113,烏賊墨蓮太にお似合いの戦闘職をさがそう
【113】
●
念願の【Lv.7】解禁に、ザラメは早速、冒険の書を起動させた。
羊皮紙風のキャラクターシートを広げ、自分のステータスを再確認する。
『PC名:ザラメ・トリスマギストス』
【主技能:錬金術師】
【レベル:6→7】
【ステータス】
【器用:B+】【敏捷:C】【筋力:C+】【生命:D+】【知力:S+】【精神:A】
【取得SP】
【SP1:精密射撃】【SP2:学識A】【SP3:魔力回復】【SP4:必殺魔法】【SP5:物品作成A】【SP6:学識S】
レベル上昇に伴ってか、器用が「B」が「B+」に、敏捷が「D+」→「C」に、生命が「D」→「D+」にそれぞれ三箇所のステータスアップが確認できる。
まだまだ後衛らしい打たれ弱さは否めないが、それでも初期から比べると【敏捷:D→C】【生命:E→D+】でだいぶ補われつつある。
これで課題になっていた『平均レベル8』は達成できた。ザラメはまだレベル7だが、平均すれば公開情報のクランメンバーのレベルは平均8を越えているはずだ。
レベルアップにあたって悩ましいのは毎度のことながら、サブ技能とSPの追加取得だ。
今回は事前に方針が定まっていたので、ザラメはさらさらと軽快に羽ペンを走らせた。
【[錬金術師:lv7]にレベルアップしました】
【[学者:lv6]にレベルアップしました】
【[SP:7]『物品作成S』を取得しました】
【SP7:物品作成S】【常在:アイテム作成に関わる行動判定を大きく強化する】
“死者蘇生の秘法”の自力作成に必須のSPを全種、これで確保できた。
その分だけ戦闘能力は後回しにせざるをえなかったが、ザラメの悲願である霊薬作りには必要不可欠な物品作成Sは学識Sとならんで、最優先せざるをえなかった。
まだサブ技能を増やす余地はあるが、ひとまずはこれでレベリング処理は完了だろう。
ついでに、本来ならばシオリンのレベリング調整もしたいところであるが、彼女のキャラクターシートを操作できるのは唯一シチのみなので今は不可能だろう。
「さて蓮太くん、おまたせしました。そちらはレベルアップ終わりました?」
「いやぁ、それがどーにも」
向かいのソファーに腰掛けてキャラクターシートを開いている蓮太。
“成長の鍵”を手に入れたのは彼も同じく。そこでお互いにレベルアップ作業を先に済ませることにしたのだが、どうも蓮太は難航してるようだった。
「あの、よかったら閲覧許可をください。わたしでよかったら相談に乗ります」
「他ならぬザラメ嬢の申し出、そいじゃーありがたく」
「じゃ、失礼して。シオリン、おいで」
ザラメは隣のシオリンの手を引いていっしょに立ち上がると、すとんと蓮太の隣に座った。
「わわっ!?」
ひとつのソファーに三人、やや狭い。
急に真横に、膝と膝、肩と肩がふれる距離で座ったものだから蓮太はあわてた様子だった。
(ちょっと面白い……)
さて、本題。蓮太のキャラクターシートはどんなものやら。
『PC名:烏賊墨 蓮太】
【種族:ホムンクルス】
【主技能:商人】
【レベル:6→7】
【ステータス】
【器用:B】【敏捷:C+】【筋力:C+】【生命:D+】【知力:S+】【精神:A】
【取得SP】
【SP1:学識A】【SP2:幸運A】【SP3:商才A】【SP4:--】【SP5:--】【SP6:学識S】
【現在の技能構成:[商人]lv7[学者]lv3】※余剰の基礎経験点多数
基礎ステータスはほとんどザラメと同一である。
若干、ザラメの方が器用が高く、蓮太の方が敏捷が高いものの、ほぼ同一だ。同じ種族で同じ知力系PCとなれば、必然的に似通ってしまうのだろう。
大きな違いは、【学識】こそ共通するが、蓮太には【幸運】【商才】という異なるパッシブが採用されている点だろう。
