな山で囲まれている。
『(何だ…?この魔王城の周りにはこんなに高い山なんて無かった筈だ……)』
『あっ!その声はもしかして大臣ですか〜?』
巨大なドラゴンになった大臣の前に、銀色に輝く巨大な球が現れた。
『なっ……!この声はまさか……メレンか……!?』
『はい!私は今、巨大なドラゴンの中で寛いでいます!』
『巨大な……ドラゴン……はっ!?ま、まさか……!?』
大臣は突然目の前に現れた謎の巨大な球が『巨大なドラゴン』の目だと気付いた瞬間、周りの山の正体も同時に理解した。
魔王城の周りを囲む謎の物体は山では無く、ドラゴンの体だったのだ。
『なあっ!?私よりも遥かに巨大なドラゴンだと……!?メレン!これはどう言う事だ!?』
『これは『異次元戦艦・ドラゴン』って言うそうです!このドラゴンの身体には沢山の武器が仕込まれているそうですが……説明するのも面倒なので全部撃っちゃいますね!』
ガシャン!!キュイイイ……
周りの山のような体に沢山の穴が開き、長く伸びた銃先や大砲が一斉に大臣の方を向いた。
『まっ、待て待て!!まだ……そうだ!魔王城にはまだ貴様の仲間が………居ない!?』
大臣が魔王城に空いた穴から城内を覗いたが、中にはフィル王子も兵士も、沢山居たゴドーの姿も既に消え去っていた。
『えーっと…大臣に向かって……ファイヤーー!!!!』
ババババババババババババ!!
ドドドドドドドドォン!!
ズダダダダダダダダ!!
『なぁああああああ!?!?!?』
異次元戦艦・ドラゴンの身体から大量の弾が射出された。
光り輝く弾、真っ黒な球、ワイバーンの姿をしたミサイル……様々なタイプの弾が全てドラゴン大臣の体を目掛けて飛び掛かっていく。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?!?』
大臣は叫び声を上げながら必死に空を飛び回ったり、魔法を駆使しながら懸命に攻撃を躱していくが……
ダァン!!ダァン!!
『グウゥ!?』
ズシイイィン……!!ガラガラガラ……
光り輝く輝く弾が大臣の翼に何発か命中し、ドラゴン大臣は魔王城の真上に落下してしまった。
ギャァッ!!ギャァッ!!
大臣を追いかけていたワイバーン型ミサイルが、一斉に大臣の身体に掴みかかり大臣を拘束した。
それを見たメレンは一斉射撃を全て解除し、再び大臣と話を始めた。
『ようやく静かになってくれましたね!』
『なっ、何をする!!』
『それは寧ろこっちの台詞です!私達は必死に頑張ったのに、最後の最後にあんな事をするなんて…』
『ちっ、違う!!あれは……あの……!』
『言葉に詰まると言う事は、やっぱりそう言う事だったんですね……』
『いや!違う!私はお前達を心から………あ…?あれは何だ……?』
必死に弁解をしながら上を向いた大臣は、魔王城の真上に浮かぶ謎の物体を発見した。
その巨大な物体は、遠くから見るとまるで巨大な剣のような形をしている。
『……えーっと、このマイクを起動させて……これに向かって話かければいいの?』『ラファー様、既にマイクは起動しています…』『えっ!?もう外に聞こえて……』
『………』
『大臣!僕の声が聞こえるか!?』
空に浮かぶ巨大な剣からラファーの声が飛び出した。
『ラファー…!貴様、一体どうなっているんだ!?』
『僕は今、賢者様から賜った『伝説の最終兵器・ペガサス』に乗り、そこから話しかけている!!』
『伝説の最終兵器…だと……!?』
『そうだ!この兵器は賢者様の膨大な魔力で起動し、魔王を消滅させる魔導砲を発射するものだ!!』
『消滅…!?い、いや、まさかそんなもので……』
『別に大臣が僕を信じなくても僕は構わない。だが、僕は賢者様を信じてこの最終兵器を使用し、貴様を指輪もろとも消滅させる!!』
『あっ!待って下さい!今一度真剣に話し合いを……!!』
『魔導砲、発射!!!』
カ ッ
ペガサスの切っ先から凄まじい閃光が飛び出し、大臣を魔王城もろとも貫いた。
やがて閃光が収まり、魔王城があった場所を見ると……
魔導砲がぶつかった地面には巨大なクレーターが出来上がり、そこにあった魔王城も大臣も跡形も無く消え去っていた。
