二話
「さてと服を買うからお前も選べ」
放課後、アムルが連れて行かれたのは服屋だった。
雑用はこれなのかと考える。
「それじゃあ、まずはコレとコレだな」
そう言って見せてきたのは白と黒のワンピースの二種類。
それをアムルに見せて選ばせる。
「それでお前はどっちが似合うと思う?」
アムルはフェアニが選んだ服を運ぶ役目だと思っていたから好みを聞かれたことを驚いてしまう。
そして白い方を選ぶと黒のワンピースは戻して、白のワンピースだけを手にする。
「なるほど、こっちね。じゃあ次を選ぶわよ」
アムルの持っているカゴの中に服を入れてから次の場所へと移動する。
そこでも何種類か選んでアムルに決めさせる。
フェアニはアムルが選んだ物を文句を言わずに決めていく。
ギネカのように選んだ物を一々文句を言われずに済んでアムルはホッとしていた。
そのまま服を何種類か選び、更衣室へと移動する。
選んだ物を実際に着て似合っているか男の眼からも確認するつもりだ。
そして似合っていたら買う予定だった。
「うーん。これ似合うか?」
当然、選んだ服の中には似合わない者もある。
最終的に似合っていると思って決めたのがアムルだから似合わない服を見て自分の見る目を後悔する。
それでも似合っているのが何着かあったが、全て似合っていなかったら絶望していた。
「………似合わないです」
「だろうな。結構な数を選んだけど似合っていたのは、ほんの僅かだったな」
事実だから何も言い返せないアムル。
そして元の服に戻ったフェアニがアムルのカゴに似合わなかった服と似合っていた服を別けて入れた。
「それじゃあ似合わなかった服を返すから手伝えよ」
似合わなかった服だけと言われて、また服を選ぶのかと予想する。
似合っている服も数着だから、まだ買うのかもしれない。
「これは……、たしかここだよな」
少しずつ戻していってカゴが軽くなっていく。
そして手にしているのは似合っていた服だけになった。
「ふぅ、やっと全部戻せた。後はレジでそれを買うだけだな」
どうやら似合っていた服は全部買うらしい。
アムルはそれが少しだけ嬉しかった。
「サンキュ。ついでだし上がって行けよ」
フェアニの家まで買った服を買った服を持たされアムルは案内される。
服を買った際に代金を払ったのはフェアニだがアムルは何とも思わなかった。
恋人だから当然だ。
むしろ払わされていたら文句を言っている。
「いや恋人がいるのに別の女の家に入るのは流石に……」
「入れ」
「ハイ」
アムルは拒否しようとするがフェアニの言葉に拒絶できなかった。
命令しなれているのか、拒否されるなんて考えてもいないと伝わってくる言葉の言葉のせいかもしれない。
「ただいま」
「おかえり。その男の子は誰?」
「後輩」
そして家の中に入ると女の人が出迎えてくれる。
おそらくはフェアニの母親だろう。
「そうなの。その子に持っている服は何かしら?」
「私の服。色々手伝ってもらったから夕食も食べて貰いたいけど大丈夫?」
「え」
「大丈夫よ。それじゃあ、早速準備するわね」
勝手に夕食をフェアニの家で食べることを決められるアムル。
流石に悪いと断ろうとするが、フェアニの母親は話を聞かずに準備しようとしている。
そしてフェアニに腕をとられてアムルはフェアニの部屋へと連れ込まれてしまった。
「何か文句あるかよ?」
「いえ………」
部屋に連れ込まれてアムルは何も言えなくなった。
可愛らしい色合いの部屋にぬいぐるみ達。
まさしく女の子の部屋で緊張してしまう。
彼女の部屋の中にも入ったことが無いから、これが初めの女子の部屋だった。
「………んな、キョロキョロして見るなよ」
そしてフェアニも自分の部屋に男子を入れるのが初めてで顔が赤くなっていた。
自分の部屋をマジマジとみられていて恥ずかしくなる。
「服を代わりに持ってくれてサンキューな。今度、選んでもらった服を着させてもらうよ」
女の子らしくない口調だが、可愛らしい部屋で生活している女の子の言葉だと考えると可愛く感じてしまう。
自分の恋人より可愛いんじゃないかと思ってしまう。
「それにしても、お前何で恋人と今も付き合っているんだ?」
「はい?」
