八話
「誰かしら?」
フェアニの住んでいる家に客が来たことを知らせる鐘が鳴る。
今、家にいるのはフェアニの母親と娘だけ。
夫であるアムルはまだ帰っていない。
夜のバイトで仕事をしていたせいだ。
「はーい」
こんな夜遅くに誰が来たのだろうと首を傾げながら出迎える。
そこには複数の男たちが家の前にいた。
「えっと、何の用でしょうか……?」
男たちが自分の家に何の用だろうかと扉の取っ手を掴みながら問いかける。
まるで自分達を今から害しそうな雰囲気が怖かった。
「…………死んでくれ」
そして一番前にいた男が取っ手に手を付けていることに気付いてフェアニに襲い掛かる。
突然のことにフェアニも扉を閉めようとするが目の前にいた男の方が早かった。
悲鳴を上げるよりも、助けを求めるよりも早く首を裂かれてしまう。
悲鳴を上げるなりして助けを求めるのを防ぐために首を裂いたのかもしれないが、それは同時に人の急所だった。
首を裂かれたことで何も伝えることが出来なくなってしまった。
フェアニは母親と娘に逃げることを伝えることも出来ないが、残された力を使って男たちの足止めをしようとしていた。
体重を掛けて玄関に留めさせ、押しのけられても足を掴んで止める。
何度も何度も蹴られても手を離さず、ようやく手を離したと思ったら死んでしまった。
「フェアニ?」
突き放すのに時間が掛かったせいでフェアニの母親が心配して玄関に近づいてくる。
フェアニが死んだなんて夢にも思っていないはずだ。
「死ね」
だから全く警戒もせずに顔を見せてきたフェアニの母親を男は殴った。
悲鳴を上げる隙も与えず口を塞ぐ。
そして心臓にナイフを突き刺す。
それでも、まだ生きているのか口を塞いだ腕を放そうと掴んでいる手に力が入っている。
悲鳴を上げられて助けを求められるわけにはいかないとナイフを更に強く突き刺し、腕を掴んでいる手の力が抜くまで口を塞いでいた。
そのまま数分が経つとようやくフェアニの母親の力が抜けた。
塞いでいた腕を放すとフェアニの母親の身体が崩れ落ちる。
そして念のために首を裂いて投げ捨てた。
後はフェアニの娘であるテミスだけだ。
「あとは娘だけだな……。どこにいる?」
父親がいないことは幸運だった。
男だから女よりも頑丈だろう。
もしかしたら一人ぐらいは逃げられた可能性がある。
「いたぞ……」
そして見つけられたテミス。
夜が遅いからかぐっすりと眠ってしまっている。
「…………今更だな」
あまりにも小さく幼い子供を今から殺すのだと思って男たちは一瞬だけ躊躇した。
既に二人も殺してしまっているのだ。
本当に今更だった。
「…………かわいそうに」
そして眠っている子供を男たちは刺し殺した。
眠っているから苦痛も感じなかっただろう。
そこだけが幸いだと男たちは考える。
「逃げるぞ……」
そして男たちはこの家に用は無いと出ていく。
これで全身の痛みは無くなるだろうと考えていた。
そして翌日。
「おぉ!!」
夜遅くになってから男たちは歓声を上げていた。
一日中、殺すことを考えなくても痛みが無い。
それがたまらなく嬉しかった。
「しかも本当に金が手に入ったし……」
路地裏で言われたとおりに報酬として、また金を得ることが出来た。
自分達で殺しておきながら、どれだけ憎まれているんだと思う。
だがお陰で金が手に入ったと思えば有難かった。
「よしよし、あとはどこか遠くへ行くだけだな」
男は自分が殺した相手がいる土地にあまりいたくなかった。
殺したことがバレて捕まるなんてしたくない。
これだけの金を渡すほど恨まれている相手が悪いんじゃないかと考えている。
「さてと……」
そして、この土地に戻らないように必要な物をカバンに入れていく。
そんな中、ホテルの部屋の呼び鈴がなった。
「誰だ?」
男は呼び鈴がなったとこに扉を開ける。
