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三話

「へっ?お前、別れたの?」


「はい。今のままだと恋人相手に相応しくないので……」


「へぇ~」


 フェア二はアムルが別れたと聞いて顔がにやけそうになっていた。

 だが、それを隠して今は恋人がいないか確認した。


「つまりお前は今はフリーなんだな?」


 その言葉に頷くアウル。

 改めて言われると自分で決めたこととはいえダメージを負ってしまう。


「ふぅん。今のままだとか……。もしかして自信が付いたら、また告白するつもりかよ」


「……はい」


「……へぇ」


 からかい交じりに言った言葉を肯定されてフェアニは表情が一瞬消える。

 別れたくせにまだ好きなのが納得いかなかった。

 そもそも今は相応しくないからと別れて、また付き合おうとするなんて、ある意味キープなんじゃないかと思ってしまう。

 自分だったら許せなかった。


「今は相応しくないと思っているんだ……?」


 同時にフェアニは良い考えが浮かんだとほくそ笑む。

 そしてギネカをバカだと思う。

 弱くて情けないと思える部分があるから可愛いのに無理矢理にでも止めないことを。

 もしかしたら成長したいという心意気に負けて受け入れたのかもしれない。

 なら自分とは好みが違うと安堵する。


「なら私と付き合ってみるか?そして女の扱いを勉強するのも良いかもな」


「それは……」


 好きな相手でも無いのに付き合って利用するみたいでアムルは気が引けてしまう。

 フェアニのことを好意的に思っているから更に遠慮をしたくなってしまう。


「実際に付き合わないと女の子となんて分からないだろう?だから付き合ってやろうって言っているんだ。何か不満か?」


 何が不満かと聞かれてアムルは本気で言っているのかと疑ってしまう。

 そんな教材として自分から使われて平気なのか疑問だ。


「それは好きでもないのに付き合うということだし利用されて平気なんですか?」


「構わないぜ」


 アムルの言葉に即答するフェアニ。

 だが、それでもアムルは悩んでしまっている。

 やはり互いに好き合っているわけでも無いのに付き合うのは抵抗がある。

 そしてフェアニにとっては仮にでも付き合っている最中に惚れさせれば良いのだと考えているから乗り気だ。


「別にそこまで悩む必要は無いだろう?私と付き合っても自信が付けば別れても良い。それに………」


「それに?」


 フェアニが急に言い淀んだことにアムルは興味を持つ。

 小さいがそれに反比例してハッキリ口にする目の前の先輩が言い淀んだことが不思議だった。


「私はこんなんだからな………。嘘でも良いから一度でも誰かと付き合ってみたかったんだ……」


 アムルはその言葉にギャップ差もあって可愛く思い抱き締めそうになる。

 実際に手を広げ前のめりになり、その寸前に立ち止まる。

 理性が戻るのが、あとちょっとでも遅ければ抱き締めていた。

 そのことにフェアニは隠れて舌打ちをする。


「先輩なら、かっこいいですし普通に付き合うことが出来ると思いますけど……」


 何とか理性を取り戻して言われた言葉にフェアニは複雑な表情を浮かべる。

 背の小ささやそれに釣り合う身体の発達に誰からも可愛いと言われているから、かっこいいという言葉は新鮮だったが微妙に感じたせいだ。

 それでも魅力的だと言われたのは嬉しかった。


「………そうかよ」


「………はい」


 フェアニは顔を赤くし、それに対してアムルも顔を赤くする。

 自分の言った言葉を思い出したせいだ。

 魅力的だと断言した自分が恥ずかしくなる。


「なら私と付き合えるな?」


 そしてフェアニは顔を赤くしてアムルの顔を引き寄せる。

 魅力的だと言ったのだから、これで付き合えないと言ったら噓になる。


「付き合わなかったら魅力的だと言ったのに私を振ったと学校で泣いてやろうか?私は小さくて可愛いと人気だから直ぐに学校内に広まるわよ」


 そして脅しにかかる。

 学校内でそんな風に噂をされるのはアムルも嫌だった。

 だからここは大人しく従うことに決める。

