あとがき
ここまでお読みくださった方、貴重なお時間をありがとうございました。
誤字脱字、用語の誤使用など多々あることと思います。
終わらせ方もロマンチック要素皆無で肩透かしを食らわせてしまったことと思います。
申し訳ないです。
ストーリー構成もゆるいし表現も間に合わないし、書けば書くほどまとまらなくなる状況に作者自身戸惑いつつも、結局は自分の好きなように書き散らかしてしまった感があります。
初心者の暴挙と流していただけると幸いです。
思えば短編が好きなのです。それが書いてみたらこの始末でございました。
30話を越えたあたりで気づきましたが、自分の文章、やたら「〜した」「〜だった」が多く、
某ケンシロウさんのように「アタタタタタ!」と「タ」の連発に読み返して大笑いしたのはよい経験でした。
多少手直ししましたが「タ」の名残はそこかしこに。
こんなに文章を書くのが難しいとは知らなかったのです。
これからはもっと文章を大事に読みたいと思います。
書く、ではなく、読む。書くのは懲りました(笑)
それでもまた思い出したかのように何か書く時は、発表前に完結させてから文字校正をしつつ更新するようなやり方をしたいと思います。
なんかこう、スマートに。
最後に、この話、マァナよりクロスが主人公だろうとお思いの方が多いかと存じますが、ソコんとこだけは「主人公マァナ」と言い続けさせていただきたいと思います。
いろいろ無頓着で忘れっぽく、悩んでいるのかいないのか、作中一理解しがたい性格のマァナを(作者が)愛でるための物語でございました。
ご感想はありがたく受付中のままにしますが、どうか、今まで頂けたご感想のように優しくお願いいたします。
当方、途方もない怖がりです。切にお願いいたします。
今後の返信は遅れがちになると思われます。ご了承下さいませ。
それではこんなあとがきにまで目を通すお時間までくださった方へ。
ほんのささやかなオマケをどうぞ。
縁あわせ 蛇足
『初夜』※イラスト有り
ある程度の期待を持って風呂に入ってしまう気持ちは否めないとクロスは狭い湯船に身を浸し、酒気を飛ばしながら考えていた。
テサンの結婚式とは式であって式でなく、なんと言うか井戸端会議であり飲み会であった。
癒すべき疲れが見当たらない。
双葉達に暗示をかけられているせいか娘の行動範囲は狭く、回る順路は距離にして2km程度のものだったのだが、行く先々で住人と長話をするせいか予定していた2時間の行軍はあっという間であった。
喋るのはマァナばかりでクロスは娘とテサン住人達の会話を聞くばかり。
それは子供の頃のマァナを的確にクロスの前へとさらけ出し、短時間で腕の中の娘の全てを知ったような気さえした。
まさか、マァナがこの界隈のガキ大将格だったとは思いもよらなかった。
本人は「あたし、ちょっと文字に強かったから皆とお勉強してただけだよ」と否定していたが。
すでに彼女の「ちょっと」が「ちょっと」の範疇に収まらないという事は薄々気がついていたので、幼馴染全員がヴィネティガの高等教育並みの言語理解をしているらしいことにクロスはさほど驚きはしなかった。
すでに兵役へ出向いた者達はそのほぼ全員がヴィネティガの末端だが役人になっているらしい。
「昔はねぇ、おかしなことばかりする子だと思っていたけど、うちの息子と遊んでもらっててよかったわぁ」
苦笑混じりに語ったのはマァナより5歳上の息子を持つ母親で、兵役に召し上げられた当時はまだ戦時中で戦場へ駆り出されるとばかり思って毎夜枕を濡らしていたらしい。
それが蓋を開けてみれば戦場ではなくヴィネティガ城内で頭仕事をすることになったのだ。
感謝してもしきれないと、彼女の昔やった『おかしなこと』を洗いざらい暴露して恩をあだで返してきた。マァナは困り顔で「今日聞いた事は忘れてください」とか細い声でクロスに告げるばかりだった。
忘れられないだろうとクロスは思う。
水祭の足場に登って落ちかけたこともあるそうだ。水の花の気分になるためだったとか……。
この娘が五体満足なうちに出会えてよかったとつくづく思う。
そうしてテサン騎士達の妨害(?)を経て、どうにか無事にマァナの足を双葉亭に降ろしたとたん娘は跳ねるように逃げてしまい、次にクロスの目に入った時には着飾っていた服もヴェールも脱いで化粧も落とし、いつものような簡素な服を身にまとっていた。
「だってあたしは今日の主役よ? その主役がみんなをおもてなししなくてどうするの?」