「はい?じゃなくてさ。昨日はあれだけ私に愚痴っていて気にならない方がおかしいだろ?それだけ不満なら別れた方が良いんじゃないのか?」
アムルは急に別れた方が良いと言われて黙ってしまう。
もしかしたら、これを質問して誰にも聞かれないために家にまで連れてこられたのだと想像する。
「ハッキリ言って、あれだけ愚痴を零すのなら別れた方が良いと思う。あの時点で見ず知らずの私にまで相談しにくるし」
フェアニの言葉に冷静に考えて確かにとアムルは頷いてしまう。
それでも別れることは今は考えれなかった。
自分から告白して付き合ってもらったのに、ストレスが溜まるからと自分から別れるのは最低じゃないかと思う。
「はぁ~」
それを伝えるとフェアニはため息を吐いた。
「だから何?恋人として付き合ってストレスが溜まるだけなら別れろよ。相性が悪かっただけだろ。どうせ相手もストレスが溜まっているかもしれないし」
「それは……」
ストレスが溜まるのは自分だけじゃないと言われてアムルも心が揺れてしまう。
そんな姿は見せていないが隠しているだけなんじゃないかと想像した。
「付き合って、そこまで時間が経っていないんだろ?なら別れることになっても、そこまで気にしないって」
「そうかもしれないですね」
たたみかけて説得をするフェアニにアムルも頷いてしまう。
隠していたとしても付き合ってストレスを溜めるぐらいなら確かに別れた方が良いと納得してしまっていた。
「ご飯が出来たわよ~!」
「よしっ。それじゃあご飯を食べようか」
母親からご飯が出来たと聞いてフェアニはアムルの腕を引いて下へと降りる。
まだ迷っているかもしれないが、まずは腹を膨らませる方が重要だ。
決めるのは後で良いと考える。
時間はまだまだ余っている。
できれば早く決めて欲しいのは自分の我がままでしかないと考えていた。
「ところで二人って恋人かしら?」
「違う」
「まぁ、そうよね。どれだけ可愛くて家事も出来てもこんなに小さかったら、そんな目で見られないか!」
母親の言葉にフェアニは苛立ちを覚えつつも何も言わない。
いつものことだから何を言っても意味がないと諦めていた。
「いえ普通に魅力的だと思いますけど……」
だからアムルの言葉に驚く。
まさか、本人が目の前にいるのにそんなことを言われるのは思ってもいなかった。
「え?こんなに色々と小さいのに?」
「見ず知らずであったばかりなのに色々と心配してくれたり、相談に乗ってくれていますし。学校では学年が違いますけど頼りにされていると思いますよ」
アムルの言葉にフェアニは顔を赤くする。
会って間もないのに、そこまで言ってくれるのは嬉しかった。
「そうなのね……」
それでもフェアニの母親からすれば心配で不安になる。
どれだけ内面が魅力的だとしても、人はどうしても外面も気にしてしまう。
フェアニの後輩は真正のロリコンじゃないかと疑っていた。
「そう言ってくれると嬉しいわ。ところで料理は美味しいからしら?」
「えっ、はい。とても美味しいです」
「そう良かったわ」
今のところフェアニに向ける視線は尊敬だと母親は考える。
もしその視線に欲情が混ざっていたら引き離すつもり満々だった。
「それじゃあな」
夕食も食べ終わり、フェアニとその母親が玄関でアウルの見送りをする。
「はい、また」
「また来ても良いからね?」
結局、夕食を食べ終わるまでにフェアニの父親は帰ってくることはなく、そのことにアムルは安心する。
そしてフェアニの母親の言葉に曖昧に笑って誤魔化す。
流石に今度こそ父親に会うのは勘弁したかった。
そしてフェアニの母親は是非ともアムルに来て欲しいと思っていた。
もし情欲の視線を送っていたら気付くことが出来るし、時折確認したかった。
欲情を抱いたら自分の娘だけでなく近隣の子供たちも安全じゃないと、どんな手を使っても牢屋にぶち込む気満々だ。
当然、自分の夫にも話して相談するつもりだ。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
頭を下げて去っていくアムルを見送って今度は自分の娘を見るフェアニの母親。
自分の娘が去っていた男の子にどう思っているのか確認したかった。