 これが不細工だったら腹が立っていたが相手は可愛い少女だから我慢が出来た。


「わかりました………」


「魅力的だと言ったのはお前だろうが。不満そうにするんじゃねぇ。それに私は年上だぞ」


 フェアニはそう言ってアムルを押し倒し馬乗りになる。

 そして自分の唇を指でなぞり、アムルの唇をそれでなぞさせる。


「な………!?」


「これだけで顔を赤くするのかよ。可愛いなぁ」


 それで顔を赤くしたアムルをフェアニは妖艶に笑う。

 外見の幼さと口調からは想像できない姿に更にアムルは赤くなり固まってしまう。


「これでもお前より年上なんだ。年下の男の子ぐらい簡単に扱える」


 耳元に口を寄せ、そう言えばアムルはまた身体をビクつかせる。

 それがまたフェアニにとって愉快だった。


「安心しろよ。私と付き合えたことを幸運だと思わせてやる」


 そしてギネカよりも自分のことしか考えられなくしてやろうとフェアニは企む。

 甘やかして甘やかして甘やかせれば情けなく弱いままに自分のモノになりそうだ。

 だが、どうやって成長していないことを誤魔化すか今から考えなければならなかった。



 結局、アムルはギネカと別れた当日にフェアニと付き合うことになった。

 傍から見れば別に好きな相手がいたから別れたように見えてしまう。

 浮気や裏切り者として言われてもしょうがないと覚悟していた。


「じゃあ早速、今日から遊びに行くぞ」


 フェアニの言葉にアムルは頷いた。


「よしっ!それじゃあ放課後に向かうから教室で待っていろよ!」


「分かりました」


 同じ教室にいるギネカからは別に好きな相手がいるから別れたのだと責められるかもしれないが、アムルは言い訳できないとため息を吐いてしまった。




「アムル、いるか?」


「はい」


 フェアニの疑問にアムルは教室から返事をする。

 本当に放課後に来たことにアムルは冷や汗を流す。

 いくら覚悟をしていても実際に物事が起きるとなると身構えてしまう。


「………」


「よし、ちゃんと待っていたな。それじゃあ行くぞ」


「分かりました。それで今日はどこに行くんですか?」


「喫茶店だ」


 会話の途中もアムルはチラリとギネカを見る。

 だが別れて直ぐに別の女と遊びに行くのに何も反応もしていない。

 そのことにアムルは自分から別れを切り出していたのにショックを受けていた。



「おい、アムル」


「何でしょうか……?」


「取り敢えず、学校外では私に敬語は止めろ。恋人に見えないだろうが」


 恋人と言われて、そういえば仮にも付き合っているんだったと思い出す。

 だが学校内と外で使い分けると直ぐにバレそうだとアムルは思う。


「それと付き合っていることを隠すなよ。何か言われても、だから何だと言い返せ」


「うぇ!」


「うぇっ、じゃねぇ。はいかYesで答えろ」


「……はい」


 それはどっちの意味も同じだと思いながらはいと答えるアムル。

 顔も赤くしていた。


「よし、それでいい」


 アムルが返事をすると腕を引かれて頭がフェアニの手が届く範囲まで下げられる。

 そして頭を撫でられる。

 そのことに、どれだけ身体が小さく貧相でもアムルは相手が年上なんだと実感し顔が赤くなる。


「それじゃあ隠すなよ」


 そう言ってフェアニはアムルの腕に抱き付く。

 そうやって歩いている姿が色んな者達に見られアムルたちは色んな視線にさらされてしまう。

 微笑ましく見ている者もいれば、ロリコンだと警戒した目で見られてしまう。

 中には携帯を取り出してどこかに連絡している者もいた。


「ついたぞ。ここのケーキは美味いからお姉さんが奢ってやる」


 それらを無視してフェアニは喫茶店の中に入っていった。



「久しぶりだね。おや……?もしかして、その男の子は恋人かい?」


「そうだ。前に恋人が連れてきたらタダにしてくれると言っただろう?約束は守ってもらうぞ」


 フェアニの言葉に初老の男性は引いた目でアムルを見る。

 見るからに外見幼女な女の子の恋人にロリコンか疑いの視線を向けていた。

 そして無料にするために嘘をついているのかもしれないと考え同情の視線を向ける。

 自分だったら、目の前の幼女を女としては見れない。


