一話
「ごめん、待たせた?」
「いいや、待っていないよ。それじゃあデートに行こうか」
女の言葉に恋人の男は笑顔で否定する。
実際に待ち合わせ時間にはまだ余裕があった。
男が早く来ただけだった。
だから大丈夫だと腕を組んでデートへと歩いて行った。
「これなんて、どう?」
「どれどれ?」
女がアクセサリを手に取って恋人に見せる。
翼のついたアクセサリが映えていて純粋に綺麗だと男は感想を言った。
「ギネカ、似合っている」
「本当!それじゃあ私はこれを買うわね!」
似合っていると恋人に言われて嬉しそうに女のギネカはレジへと向かう。
早速、買って身に着けるつもりだ。
「ちょっと待て」
そんなギネカに恋人は肩を掴んで止める。
折角デートなのにギネカに金を払わせるつもりは無かった。
「どうしたのよ、アムル?」
「俺が払うよ」
疑問に思ったギネカが恋人であるアムルに疑問を持つが、直ぐに気に入ったアクセサリを取られてしまう。
そして金を代わりに払うと聞いて必要ないと取り返そうとするが、高く持ち上げられたために取り返せない。
「すいません。これ下さい」
そして、ついには取り返せないままにアムルは金を払って受け取っていた。
「もう!別に私が欲しいから私のお金で買えば良かったのに!!」
「別にいいだろう?それとこっちに来てもらって良い」
「何よ?」
ギネカは買ったアクセサリをまだもらっていない。
だから渡すつもりになったのかと振り返ると腕を背中に回される。
「はい、プレゼント」
カチッとした音に自分の胸元を調べるとアクセサリが首にかかっていた。
「これが俺の初めてのプレゼントだね」
その言葉にギネカはそういえばと頷いた。
彼氏からのプレゼントはこれが初めてだった。
そのことを理解して恥ずかしくてギネカは顔を赤くしてしまう。
「あ……ありがとう」
お礼を言われてアムルも嬉しくなる。
今まで何かプレゼントをしようとしても断られていたから、最近では特に嬉しかった。
これまで何回かデートに行っても割り勘が基本で奢ったことも無かったせいだ。
見栄を張りたいのもあるのだろうが男のプライドを散々傷つけられたのもある。
だが、それもギネカの嬉しそうな顔で吹き飛んだ。
「他にもアクセサリがあるけど見に行く?」
「………大丈夫」
買ってあげたアクセサリから目を離さずに否定するギネカにアムルは嬉しくなる。
そこまで気に入ったのなら男として嬉しい。
それでもいつまでも見ているのは危ないとギネカの腕を取る。
「あ………」
「危ないから手を引かせてもらうよ。それじゃあ次は服屋に行こうか?」
アムルの言葉にギネカは頷いた。
「これなんてどうかしら?」
ギネカは服売り場に着くとアクセサリから手を放して服を見に行く。
そして男物の服を選んではアムルの前で広げて似合うか想像していた。
「そういえば貴方はどんな服が好き?」
服を見て質問してくる恋人にアムルは近くにあった色合いの服を見せる。
適当ではなく実際に好きな色の服がその場にあっただけだ。
だがギネカにはそうは思えない。
「適当に選んでいない?」
「いや、偶々好きな色合いの服がそこにあっただけなんだけど……」
アムルの言葉に信じられないと視線を向けるギネカ。
本当のことだがアムルも信じられなくてもしょうがないと思っていた。
まさかどんな服が好きなのか質問をされて、直ぐ隣にあったのはどんなミラクルだと思ってしまう。
「ん?………なるほど、これが好きなのね」
それでため息を吐いたら、今度は信じられた。
突然の手のひら返しにアムルは首を傾げる。
「よく見たら貴方が今日来ている服と同じ色合いじゃない。こんなミラクルもあるのね」
ギネカの視線にはアムルが今着ている服と、アムルが手にしている服。