「フェアニ、聞きたいことがあるけど良い?」
「何だよ?」
「もしかして、あの子のこと好きになったりしていない?」
「…何を言っているんだ?」
上手く誤魔化しているが母親の勘で好意を抱いているのを察する。
もし娘がアタックしていった結果、気の迷いで付き合うことになってしまうかもしれないと警戒してしまう。
「話はそれだけなら部屋に戻るから」
これ以上は聞かれたくないのか娘は部屋へと一足先に戻っていった。
「絶対にあの人と相談する必要があるわね」
娘の欲情する男は変態だとフェアニの母親は確信している。
そして、それは父親も同じだ。
そんな男を義息子として受け入れたくなかった。
「何でバレた?」
フェアニは自分の部屋に戻り、赤くなった顔を枕で押し隠しながら疑問を持つ。
バレるようなヘマはしていない自信があった。
「まぁ、良い。あいつを堕として私でも結婚できるって証明してやる……」
学校やそれ以外にも友達がいる。
皆と遊んで楽しいし、何かにチャレンジして失敗したら悔しいし、友人にバカにされたら悲しい。
どれだけの思い出があっても結婚は出来ないと憐れむ言葉は決して忘れることは出来なかった。
「絶対に逃がさないし、絶対に結婚してやる……!」
そして、どいつもこいつも見返してやると心に決める。
アムルは自分の胸に顔を押し付けられて顔を赤くしていたから勝算もある。
それに情けなくて可愛いと思っていたアムルがに自分の母に言い返した姿にギャップもあって更に顔が赤くなる。
そして言い返してくれた内容も出会ったばかりなのに自分を理解してくれているようで嬉しかった。
「アムル?」
ギネカは夜に外を出歩いていた。
少しお腹が減り、おやつを買った帰りだった。
その最中にアムルを雑用にして連れて行った先輩が家の中から自分の恋人を見送っている姿を発見した。
その上に先輩はアムルが見えなくなるまで見送っていて、まるで恋人のようだった。
「は?」
それを見てギネカは不快になる。
本当だったら、今すぐにでも問い質したい。
だけど、それをしなかったのは遠くから見えていたからアムル本人だと確証が無かったからだった。
「アムルじゃないわよね……」
だから確認のために、まずはアムルの後を追う。
向かった方向は覚えているし歩いているから追いつける自身がある。
フェアニの家を確かめるのは後にするつもりだ。
最悪、明日にでも確認すれば良いと考えている。
「フェアニも家の中に入ったわね……」
そして完全に家の中に入ったのを確認してギネカはダッシュでアムルの後を追った。
「丁度良いしコンビニで軽くお菓子と飲み物を買うか」
そしてアムルに簡単に追いつけた。
声を掛ける気にならずギネカはアムルの後を追うだけ。
どう行動するのか確認したかった。
そしてコンビニの中に入って少ししたらコンビニ袋を持って出てきた。
立ち読みもするだろうから、もう少し時間が掛かると思っていたのに予想外だ。
いつもなら少年雑誌やら呼んでいたのに、その様子すらなく出てきた。
「ふぅ………」
アムルはコンビニ袋からコーラを取り出し飲みながら歩いていく。
行き先はアムルの家だろう。
アムルの家の位置は知っているから予想は出来る。
それでも家の中に入るまで後を追うつもりだ。
「あははははは!!」
「それでさー……」
アムルの帰り道の途中で不良たちも歩いてくる。
その姿にギネカはいつでも乱入できるように身構える。
「いや、お前さぁ……」
「何を言っているのよ!」
「じゃあさ!」
だがその心配も杞憂で互いに通り過ぎて終わる。
そのことにギネカは安堵した。
不良相手とはいえ数の差で勝つのは難しいし、喧嘩をしたからと罰を貰うのは嫌だった。
「ほっ……」
それにギネカからすればアムルは庇っても足手纏いにしかならないと思っていた。
弱くて直ぐに人質にしかならないと想像できてしまう。
だからこそ告白を受け入れた。
「ただいまー」
ギネカはアムルを自分より弱くて弱くて愛おしい存在だと感じてしまう。
自分の方が強いから安心できるし、男だから女よりも単純。
だから力づくで責められても何かを企んでいても簡単に暴けると思っていた。
