第十話 「暇すぎて」
ここは魔界。魔王は暇を持て余していた。
魔王城に勇者が滞在してしばらく、城から出ることも禁じられ、あまりの暇さに勇者も限界だった。
ここは魔界。
魔物達巣食う混沌の世界、魔界である。
だが、現在この魔界は平和である。
先代魔王が来たる勇者をばったばったと倒しまくり、とうとう勇者が魔界にあまり来なくなってしまった。ここ重要なのでもう一度。あ・ま・り、来なくなってしまったのだ。いくら魔界と言えど敵がいなければ争いも起きないというわけである。
平和な魔界では、魔王などやることがない。つまり暇を持て余しているのだ。
この物語はそんな魔王とその副臣、それに関わる様々な者達のお話。
え?そうだったの?とかは言わないでいただきたい。そうだったんです。
気を取り直して。
そんな魔界にも久々に、女勇者を筆頭とした勇者一団が来た。
結果から言ってしまうと、勇者一団は副臣にボコボコにされ、魔王に殺されかけた。
しかし魔王と副臣は、なぜ今まで勇者が魔界に来て魔王の命を狙うのかを知らなかった。ということでボコボコにした勇者一団を回復させ理由を聞いてみると、ある男に「魔王が近いうちにこちらに攻め込んで来る、その前に倒してしまえ」と言われて来たらしい。
しかしもちろん魔王はそんな事をしようとはしていない。
そうして、勇者一団に嘘を吹き込んだその男について聞こうと、勇者一団を滞在させた魔王と副臣。しかし大きな手がかりは無く、勇者も戦わないので、またも暇な日々に戻ってしまったのだ。
これがここまでの「ここは魔界」のあらすじである。
さて、勇者が滞在して既に10日が経過したある日。
「東の森にて久々にゴージュが暴れております」
「まーおーうー」
「おぉ、本当に久々だな。四年振りくらいか?」
魔王は現在、魔王城最大の部屋『王の間』にて副臣と魔界の現状について世間話、もとい打ち合わせ中だ。
「しかも群れて行動しているとか」
「本当か、それだと十年振りくらいだな」
「ま~お~う~」
ゴージュとは魔獣の一種で、簡単に表現するならば「すげぇつよい猪」である。
「近隣に住む魔物達から多数の返り討ち報告が入っております」
「ははっ、東の奴らは弱いからなぁ」
「まぁおぉうぅ」
返り討ち報告とは、読んで字のごとく「返り討ちにされました」という報告である。
魔物達は、元々好戦的な者が多いので魔獣が現れたからといって救援を呼ぶような輩はいない。それ故返り討ちにされてから報告を入れるのである。
「・・・ゴージュか、狩りに行くか?副臣」
「いいですなぁ」
「まぁ~おぉ~うぅ~」
「「・・・・・」」
皆さんお気付きだとは思うが、先程から魔王は名前を呼ばれている。それを無視して話をしているのだ。
「まぁぁお――」
「なんだっ!しつこいぞ勇者!」
そう、魔王をしつこく呼んでいたのは勇者であった。勇者はぬくえ(魔力を与えると熱を発する石の上に机を置きさらに毛布と机に合わせた木の板を被せた、現代で言うこたつのようなもの。命名魔王。)の中でぐったりとだらけていた。
「ひまー」
「ぐっ」
このやりとり、実は今日だけですでに四回目である。だから魔王は勇者を無視していたのだ。
「魔王~暇だぞ~」
元々魔王を倒しに魔界に来た勇者一団である。暇つぶしの道具などあるわけもなく、さらに勇者一団は、現在魔王城から出ること禁じられている。その理由というのが、ここ数日にかけて魔王城周辺の森が荒れているという報告が連続して入ってきたからである。今魔王達が話していたゴージュもその一つである。
つまり、勇者は暇であった。
「何度も言わなくてもわかる。なんなんだお前」
「だって~やることないんだもん。このお城から出たいぞ~」
「ダメだ」
「なんで?」
「何度も言っているだろう。ここは魔界だ、下手に外を歩き回ると殺されるぞ」
「誰に?」
「それこそゴージュなんかの魔獣にだ」
「大丈夫だ!私達は強いから!」
「はっ、この俺に一撃すら与えてないお前らが強い?笑わせるな」
「あの時は、ひっ」
魔王は勇者を睨みつけた。
先日の記憶が蘇り恐怖する勇者。
「わかりました我慢します」
「わかればいい」
恐怖故に自然と敬語に戻る勇者。殺されそうになった恐怖は簡単には拭えないのだ。
ちなみに勇者の口調が馴れ馴れしかったのは、勇者が仲の良くなった人に甘えたがる性格だからである。つまり勇者は魔王と仲良しになったつもりだったのだ。
というか魔王が勇者の心配?をしているのもどうかと思うのだが。
「むぅ~、暇だぁ」
そんな勇者は口を尖らせしょんぼりしながらぬくえに潜る。それをちらりと見る魔王。
「・・・よし、じゃあ行くぞ」
「へ?」
突然の魔王の言葉に、鳩が豆鉄砲をくらった顔をする勇者。