そして取得SPと技能には空欄があり、そこを迷っているというわけだ。
(蓮太くんもこんなことで悩んだりするんだ……)
蓮太はいかにも頭脳明晰で判断が早い、という印象があった。しかし当然といえば当然だが、なんでも即断即決できるわけではないらしく、そこは親近感が湧く。
それとついでに、蓮太の種族が正式にホムンクルスだと確認できたのは一安心だ。
「この構成……。完全に、戦闘面がごっそり欠落してますね」
「でやんしょう? これまでおいらは安全な都市部で商人ロールに徹してたおかげでちゃんと戦う術がなくたってどうにかなってたんでやんすよ。んでも今後、今回の火山みてーに危ない目に遭うってんなら見直しが必要だなぁーと」
「……戦闘中、手抜きしてるなーとは思ってましたけど、そういう理由だったんですか」
「えっへっへっ。お見通しのようで」
てへっと愛嬌たっぷりに悪びれて、蓮太はおどけてみせる。
他力本願になりがちなのは後衛のザラメもいっしょなのでそこは墓穴を掘りかねない。
なにより、クラン全体の戦力強化において蓮太の後方支援は多大に貢献してくれているわけで、PCのコンセプト的にも純粋な戦力よりは支援タイプと割り切った方がいいのはあきらかだ。
「じゃあ戦闘技能を追加するとして……。前衛か、後衛か、両方を兼ねる中衛か、ですかね」
「集団戦闘にゃパーティバランスも意識しないとならないでやんすからね。ザラメ隊を率いるザラメ嬢の要望をまず聞いておきたいわけでやんすよ」
「そっか! これ、他人事じゃなくてわたしの問題でもあるんですね!」
「そうそう、毎回ユキチ隊との合同パーティを組める保証はないでやんす。そんでシチの旦那は反則めいて強いけど神出鬼没で協調性からっきし、いつ裏切るかもわからない要注意人物。シオリン嬢は不死身のキョンシーでやんすけども、複雑な連携には不向き。はっきり言って、クラン第一隊はしっちゃかめっちゃかでやんすよ」
「し、しっちゃかめっちゃか……!」
ド正論だ。
クラン第二隊のユキチ隊は各自が的確に連携でき、役割分担も完璧にできている。前衛三枚、後衛二枚。拳、斧、盾、弓、魔法。料理でいえばフルコースのように見栄えがいい。
では、ザラメ隊はどうか?
シオリンは“ザラメのみを死守する”命令に沿ってのみ動き、シチはあくまで自分自身を最優先にして好きに戦おうとする。この三者だけの組み合わせならば、シチを自由にさせつつシオリンに守られることでザラメは気兼ねなく攻撃に専念できる。
しかし蓮太を現状のまま編成した場合、無防備な後衛として敵の狙い目になってしまう。
こういう時はいつもならまず観測者に助言を求めるザラメだが、今回は密会中だ。伏せるべき行動は伏せておきたい。
「サブの戦闘技能を追加するにも一種類がせいぜい、ですよね……。強みを活かすなら後衛、けれど弱点を補うなら前衛、どっちつかずの中衛……。う、うーん」
「ドラマギの“商人”は直接の戦闘にはあんまり役立たない補助技能でやんす。実質的に、ゼロから戦闘ビルドを組むことになりやすね」
「ポジションは一度忘れて、商人と複合化させて面白そうな組み合わせを考えてみましょうか」
【商人】について改めてザラメは再確認する。
【学者】や【斥候】【職工】などは補助技能という直接の戦闘には関与しないスキル郡だ。冒険者の活動にはそれぞれ役立つが、敵に攻撃したり、敵の攻撃を回避するためには参照されない。
ザラメの【学者】は敵やアイテムの情報分析により的確な行動を選びやすくなるが、攻防はあくまで錬金術師として行っている。学者を基礎にした攻撃も防御も回避もしたことはない。できない。
蓮太の【商人】もそれと同じだ。
商人は交渉と管理、アイテムと金銭にアドバンテージがある。交渉事は有利になる補正が働き、アイテムを運搬管理する“魔商本”が扱える。パーティにひとり本格的な商人技能持ちがいれば、なにかと役立つことは言うまでもない。