「警察です。少し聞きたいことがあるので良いのでしょうか?」
男は警察が来たことに反射的に扉を閉めて窓から逃げようとする。
高いところから地面に落ちる必要はあるが自分に魔法をぶつけて速度をやわらげるつもりだ。
多少の怪我はするかもしれないが逃げ切る方が大事だ。
「逃がすか!!」
だが、それよりも早く警察はホテルの扉を壊して部屋の中に入ってくる。
ホテルの経営者には事前に話していているから問題は無い。
むしろ知らなかったとはいえ人殺し泊めてしまったことを気にしていた。
警察に協力することで人殺しを泊めてしまったことがバレても払拭しようと考えている。
「何で!?」
「悪いが、ここ最近路地裏でホームレスをしていた者たちが身綺麗にしていたことは知られている!それに殺した家での指紋!そして警察が来たと知って、直ぐに逃げる判断!他にも余罪が無いか調べさせてもらうぞ!」
まさか自分の反応も判断に入れられて男は絶望する。
折角、金も手に入って良い思いをしようとしていたのに自分の行動、判断で警察が来るとは思わなかった。
もしかしたら金を渡した者も想像していなかったのかもしれない。
だけど自分達と同じように捕まることを男は祈る。
そして刑務所で復讐してやろうと考えていた。
「ただいま~」
アムルは家に帰ったとき既に違和感を覚えていた。
いつもなら鍵をしていたはずなのに扉が開いている。
誰かお客さんでも来たのかと想像してしまう。
「誰か来たのか?」
そして家の中に入ると濃い鉄の匂いが襲ってきた。
そのことに一つの可能性が思い浮かんだがアムルはそれ以上は考えることはせずに家の中を探そうとする。
そして一歩踏み込むと何かやわらかいものを踏んでしまった。
それが何なのか確認して下を向くとフェアニだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
たまらず絶叫を上げるアムル。
近所の迷惑とか考える余裕も無かった。
そして誰か生きている者はいないのかと家の中を探し始める。
「テミス!お義母さん!?」
二人はどうなったのかとアムルは探す。
どちらかは生きて欲しいと祈っていた。
そして義母が生きていたら何があったのかと確認し、テミスが生きていたら生きていることを喜ぶだろう。
「そんな………」
そうして最初に見つけた義母は心臓を刺されて力尽きていた。
深くナイフが刺さっており、ピクリとも動かない様子が否応なしに付きつけてくる。
「テミスは………」
そして最後の希望とばかりに娘を探し始める父親。
どうか幼い我が子だけは生きて欲しいと祈って、いつもなら寝ている部屋の中を探す。
そこには娘の死体があった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
娘の死体を見て絶叫を上げるアムル。
自分の家族が妻だけでなく娘も死んでいたことに最初よりも高い絶叫を上げる。
娘の顔は安らかな顔のままで、眠っている間に殺されたことが想像できてしまう。
眠っていて気付かれていなかったのなら、何で見逃してくれなかったのだと思う。
わざわざ探しだしてまで殺した理由が分からない。
「ちょっとうるさい!!迷惑なんですけど!!隣の家のことを考えてくれませんか!?」
そしてアムルの絶叫に近所の家の者が家の中に入ろうとしている。
そのことにアムルは言い訳することも対応することもせずに娘を抱きしめたままで動くことを止めていた。
「おい!!…………え?」
そして何も反応のないアムルの家の中に入ると絶句した。
まず最初に玄関の中に入った時点でフェアニの死体が見えたせいだ。
予想外の光景に何も言えなくなる。
「何だこれは………?」
普通に生きていればまず見ることない光景に思考が止まってしまう。
そして全く動かない女の姿にどうなっているのか想像がつき吐いてしまっていた。