その二つを見て納得したらしい。
それで頷いてくれるなら疑わなくても直ぐに納得して欲しかった。
「だとしたらこれとこれかしら?ねぇ、着てみて」
アムルはギネカの望むように服を試着していった。
「あぁ~、楽しかった」
互いに服を何着も買って店を出る。
ギネカの顔は満足そうで、アムルの顔は屈辱で歪んでいた。
「ねぇ、今度のデートは今日買った服をしてしない?」
「そうだな」
だが恋人が振り向いたときには屈辱で歪んだ顔を消して笑顔を向ける。
「それにしてもお金は大丈夫なのか?無理矢理に服まで奢らされてしまったけど」
「大丈夫、大丈夫!気にしなくて良いわよ!それに何度も言うけどアクセサリも買ってくれたし、そのお礼だから!」
そのせいで最初は冷たい目で見られ途中から同情の視線を向けられた。
何度も何度も自分も払うと言っているのに無視をされて強引にギネカ一人で払っていたのを見られていたせいだろう。
恋人だろうに頼られても甘えられてもいないと察しられてしまった。
「ギネカ………」
「ど……んっ。イヤッ………」
キスをされてギネカは嬉しくなる。
だが胸を触られて拒絶をした。
それはまだ早いと思っているせいだ。
「そういうのはまだ早いわよっ!」
ギネカは怒り恋人を置いて帰り、そしてアムルはそんな恋人を見て冷たい目を向けていた。
「クソッ」
アムルはギネカが見えなくなった後に悪態をつく。
服の代金を払うと言っても無視をされて逆に払われたりと男のプライドがズタボロにされていた。
そして道端に落ちていた石を八つ当たりで蹴飛ばし自分よりも一回りも小さい女の子に当ててしまった。
「あいたっ!!?」
「すいませんでした!!!」
咄嗟にアムルは顔を真っ青にして、ぶつけてしまった女の子の前に躍り出て土下座で謝る。
いくら苛立っており、意図していなかったとはいえ小さい女の子にぶつけてしまったのは罪悪感で後悔してしまう。
先程まで会った苛立ちなんて焦りで消えてしまっている。
「えっ。………あぁ~。大丈夫ですから頭を上げて下さい。幸いにも怪我はしていませんし」
その言葉に本当かと顔を上げると本当に怪我をしていない様に見えて安堵する。
石をぶつけてしまったから怪我をしてしまったのかと思っていた。
それでも何かお詫びをしなければいけないと思ってしまう。
「本当だ。良かった~。あとお詫びに何かさせてください!お願いします!」
女の子は立ち上がって頭を下げた男に少しだけ鬱陶しく感じる。
たしかに痛かったが怪我をしていないし気に過ぎだと思っていた。
もしかして、これを理由にナンパしているのかとも思ってしまう。
「………はぁ。気にしなくて良いわよ。それでも気にするなら何で石を蹴っていたのか教えて?」
しょうがないからと理由を話させることで帳消しにしようと思っていた。
現に理由を聞こうとしたら呻いてしどろどもろになっている。
きっと情けない理由なんだろうなぁと思っていた。
「…………分かりました」
顔を屈辱でなのか顔を真っ赤にして文句を言う男の子に女の子は可愛いと思ってしまった。
「ふーん……」
そして理由を聞いて同情するような情けない男を見るような目でアムルを見る。
恋人に何かを買って上げるどころか逆に買ってもらい金を出させてもらえない。
男の方も強引に払えばいいのに負けてしまって情けない。
そして恋人の女の子も、もう少し男の子を立てて上げれば良いのにと思ってしまう。
「それは同情してあげるよ。ほら慰めて上げよう」
情けなくて自分の掌の中にすっぽり収まりそうな男の子に女の子は抱きしめて慰める。
手は頭に伸びていて撫でてあげている。
「おまっ………」
年下なのにお前と言われたことに女の子は苛立ち、更に自分に抱き寄せ首に腕を伸ばす。
