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七話

「きゃー!!」


 アムルは娘を高い高いをしてテミスは笑顔を浮かべる。

 テミスは父親に遊んでもらって楽しそうだし、アムルは娘と遊んで日々の仕事から癒されている。


「二人ともご飯を食べるわよ」


「わかった。それじゃあ食べようか」


 娘を抱っこしたままアムルは食卓に着いた。



「お金はそろそろ溜まったかな?」


「そうね。少しずつ溜まってきているけど、もう少し欲しいわ。あと一、二年ぐらいしたら十分な金額が集まるはずよ」


「あと二年か……」


 引っ越しをするための金額が足りているか確認すると後二年ぐらいで溜まると聞いて安堵の息を吐く。

 仕事先では学生なのに相手の女の子を孕ませたと何故か知られていて冷たい目を向けられている。

 それが辛かったが終わりが見えてきたことに気が楽になった。


「大丈夫?私も頑張るけど貴方も後二年は頑張ってね?」


 フェアニは娘が産まれてから口調が女らしくなっていた。

 アムルにとって一番の変化がそれで最初はどぎまぎしていたが今では慣れてしまっていた。


「そちらこそ。家事や子供の面倒の他に内職もしてくれているんだろう?俺よりも忙しいのは分かっている」


「大丈夫よ……」


 心配してくれるアムルの言葉に嬉しくなる。

 周りからの視線で精神的にも辛いはずなのに気を遣ってくれるのが嬉しかった。


「それなら良いけど……。辛かったなら言ってくれよ?将来のために金を稼ぐ必要はあるけど、必要なら仕事を休むからな?」


 心配してくれる目の前の男に彼で本当に良かったとフェアニを思う。

 最初は焦りもあって早急にことを進めたが、そのお陰で良い男を捕まえたと自画自賛をする。


「ええ。辛くなったら直ぐに相談するから安心して?それにお母さんもいるから安全よ」


 自分達より先に子育ての経験がある母親が手伝ってくれるから大丈夫だというフェアニにアムルも納得する。

 一人だけだったら不安だったが二人もいるのだ。

 安心できると思っていた。


「あら?二人ともどうしたの?」


 そしてフェアニの母親が帰ってくる。

 二人の信頼を視線に向けられて何があったのが思わず聞いてしまう。


「いえお義母さんがいるなら我が家も安全だなと思って……」


「そう?急にどうしたの?」


「後二年ぐらいお金をためて行けば引っ越すことが出来るって話題になって……。それまで家事とか子育てとかの話になったのよ。それでお母さんの協力があったからって話に変わったのよ」


「そんなことはないわよ………」


 二人の言葉にフェアニの母親は目を背ける。

 子供を育てるのに自分程頼りにならない者はいないと思っていた。


 フェアニが子供と結婚する相手を焦る程、望んだのは自分達の教育のせいだと自覚をしていた。

 何度も言っていた。

 結婚できない、孫を見れない。

 自分で言っておきながら、言われた娘の気持ちがどれだけ傷ついたのか想像できない。


「そんなことは無いわよ。お陰で少しは休めるから助かっているわよ」


 暇なとき孫の相手をするが、フェアニの母親はあまり相手をしたくなかった。

 娘にしたように何気ない一言で壊すことを孫娘にもしたくない。

 出来るだけ関わりたくないと思う。


「そう。そう言ってくれると嬉しいけど、私よりあなた達の方が接してあげなさいよ?祖母より実の両親の方が子供は頼っているんだから」


 母親の言葉にフェアニとアムルは頷く。

 家の中でとはいえ偶には家族みんなで一緒に遊ぶのも良いかもしれない。

 何か家の中で遊べるものを買おうと考えていた。


 ついでに外で遊ぶのは無しだ。

 外で遊んでいると娘にも冷たい目を送ってくる者がおり、それを避けたいと考えている。

 娘にはそんな視線を遅らせたくなかった。


「ところで二人とも引っ越しする場所は決めたの?」


「えぇ。人が少ない田舎に引っ越そうかと思っています。人は少ないですけど自然がいっぱいで何時か都会に行きたくなっても、それまで隠れているから出生のことなんて誰も何も言わないと思うし」