「あの……。彼女の言っていることは本気ですよ?」


「は?」


 アムルの言葉に信じられないという顔を向ける喫茶店の店主。

 そしてロリコンかと店主は携帯を取り出す。


「止めろ」


 だが、それもフェアニに魔法で弾き飛ばされる。


「何をやっているんですか、先輩……?」


「お前も敬語は止めろと言っただろうが。後は呼び捨てもしろ」


 胸ぐらを掴まれてメンチを切られているアムル。

 それに無理矢理、恋人にされたのかと思って店主は同情の視線を向けてしまう。

 可哀想だからアムルだけは無料にしようかと思ってしまう。


「おい、よく見ろ」


「んん……!!?」


 そしてキスをされるアムル。


「これで恋人だと証拠も見せたな?」


「うん……。約束通りに無料にするよ」


 アムルを哀れに思って店主は頷いた。



「すごい……!!」


「まぁ人前で堂々とキスをするのは勇気がいるよね」


「私も人前でもするべき?」


 放心したアムルを引きずって空いている席を探すと聞き覚えのある声と知らない声が聞こえてきた。

 そして知らない声は幼い女の子の声がしている。


「ディアロ様にレイ……?それに、その子は……?」


 そこにはディアロとレイ、そして可愛らしい少女がいた。

 ディアロは様付けで呼ばれて不快だが店の中だと何も言わない。 


「もしかして、お二人の子供ですか?」


「違います。付き合って一年も経っていないのに子供がいるとか、どう考えてもおかしいでしょうが。親戚の子供です」


「そうなんですか」


 可愛らしい少女は話しかけて来たフェアニを見て顔を赤くする。

 顔が赤いのキスをしたのを直に見たせいだ。


「どうした?顔が赤いぞ?」


 それを理解せずにフェアニは少女の頭を撫でようとする。


「ひゃう!」


 頭を撫でて、そんな反応をされたのは初めてだからフェアニも驚いてしまう。


「多分だけどキスシーンを直接見たせいだから気にしなくても大丈夫だと思う」


 ディアロの言葉に自分のしたこととはいえフェアニは顔を赤くする。

 いくら証拠を見せるためとはいえ人前で見せつけるようにキスをするのは恥ずかしくなる。

 それはアムルも同じで顔を真っ赤にして何も言えなくなっていた。



「お姉さんたちは恋人なんだよね?」


 まだ顔は赤いが少しだけ落ち着いた様子の少女の言葉にフェアニとアムルの二人は頷く。

 今日からだが恋人なのは事実だった。


「そうなのね。………デート中みたいだけど借りても良い?」


 レイはアムルに質問するが断らせようと考えない様に圧力を掛けて質問する。

 その様子にディアロは断らせる気がないじゃんとため息を吐き、アムルは冷や汗を流して頷いた。

 そしてレイは頷いたのを確認するとディアロとアムルを移動させ女だけで話しやすいように固まった。

 何時から付き合ったのかなど恋バナをする気満々だった。


「悪いけど、同じ席には座らせてもらうぞ」


「かまわないわ」


 席の位置は帰るが、その場所からは離れないつもりのディアロにレイは当然のように頷く。

 そしてディアロは席を離れようとしているアムルを捕まえて同じ席の外側に座らせていた。


「それで、何時から付き合ったんですか?」


「今日からだよ」


 顔を赤くしながらも嬉しそうに話しているフェアニにアムルの逃げ場所は無かった。




「女性陣は女性陣で楽しそうに話しているし、俺たちは俺たちで話そうか?」


「ひゅっ…!」


 ディアロの言葉にアムルは息を吸ってしまう。

 おそらくは本来は幼い女の子がいるとはいえデートのようなものだったのかもしれない。

 それなのに邪魔をしてしまっていることを思い出し申し訳ない気持ちと、これがバレたらという恐怖が襲ってくる。


「そんな怯えなくても良いだろうに……」


 ディアロは目の前の男が震えている理由を自分への恐怖だと考えている。

 敵対する多くの者を潰し、崇拝させたのだ。

 当然のことだろうと納得はしている。


「敵意も無いし、そんなに怯えなくても良いだろうが…。気に喰わないからって直ぐに行動に出ないのはお前も分かっているだろう。そうだったら様付けをして呼んでいる時点で酷い目に遭っている」