しかし戦闘時に【商人】ができる攻撃手段や防御手段は無いに等しい。蓮太はアイテムを的確に使うという支援行動を選んでいたが、商人はアイテムの調達や管理運搬に長けるからといって、アイテムの使用について優位点はないはずだ。
この【商人】と相性が良くて、知力の高さを活かし、パーティ編成との相性を考慮する。
ややこしいが、ザラメは修正補助のおかげかすぐに候補を選び出せた。
「候補は八つ、ですかね。これ見てください」
イメージ投影を行い、ホワイトボードに写真を並べるようにザラメはデータを掲示する。
【戦 士/前衛/物理:防御に優れる。防御手段を確保しやすく、アイテム使用を安定化しやすい】
【軽戦士/前衛/物理:回避に優れる。防御手段を確保しやすく、アイテム使用を安定化しやすい】
【罠 師/中衛/物理:妨害に優れる。間接的に防御手段になり、罠アイテムを用意しやすい】
【射 手/中衛/物理:射程に優れる。アイテムを弓矢に付与して活用できる。反撃されづらい】
【神 官/中衛/魔法:回復に優れる。回復や強化、弱体を魔法とアイテム双方から行える】
【操霊術師/後衛/魔法:支援に優れる。回復や強化、弱体を魔法とアイテム双方から行える】
【真魔術師/後衛/魔法:火力に優れる。攻撃魔法を多彩に使える。回復や支援はアイテムで補う】
【召喚術師/後衛/魔法:手勢に優れる。召喚した戦力を前衛にでき、アイテムを装備させられる】
「盗賊や武闘家、錬金術師と建造術師はパーティに重複しすぎなので省いて、主だった戦闘技能をチョイスしてみました。で、ここから消去法です。知力S+ステの蓮太くんと一番相性がいいのは魔法職に間違いありませんが、今回は自衛手段をまず確保したいという話なので、火力重視の真理魔法使いは消去。操霊術師も、強化先となる前衛が実質ひとり、イマイチよくない……。神官も、不死身のキョンシーのシオリンには不要でしかも彼女が持っている……」
ザラメは横線を二重に引いて、まず候補【神官】【操霊術師】【真魔術師】を削った。
「戦士と軽戦士は商人との相性は一緒となっちゃ、片方削っていいでやんすね」
「戦士と軽戦士……詳しく比較してみます」
戦士は『黒騎士』『ドンカッツ』『ドット』『ガルグイユ』の四名、軽戦士は『ユキチ』のみ。
戦士は重装防具の装備が可能であり、軽戦士は軽装防具に限られるが回避に優れる。必要な経験点がやや軽戦士は軽くなり、魔法職と組み合わせた魔法剣士ビルドが想定されている。
蓮太の場合、戦士に重要な筋力は【筋力:C+】で世辞にも高いといえない。かといって軽戦士にほしい敏捷も【敏捷:C+】で高いといえない。
「これは……自分の好みでいいんじゃないでしょうか? 黒騎士さんが言うには“戦い方がイメージしやすい方がより強い”そうですから」
「んじゃー戦士を削っておきやしょう」
「射手は……どうしてもセフィーさんと比べると見劣りしそうですね……。“気配遮断”で逃げ隠れするのは参考にできますけど」
「そいじゃー残るは【罠師】と【召喚術師】でやんすね」
「どっちもクラン内に使ってる人がいない技能ですね。えー、なになに」
ザラメは罠師と召喚術師の技能詳細を、その【学識:S】で引っ張り出して表示する。
【罠師】
トラップの設置と回避および解除を主軸にした特殊な戦闘職。イメージは猟師と工作兵。
短所として武器と防具は最軽量なものに制限され、直接戦闘については軽戦士の劣化版となる。
長所として回避は軽戦士に準じて高く、『罠』によって遅発性の妨害や攻撃が可能になっている。
『罠』の強力さは器用や知力に左右される。『罠』の回避は敏捷や知力に左右されやすい。