 田舎に行くと聞いてフェアニは良い考えだと思う。

 更に人が少ないというのも良かった。

 人が少ないというのは、それだけ若すぎる夫婦について聞いてくる者が少ないということだからだ。


「田舎ね………。確かにのんびり暮らすのには良いかもしれないわね」


 フェアニの母親も田舎に思いをはせる。

 煩わしくなってきた人付き合いも田舎に移動すれば減るだろうと想像する。


「それじゃあ将来は田舎に引っ越せるように頑張らないとね」


「はい。ところで、この家は売ってしまうということで良いんですよね?」


「構わないわ。どうせ引っ越ししたら使わないだろうし、売った方がこれから先の生活の足しになるでしょう?」


 思い出のある妻家族の家を本当に売っても良いのかという確認にフェアニとその母親は頷く。

 それがアムルは申し訳なく思う。

 口では何ともないように言っているが本当は気にしているのかもしれないとアムルは想像する。

 これも考え無しに本能で行動した自分のせいだと酷く後悔をしていた。



「引っ越すことなんて出来ないのに……。それを知らないで希望にして可哀想……」


 ギネカは事務員からもらった水晶玉を見て呟く。

 フェアニ達家族は事務員の呪いで家から離れなくなっている。

 離れる準備が出来たとしても何だかんだと理由を付けて引っ越すことは無い。


「それにしても子供かぁ……」


 ギネカは赤ん坊がアムルに甘えているのを見て呟く。

 自分も将来的には子供が欲しいと思う。

 だけど確実に子供を育てられる環境が出来てからだ。

 相手は当然、アムルだと考えている。


「ふふふっ。きっと私とアムルの子供だから可愛いだろうなぁ」


 まだ産んでもいない子供のことを想像してギネカは笑う。

 その為にアムルをどうやってフェアニたちから引き離すか考える。


「監禁する準備は出来ているけど、やっぱりお金がなぁ……。最初はバイトをしてアムルを生かしていけるだけのお金を稼いで、後は子供を育てられるだけのお金を稼げるようになってから子供を産めば良いかな」


