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コスパの悪い魔法の世界で、僕は地球に論文を送る。 ~異世界転生した天才物理学者は事象の地平線を越えて真理を証明する~  作者: あとりえむ
第2部:シュバルツシルトの深淵編

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第59話:最終調整

東の空が白み始め、ヒルベルト魔導学院を包み込む冷たい空気が張り詰めていた。


学院の外周では、五千名の聖騎士団が一糸乱れぬ陣形を整え、いつでも結界を破壊してなだれ込めるよう攻撃魔法の詠唱準備を完了させている。


皆既日食が始まるまで、あとわずか。


重力的な空白地帯が訪れるその瞬間にすべてを懸けるため、私たちは第4廃校舎の地下施設で最終調整に入っていた。


「持ってきたぜ、レイ。俺の商会が誇る最高のクッション材で包んでな」


リックがひどく慎重な足取りで、厳重な金属製のケースを抱えて階段を降りてきた。

私はケースを受け取り、中から手のひらサイズの透き通った水晶基板を取り出す。


「よくやった。絶対に落とすなよリック。僕たちの地球へのメッセージと、この異世界の物理法則を記した論文の全データがこの中に入っているんだ」


「わかってるよ!これ一枚で、俺たちが一晩かけて作ったこのバカでかい施設の意味が決まるんだろうが!」


リックが軽口を叩きながら汗を拭う。


私は水晶基板を、前段加速器のメインフレームに接続された読み取り装置へと静かにセットした。


カチリ、という硬質な音が地下施設に響く。

これで地球へ送信するための核となるデータは、完全にスタンバイされた。


「レイ君、多世界解釈による最終シミュレーションが終わったよ」


メインコンソールに張り付いていたボブが、充血した目でこちらを振り向いた。


「皆既日食による重力ベクトルの同調、巨大な重力レンズの形成と地球への指向性の極大化、そしてアリスちゃんの魔法による不確定な未来の引き寄せ……変数が多すぎる。成功率は未知数だ。本当に、ぶっつけ本番になる」


ボブの震える声に、私の隣で目を閉じて精神を集中させていたアリスが小さく息を呑む。


だが、私の目に迷いは一切なかった。


「構わない。僕たち自身で観測し、確率を百パーセントに収束させるだけだ」


私は白衣の裾を翻し、加速器の起動スイッチに手をかけた。

学院の外周に敷設されたメインリングの超伝導コイルに、ヴォイド・コアからのテラワット級の電力が静かに流れ込み始める。


星を繋ぐ大砲が、その巨大な産声を上げようとしていた。


「よし、通信の準備は完璧だな!なら、地上の防衛は俺たちに任せな!」


リックが踵を返し、地下への階段を駆け上がっていく。


「俺とガストの旦那たちで、死んでもこの地下には指一本触れさせねぇ。お前らは心置きなく、地球を狙い撃ちしな!」


頼もしい足音が地上へと消えていく。



一方、地上の正門前。

防衛ラインの最前線で待機していたリックやガスト教官たちは、結界の向こう側に現れた異様な気配に息を呑んでいた。


五千名の聖騎士団が静かに道を空け、その奥から一人の男が進み出てくる。


「……嘘だろ。なんで総大将が、自ら最前線に……」


リックが冷や汗を流し、ガスト教官が杖を握る手を震わせる。


純白の法衣を纏い、圧倒的なプレッシャーを放ちながら姿を現したのは、教団の最高権力者にして決定論の体現者、ラプラス枢機卿本人だった。


「完璧に計算された神の計画を、これ以上お前たちの不確定なノイズで狂わせるわけにはいかないからな」


ラプラス枢機卿の冷徹な声が、結界越しに地響きのように伝わってくる。

神が決定した運命を守る絶対者と、その運命を物理学で書き換えようとする者たち。


空を見上げれば、皆既日食の影が太陽を蝕み始めていた。

通信の窓が開くタイムリミットが迫る中、両者の視線が完全に交差した。




(続く)

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異世界転生した天才物理学者 やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会

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