「……わかっています。だけどデートの最中を邪魔したとして崇拝者たちが行動に出ると考えたら……」


「………何でああなったんだ」


 ディアロは自分の崇拝者を思い出してため息を吐く。

 日に日に増えて行っている気がして、常に誰かに見られている気分だった。


「まぁ、ディアロ様は強いですから」


「様付けは止めろ」


「すいません。気を付けてはいるんですけど移ってしまって……」


 アムルの言い訳にディアロハため息を吐く。

 その理由も納得できるから何度も強く言えない。

 ディアロ自身も何かに対して皆が同じような名前で呼んでいれば自分も使ってしまう。

 その対象が自分だっただけだ。


「それにしてもデートの邪魔をしてしまってすいません」


「は?」


 ディアロは謝られる理由が分からなかった。

 どう考えて邪魔をしたのは自分達の方だ。


「本当にすいません!」


 アムルはディアロの言葉に怒っていると持って必死に謝罪を繰り返す。

 その様子にレイたちや周りの客の注目を集めてしまっていた。


「はぁ」


「ごっ……!!」


 ディアロはため息を吐いてアムルの頭を叩いた。


「一応、言っておくが悪いのは俺たちだからな?知り合いがレジ前でキスをしていたとはいえ、最初に腕を引っ張ったのはこちらだし」


「ありがとうございます……」


「はぁ……。なんでも奢るから好きなモノでも注文しろ。フェアニ先輩もです」


「当然、私達もよね?」


 レイの言葉に頷き、それぞれが注文を選ぶ。

 最初に決めたのはレイと一緒にいる女の子の二人。

 フェアニとアムルはまだ決めていない。

 アムルはディアロに奢らせてもらうことに気が引けていたし、フェアニは後輩に奢ってもらうことに気が引けてしまっていた。


「二人が決めないなら私が決めますね」


 そんないつまでもメニューを選べない二人にレイが勝手に決める。

 このままではいつまでも決まらないと考えた結果だ。


「すいません!!」


 そしてウェイターを呼び出す。


「このおススメを五つとこれを一つ。あとこれもお願いします」


「かしこまりました。以上でよろしいですか?」


 ウェイターの確認に頷くレイ。

 それに確認して厨房へとウェイターは向かう。

 気付くと注目していた視線は消えていた。

 ディアロが軽く頭を叩いていた様子もあって大袈裟にしていただけなんだと思ってしまっていた。


「なぁ……」


 そしてフェアニが後輩に奢らせてもらうことに声を掛けてしまう。

 流石に後輩に奢らせてもらうのはやっぱり嫌なのだ。

 年上の威厳に関わってしまう。


「やっぱり私に奢らせてくれないか?年上として後輩に奢ってもらうのは流石に精神的にキツイ」


 そう言うフェアニの顔は辛そうに見えてしまう。


「そうですね……。それじゃあ先輩の分だけ後でお金を払ってもらいますね。ここは俺に払わせてください」


「う……」


 ディアロの意見にそれしか無いかとフェアニは頷く。

 喫茶店から出た後にお金を払おうと考えていた。


「そうだ。お前も食べきれなくなったら言えよ。代わりに食べてやるから」


「食べれます!!」


 ディアロは幼い女の子にも食い切れるか心配して声を掛ける。

 それに対して食べきれるといらないとむっ、として答える女の子。

 その様子が微笑ましくて、ディアロたちの周りに和やかな空気が漂っていた。



「うぅ………」


 結局、幼い女の子は自分の分を食べきることが出来ずディアロに食べてもらうことになった。

 あれだけ食べきれると言ったのにできなかったことが、お腹がいっぱいで恥ずかしがる余裕もない。


「そう言えばディアロ様、リィスはどこにいるんですか?二人がいるなら彼女もいると思ったんですけど……」


 アムルの疑問にここで今いない女の話題を出すのかとフェアニは睨むがディアロとレイは気にしない。

 むしろ、いつものことを考えれば聞かれるのも当然だと思っていた。


「適当なところに存在感を隠して見ているよ。凄いよな……」


「は?」


「え?」


「ん?」


 ディアロの言葉にアムルたちは周囲は周りを見渡すが見つからない。

 嘘かとも思うが、こんなことで嘘を吐くはずがないとアムルたちは信じている。


「ちょっと色々と教えただけなのに技術を発展させているんだよ。隠れるということに才能と努力を発揮し過ぎなんだよなぁ」


 ため息を吐きながら教えてくれるディアロにそれはマズいのではと思うアムルたち。

 つまりそれはディアロの傍にいて見ているだけに能力を獲得していて気付かぬ間、今も見られているんじゃないかと思ってしまう。