当たり前のように言う娘は双葉亭の営業時と同じように給仕をする。
ならば自分は何をすればと問えば
「お客様の接待ね」
と酒瓶を渡されたので酌でもしようかと腰を浮かせれば、テサン騎士達に止められ逆に酌をさせてしまう始末。
途中からヴィネティガ騎士のガナディアもやってきたのだが、やはり接待するどころか未だに頭を垂れられて謝罪を言われた。
彼は折を見ては水祭の時、強制労働中の罪人を逃した事を持ち出してくる厄介な男と化している。
結局、クロスは働きまわる嫁を眺めながら飲み食いしていただけ。
台所仕事の方も近所の婦人方が助っ人に来たりで、何も手伝うことはなかった。
それでなくてもクロスの図体では双葉達が厨房に招くとは思えないが。
飲み会、いや、食事会は昼から始まり夜の来訪と共に早々の解散となった。
温んだ湯を混ぜ返す。
すでにマァナどころかリーンもレーンも浸かった風呂へ最後に放り込まれたクロスである。
そろそろ頃合かと思う。
娘が『初夜』を正しく理解しているとは思わないが、なにがしらか心づもり位はしているだろう。していてくれ。
時間をかけて衣服を着込み、二階へ続く階段を上がる。
だから、ある程度期待するのはしかたないのだ。
何度目かにそう考えつつ、どうにも早る気持ちを押さえながら登りきったところでクロスの口はポカンと開いてしまった。
「お、お風呂いかがでしたか?」
そう問うマァナがおかしな場所に居る。
廊下の壁と扉に挟まれているのだ。
問題は扉に集約される。
なぜなら完全に木枠から外れて倒れかかっており、それをマァナは挟まれた状態で懸命に押し上げているのだ。
何がどうしたらそうなったのか尋ねたいのだが、クロスの口から出たのは「リーン! レーン! 頼むから来てくれ!!」という双葉亭に響き渡る叫びだった。
「「なんだよ、騒々しい」」
階下からさも面倒くさげに現れた女二人はマァナを見て軽く言う。
「あんた今度は何やらかしてんだい?」
「外れた扉とクロスでも間違えてんのかい? ま、似たようなもんだわね」
「そ、そんなわけないでしょー。ほら、初夜だし? クロス様に安心できる場所を提供したくて」
もごもごと言い訳を始めたマァナを開放するべくクロスは扉を片手で持ち起こす。
扉の影からちょこちょこと出てきたマァナは少し汗ばんだ額を油のせいか黒く汚れた手で拭いながら見上げてきた。
どんだけ頑張って扉を外したんだマァナ……。
「ほら、クロス様、扉怖いって言ったでしょ。ちょっと取ってみたらどうかしらって思って、いじったら取れちゃって?」
「言ったのかい」
「言うには言った。扉を開いて世界を越えたのでまた飛ばされるのはたまらないと……」
双葉達とクロスは視線を交わすと、互いに何か腹の底からせり上がってきたものを感じる。
それはくすぐったい笑いの衝動。
「だ、からといって扉を外されるとは、夢にも思わなかったわけだが」
「だ、めじゃないか、この子、底抜けに馬鹿になることが多いんだから」
「だ、誰が初夜の部屋の扉を外すような、ことっ」
静かだった双葉亭はこうして3人の大爆笑に包まれることとなった。
「だははは、ダメだ、殺される、笑い殺される」としきりに騒いだ後、無言で扉をクロスが元の位置に押し当て、やはり無言の双葉達が転がっている工具で再び取り付けた。
「いいかぃ、あたしらを馬鹿に巻き込まないどくれよ。腹が筋肉痛になるわ」
マァナの額と手を布で拭いながらそう言いおいて双葉達は階下へ戻っていった。
「……どうして、3人で楽しそうなの」
「それは君のおかげだろう」
クロスは無事に取り付けられた扉を開いてマァナを引き入れた。
ある程度の期待はこの時点で吹き飛んだ気がする。
ランプと夜明かりに照らされた室内は昼間ほどではないが明るかった。
「今夜は闇の魔術王様の空壁が特に薄いわ。きっと明日も暑くなるのね」
夜は太古の炎の魔術王が打ち上げた火球を、これまた太古の闇の魔術王が一定時間遮断する壁を作ったことでもたらされている。
月も星もない。似たものはあるにはあったが、それは空壁の穴であり、月穴、星穴と取って付けたかのように呼ばれている。
夜空自身が青白く光っているためにその存在は希薄だ。
「マァナ」
いつまでも見蕩れるべき星々の無い空を見上げる娘の名を呼ぶと振り向いて無防備に近寄ってくる。
ベットはまだ乱れていなかった。
クロスが来るまで待っていた、というか扉を外すことに専念していたようだ。