そしてアムルが家の中に帰ったことを確認しギネカも自分の家へと帰る。
どうせだから明日は一緒に学校に行こうと考えて早く寝ようと思っていた。
「ただいまー」
「お帰り。彼女の家の料理は美味しかった?」
「いや、彼女じゃないんだけど」
「うっそだー」
息子の言葉にアムルの母親は否定する。
恋人でも無いのに家に招いて料理をふるまうなんて恋人か好意を持っている相手じゃないとしないだろうと考えていた。
「事実だからな?」
「ふぅん。まぁ、恋人が出来たら教えてね」
「えぇ~」
「何がそんなに嫌なのよ」
恋人が出来たら紹介してという母親にアムルは拒否をする。
普通に恥ずかしくて嫌だった。
恋人がいることを絶対にバレたくないと隠すことにする。
「恋人が出来たら教えなさいよー」
母親は息子に恋人が出来ることに期待し、息子は恋人がいることを絶対に教えないと決意する。
もしバレてしまったらお節介や恥ずかしい過去をバラすだろうから恋人にも自分の親相手には隠すように頼もうと考えていた。
「それにしてもうるさいなぁ」
自分の部屋に戻りアムルは愚痴を零す。
高校生になってから結構な頻度で恋人ができたのかと聞いてくる。
良い加減に聞き飽きて欲しいと思っていた。
「恋人がいると言ってもなぁ」
信じるにしても信じないにしても煩くなるだろうと想像出来てしまう。
そうして最後に連れてきてと言われるのが予想できて嫌だった。
何で恋人ができたからと言って教えたり連れて行かなくてはならないんだと考える。
そんなことを言われてしまうなら黙っていた方が万倍マシだと考えていた。
「それにしても誰にも見られていないよな………」
放課後からのことを思い出してアムルは不安になる。
服を買いに行ったのはほとんどデートだった。
荷物持ちをしていただけだと誤魔化せる自信はあるが、フェアニの家で夕食をご馳馳走になり見送られたのは誤魔化すのも難しくなりそうだと考えてる。
「それにしても先輩との買い物、楽しかったなぁ」
フェアニと服を選ぶことになったが楽しかった。
似合わない服も多く選んでしまい迷惑を掛けてしまったが自分の意見を色々と聞いてくれて嬉しかった。
正直に言って恋人であるギネカより数倍楽しかった。
それに相談にも色々と乗ってくれて気分も軽くなった。
身体は貧相かもしれないが、かなりモテるのだろうと思ってしまう。
「もし、あの先輩に恋人がいなかったら、みんな見る目がないなぁ」
ギネカがいなかったら惹かれていたかもしれないとアムルは思っていた。
そして翌日。
「アムル、おっはよう!!」
背後から思いきり叩かれた。
誰がやったのか後ろを向いて確認するとギネカがいた。
そして叩いた後の姿に持っていたカバンを使って叩かれたのだと理解する。
「ギネカ……?」
思いきり叩かれたことに文句を言いたかったが、ギネカの眼を見て何も言えなくなる。
アムルが急に叩かれたことに怒っているよりもアムルはそれ以上に怒っているのが分かったせいだ。
何かしてしまったかとアムルは怯えてしまう。
「昨日、先輩の家から出て来たのを偶然見てしまったんだけど?何をしていたの?」
見られていたことにアムルは顔を引き攣らせる。
まさか見られているとは思わなかった。
どうやって誤魔化すか必死に頭を回す。
「荷物持ちで家まで運んだから、そのお礼に夕食をご馳走になっただけだって」
「家に入ったんだ?」
恋人がいるのに違う女の家に入ったことにギネカは腹立たしく感じる。
幼馴染といった家が隣の女の子の家だったら、まだ我慢が出来た。
だけどフェアニとアムルの家は離れていた。
「…………はい」
ギネカの質問にアムルは頷く。
嘘を吐くなんて許さないという圧力で正直に話すことしか出来なかった。
「何で恋人でもない女の家に入ったのかしら?いえ別に入るぐらいは良いわ。だけど夕食までご馳走になる?もしかして部屋の中にまで入ったりしていない?」
「…………」
女の勘なのかそこまでバレていることにアムルは顔を青くする。
その反応にギネカも勘が当たっていたことを理解してしまう。
「へぇー」
「………」
ギネカの責める視線に居心地が悪くなる。
何も言えない。
「アムル。今日は私の家に来なさい?」