「お前ねぇ。お前、高校一年生ぐらいだろ。三年生の私にナマ言ってんの?」
「は?三年?高校の?」
「文句あっか?」
女の子は信じられないというアムルにイラっときてヘッドロックを掛ける。
たしかに小さいと思うがこれでも高校三年だ。
「はぁ。自己紹介もしてなかったから今してやる。私はコンバット学校三年のフェアニ。よろしく」
「え?先輩なの?そんなに小さいうぐっ………」
小さいという男の子にフェアニは更に力を入れる。
中学生にも見られる身長の小ささを気にしているのに口を出されるのはむかついた。
「で、お前はどこの学校の生徒だ?」
それでもフェアニはアムルのことを聞く為に腕をいったん離す。
学校や学年を聞いて小さいと言ったことの仕返しを考えていた。
「その………コンバット学校の一年です。アムルと言います」
言いずらそうに答えたアムルにフェアニはニヤリと笑う。
パシリに出来そうな奴が手に入ったお陰だ。
これからちょっかいを掛けに行こうと考える。
「ふぅん。それじゃあ明日から、お前は私のパシリな」
「はぁ……!」
いきなりパシリと言われてアムルも驚く。
何で急にそうなったのか意味が分からない。
石をぶつけた謝罪も理由を話したことでチャラになったんじゃないかと思う。
「嫌なのかよ」
「当然でしょう!?俺には恋人もいるんですよ!」
その言葉にため息を吐くフェアニ。
どうせすぐ別れるだろうと想像できてしまう。
長い間、愚痴っていたのだ。
余程、彼女に不満があるのだと察することが出来る。
「うん?これをばら撒かれたい?」
そう言って差し出されのは目の間にいるフェアニの胸に顔を押し付けられているアムルの写真。
いつの間にかカメラに撮られていたらしい。
「どうする?」
「…………………」
「ん?」
よく見るとアムルの顔は真っ赤にして鼻血を出している。
小さい身長相応の身体にそんな反応をされると思ってフェアニはニンマリとする。
可愛いとは言われるが、同時に絶対に恋愛対象にはならないと言われていたから気分が良くなる。
「おっまえ、こんな貧相な体で欲情したのかよ?」
呆れたようにフェアニはそう言うが目は鋭い。
肉食獣が獲物を見つけたような眼だ。
親にもロリコンにしか需要が無いだろうと言われていたから丁度良いと思っていた。
それに掌の中に収まって簡単に操作できそうなのが良い。
「欲情って………!!」
顔を赤くしている男の子に恋人はいるが奪ってしまえば良いとも思っている。
どうせ長く続かないだろうから早いか遅いかの違いでしかない。
そうと決まれば積極的に関わろうと決意していた。
「ディアロ、今日はデートにいかない?」
「良いけど、どこに行く?学校が終わった後だし近いところが良いけど」
「そうね。じゃあゲームセンターに行かない?今日こそは勝って見せるわ」
ディアロとレイの二人は教室の中でデートの約束をする。
その光景にクラスメイト達は相変わらず仲が良いなと思っている。
学校の中では未だに嫉妬する者もいるが、前のように嫉妬に駆られて攻撃する者はいなくなった。
そしてクラスメイト達は二人を羨ましくも微笑まし気に自分達も恋人が欲しいと見守る。
「それ。私も行って良いでしょうか?」
だからリィスの言葉にイラっと来る。
いつも二人だけの光景に平然と入ってくる。
おかげで学校で二人きりでいる光景が意外と少ない。
いつも、ディアロの近くにリィスがいた。
もしかしたら恋人のレイよりも近くにいるんじゃないかと考えてしまう。
二人とも何故か学校内でも特に変態のリィスに甘いから許しているのも不思議だ。
「ダメだな」
「ふざけるな」
即答する二人にクラスメイト達は安堵する。
そして多くの者たちが頷き合った。