「「「「「「おぼぇぇぇぇぇ」」」」」」
あまりにも濃い鉄の匂い。
それが他にも死体があるのだと想像できてしまう。
そして、それは幼い子供まで死んでしまっているのではないかと考えて背筋が凍ってしまった。
「取り敢えず警察を呼んでくる……。皆さんも家の外に出た方が良いですよ?何時までも、この家の中にいても気持ち悪くなるだけですよ」
そう言って比較的落ち着いている者が真っ先に家の外に出る。
一番最初に吐いていたせいで、落ち着ているのだろう。
だが気持ち悪そうに口は抑えていた。
「失礼………。これは………」
連絡を受けた警察が来て家の中に入った途端に違和感を覚える。
何か、この家に住んでいる者に影響を及ぼしてしまう何かを感じてしまった。
「酷いな………」
そして一緒に来ていた先輩警官も同意をするが、そう言ったことでは無いと否定する。
「違います。この家、直ぐに壊した方が良いかもしれません。住んでいる者に何かの悪影響を与えているような気がします」
「………どういうことですか?」
娘の死体を抱えていたアムルが警察官に問いかける。
悪影響と及ぼすと聞いて黙っていられなかった。
そのせいで娘が死んだのなら話を聞きたいと思う。
「そのままの意味です。詳しく調べる必要はあると思いますが、それが原因の一因かもしれません。何か心当たりは有りますか?」
その質問に首を横に振って答える。
たしかに近所には嫌われているが、それは学生の身分で子供を産ませたからだとアムルは思っている。
だから心当たりは無いのだと首を横に振る。
「そうですか。ですが念のためにこの家から離れて暮らした方が良いと思います。貴方まで殺されるかもしれないので」
「だから何だ?もう死んでも良い」
既に生きることを諦めているアムル。
だが警察官として、そして操作の邪魔だからと家から追い出し落ち着かせるように安静にさせる。
このままだと目を離したら死んでしまいそうだった。
そしてアムルを落ち着かせて先輩の警察官はポツリと口に出す。
「まさか、また復讐相談事務所か?」
今回の事件にもそれが関わっているかもしれないと聞いて怒りを覚える。
もし、そうだとしたらこの家に細工をして自分の手では汚さず、他人を利用して殺したことになる。
そんな卑劣な相手は例えどんな相手でも捕まえようと改めて決意する。
これ以上の被害は警察として絶対に出さないようにしたい。
その為には警察が一丸となって捜査する必要がある。
だが今回や前回など証拠は無いが多数の死者が出ている。
それらしい障害も無く捜査することが出来そうだった。
「俺も死のう………」
警察に保護された後、外の空気を吸うために外を出ていた。
そしてやはり死んだ家族のことを思って後を追うために死にたくなっている。
「久しぶりね……」
そしてアムルの前にずっと昔に別れたギネカが目の前に現れる。
「そうだな……」
あまりにも暗い雰囲気のアムルにギネカは抱きしめる。
別れた相手とはいげギネカはまだアムルのことが好きだ。
だからこれで少しでも癒されて欲しいと思っている。
「うぅ……。あぁぁぁぁ………」
そしてアムルもそのやさしさに甘えて声を出して泣いて縋る。
優しくされて辛かったことがこみあげてきていた。
「ねぇ……。これからはどうするの?家も追い出されて住む場所も無いんでしょ?」
何で知っているのか疑問を思い浮かべるが、それだけ悪い意味で有名だったのだと思いつく。
学生の恋人を孕ませて退学になったのは有名だったのかもしれない。
「………そうだな。しばらくは野宿かもしれないな?」
住む場所は無いと聞いてギネカは笑みを浮かべた。
いまだに抱きしめているためアムルには、その顔は見えない。
「それじゃあ家に住む?説得も出来るわよ?」
信じられないという顔を向けるアムルに、そう思われても仕方がないと受け入れるギネカ。
