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1話 生徒消滅

ピピピピピピ…ピピピピピピ…


「ん…朝か…」


私の名前は籠山智恵ろうざんちえ、カードゲームが趣味の女子高生だ。


今は朝、私は机の上に置かれている眼鏡を掛けると、枕元で充電をしていたスマホを手に取ってアラームを止めた。


『智恵、おはよう!』


机の引き出しの中から金髪の小人が飛び出し、綺麗な輪に腰掛けながら私の元へとゆっくり飛んで来た。


この子の名前はルルー。私が小さい頃に買った『アルカナワールド』のカードパックから突然現れた、『運命の輪』のアルカナだ。


ルルーは物凄く幸運で、ルルーが手に取ったカードパックからは必ずレアカードが現れ、自販機では高確率で当たりを引き、くじ引きも3等以上しか引いた事が無いと言う、物凄い子だ。


ルルーも凄いが、私にも凄い特技がある。


「『装備替え』!」


私は机の上から『装備替え』の呪文カードを手に取ると、はっきりとカードの呪文を唱えた。


ポ ン !


私の格好が一瞬でパジャマから制服へと変わった。


そう、私はアルカナが召喚出来る上にカードの呪文も現実で使えるのだ。


昔はまだ見ぬ世界への冒険に憧れて、自身の魔力を上げたりカードを買い集めたりしたものだ…


『智恵〜、ぼーっとしてると学校に遅刻するよ?』

「おっと、そうだったな。危ない危ない…」


歯を磨き、母が作った朝食を食べ、再び歯磨きをした後、学生鞄を持ってようやく外へと飛び出した。

「お母さん、行って来まーす!」

『行って来まーす!』

「智恵、いってらっしゃい。車に気をつけるのよ」


暖かな陽気の中、ルルーと一緒に通学路をゆっくり歩く。

「今日もいい天気だな〜」

『うん!絶好のピクニック日和だね!』

「ふふっ、相変わらずルルーはピクニックが大好きだな!…あっ、零令名!(れれな)おはよう!」

私は目の前を歩く背の高いショートカットの女子高生を見つけると、側まで駆け寄って声を掛けた。

「おはよう。朝から元気だね」

この女子高生は私の友人、雪乃零令名ゆきのれれな。美人でカッコいいし胸もある、おまけにスポーツや勉強の成績も良い凄い人だ。更に、普通の人には見えないアルカナの姿が見える珍しい人だ。

「フフッ、智恵は相変わらずルルーと仲がいいね。凄く羨ましいよ」

『でしょ〜?』


「智恵、零令名さん、おはよ〜」

後ろから可愛いボブカットの女子高生が私達の元へと駆け寄って来た。

この子の名前は羊々梨花理ようようりかり。小学生の頃からの私の友人だ。編み物が得意で優しくて可愛い。

「梨花理、おはよう!」

「梨花理さん、おはよう」

「うん、おはよ〜。ねえねえ、2人とも何の話してたの〜?」

「梨花理さんと智恵は相変わらず仲がいいから羨ましいねって話をしていたんだよ」

「えへへ〜でしょ〜?」



無駄話をしながら移動し、やがて高校に到着した。靴から上履きに替えて1年の教室へと移動する。


「あっ、そうそう…私、ちょっと美術室に忘れ物をしてたんだった。2人とも、また後でね!」

「うん。智恵、行ってらっしゃ〜い」

「行ってらっしゃい」


2人と別れた後、私は更に階段を上り、最上階にある美術室の前へと辿り着いた。

「『解錠』!」

扉に呪文をかけて鍵を開け、美術室もといカードゲーム部の中へと侵入する。(『解錠』の本来の効果は、山札の中から装備カードを2枚取り出すものである。ゲームでも現実でも中々便利なカードだ。)


周りを見回したり机の中を物色して、目当てのカードを探す。

「あった!やっぱり此処にあったのか!」

『見つかって良かった〜!』

「よし!教室に戻ろう!」

目当ての呪文カード『運命のコイン』を回収すると、山札から『施錠』の呪文カード(本来は相手モンスターの装備を外し、相手の山札の上に戻す効果)を取り出して美術室の外へと



ド  ォ  ン  !  !



「おわっ!?」

『キャッ!?』

突然、私の身体が謎の力により激しく揺さぶられた。ルルーもバランスを崩して輪からずり落ちそうになっていた。

「な、何だ…?」

『物凄い衝撃だったよ…?』


シーン……


暫くの間身を固めて余波を警戒したが、一向に何も起こらない。


「何だったんだ…?」

『あっ!智恵、時計が…!?』

「時計?……あっ!?」


何と、時計の針が30分も進んでいた!スマホの時計も確認すると、こちらも同様に進んでいる…!これは一体…!?


「…って考えている場合では無い!このままだと1限目の授業に遅れる!」

『うん!急いで教室に戻ろう!』


私は辺りを警戒しながら素早く階段を下り、静かに廊下を歩いて1年2組へと移動する。

『大丈夫!1組はまだ授業始まってないよ!』

(うん。だが、問題は2組だ…)


私は身を屈め、急いでデッキから『隠密』のカードを取り出しながら2組の扉に張り付いた。


(ルルー、室内の状況はどうだ!?)

『うーん、誰も居ないよ〜?』


「そうか……えっ、誰も居ない?」


ガラガラガラ……


私はこっそり扉を開け、教室内を見回したのだが…


「本当に居ない…」


私以外に生徒は1人も居なかった。先生すら居なかった。


まさかこれは…集団いじめ!?