 アムルたちは自分でそれを想像して気色悪さに身体を震わせる。


「それって今もだよね?」


「うん?そうだけど。存在感や視線まで消しているから気付きにくいよ」


「そう……」


 それは自分も見られているとレイは考えて嫌な気分になる。

 どうせ何を言ってもリィスは変えないだろうから自分が強くなって見つけるしかないとレイは考える。

 ディアロに頼んで鍛えてもらおうと考えている。


 ディアロに止めるように頼んでも、どうせ意味はない。

 リィスはそれを無視して見守るのを止めないのが目に見えていた。


「ふぅ……」


 話していると女の子が一息を吐く。

 どうやら落ち着いたみたいだった。


「それじゃあ喫茶店から出ようか。お前も……。もしかしていっぱい食べて眠くなったのか」


 うつらうつらしている女の子にディアロは抱きよせる。

 そして持ち上げておんぶをした。


「そうだな。アムルも行くぞ」


 ディアロの提案にフェアニもアムルを連れて喫茶店の外へと出る。

 そして喫茶店から離れたところで自分の食べた分のお金をフェアニは払って別れた。




「………それでリィスは今、どこにいるの?」


 レイの疑問に女の子と手を繋いでいるディアロは何もないところに魔法を撃つ。

 火や水のように相手を怪我させるものや汚れさせるものではなく風のような軽い衝撃を与える魔法だ。


「………視線や存在感を感じないんじゃ?」


「存在感を感じなくても、そこにあるんだから見つけることはできる」


 ディアロの言葉に首を傾げてしまうもディアロが相手だから納得するしかなかった。


「ところでギネカはいた?」


「………いました。次の相談相手ですか?」


「多分?」


「ふぅん……」


 ギネカが次の相談相手と聞いてレイは楽しくなりそうだと顔をにやけさせる。

 それはディアロとリィスも同じだった。


「次?」


「そう。多分、次の相談相手。だから、お前もそろそろ初めての仕事が来る。だから仕事も頑張って覚えないとな」


「うん……」


 ディアロの言葉に女の子は緊張して頷く。

 その姿が可愛らしく微笑ましくなる。


 ディアロからすれば初めての仕事だし別に失敗しても良かった。

 むしろ最初は、その初々しさを利用したいと考えている。


「不安なら帰ったら直ぐにでも練習する?」


「する!」


 レイとリィスも女の子の練習に付き合いたいと考える。

 両者とも保護者に連絡してディアロのところに泊まろうと思っている。


「私も泊まって良い?」


「私もです」


 二人にディアロはかまわないと伝え、女の子は嬉しそうに笑う。

 それを見てレイは家へと電話をかけ、リィスは一度孤児院に帰って外出届を出してくると伝えて急いで帰った。


 二人からすれば可愛い女の子が家事の練習をするのだ。

 是非とも自分達の家事の知識も教えたかった。


「それじゃあ行くわよ」


 許可を取れたレイはそう言って女の子の手を取る。

 それに対して女の子は逃げられた手にぎゅっと力を込めた。

 ディアロと繋いでいる、もう片方の手も力を込められていて見ていて嬉しくなった。


 まるで子供のいる新婚さんみたいだとレイは考えて嬉しくなり、女の子は実の両親にもしてもらったことのないことに嬉しかった。

 今まで別の誰かがやっていたのを見たことがあるだけで羨ましかった。


「早速、家に着いたら料理を作るわ。一緒に手伝いなさい?」


「分かった!」


 レイの言葉に嬉しそうに頷き、早く手伝いたいと女の子が先に進んで手を引っ張っている。

 そのことがレイはとても嬉しかった。

 一緒に手を繋いでいる女の子が自分と一緒に料理を作るのが嬉しいと言っているのが分かるからだ。


 ディアロが二人が料理を作ると聞いて夕食が楽しみになっていた。

 レイの料理は美味しいし、女の子がそれに教わって作ると聞いて楽しみになる。

 もし女の子の料理が失敗しても食べきってやろうとディアロは考えていた。




「あれはアムルとフェアニ先輩……?」


 帰宅の途中ギネカは恋人だったアムルと歩いているフェアニを見つけた。

 別れたことがショックで昼休みから何も覚えていないがアムルのことだけはハッキリと見つけることが出来た。


「あの先輩は弱みを握ったとかで最近、一緒にいることになった先輩よね?」


 今日も弱みを握られているから一緒にいるのかと考える。

 まさか別れて直ぐに別の女と付き合うなんて考えてもいなかった。


「あれ?腕に引っ付いていない?」


 そして遠くから見ているとアムルの腕に引っ付くフェアニが見えていた。

 そのことに嫉妬が湧きギネカの眼は人を殺すような視線になる。