再び笑いがこみ上げる。当分この娘の顔を見ると外れた扉に挟まれた奇怪な姿を思い起こしてしまうことだろう。
クロスは迷いながら娘の腰に手をあてて引き寄せ、共にベットへと座り込む。
「おお、初ベット」
マァナはそのままくたりと身を横たえる。
これはもう、あれだ。この娘はまるで分かっていない。
予想していたことに半ば呆れ、それで自分はどうしようかと悩む。
細すぎる腰に手をやってみても子供だからと一線を引いていた心はすでにあやふやだった。
この手の中で初潮を迎えた娘が育ちきっていないのは重々承知。
だが、箍はというと外れたまま。
それでも娘との約束は『16歳になったら女扱い』
どうかしている、と思う。どうにかしたい、とも思う。
だからクロスはここに来るまでに切り札を用意していた。
巧く娘どころか自分をも言いくるめる手立てだ。
急いてはいないが手には入れたい。
昼間に見たあの胸を直に触りたいとも思うのは男としてなんらおかしなことではない。
「クロス様、難しいお顔。何を考えてるの?」
「君との正しい初夜について考えるのに忙しい」
言うと照れたようにマァナは嬉しげな笑顔をこぼす。
「君を子供だと言った口で今更とは思うが、俺は頑なに自分の生まれた世界の習わしに囚われ続ける事も無いように感じている。それでも植えつけられた良識という観念はいかんともしがたいのではあるが、君を前にするとそれらは抑える必要のあるものであるのかすら定まらず」
「クロス様、まわりくどい。アスラファール様みたい?」
「ぅむ」
クロスは寝転がったマァナにひっぱられて、自らも横たわる。
柔らかすぎないベットの寝心地は良く、やはりこういった物は補佐官に探させて正解だったと一人納得する。ヴェールのついでにと頼んだ物で、ヴィネティガで見繕ったらしい。「マットの具合は私自身、ごろ寝して調べました」と言った補佐官に文句をつけてしまった事を今後悔していた。
それよりも、とクロスは半ば強制的に意識をベットの寝心地や、目の前に広がるマァナの夜明かりを浴びて淡く光る髪から遠ざける。
どちらも浸っていては心地よい眠気に襲われるのだ。
今こそ用意してきた切り札を使う時だと、半身を起こしてマァナを囲うように乗り上げる。
「郷にいりては郷に従えと言うではないか、だから俺は今夜からでも君を」
女として扱う、という言葉は遮られ二度とは言えない状況に持ち込まれる事となった。
何故ならば、マァナは首をかしげたのである。
「ごーにりて?」
それだけでクロスの戦意は音を立てて崩れ落ちた。
「な、無いのか、言葉が、そうか。そういう危険もあったか」
男という生き物には繊細で折れやすい部分もある。
そしてクロスは自分が一度折れるとなかなか面倒であると先日知ったばかりでもあった。
「言葉神様が苦手な言葉なのかも? どういう意味?」
言葉神め。
そう憤りを感じるのと同時に、この浸透していない言葉をさらりと使った白い老婆に不可解さを覚えた。
「マァナ、隣の、ゼタの主は」
「ミヨコさん?」
美代子か美夜子、もしくは三代子か。
詮索はやめよう、とクロスは思う。
あの年齢まで生きて、穏やかな表情をしているのだ。
今更、異世界だ、日本だ、と言いながら近づくのは無粋だ。
「もう、クロス様。初夜なのに心ここにあらずだわ。もっとあたしに集中してください」
「集中すると、大変な目にあうぞ?」
「大丈夫。乳と尻を揉まれる覚悟は出来てますっ」
「……」
「あ、子供にはしないとか言われてもこれに関しては恥ずかしいのでいいですよっ。
大人扱いまで待ちますから」
クロスは今頃になってマァナの中の『女扱い』の定義に疑問をもった。きっと本人もよく分からず言っているのではなかろうかと。
乳と尻を揉むのが『大人扱い』ならば『女扱い』は何をどこまでしていいのだろう。
ゆるく吐き出すため息に『ある程度の期待』の最後のひと欠片が混ざって落ちていく。
中途半端な知識と覚悟を前にさすがのクロスも今夜全てを致す気分ではなくなった。
だがしかし、揉まれる覚悟が出来ているのならばちょっと揉ませてもらおうかと腰をあげたのであった。
批難されたら「嫁扱いだ」とでも言ってのけよう。
本当に揉めたのかな? それすらあやふやで終わりとうございます。
ただ、確かに言えるのは、『クロスはせっかちです』ということだけです。
ちなみにイラストは朝の様子です。
あれ、着乱れてない?
クロスの心が折れたのかもですね。