恋人を作るための、作ってからの参考にしようとどこのゲームセンターに行こうとしているのか聞いて観察するつもりだ。
そのために邪魔だったリィスがいないのなら絶好のチャンスだった。
「アムルいるか~?」
そうして聞き逃さない様に意識を傾けると、このクラスにいたアムルがつい先日聞いた女子先輩の声に驚き振り返る。
そこにはフェアニがいた。
アムルは恋人はいるが付き合うきっかけとなったのは同じクラスのディアロとリィスが理由だ。
二人を見ていて自分も恋人が欲しくなり告白したら成功してしまった。
仲良くなるためにはディアロたちを参考にすれば良いと思っていた。
そう思ってディアロたちを見ていたのにフェアニがアムルを見つけると強引に腕を組んで教室から連れ出そうとする。
女の子特有の柔らかさと匂いにアムルの顔は真っ赤だ。
そして、その一瞬後に視線を感じて身体を震わせてしまう。
視線を感じた先には恋人であるギネカがいてふぁにを睨んでいる。
「ちょっ………」
「ちょっと借りるわよ」
止めようとしたギネカの言葉を無視してフェアニは教室から去っていく。
手を伸ばしたギネカは恋人が連れて行かれたこと、そして色々と小さい先輩に腕を組まれた顔を真っ赤にしていたことに怒りを抱いていた。
「え………」
そんなギネカとアムル、そしてフェアニを見てクラスの全員が目を輝かせる。
まさか他にも身近に恋愛をしている者がいるとは思わなかった。
しかも先輩とギネカの様子から一人の男を二人が奪い合っているように見えた。
「え…。え…。もしかしてディアロたち以外にも、このクラスに恋人ができるの?」
「すごくない?」
「クラスの中なのに平然とキスをしているのに。あれを見ていると恋人が欲しいと思うけど、同時にまだ早いと思うのに」
「うわぁ…。うわぁ…」
小声で聞こえない様に男子女子問わずに恋愛ごとが起きているんじゃないかと話し合うクラスメイト達。
しかも目を輝かせており目の前でラブストーリーが起きていると期待満々だ。
「へぇ。私たち以外にも恋人がようやくクラスに恋人が出来るのね」
手伝おうかしら、と考えるレイにディアロは頭を軽く叩く。
それはダメだと禁止するディアロにレイは睨む。
恋人だから、それぐらいは分かるが何でダメなのか分からない。
クラスに恋人が増えれば増えるほどイチャついても違和感が無いし目立たないと思っている。
「見た感じ三角関係なんだし手を出すのは止めて置け。どうしても出すのなら、どちらかが恋人になってからにしておけ。もしくは協力を求められてからだ」
「あ」
抱きしめられ耳元で囁かれ、腰に手を回されている。
思わず出てしまった声が教室に響き、そして注目を集めてしまい、今の姿を見られたことに顔が赤くなる。
そして見ていたクラスメイト達も何人か顔を赤くして逸らしてしまう。
それが余計にレイに羞恥を覚えさせる。
「ねぇ?」
「何?」
「もしかして手を出さないように言うのは私に構って欲しいから?独占欲?どちらかにでも協力したら一緒にいる時間が減るものね?」
だからレイは自爆覚悟でディアロをからかう。
少なくともディアロも顔を赤くしてクラスの皆に見せてやろうと思う。
「そうだな。そいつらに構うより俺だけを見て欲しい」
そう言って首をキスをするディアロ。
クラスメイトの前で口でも額でもなく首にキスされたことが非常にいやらしく思えてしまう。
クラスの皆も先程よりも顔を赤くして少しずつ教室から出ていく。
他のクラスの皆が出ていくことに今の自分が他人から見てもいやらしく思われているのだと認識してしまう。
それでもレイはディアロの腕から逃げる気が湧かない。
「…………やっぱり拒否をするのはマズかったかな?」
そんな二人を見てギネカは先日のデートを後悔する。