「何でアムルは許しているのよ……。もしかして別れたのも、あの女と付き合うため?」


 そうだったら許さないとギネカは出来るだけ二人に近づく。

 何を話しているか調べようと思っていた。


「取り敢えず、学校外では私に敬語は止めろ。恋人に見えないだろうが」


「は?」


 ギネカはフェアニの言葉に殺意を抱く。

 だが聞き間違いかと思って更に聞き耳を立てる。


「それと付き合っていることを隠すなよ。何か言われても、だから何だと言い返せ」


 まさか別れて一日も経たずアムルに恋人が出来ると思っていなかった。

 もしかして弱みを握られたことが原因で付き合っているのかと想像する。

 だとしたら人の恋人を奪っておいてふざけるなとギネカは思った。

 しかも恋人であることを隠さないなんて自分でもしていない。

 ひたすらに羨ましいと思ってしまう。

 自分でも恥ずかしがらずに隠さないで堂々としていれば良かったと後悔する。


「ついたぞ。ここのケーキは美味いからお姉さんが奢ってやる」


 そして二人は喫茶店の中に入る。

 二人にバレるのも嫌だから喫茶店の中に入らず遠くから眺める。

 入るにしても二人が席に座ってからだ。

 気付かれない様に軽く変装する必要もあった。


 変装は髪型や眼鏡を掛けるだけで意外とバレないから、それだけにしようと考える。

 今から服装も変えてと時間がない。

 バレたらバレたで偶然で片付けようと思っていた。


「おい、よく見ろ」


 そして二人が入った喫茶店がざわついているのをギネカが確認するとアムルとフェアニがキスをしていた。


「…………」


 ギネカは能面のような表情になる。

 アムルの表情は嬉しそうでフェアニの表情は幸せそうだった。

 それが更にギネカの怒りを沸き上がらせる。


 そもそもアムルは自分に釣り合う様に頼られるようになりたいと別れたんじゃないかとギネカは思い出す。

 それなのに別の女と付き合うのは意味が分からなった。

 釣り合うようになるために女の扱い方を勉強する気だったのかと考えてしまう。

 それなら自分でも良いじゃないかとギネカは思っていた。


「そう言えばアムルが別れようと言い出したのは弱みを握られてからよね……」


 それまで普通に付き合えていた。

 もしかしたらフェアニが接近してアムルを奪ったのではないかと邪推してしまう。


「そうか………。無理矢理、付き合わされているのね」


 ギネカはアムルが別れたのもフェアニと付き合っているのも弱みを握られたせいだと考えている。

 そして、それさえなければアムルは自分の元に帰ってくるとも想像していた。

 握られた弱みを消し去るか握っている本人を消し去るか。

 難易度は高いけど安全なのは前者で難易度は比較的楽で危険なのは後者。

 誰かを殺すというのは行動さえできれば簡単なのだ。

 ただそれをうまく隠せるかが問題だ。

 何か安全に出来ないか、誰かに相談してもらって力を借りれないか考えてしまう。


「絶対に助けて上げる」


 フェアニさえいなくなればアムルは自分の元へと帰ってくるはフェアニは考える。

 どんな手でも使って取り戻すつもりだ。


「そういえば復讐相談事務所って聞いたことがあるわね」


 そして思い出す今のギネカに都合が良い場所の名前を。

 今までは噂に聞いたことがあるだけで、自分には縁が無いだろうと思っていた。

 だが今はどこにあるのか気になって仕方がない。


「たしか何処かの路地裏にあるのよね?」


 復讐を胸に抱いている者しか入れないという噂があるがギネカは自信がある。

 自身の胸に抱いている感情は憎しみだと。

 だから入れるはずだと考えていた。


「問題はどこの路地裏なのか分からないことよね」


 路地裏なんて探せばどこにでもある。

 だから復讐相談事務所を見つけるにはしらみつぶしに探すしかない。


「最悪、自分の力だけで復讐する必要があるわね」


 それはそれで構わないとギネカは思っている。

 復讐するのは変わらない。

 ただ復讐相談事務所を求めたのは良い相談相手になりそうだったからだ。


 今日はこのまま喫茶店から離れて路地裏を探すことにする。

 これ以上、二人を見ていたら何をするのか自分でもわからない。

 だから、さっさと離れることにする。


「絶対に奪い返してやる……!!」


 ギネカはフェアニからアムルを奪い返すことを誓って、その場から去る。

 もうギネカにとってフェアニは自分からアムルを奪った敵としか認識していなかった。

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