 そうすれば早く監禁しても問題は無い。

 ただ子供を産んでしまわない様に我慢する必要があるが。


「そうとなればどうやって手に入れようかしら?」


 できれば嫌われることなくアムルを手に入れたい。

 ベストなのは完全に自覚させて自分に依存させたいと考えている。


「依存させるには絶望した状態から親身になってあげれば良いわよね……。それが更に深ければ深いほど良いと思うし」


 そう言って水晶に映っているフェアニの家族たちを見る。

 そこには仲の良い家族が映っている。


「彼女たちを殺せばアムルも深く絶望するかしら?」


 仲の良い家族。

 そしてギネカからアムルを奪った家族でもある。

 生まれたばかりの赤ちゃんもいて、本当なら未来はまだまだ分からないのに奪われてしまう命。

 フェアニが死んでも赤ちゃんがいるなら立ち上がれり、赤ちゃんが死んでもフェアニが生きているなら立ち上がれるかもしれない。

 なら二人とも殺す必要がある。


「うん……。それが良いわね」


 ギネカは二人を殺すことに積極的になる。

 忌々しい女と、その娘が死ぬのなら好都合だった。

 それで依存させやすくなるのなら猶更だ。


「それじゃあ、どうやって殺そうかしら?」


 出来れば死体は確実にアムルに見せたい。

 そして死んだのを確認させれば心が更に傷ついて絶望するだろうと予想する。

 そこに上手く慰めれば自分のモノになると夢想していた。


 他人を殺すことに関しては何とも思っていない。

 だって相手は自分から奪った女とその子供。

 死んで欲しいとさえ思っていた。


「それに私が直接殺すのも不味いわね」


 殺すのなら金を払って誰かに任せた方が安全だ。

 そして更にバレないように代わりに殺してくれた相手も殺す必要がある。

 遺体は海にでも投げ捨てれば良いのかもしれない。


「うん。フェアニたちを殺すのは他の皆に任せよう。適当な奴らに金を払えば動いてくれるだろうし……」


 考え無しのバカか本当にお金に困っている者なら簡単に引き受けてもらえるだろうと想像する。

 その時は変装することも忘れない。

 胸を潰し、男の格好をすれば誘導したモノがいたとバレても怪しまれることは無いと考える。


「そうと決まれば探しに行く必要はあるわね……」


 女の身で路地裏やホームレスがいる人たちのところに行くのは不安がある。

 もしかしたら襲われるかもしれない。

 それでも目的のために丁度良い人材を探すために行く必要がある。

 念の為に変装もするつもりだ。


「まずは男性用の服をいくつか買いに行かないと……」


 ギネカは色々と想像をするが男性用の服は持っていない。

 まずは男性用の服を買いに行く必要があった。


「復讐相談事務所の人たちにも相談するべきね……」


 もしかしたら気付いていないだけで男の格好をするのにおかしい部分もあるかもしれない。

 それを教えて欲しかった。


『あーん』


『あー?』


 水晶には赤ん坊にあーんをしている二人が見える。

 アムルもそれを愛おしそうに見ていてギネカは嫉妬をしていた。

 それらの視線は自分だけに見せて欲しかった。


「絶対に殺してアムルは私だけの者にしてやる」


 忌々しそうにそれを見て口に出すギネカ。

 嫉妬でどうにかなりそうだった。



「すいません。いま時間はありますか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 早速、ギネカは復讐相談事務所へと向かった。

 目的は当然変装のことについて相談することだ。


「何か、ありましたか?」


「その変装のことで相談がありまして……。男の変装をしたいんですが何か教えてもらえないかな、と」


 相談された内容に事務員は頷く。

 そして一度席を立って奥へと行くと直ぐに戻ってきた。


「変装するときはこのマスクを被って、多少でも服が大きいものを来てください。それで性別を誤魔化せるはずです。女性は男性よりも細いですし、少しでも誤魔化した方が良いと思いますので」