「ハイ!!」
ギネカの誘いにアムルは何も考えず勢いよく返事をする。
それだけ圧力が強く怖かった。
「それじゃあ決まりね。何か予定が入っても断りなさい……」
「分かりました!!」
アムルはもう純粋にギネカが怖くて、ギネカの意志に従うしか考えられなかった。
「よう、第二のディアロ」
学校に着くとクラスの友人にいきなりそんなことを言われる。
何で第二のディアロと言われるのか理解で出来ずに首を傾げてしまう。
「第二のディアロって?すごい身に余るんだけど?」
「クラスではディアロに続いて二人目の彼女持ちだからな!」
良かったじゃないかと親指を立てられるが、いつの間に恋人がいることがバレていることにアムルは驚き、そしてギネカが話しているのだと予想する。
そしてギネカはアムルの顔を見ていた。
「………アムルの彼女は誰だと思っているの?」
ギネカの質問にアムルはどうしてそんな質問をするのか理解できなかった。
既にギネカは恋人同士だと話しているんじゃないかと考えたせいだ。
「ギネカかフェアニ先輩のどちらかだろ?それともどっちとも付き合っているのか?逆にどっちとも付き合っていないくても直ぐに付き合うことになりそうだし」
「あぁ、そう……」
どうやらクラスの中でかなり精度の高い予想をされていることを理解する。
このままでは付き合っているのがバレるのも時間の問題だと予想する。
ギネカはもう恋人なのをバラした方が良いんじゃないかと考えるが首を振って頭から追い出す。
ギネカからすれば、もう少ししっかりしてからバラしたいと考えていた。
自分より弱くて情けないのが好みだが、最低でも自分から何があっても離れて行かないと確信してからが良かった。
今でもフェアニという先輩の家の中に入ったりしているのだ。
そういうのは何があっても断るようにしたい。
「そっか~。………俺って二股をするように見えるのか」
アムルはショックを受けているがギネカは安心して欲しいと思っていた。
自分にしか女として意識しない様にするから誤解も直ぐに解ける。
「あっ、悪い。単純に二人の女性に好かれているから、そう言っただけで二股するとは思っていないから
」
「本当かよ?」
「ほんとほんと。実際にそんなことをしていたら屑だし、皆が嫌っている」
「それなら良いけど」
嫌っていたら、わざわざからかい交じりに話しかけに来ないと考えて納得するアムル。
ギネカも二股する気は無いと聞いて安心する。
自分と付き合っているのに他の女とも付き合っていたら、その女は無茶苦茶にしたくなる。
そして今からでもアムルを早急に自分のことしか考えられなくしたくなってしまう。
「うーん。でもさ、ディアロのあれって二股なのか?」
「………違うんじゃないか?」
「………多分、違うわよね?」
ディアロが二股をしているという意見にアムルは疑問を持ちギネカも頷く。
最初に話題に出したクラスメイトもリィスのことを思い出して否定する。
「片方は恋人だけど、片方は元はストーカーだからなぁ……。あれ?比べる方が失礼じゃね」
「すみませんでした!!」
二人の女性に好意を持たれているみたいだからと、諦めて公認ストーカーになった女と一緒にしたことをクラスの友人は頭を下げて謝った。
そうして教室に着くとディアロとレイがいた。
そして二人を中心にざわめきが起こっている。
何が起きているんだとギネカたちは覗き見る。
「これで満足か……」
「はい!ありがとうございます!!」
「うっわ……」
そこにはリィスの背中に座っているディアロがいた。
近くにいるディアロの恋人であるレイは顔を引き攣らせている。
「「「うっわ……」」」
見ていた三人もレイと同じように顔を引き攣らせてしまう。
学校の教室でそんなことをする勇気が信じられなかった。
「何で背中に乗られて喜んでいるのよ……」
「好きな者相手に乗られているんですよ。最高じゃないですか!」
「ごめん、意味が分からない」
レイの言葉に教室にいたほとんどが頷く。
自分だったら普通に嫌だった。
頷かなかった者たちは自分が乗られたことを想像して興奮していた。
「ふぅ。乗られているってことはマウントを取られているんですよ?支配されているみたいで最高じゃないですか?」
