始まり
私は『アルカナワールド』と言うカードゲームに夢中な、ごく普通の小学生だった。
「うーん…良いアルカナカードが出ないなぁ…」
まだアルカナワールドにハマったばかりの頃。
カードの為だけにわざわざ自転車を漕いでコンビニに行き、魅力的なジュースやお菓子には見向きもせず、お小遣いを全て叩いて購入したカード10パックを自室で開封していた。
『アルカナワールド』のカードパックの中には魔物や武器や呪文が描かれた『普通』のカード5枚、プレイヤーや切り札として使用する『アルカナ』のカードが1枚入っているのだが…
ペリッ!
「うーん…駄目だ…『塔』のアルカナが全く出てこない…」
当時の私は、『防御』や『プレイヤー』として大活躍する『塔』のアルカナを欲しがっていた。
ペリッ!
「ああっ!塔は塔でも王様がメインのアルカナ…プレイヤーとしては使えるが、これでは立派な壁にならない…!」
誰も居ない自室で独り言を呟きながら、次々とカードパックを開封していく。
「こ、これで最後…頼む!鉄塔よ出てきてくれ!!」
ペリッ!
「……こ、これは…白紙?」
本来キャラクターが描かれている部分に何も描かれていなかった。
私は白紙のアルカナを掴んだまま膝から崩れ落ちた。
「あ、あんまりだぁ…最後の最後がこんな結果に終わってしまうなんて…」
私は泣きそうだった。暑い中わざわざ自転車を漕ぎ、お小遣いを全て使って購入したのに、欲しいカードが出ない上に不良品を掴まされてしまったのだ。この出来事は当時小学生だった私を泣かせるには十分だった。
「くっ…まだ…まだだ!このカードを会社に送って、お詫びとして塔のアルカナを貰えばいいんだ!よし!そうと決まれば今すぐ封筒を持って来よう!!」
絶望の中に希望を見出した私は急いで自室から飛び出して父の書斎に入り込むと、机の引き出しの中から茶封筒と便箋を1枚取り出した。
「父さん、封筒と便箋を借りていきます!よし、次は手紙だ!」
封筒と便箋を手に急いで自室に戻ると…
『うーん…主人はどこに行ったんだろう…』
私の机の上に小さな人が浮いていた。
ポニーテールで纏めた金髪、黄色のスカートを身に纏い、直径15センチ程の綺麗な輪の上に器用に座り、辺りを見回している。
「えっ、な、何これ…」
思いがけない出来事に、私は手に持っていた封筒と便箋を床に落としてしまった。
『あっ!貴方が私の主人ね!初めまして!!』
金髪ポニーテールの小人は、金色の瞳を輝かせながら私の元までゆっくりと飛んで来た。
「あ、貴方は、誰…?」
『私はルルー!『運命の輪』のアルカナだよ!』
「ルルー…」
『うん!』
「ほ、本当の…本物のアルカナ!?」
『うん!!』
アルカナが動いて喋っている。こんな現象、アニメの中でしかあり得ないとばかり思っていた。だが…
「わ…私の名前は智恵!籠山智恵!私の事は智恵って呼んで!」
『智恵って言うのね!宜しく!』
私は嬉しかった。まるで自分がアニメやゲームの主人公のような、特別な存在になったような気がしたのだ。私は嬉しくて今にも泣き出しそうだった。
『智恵、2人で一人前のアルカナマスターになろうね!』
「うん!ルルー、これからも宜しく!」
ルルーと出会った瞬間、まだ見ぬ世界への大冒険が始まったような気がした。
この日から私はルルーと共に、一人前のアルカナマスターになる為の特訓を始めた。
「うわっ!本当にカードから呪文が出た…!?」
『智恵、その調子だよ!次はこの呪文カードを使ってみようよ!』
呪文カードを使用して現実でも魔法が使えるようになった私は、何度も何度も呪文を使用して自分の魔力を強化していった。
「ルルー!レアカード来た!」
『私は幸運を呼ぶアルカナなんだよ?何枚でもレアカードを当ててみせるからね!』
戦力強化の為にカードを大量に購入し、新しい仲間も得た。
『智恵、大好きだよ!』
「ルルー!いつまでも一緒に居ようね!」
ルルーとの絆も強くなった。いつアルカナバトルが始まっても、異世界への大冒険が始まっても大丈夫だ!
数年後……
呪文カードでビルの上に移動した私は、ルルーと一緒に夜景を眺めながら会話をする。
「ルルー、私は強くなったよね…」
『うん、チエの魔力は十分強くなったよ!』
「強力は武器や呪文、そして新しい仲間も迎え入れたよね…」
『うん!悪魔さんとか戦車さんとか魔女さんとか、色んなアルカナが仲間になったね!』
「うん、だけど…
何も起きないな…」
『うん…何も起きないね…』
そう。私は物凄く強くなったのに、同じ力を持った人同士のアルカナバトルも事件も一向に起きなかった。
「私、来月から高校生なんだけど…」
『入りたい高校に受かったんだよね!おめでとう!』
「ルルー、ありがとう」
ずっと大冒険を待ち続けた結果、ついに私は高校生になってしまった。
もう大冒険に期待するのはやめて、仲間と和気藹々と暮らそう。うん、平和が1番だ!
「ルルー、今から晩ご飯食べに行かない?悪魔の奢りで」
『行く!私ハンバーグ食べたい!」
「ふふっ…じゃあ決まりだ!今日はやけ食いだ!!」
もう、これで大冒険に期待するのは終わりにしよう。
そう思っていたのに…
1ヶ月後、あんなとんでもない事件が起こるとは…
当時の私は夢にも思わなかったのだった。