「どこへ?」
「今の俺達の話を聞いてなかったのか勇者。東の森でゴージュが暴れている。それを狩に行くのだ」
「狩?・・・ってことは外出るのか!?」
「そうだ」
勇者の顔が一気に明るくなる。
「やったぁ!狩だって狩!!弓使い!」
「聞いてたわよぉ」
テンションが急上昇した勇者は弓使いに向かって眩しい笑顔で言う。それをまるで母のような瞳で見る弓使―――
「誰が母ですって?」
・・・弓使いさんはとても若くて美人なので背後にゴゴゴゴゴなんて見えません。
「どうした?弓使い?」
「いいえ、誰かになにか失礼な事を言われた気がして」
女の勘はとても恐ろしく鋭いのだ。皆さんも気をつけて欲しい。
「なにをぐちゃぐちゃ言っている。早く行くぞ」
「わかった!」
「わかってるわ」
「そういえば他の二人はどこだ?」
副臣が指摘した通り、武闘家と魔法使いは王の間にいない。
「近衛兵さんと武闘家は庭で手合わせだって」
「あぁ、手合わ・・・ん?」
「どうかされましたか魔王様」
「勇者、誰が武闘家と手合わせだって?」
「え?近衛兵さんとだけど」
「・・・・・」
「魔王様?」
「どうした魔王?」
実は副臣、もう理由がわかっているがあえて魔王を泳がせているのだ。口元がニヤついているのがその証拠である。
「・・・なぜだ」
「なにが?」
勇者はまだわかっていないようだ。
「なぜ勇者は近衛兵には"さん"付けで、俺は呼び捨てなんだ!!」
「え!?なに急に!?」
「だ・か・ら!なんで俺は呼び捨てなんだ!近衛兵は俺の部下だぞ!?」
憤慨する魔王。この魔王は変なところで小さい性格なのだ。
「まぁまぁ魔王様、敬う心と呼び方はまた異なりますよ」
「副臣に言われると腹が立つな」
「そ、そうだぞ魔王!私達は魔王と会う前から魔王を魔王と呼んでいたし。こ、近衛兵なんて口に出したこともなかったから、なんか、こう、呼びづらくて」
焦りながら弁解する勇者。余程魔王を怒らせるのが怖いのだろう。
「ふん、ならまぁいい。さっさとゴージュを狩りにいくぞ」
「う、うん!(あぁ、よかったぁ!)」
弁解も成功し、安心した様子の勇者。冷や汗が流れている。
その後、城庭にいた武闘家と魔法使いと合流し、近衛兵は留守番をすることとなった。
早速東の森に向かう六人。現在城門を出て数十分、既になかなかの距離を全員歩いて移動している。
「なぁ、そのゴージュってのはそんなに強いのか?」
武闘家が頭の後ろに手を組みながら魔王に聞いた。武闘家は基本的に武器を持たないので歩くいつも手がふらふらとしている。
「あぁ強い。動きは速いし攻撃力も高い。俺と副臣が二人で戦ったとしても、一匹倒すのになかなか時間がかかるだろう」
魔王は以前のごてごてした魔王装備は付けず、軽装備に細身の剣を一本だけ持ってきている。
「でも勝てるんだろ?」
「まぁな」
武闘家は楽天的な性格である。いい意味でも悪い意味でも。
「だが、今回は群れだ。俺達でも油断出来ない。それは覚えておけ」
「ん?魔王は魔界で一番強いんだろ?なんでそんなに緊張してるんだ?」
今度は勇者が魔王に聞く。
「それは―――ッ!!」
「魔王様!来ますぞ!」
「わかってる!」
副臣のその言葉とほぼ同時、魔王が一番後方にいた弓使いの背後に回り込み、剣を抜く。
ガギィッ!!
「ぐっ!」
辺りに鋭い鉱物同士がぶつかり合うような音が響く。
「よく見ておけっ!!これがゴージュだ!!」
魔王にぶつかってきたそれは、顎から生えた牙が鼻の先で一体化し、一見巨大なドリルの様な容姿をしており、さらに殺気を練って固めたかの様な雰囲気を纏う。
序盤で「すげぇつよい猪」と言ったが改めよう。猪などは目ではなく、その突進は岩をも貫き、生きた木でさえへし折る威力。魔物などには風穴を開ける。現代の表現をするなら猪のようなミサイルである。
「お、おい、今飛び込んで来たの見えたか?」
「いや、早過ぎて見えなかった」
武闘家は早くも相手の悪さを感じていた。
素手であれを止められるのか。受け止めて大丈夫なのか、
「副臣、ここはもう東の森に入っているのか!?」
魔王は突進して来たゴージュを押し返しながら言った。
「まだです!ゴージュが移動したのかと」
「陣を作れ!早く!背中を見せるな!」
魔王が勇者一団に呼びかけ、すぐさま背中合わせの円陣をつくる。
「なっ・・・」
陣をつくった勇者が見たのは、自分達の全方向を囲む無数のゴージュ達の姿だった。
「来るぞっ!!」
待て!次回!
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久々の投稿で文も乱れているかもしれませんが温かい目で読んでください。