『……大臣と共に、指輪の消滅も確認しました』
『やったーー!!』
「よしっ!皆、よく頑張ったな!」
現実世界に居た私達は、テレビ越しに聞いたラファーの報告に対して拍手をして喜んだ。
テレビの中では、ゴドー軍団がフィル王子と兵士をクレーターの手前に運ぶ作業をしているのが見える。
(よし、もうゴドー軍団は要らないだろうし…ついでにゴコとガルドも回収しておくか…)
私がゴドー軍団を消してゴコとガルドを回収すると、それと同時にメレンとラファーが兵器から降りて本物のゴドーの元に集まり、フィル王子の前に勇者3人が集まった。
「あっ!ラファー、メレン、ゴドー!!良かった、無事だったんだね!!脅されていたとは言え、僕は君達に何て酷い事を……!!どうか許して欲しい!!」
縄を解かれたフィル王子は、勇者3人に向かって必死に弁解をしているようだが……
「そうだ!天上国に帰ったら、君達を英雄として城に迎え入れるよ!君達を称えて凱旋パレードも開催しよう!!あと……」
「僕達はもう天上王国には帰らないよ」
「……えっ?」
「元々、俺達は魔王を討伐するのが目的だったんだ。それを達成した今、褒美の為だけに王国に戻るつもりは無い」
「なっ、何で!もしかしてまだ怒ってる!?僕ちゃんと謝ったよ!?」
「確かに私達は、孤児である私達を拾い上げてくれた上に、ここまで育ててくれた天上王国には感謝しています。ですが……私達はもう用済みなんですよね?」
「違う!!あれは大臣が……!!」
「でも、英雄は1人で十分って言ったよね?後、僕達の事を捨て駒って言ったのも聞こえたけど……」
「あっ……!あれも聞いて……!?いや、それは……!!」
「もしこのまま城に迎え入れられたら、将来は次期王となるフィル王子の元で働く事になる。だが、あんな事をされた後では流石に国王に仕える気は起きないな」
「そ、そんな……!それじゃあ帰りはどうしたらいいんだ!!僕、この辺りの魔物に全然敵わなくて……行きは全部大臣が何とかしてくれてたんだけど……!!頼む!助けてくれ!!このままじゃ僕死んじゃう!!」
「……どうやらそっちが本音みたいだね。大丈夫だよ、魔王城周辺の魔物は全滅したみたいだし、帰り道に出てくる魔物はきっと周りにいる兵士が何とかしてくれるよ。じゃあね、フィル王子」
「そ、そんな…!お願いだ!!僕を置いて行かないでくれ!!」
「……私達、今まで何度かフィル王子に同じ事を言った事がありますが……その度にフィル王子は待ってくれましたか?」
「うっ……あ、あれは……」
「フィル王子、今までありがとうございました」
「じゃあな、フィル」
ヒュン!!
勇者3人がフィル王子からある程度離れた後、白黒の力で勇者3人を私達が居る世界に引き戻した。
「皆、魔王討伐お疲れ様。見事だったぞ」
「ありがとうございます。……ローザン様、フィル王子が無事に王国に帰れるように手配してくれませんか?」
「いいのか?」
「はい、確かに僕達はアイツに酷いことをされましたが…だからって仕返ししたい訳でも無いので」
「もしこのままアイツを無視をしたら、あのフィルと同じレベルになってしまうからな。それだけは避けたい」
「分かった。じゃあ奴らが城に帰るまでの間、呪文で一時的に強化しておこう」
(……フィル王子が勇者達を指名手配とか、勇者達に対して色々とヤバい手を打って来る可能性もあるし、暫くの間はフィル王子を監視しておいた方がいいかもしれないな…)
「で、君達はこの後どうするんだ?」
私の問いかけを聞いた勇者3人組は、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……この後どうするのかは…まだ決めていません」
「今までずっと戦ってきたからな……急に休みを取れと言われても、どうしたらいいか……」
「……あの、私達はこれからどうしたらいいんでしょうか…」
「……分かった、これからについてはじっくり考えるといい。
とりあえず君達には魔王討伐の記念に焼肉をご馳走してやろう。時間が来るまで楽しみに待つといい」