その言葉に何人かが頷く。
当たり前のことを説明するような口調にレイたちも頷いてしまった。
特に愛しい相手に支配されているところを尊像してゴクリと唾をのみ込んでしまう。
「どうでも良いけど、もう満足か?それなら降りたいんだけど……」
「そんな……!何が不満なんですか!?」
「普通に不安定だから、普段使っている椅子に乗った方がマシ」
ディアロの言葉にリィスはショックを受けて固まる。
その間にディアロは降りリィスを避けて普段使っている椅子に乗り換える。
「ねぇ、ディアロ」
そんなディアロに恋人であるレイが肩を叩く。
どうかしたのかと振り返ると目がぐるぐると回っており顔も赤くなっている。
先程までは顔も赤くなく、いつも通りだったのに急な変化にディアロは戸惑う。
「代わりに私の背中に乗る?」
ディアロは思わずアッパーを繰り出しレイを殴ってしまった。
「あ………」
当然ながらレイは気絶し倒れてしまう。
それを確認してディアロも流石に冷や汗を流す。
「………保健室に運んでくる」
「「「「あっはい」」」」
ディアロはレイをお姫様抱っこをして保健室へと運んで行った。
「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」
「おはよう。皆、どうしたんだ?」
ディアロがレイを保健室へと運んで行った後、お姫様抱っこをしていたことを思い出してクラスの皆は顔を赤くしていた。
まさか学校内で見せつけるようにお姫様抱っこをするとは思わなかった。
運ぶにしても肩を担ぐなり、背中に乗せるなりすると思っていた。
あれと比べると、やはり自分には恋人が早いんじゃないかと思ってしまっていた。
「すごかったな」
「そうね」
「「まさかお姫様抱っこをするなんて」」
アムルとギネカの二人は昼休みディアロたちのことを思い出して感心してしまう。
今日は二人で昼食を食べていた。
「恋人になったら、みんなの前であんなことも出来るようにならないといけないのか……。まだまだ出来る気がしない」
「…………そう」
アムルの言葉にできなくても良いとギネカは思う。
流石に人前でお姫様抱っこをされるのは恥ずかしい。
やるとしても二人きりの時にしてほしかった。
「なぁ、ギネカ」
「………何よ?」
真剣な目でこちらを見てくるアムルにギネカも身構える。
何を言われるのか身構えてしまう。
「別れないか……」
「は」
アムルの言葉にギネカは何を言っているのか理解できなかった。
向こうから告白してきた癖に別れ話も向こうから切り出してくるなんて納得できなかった。
「何で!?」
「………俺にはディアロたちのように人前で堂々とイチャ付くことは出来ない」
そんなことで、とギネカは思う。
ギネカだって人前でイチャ付く何て恥ずかしくて出来ない。
だから別れる必要は無いと伝えようとする。
「私だって人前では恥ずかしいんだけど!?だから別れる必要は無いわ!」
キスを許すぐらいには心を許している。
それなのに別れを切り出すのは嫌だとギネカは思う。
何時かは身体を許すのだろうと妄想し覚悟もしていたのに無かったことにされるのは嫌だった。
「ごめん。せめて、もう少し俺自身が成長してから、もう一度付き合ってくれないか?」
「意味が分からないんだけど」
「ギネカは俺のことを頼りないと思っているだろう?だから頼られるようになりたいんだ」
アムルの決意もギネカには必要なかった。
今のままで良いのに余計に成長しようとするのを止めようとする。
「今のままで十分だから……ね?だから考え直そう?」
その為に別れるのを縋り付いて止めようとする。
何もかもが自分より下なのに成長して超えられるのが嫌だ。
いつまでも自分の掌の上にいて欲しいとギネカは思う。
「ごめん……」
だが縋り付いてくるギネカをアムルは振り払う。
いつまでも情けない姿を恋人に晒すのは嫌だった。
だから成長して自信を付けたら、もう一度告白しようと思う。
その間に別の恋人が出来たとしても、しょうがないと諦める覚悟もしている。
だけど、その前にギネカに相応しい恋人になってみせるとアムルは誓った。