早いと思うのは今も変わらないが、思いきり突き飛ばして帰るのは失敗だったのかもしれないと思ってしう。
あんな二人が同じクラスにいるのだから倫理観が狂ってしまっているんじゃないかと考え、思いきり突き飛ばしたことを謝ろうと考えていた。
「さてとお前、弁当を持って来ている?」
「え?いえ、普段は学食を食べたりしていますけど……」
「へー」
それなら丁度良いとフェアニは弁当をアムルに渡す。
まずは胃袋を掴もうと思っていた。
「えっと、これは?」
「私が作った弁当。最近、料理の練習をしていてさ。良かったら食べてよ」
「えっ」
「それと感想も頂戴。不味かったら不味かったで良いから。そうしないと料理の腕も上達しないし」
「えっ」
話を聞いて困惑してしまうアムル。
以前、愚痴ったから恋人がいると知っている筈なのに、こんなことをされたら誤解されてしまう。
何でそんなことをするのか理解が出来ない。
別れさせるつもりなのかと思ってしまう。
「すいませんけど、断らせてもらいます」
「じゃあ、これバラして良い?」
「は?」
そうして見せられたのはフェアニの胸に顔を押し付けられて顔を赤くしている写真。
これがあったのを忘れていた。
「お願いするな?」
フェアニに肩を叩かれてアムルは肩を落として頷いた。
「いやぁ~。今日は良い天気じゃん。早速、食べてくれよ」
屋上に移動してアムルは弁当を広げる。
料理の練習をしていると聞いたが思った以上に美味しそうで安心する。
「えっと、それじゃあ頂きます」
そして実際に食べてみると美味しかった。
料理の練習も必要あるのかと思ってしまう。
「それで、どうよ?」
「美味しいです。美味しいですけど練習の必要ありました?」
「そりゃあるだろ。今まで弁当を作る機会はあっても食べさせた経験は無いからな。それに更に上達を目指すにしても結局誰かに食べて貰って感想を言ってもらわないと意味が無いし」
「おぉ~」
向上心溢れる先輩に対してアムルは尊敬の視線を向ける。
フェアニはそれに恥ずかしそうに顔を逸らす。
「それで不満は無いの?別にお前の好きな味と比べて良いからな?」
フェアニの言葉にそれじゃあと甘えるアムル。
遠慮なく自分の好きな味を伝えフェアニはそれを全てメモをしていた。
「なるほど。全体的に味が濃いのが好きなんだな」
改めて自分の好みを言われてアムルは顔を赤くする。
彼女も知らないのに目の前の先輩が知っているのは変な気分だ。
「じゃあ取り敢えず明日も作ってくるから食べろよ」
「え」
「当然だろ?これ見られたら彼女と別れるかもしれないぞ」
そして再度見せられる写真。
それだけは色々とバラまかれたくなかった。
この色々と小さい先輩相手に顔を赤くしたことがバレるとロリコン扱いされそうなのだ。
それだけは嫌だった。
「わかりました………」
「なら良し。それと今日は放課後暇か?」
まさか放課後も付き合わせるつもりかと思いながらも頷く。
今日はデートも他の約束もしていない。
「じゃあ放課後も行くから待ってろよ」
フェアニはそう言って屋上から出ていく。
放課後も付き合わせるとしたら荷物持ちかなとアムルは考えてため息を吐いた。
「ふふふっ」
フェアニは自分の作った料理が美味しいと言われて気分が良かった。
それに教室へと行き、アムルの腕を引っ張った際に睨まれたのも嬉しかった。
自分より当然のようにスタイルが良く可愛い少女が睨んでくるのは警戒されている証拠だと考えれる。
だから貧相な身体の自分があの子から恋人を奪えたら、どれだけ気持ちが良いのだろうと想像してしまう。
「きっとアムルもあの子から心が離れているだろうしな」
あれだけ愚痴を言っているのだから不満も溜まっているだろうし別れるのも時間の問題だ。
だから自分はそれを早めるだけ。