 思ったよりも参考になるアドバイスにギネカは手帳を取り出してメモをしていく。

 男と女の体格の違いは知っていたが、そこまで変えることは考えていなかった。

 服装を変えれば良いだけだと思っていたから復讐相談事務所に来て良かったとギネカは思っていた。



 ギネカは男か女か分からない様に身体のラインが分かりずらい服を着て、靴も本来の身長より高く見せる底上げブーツを履いて路地裏へと向かう。

 手にはかなりの金額が入っている封筒を持っている。


「さーて………、俺を見ろ!」


 ギネカは路地裏に入ると注目を集めるために大声を出した。

 そのお陰でただ生きているだけ者も真っ黒い服を着た怪しい者に眼を向ける。


「お前たちに殺して欲しい者がいる!今から写真を配るから、それを殺してくれれば金をやる!これは前金だ!!」


 そう言ってギネカは写真と呪いを掛けた金を配る。

 これを受け取れば行動しない限り常に全身に痛みが奔り行動するのが辛くなっていく呪いだ。

 これなら金を受け取るだけ受け取って何もしないなんてことはあり得ない。


「殺せたらまた金をやってやるよ。誰にも言うなよ」


 写真と金を受け取って路地裏にいた者たちはギネカに対してバカにしたように笑う。

 金は受け取るだけ受け取って何も行動を移す気は無かった。

 受け取った者の中にはホームレスの他にタダの不良もいる。

 何もしていなのに金をゲットできたのだ。

 また、この路地裏に来て金を得ようと考えていた。




「っ~~~~!!!!」


 二日後、朝起きた不良たちは全身に痛みが奔って起きる。

 急な痛みに何が原因か分からなかった。


「何で急に………」


 そう呟くと不良は人を殺してくれという言葉を思い出す。

 受け取った写真は何故か捨てる気にならず、ちゃんと持っている。

 何でか写真を見て、写真に写っている人物を殺さなければ一生このままだと認識してしまう。


「こいつらを殺せば良いのか……」


 他人を殺せば解放されるということに不良は何とも思わない。

 殺せば、この痛みから解放されるし良いスリルになると思っている。

 それに成功すれば金も得られるのだ。

 絶対に成功させてやろうと考えていた。


「まずはこいつらがどこにいるのか探さないとな……。ん?」


 どうやって見つけて殺すか考えていると全身の痛みが引いているのを自覚する。

 もしかしたら殺そうと考えている間は痛みが奔らないんじゃないかと推測できてしまう。

 今日は学校をサボって、この写真の人物を探そうと不良は考える。


「俺たちのところに来たし。多分、この地域の人間だよな……」


 不良は呪いを掛けに来た者が自分たちのところに来たことから同じ地域の者だと想像する。

 もしかしたら同じ学校の生徒かもしれない。


「くそっ。受け取らなきゃ良かった……!」


 お金を何も疑わずバカだと思って受け取ったことを後悔する不良。

 バカだったのは自分だったと思い、嵌めた男に怒りを抱く。


「取り敢えず探してみるか……」


 不良は写真を片手に、写真に写っている人物を知らないか聞き取りに外へと出発した。



「おい」


 外に出て最初に見つけたのはコンバット学校の生徒だった。

 不良は写真を片手に彼ら彼女らに近づく。


「何かしら?」


 声を掛けてきた不良に恐怖なんて全く見せずに女生徒が代表として反応する。

 自分と同じ男もいるのに前に出ないことに不満を持って睨むが相手をされない。

 こちらに興味すら持っていなかった。


「ねぇ。あいつ、あんたを睨んでいるけど知り合い?」


「ん?……いや、知らないな」


 本当に覚えていない様に答える男の言葉に話しかけていた女の子も納得する。

 間が空いたがアレは自分の記憶を思い出していたのだろうと予想していた。

 他の者たちも同じだ。


「それで何で睨んでいるんだ?」


 睨まれてた男も不良に問いただす。

 男も全く不良に対して怯えていない。

 それが苛立たしくなる。


「男のくせに女を代わりに相手にさせるんじゃねぇよ」


「………?」


 不良の文句に言われた男も周りにいる者たちも疑問を浮かべる。


「それはあんたが声を掛けてきた時に前に出て相手をしろってことか?他にも男はいるから俺を睨んでいる理由にはならないと思うが?それにお前ごときに、誰だろうと敗けるはずがないし」