『罠』の設置・回避・解除は他技能(主に斥候、盗賊など)にも可能だが、戦闘中に迅速に『罠』を設置しつつ戦えるのは罠師と建造術師だけとなっている。
【召喚術師】
モンスターなど戦力を召喚する“サモニング”を主軸にした特殊な魔法職。
召喚は他の魔法技能にもそれぞれ固有のものが存在している。
建造術師はゴーレムとマシーン。真魔術師はファミリア。操霊術師はアンデッドなど。
召喚術師はそれら技能専用の召喚を除いた、多種多様な召喚に対応している。
反面、召喚術師のみで戦うための魔法はかなり限られている。
どちらも【知力:S+】と自己防衛手段の確保、という課題はクリアーしている。
「……なんとなーくまわりくどいですね、どっちも」
「おいら的には“準備が大事”ってとこは好きでやんすよ?」
「召喚術師に軽戦士をあわせて“召喚剣士”ビルドもできるんですよね。どっちも半端になりかねないですけど、うーん……」
今回はいわゆる“正解”が複数あるケースだろう。
どちらに決めても“不正解”ではないだろうが、しかし明確な優劣がなく、どちらでも良いからこそ決めきれない、という時もあるものだ。
「あ、そうだ! シオリン! シオリンはどっちがいい?」
「ムイ?」
ここまで相談を見守っていたシオリンはホワイトボードを見つつ小首を傾げて、不思議そうに。
シオリンはむーむーとうなって考えて、そして【召喚術師】を指し示した。
「我是善気」
「んー……よしっ! シオリンが選んだからこれにしましょう! 決定事項!」
「ほいほいっと。いやぁ、これまた見事にテキトーに決めやしたね」
「軽戦士もサブに取得して、中衛構成でバランスを重視してみましょう。そうと決まったら装備の調達にSP決め、やることは山積みです」
「楽しそうでやんすねぇ、ザラメ嬢」
「そうですか? 本来こうやって遊ぶゲームだったわけですから、別に普通ですよ、普通」
「ほうほう。そいじゃ、おいらもキャラ育成を楽しむでやんす」
二時間ほど、それからザラメは蓮太と冒険の準備に勤しんだ。
キャラクターシートを調整し一通りの戦術を話し合い、獲得した戦利品に消耗したアイテムを整理に補充、【召喚剣士】構成に適応するために練習する蓮太を見守り、手伝ったり。
そんでちょっと退屈そうにしてるシオリンに、水ようかんをおやつに餌付けしたり。
とにかく、けっこう楽しい時間を過ごせた気がする。
――時刻は0時を過ぎた頃か。
「ん……む」
不意に、ザラメは強い眠気に襲われる――。
すでに蓮太はソファーで横向きに眠っており、これも火山の冒険の疲労かと納得する。
――意識が暗転する中、小さな違和感をおぼえた。
『糸』
きらきらと薄っすらと照明が反射して光る透明な糸が、視界の端に映っていた。
その糸を、どんどん閉じていく眼で追っていく。
糸は、空中に浮遊する、何かに接続されていた。それはまるで水族館を優雅に泳ぐ魚のように、ゆらゆらと錬金術工房の密室を泳いでいた。
――エネミーだ。
ザラメの知識の本棚が瞬時に、この世界に存在するはずのソレを割り出そうとする。
【Lv.X ス■ルステ▲▽グレ■△∴】
赤黒い不気味な色を帯びた平たい浮遊魚は、そう、きっと――。
エイ。スティングレイ。
尾に毒針を有する、平たい魚。――透明な糸は、その本体と切り離された尾に繋がっている。
毒針の尾は今まさに、ザラメを狙っていた。
(なんだろう、きれいだな……)
しかし何の抵抗もできず、今まさにザラメの意識は途絶えつつあった。
浮遊する魚のエラから噴出する、睡眠薬のせいだ。
光り泳ぐ暗殺者。Xシフター。
――理不尽な死神は、いつも突然にやってくる。
毎度お読みいただきありがとうございます。
お楽しみいただけましたら、感想、評価、いいね、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。