だが嘘はついていないと自信をもって頷いていた。
「今は家に誰もいないから安心してね?」
そして来たギネカの家。
誰もいないことに安堵し、そして無防備なことにアムルは元カレだが不安になる。
男を連れてきて誰もいないなんて大丈夫じゃないと思う。
「ここが私の部屋よ」
「あ…………え?」
女子の部屋に入るのは二人目。
それでも緊張して中に入るとそこには鎖などといった拘束具、そしてアムルの写真がそこかしらに貼られている。
「ギネカ……?」
思わずアムルはギネカの方へと振り返ろうとする。
だが頭に衝撃が奔り意識が暗闇に堕ちていく。
最後に見た光景はギネカの光悦とした歪んだ笑みだった。
「起きた?」
アムルが目を覚めると両手両足に鎖を取り付けられ逃げられなくされていた。
「ここは特別な空間でね。どんなに大声を上げても絶対に見つかることは無いの」
そんな空間あるはずが無いとアムルは大声を上げて助けを求める。
流石にこんな状況を見たら気に喰わなくても助けてもらえるだろうと思っていた。
だから大声を上げていく。
「無駄って言っているのになぁ……」
ギネカは大声を上げて助けを求めているアムルの上に乗る。
無駄だと言っているのに悲鳴を上げて助けを求めるアムルが可愛くてしょうがなかった。
そして、かなりの時間を叫び、のどがかれたアムルにようやく終わったのかとため息を吐く。
いくら悲鳴を上げても助けに来ないことは数分ほどで理解して欲しかった。
「だから言ったでしょう?誰も助けに来ないって……。あぁ、それと安心して?絶対に死なせたりしないから。ずっと寿命で死ぬまで飼って上げる」
優しく語りかけてくるギネカに恐怖で震えてしまうアムル。
もう二度とここから出られないのではないかと思ってしまう。
「大丈夫。もうお金の心配もしなくて良いし、一生生きていける。気持ちの良いことも望めばさせて上げるからね?この部屋から出なかければだけど」
囁いてくるギネカにアムルは逃げようと暴れる。
だが鎖はビクともしない。
「何で、そんなに怖がっているのよ?貴方はずっと私に任せて楽に生きていけるんだから喜びなさいよ?だから笑顔になって?」
身体に絡みついているギネカがアムルは恐ろしかった。
自分の何もかもを奪っていきそうだ。
「あぁ、そうだ。私は学生だし、将来も仕事があるからずっとはいられないけど。来たら積極的に甘やかしてね?」
そう言ってギネカは部屋から出ていく。
アムルは暗闇の中一人になった。
そして聞こえてくる音。
『何も考える必要は無い』『ギネカのモノになるだけ』『ずっと楽に生きていける』『この部屋にいれば、もうあんな視線を向けられない』『ギネカはずっとお前を愛し続けている』
そんな音がずっと流れてくる。
耳を塞ぎたくても手を縛られているため逃げられない。
そのままの状態で何も喰わず飲まずで聞かされ続けていた。
「久しぶり。お腹がすいた?」
そして数日ぶりにギネカがこの部屋に入ってくる。
手には美味しそうな匂いを漂わせている料理を持っている。
アムルは数日間食べていないせいで食べたくてたまらなくなる。
「食べたい?」
空腹だからこそ久しぶりにご飯が食べれるのだと首を縦に振る。
だがギネカは料理を手に持ったまま与えようとしない。
それでもアムルのすぐ隣まで近づいてきて料理のおいしそうな匂いを漂わせてくる。
「なら、『私、アムルは一生、ギネカのモノです』と言って?そうしたら食べさせてあげる。後一口一口食べるごとに『ありがとうございます』って言いなさい?」
あまりの空腹にアムルは頷く。
そして約束通りにその言葉を言い、一口食べるごとに感謝を口にした。
そのせいでアムルは一口食べるごとに身も心もギネカのモノになっていく。
「これで貴方は私のモノね?」
ギネカのその言葉にアムルは笑顔で頷いた。




