第九話 「魔王と勇者、そして・・・」
ここは魔界。魔王は暇を持て余していた。
魔王と副臣は、勇者を魔王城に滞在させることにした。その話を終えて解散しようとした面々の目の前に現れたのは・・・。
ここは魔界。
魔物達巣食う混沌の世界、魔界である。
魔界にも夜はある。
大地を照らす太陽が沈み、闇が支配する黒の世界。
昼は昼で瘴気の霧と本物の霧とが混じり周囲が見えなくなる時もあるが、大概は下界こと人間達が住む世界となんら変わりは無い。
現在、魔界は夜。副臣が勇者一団に滞在を提案した直後である。ちなみにまだ皆ぬくえの周りを囲んでいる。要するに前回の続き、まだ暗い王の間に全員いるのだ。
そして解散し、副臣は勇者一団を適当な部屋に案内でもしようと考え、魔王が今日は疲れたぁ~と心の中で魔王スイッチをオフにしようとしたその時だった。
「あのぉ~」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然背後から声を掛けられ魔王がビクッとなり悲鳴を上げる。
その魔王の悲鳴に勇者一団もビクッとなった。ちなみに魔王スイッチとは、魔王が魔王として魔王らしくするために自らの中に作ったものであって実際に魔王の背中とかにあるものではない。さらに言うとあまり意味はない。なぜならこの争いの少ないまかいでは、魔王らしくする場面がないからである。
「だ、誰だっ!?って近衛兵じゃないか、驚かすな」
「・・・すみません」
「お前ボロボロだな、どうした・・・あ」
魔王は言い切ってから思い出した。近衛兵が勇者登場の際の犠牲者であることを、そしてその後近衛兵のことをすっかり忘れていたことを。
「・・・・・・・」
捨てられた子犬の様な眼で魔王を見る近衛兵。
「・・・なんか、すまないな」
「いえ、自分がここに来た目的を忘れたのが始まりでしたから」
「そういやあれ、なんだったんだ?」
「勇者が近くに来ていると報告に来たのでした」
うわぁこいつタイミング悪いな。とか魔王は思ったが、ボロボロの近衛兵にそれを言うことはしなかった。この魔王、とてもいい魔物であり王様である。
「ところで魔王様」
「なんだ?」
「この方達は?」
近衛兵は勇者一団を見て言った。勇者登場の際吹き飛ばされて以降、気絶していた近衛兵はまさか自分を吹き飛ばしたのが目の前にいる者たちで、それが勇者だとは思わなかったのである。
「勇者だ」
あっけらかんと言う魔王。
「え?」
「だから、勇者だ」
近衛兵の目は点だった。
「・・・・えぇぇぇぇゴバァ!!!」
「っ!?」
だいぶダメージが残っていた近衛兵は、驚き過ぎて血を吐いた。
「こ、近衛兵!?」
以下、近衛兵を回復させ、現在の状況説明を副臣がしました。
「なるほど・・・」
「まぁそういうことだ、勇者達はこの魔王城に滞在する事になった」
すっかり回復した近衛兵は戸惑いながらも勇者を見た。
「というか、勇者」
「ん?なんだ?」
「女なのに勇者になれるんだな」
「だぁぁぁぁ!終わりだ終わり!もう解散、暗いしまた明日!!」
まくし立てる魔王。だがその内心、最初に勇者を見た時に思った疑問が気にならないわけではない魔王だった。
そして、今度こそ魔王城に勇者が住むという前代未聞の生活が幕を開ける。
「そういえば女勇者は珍しいとか話してましたなぁ」
「副臣も黙れ!!」
閑話休題。
――それから数日。
魔王城に滞在し、勇者一団について見聞きし、わかったことがある。それをまとめてみよう。
・まず、ある男が勇者一団を魔界に送り込んで来たということ。
・その男は数十年前に勇者一団がいた町に来た。
・その男が勇者一団の師匠である。
・勇者一団はその男に子供の頃から鍛えられた。