『智恵!上見て!』

「ん?……な!何なんだアレ!!」

ルルーに指摘され、急いで天上を見上げた先にあったのは…



不自然に開いた巨大な穴



「何だこれ!?!?」

しかも穴の向こう側が不規則に変化している。これは明らかに異常だ。もしかしたら生徒が消えたのも、この穴が原因かもしれない…


『智恵!この穴の先に別の世界が見えるよ!』

「何っ!じゃあクラスメイトは皆向こうに…」


【あれぇ?まだ生徒が居たんだ】


「!?」『誰!?』


不思議な声がした方を向くとそこには、教壇の上に座る謎の白黒の男が姿を現していた。先程まで私達以外誰も居なかった筈だ、いつの間に現れたのだろうか。



「誰だお前は」

【僕?僕はあの穴の向こうの世界に住む…この世界で言う所の神様ってやつかな?】

『神様?神様がこの世界に何の用なの?』

【たいした用じゃ無いよ、ちょっとした遊びさ。こっちの世界の人間を僕の住む世界に連れてってね、他の神とゲームをするんだ】

「ゲームだと…?」

【ゲームだよ。平和な世界から戦った事の無い普通の人間を拐い、強いスキルを与えて僕が住む世界に放つんだ。今回はこの世界に白羽の矢が立ったって感じかな?】

「………」

【自分が連れて来た人間が、どれだけ歴史に爪痕を残したかによって勝敗を決めるんだ。君は…既に魔力が高い上に召喚も出来るんだ。戦える上につまんなそうだな…残念だけど君は向こう側へは連れて行けないな】


【でも、君は何だかムカつくからこの場で消すね】


自称神様は宙に浮かび上がり、ケタケタと笑いながらニヤついた顔を私達に向けた。



「『運命のコイン』!!」


【は?】


私はスカートのポケットから先程美術室で回収した呪文カードを取り出し、カードを相手に向けながら思い切り呪文を叫んだ。


シュッ…!


手に持っていた呪文カードから金色のコインが飛び出し、高い音を立てながら床に落下する。


【へぇ…絵を具現化出来るんだ。でも残念だったね、そんな玩具じゃ僕は倒せないよ?】


チャリン……クルクルクル……ピタッ


「表だ!」


【表?はっ、何それ?表が出たからって何が…】


『運命のコイン』


[『運命の輪』のアルカナが味方にいる場合のみ使用出来る呪文カード。


コイントスをし、表が出たら相手のモンスター、又はプレイヤー以外のアルカナを1体


消滅させる。]



パ   ァ   ン   !   !   !



【あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! ! ! !】


金色のコインから輝く稲妻が飛び出し、自称神様の身体を貫いた。


相手が消えない…だが、こちらの攻撃は効いているようだ。


【くそっ…!このクソガキ…!?】


シュッ!


[この呪文は敵が全て消滅するか、コインで裏が出るまでコイントスを続けなければならない。]


ピタッ…!


『表!』


パ ァ ン ! !


【ぐぅううう!!】

再び閃光が走り、男の身体を貫く。


【あ、ああ…わ、わ、悪かった!僕が悪かった!許して!!】

身体中がボロボロになった自称神様は、私に向かって頭を下げて必死に謝り始めた。

「……本当に反省したんだな?」

【うん!もうこんな事はしないからぁ…!】

「……分かった」

自称神様の懇願を一応信じた私は、呪文カードを持つ手をゆっくりと下げた。

「さて、他のクラスメイトが何処に行ったのか教えて貰おうか」


【……なんてなぁ!!んな訳無ぇだろ馬鹿女!!死ねぇ】


地面に座り込んでいた自称神様はすっくと立ち上がると、長くて鋭い爪と牙を剥き出しにし、私に向かって飛び掛かった。


「馬鹿はそっちだ!」


チャリーン…


【あ?】


私が手に持っていた呪文カードから再び黄金のコインが飛び出した。


【なっ!?攻撃はまだ続いていたのか!?】


ピタッ!


コインは直ぐに止まり、見せた面は…


「表だ」


【あ、あ、あああ……!!】

自称神様のかおが青ざめ、急いで真上に飛び上がって穴の縁を掴み、必死に向こう側へと逃げようとしている。どうやらこの神様にはもう瞬間移動や空を飛ぶ力は残っていないようだ。



パ   ァ   ン   !   !   !



【がぁぁぁあああああああ!!!!】

コインから放たれた稲妻が、ボロボロになった彼の身体中を貫いた。男は穴の縁から手を離し、床に落下した。


ドサッ!


【ぐゔゔゔ…ゔ…】

男は低い声で呻きながら床に倒れ込むと、体が砂のように崩れだし、やがて跡形も無く消滅してしまった。


「た、助かった…」

もし『運命のコイン』を使用し、コインの裏が出たら呪文の効果は消える上に、ルルーが1時間行動不能になる所だった為、この呪文カードの使用はあまり良い考えでは無かったと思う。だが、使わなければ私はこの場で殺されていたかもしれない。


『良かったー!!智恵なら絶対にやってくれると信じてたよ!!』

「私も相棒がルルーじゃなかったらこのカードを使うのに躊躇してたと思うよ。ルルー、ありがとう!


で……アレどうする?」

『あ…どうしよう』


私は未だに塞がらない天上の大穴を見上げ、ルルーと共にため息を吐いた。

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