 男の言葉に全員が何度も頷く。

 正直に言って目の前にいる不良ごときに敗けるイメージが湧かない。

 さらに言えば負ければ恥だとしか思えなかった。


「お前、俺が弱いだと……」


「事実だろ?」


 男の言葉にキレた不良が掴みかかると簡単に払われ足を蹴られる。

 それだけで痛みで足を抱えて動けなくなり、他のコンバット学校の者たちは冷めた目で見ていた。


「………これは?」


「返せ!」


 落ちた写真を見るとコンバット学校で前に退学になった少女が写っていた。

 今頃どうしているのかと興味を持つ。


「何で彼女の写真を?」


「何だ?この写真の人物を知っているのかよ?ただ何かのゲームで、この写真の人物が何処にいるのか探してみろって言われたから暇つぶしにやっているだけだ」


 本当のことを言わずに誤魔化す不良。

 当然、コンバット学校の生徒たちは目の前の不良を怪しむ。

 だが既にコンバット学校の生徒たちは彼女を知っていることを知られてしまった。


「もと学校の生徒」


 それだけを言って不良の前から立ち去ろうとするコンバット学校の生徒たち。

 後ろから呼びかける声が聞こえるが皆して話を聞こうとせずに置いて行った。



「っ~~~~~~!!!!」


 ホームレスにいる者たちも金を受け取った者たちは二日後、痛みで絶叫していた。

 何故痛みが奔るのか直ぐに思い至り金を受け取ったことを後悔している。


「くそっ……」


 思わず悪態をつくホームレスの者たち。

 どうやって写真に写っている者を殺すかを考えている以外は痛みが奔るために、それ以外のことは考えられなかった。


「………どこにいるんだ?」


 下手に聞き取りをしても自分達の格好だと怪しまれてしまう。

 たとえ、この地域の者だとしても何人もいるのだ。

 探すのに時間が掛かる。

 他の者と協力するのも良い考えかもしれないが前金だけでかなりの金額を貰えたのだ。

 報酬を独り占めをするために協力をする気にはなれなかった。


「そういえば……」


 ふと受け取った金のことを思い出す。

 あまりの金額にまだ使い切っておらず、まだまだ残っている。

 もしかして、この金で写真に写っている女の子を探して殺せということなのかもしれないと考える。

 それなら最初にそう伝えて欲しかった。


「まずはこの金で身を整えるか……」


 取り敢えずは何か一つでも行動を起こさないといけない。

 その第一歩として床屋へと歩いていく。


「………それもそうだな。まずは行動しないと」


「あぁ」


「行動しないと……」


「良い加減に頭痛から解放されたいしな……」


 そして他のホームレスたちも最初に行動した者の後に付いて行き行列だ出来て行った。



「え」


 そして、それは床屋に着くまで並んでいき、見た者を驚かせる。

 人目見た者は見間違いかと思って二度見、三度見を例外なくする。


「あの?団体様ですか?」


 床屋へと着くと問いかけられた疑問に最初に行動したホームレスは何のことかと首を傾げる。

 そして後ろを向くと何人もの同じホームレスが並んでいて声を出して驚いてしまう。


「えっと……。団体で来たわけでは無いんですね………?」


 あまりの驚き具合に一緒に後ろに付いてきているのに気づかなかったのだと床屋の人は呆れる。

 そして驚き具合から団体客では無いのだと理解する。


「取り敢えず髪を切りに来たんですよね。今は開店したばかりですし切りますか?」


「頼みます」


 床屋の人の提案にホームレスは頷いた。



「今日は忙しくなるな……」


 床屋の人はホームレスだが客がたくさん来たことにガッツポーズを作る。

 ここに来た以上は金を持っていると判断したせいだ。

 かなりの人数が金を落としていくだろうから今日はがっつり稼げると思っていた。


「そう言えばお金はあるんですよね?」


「えぇ。取り敢えずは三千円ほどで足りますよね?」


「はい。それだけあればどんな髪型でも大丈夫ですよ」


 予想通りに金がある。

 今日一日でどれだけ稼げるんだろうと床屋の人は思っていた。



 そして昼になり、まだまだ髪を切りに来たホームレスの者たちは途切れない。

 他の床屋に行くのではなく、自分の所に来て待っていてくれることに嬉しくなってしまう。


「ふぅ………」


 丁度、ホームレスの一人の髪を切り終わり一息ついた後輩がいた。

 かなりの汗をかいており疲れているのが目に見えている。


「おい」


「はい?」


「先に休憩して昼食を食べてこい。それで戻ってきたら俺達も休憩に入る」


 先に休憩に入り戻ったら交代で休憩させてもらうという言葉に頷く。

 交代で休憩に入るなら先に休憩に入っても気がひけることはない。


「わかりました」


 後輩が頷いたのを確認して他にも休憩に入らせる者たちに指示を出していく。

 半分ぐらい減ったが、このままだと倒れるからホームレスの者たちにも理解して欲しいと思っていた。

 当然、髪を切りながら休憩に入らせた理由も説明するつもりだ。





「こんなものかな?」


 最初に行動したホームレスは既に服を選んでいた。

 そしてレジにまで持って行き買って着替える。


「うわぁ」


 着替えたホームレスを見て服屋の店員は感心の声を上げる。

 他の者と比べても普通だが、最初が悪すぎたせいで良く見えてしまっていた。

 正直に言って同一人物だとは思えなかった。


「これなら大丈夫だろ」


 着替えたホームレスも服屋の店員が感心した声を上げたのを聞いて、これなら聞き取り調査をしても怪しまれないだろうと考える。


「さてと何処にいるんだろうな……」


 ホームレスは写真に写っている少女を見る。

 それは私服の姿だったが年の頃は学生だとわかる。

 背は小さいが私服が小学生にしては大人っぽいから中学生辺りだろうと想像する。