・勇者が女なのは四人の能力を考えて役割を決めたから、とのこと。
これらから考えるに勇者一団はその師匠とやらに上手いこと使われたということだ。そして
・勇者は凛とした見た目と反し意外とおバカ。
・武闘家も運動能力に全てを持っていかれたのか頭はおバカ。
・その二人をいつも弓使いと魔法使いはいじっている。
・そして勇者が泣き武闘家が怒る。
・弓使いは年齢の事を言うと怒る。
・魔法使いは普段あまり喋らない。
・年齢は低い方から魔法使い、勇者、武闘家、弓使いの順である。
これが勇者一団の大まかな個人的情報である。
そして当の本人達はというと。
「おらぁ!」
「ふんっ」
「・・・まだ」
「こっちよー」
四人で柔らかめの球を当て合い、当たった人はまた違う人を当てるという、いわゆる当て鬼をしていた。魔王城の中庭でである。
「ほらほら来いよ勇者ぁ!」
「ぐぬぅ、待て武闘家!!」
「へっへー、こういうので俺に勝てるわけないだろ?」
「へやぁっ!」
狙いを定めて武闘家に球を投げる勇者。
「ほっ」
それを軽々と避ける武闘家。
そのまま飛んで行った球を取りに走り出す勇者。
「勇者へたっぴー、はっはっはっ」
「――っ!」
へたっぴーの言葉でピタリと身体が止まる勇者。
「・・・・」
「勇者?」
弓使いが動かない勇者に近付く。
「だいじょ――」
弓使いが勇者の肩に手を置いた瞬間、勇者は弓使いにがばぁっと抱き付いた。
「ひゃっ!」
そして、
「私へたっぴじゃないもーん!!うわぁぁぁぁあ!!」
勇者は泣き出した。
「・・・泣かした」
「あ!?俺か!?」
「・・・完全に武闘家は煽ってた」
「えぇ~」
不満そうな武闘家。勇者は弓使いのなかなか大きな胸に顔を埋めて泣いている。
「悪かったよ勇者。勇者はへたっぴじゃない」
「ぐずっ、本当か?」
充血した目で勇者が武闘家を睨む。
「本当だ。勇者は上手い方だ」
「なら、いい。ぐずっ」
拗ねながらも許す勇者。
なんとなくほんわかした空気が流れ出す。
「ってなんなんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ここで登場、魔王である。
「ここ一応敵地でしょ?なにしてんの?ねぇ!?なにしてんの!?」
「いや、暇だから」
「確かにそうだろうけど、緊張感無さすぎだろっ!?ごほっげほっ」
叫び過ぎて咳き込む魔王。
この勇者一団が来てからというもの、もともと来ない勇者が更に追加で来るわけは無く、またやることのない暇な日々に戻ってしまったのだ。
そんな状況に飽きた勇者たちはご覧の有り様であり、魔王はそれをおかしい状況と判断できていたのである。
「・・・っておい・・」
魔王がむせている間に向こうでは勇者一団が当て鬼を再開している。
やる事がない魔王は空を仰ぎながらぼやく。
「あぁ、なんだかなぁ」
先代魔王と現魔王が強過ぎたたせいで勇者が殲滅され、平和になってしまった。
久々に来た勇者でさえ特に理由もないと知って闘うのを止めてしまう。
そうして今日も魔王は暇を持て余すのだった。
そう、ここは魔界。
悪鬼羅刹の魔物達巣食う混沌の世界、魔界なのである。
ただ、今は少しだけ平和なだけ・・・。
「・・・あいつら」
そんな勇者一団を遠くから見る影があった。その姿は以前、この魔王城に侵入したあまり綺麗ではないローブを目深に被った人物であった。
第一部、終結!!
ご意見、ご感想、質問等ございましたらお気軽にお願いいたします。
第一部終結となりましたが、別段部で何かが変わる訳ではありません。おおまかな第一話が終わったようなものです。
ここまでたくさんの方々が読んで下さり本当に嬉しい限りです。これからも投稿していきますので、読んでください。本当にありがとうございました。