 中学生としてみても大人っぽく見え、本当なら高校生辺りが着るような服に見えるが憧れて着たのだろと想像している。


「まずは中学校から探していると聞いて見るか……」


 学校自体は探せば直ぐに見つかる。

 グラウンドやプール、体育館など外から見ても他と比べて特徴が多いため見つけること簡単に出来る。

 そこで登下校する生徒に写真の人物を聞いていくつもりだ。

 この辺りにどれだけの数の学校があるか知らないが直ぐに終わるだろうと予想する。

 登下校する生徒に話し掛けに行くため怪しい人物だと思われて警察を呼ばれるかもしれないが何とか誤魔化して呼ぶのを止め、最悪の場合は逃げれば良いと考えていた。




「「ここか………」」


 不良たちとホームレスはある日、同時に写真に写っていたフェアニの住む家を見つけることができ、そして意図せずに写真と金を貰った者全員が集まっていた。


「「「「「「お前らは……」」」」」」


 互いに路地裏で見たことのある顔がいることに驚いたが目的は変わらない。

 写真に写っているフェアニを殺すこと。

 それが成されるのなら、どうでも良かった。


「お前たちもフェアニを殺しに来たんだよな……?」


「あぁ、そうだ。そちらこそ目的は同じで良いよな?」


 互いの疑問に頷き合う二組。

 この時間にフェアニを殺そうとしても直ぐに警察に捕まってしまう。

 それ以前に隣の家から怪しまれて止められる可能性もあった。

 だから場所を変えて話し合おうと頷き合う。



「最初に言っておくが俺たちはフェアニという女の子さえ殺せれば金なんていらない。呪いさえ解除出来れば、それでよい」


「俺たちも同じだ。この呪いのせいで、早く殺せと催促されて寝ることも出来なくなっている」


 お互いの環境に心当たりがあり、それを察して互いに手を取り合う。

 同じ辛さを経験しているせいで心の距離が縮まっていた。


「ハッキリ言って呪いを掛けた奴の言葉が信用ならない。こちらは受け取る気にならないが、そちらはどうだ?」


「そちらもですか?こちらも同じです。どうせ受け取っても、また呪われてもおかしくないと思っています。もしかしたら口封じに殺されるかもしれないです」


 その言葉に全員が頷く。

 どんな形であれ金を渡した者の思惑通りに写真に写っている者を殺そうとしているのだ。

 報酬として受け取った、それが原因で死ぬことになってもあり得ないとは言えない。


「俺たちもそうだけど写真の女の子を殺したら、もうあの路地裏に行かない方が良いな。もしかしたら口封じに直接殺しに来るかもしれない」


 否定できなかった。

 相手は呪いなんてものを掛けてこれる相手だ。

 何をしてくるのか分かったものじゃない。



「ところで、そちらは何時行動するつもりだ?俺たちは今夜にでも殺しに行こうと考えているが……」


「そうですか……。なら俺たちも今夜、殺しに行こうと思います。ご一緒しても?」


「あぁ、大丈夫だ」


 両者ともさっさと写真の子を殺して解放されたいと思っていた。

 だから直ぐにでも行動したいと思っているのかもしれない。

 焦り気味だと自覚しても誰も止める気はないし、むしろ逆に急かしていく。


「それじゃあ今夜に決行だな。夜も遅く、皆が寝静まった時間が良いだろう」


 その提案に全員が頷く。

 夜、誰もが寝ている時間だからこそ邪魔をされないと理解をしていた。



「…………気持ち悪い」


 不良たちから別れてホームレスの一人は一緒に殺すことを決めた不良に対して気持ち悪いと声に出してしまう。

 我慢が出来なくなるぐらいに気持ち悪く思っているようだ。


「あいつら、まだ学生だろう?いくら殺すようにしか考えられなくなっているとはいえ殺すことに積極的になるなんて……。どんな風に今まで育てられてきたんだ……」


 自分のことを棚に上げて人を殺すことを決めた不良に対してホームレスはどんな生き方をしてきたんだと疑問を抱く。

 普通ならもう少し戸惑いがあるんじゃないかと思っていた。

 それだけ追い込まれたんだと考えることもできるが、やはり普通ではない。


「はぁ……。我慢はしていたのかもしれないが、そういうことは口に出すな。聞かれたら不味いだろうが……」


 写真の子を殺すことで頭がいっぱいになっているから今は気にしていないのかもしれないが、殺した後に聞かれたら気が立って殺されるかもしれない。

 他人を一人でも殺したら、これまで抑えてきた枷が外れる。

 簡単に誰かを殺せるようになるだろう。


「だが、そもそもあいつらは自分を大切にしてくれる親がいて路地裏に来て暴力を振るったりしている奴らだぞ……。そりゃ偶には家族関係が最悪でここに来るしか無い奴もいるけど……。大半はどうしようもない奴らばかりだし……」


 多分、金を貰えるのなら本当に人を殺せる奴らだと思っている。

 追い込まれなくても面白そうで他人を害せそうな者たちだ。


「あまり言いたくないが俺たちも変わらないからな……?ドロップアウトして真面目に働かないでホームレスをしているんだから。その気になれば変われる機会はお前も何度もあったはずだ。それでも俺たちは何もしない方が楽だからと変わらなかった……」


 その言葉に渋い顔をして何も言えなくなるホームレスたち。

 心当たりがあるせいか胸を抑えている者もいる。


「はぁ……。とりあえず終わったら、この土地から去るか……。人殺しだとバレて捕まりたくないし」


 捕まるのが怖いのなら人を殺すべきではないのだろう。

 だけどホームレスたち、そして不良たちは殺す以外のことは考えられない。

 もう全身に痛みが奔るのは嫌だった。

 常に痛みが奔り行動できない上に気絶することも出来ない。

 それをずっと味わうぐらいなら人を殺して逃げていた方がずっとマシだと考えていた。

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