文句を言われる筋合いもないと考えている。
「それにしても私に欲情できる男がいるなんてな……」
フェアニはそう言って自分の身体を見る。
平均よりかなり小さく身体のメリハリも無い。
ぶっちゃけ自分から見ても欲情できる者はロリコンぐらいだと思う。
そう考えるとアムルはロリコンだろう。
こんな身体に欲情したのだから。
だけどフェアニは自分の身体でも欲情してくれたのが嬉しかった。
今までの人生でロリコンなんて見たことが無かったし、物語の中だけの存在のような者だとも思っていた。
だから自分の身体で欲情したアムルは逃がすことは出来ないと思っている。
これを逃せば結婚も出来ないと焦ってしまう。
「いざとなれば身体も使えば良いか」
自分の身体で欲情するのだ。
十分に使えるはずだとフェアニは考える。
それに初め欲情の視線を味わったことに気分が良かった。
女のプライドが満たされた気分だ。
他の女子たちが、今まで男の視線がどうとか話を聞いたことがあるのにフェアニだけが実感がわかず孤独を感じていたのもある。
「自分から抱き付けば男なんて簡単だって、あいつらも言ってたし私も真似をするか」
アムルは扱いやすそうな男の子だ。
簡単に堕とせそうだとフェアニは思う。
自分の身体もバンバン使っていくつもりだ。
「…………どうせ堕とすのにそんなに時間は掛からないだろ」
フェアニは多少恥ずかしい真似をしたとしても簡単に堕とせるから平気だと思っていた。
「アムル?」
アムルが教室に戻るとギネカが話しかけてくる。
その声には圧が掛かっており逃げ出すことも考えられなくなる。
「あの人、先輩よね?どんな関係なのかしら?」
ギネカの疑問にクラスメイト達は修羅場だと目を輝かせる。
他者の修羅場は見ていて楽しい。
「最近、知り合った先輩だよ。ちょっと弱みを握られてパシられているだけだから」
「代わりに文句を言ってあげようか?」
自分の恋人が別の女のパシリにさせられていることに不満を持って代わりに文句を言おうとしたがアムルに腕を掴まれて止められる。
どうせ流されてパシリにされている癖にとギネカは思っていた。
「いいよ。どうせ荷物持ちとか雑用ぐらいだし」
「ふぅん。なら良いけど」
目の前の恋人がそう言うのならフェアニも信じようと思う。
浮気する勇気もないだろうなと思っていた。
そしてアムルも弁当のことを言わずに誤魔化す。
これがバレたら浮気だと思われそうで嫌だったから流石にそのことを言う気は無かった。
「三角関係ね。私たちもそう思われているかしら?」
何となくレイは隣にいた女子に質問する。
まだアムルとギネカが恋人同士だと知らないから、アムルを奪い合う三角関係だと思っていた。
ある意味自分達と似ていると思っている。
「いえ、全然思われていませんね」
「そうなの?」
「悪いけど、俺もその話に気になるな。実際、どう思われているんだ?二股野郎?」
ディアロの言葉に聞こえていた全員が目を向ける。
自分で言うのかと、と。
「いや。普通にディアロとレイは恋人で、リィスはディアロに付き纏う公認ストーカーだと思われているぞ。ディアロもレイも諦めて好きにさせているって感じだな」
その答えに全員が頷く。
ディアロもレイもそれを確認してどう思われているのか理解した。
「まぁ、間違っていないわね。リィスもそれで良いわよね?」
「はい。問題ありません。どう思われていてもディアロ様の隣にいれば、それで満足ですので」
従うのが当たり前だと言ってくるリィスを見てディアロに同情の視線が集まる。
崇拝しているからと言ってストーカーをされるのは嫌だった。
むしろ受け入れている方が変だ。
「そう、なら良いわ。今日は買い物に行くから荷物持ちを手伝いなさい」
「え?」
「分かりました」
「え?」
二人の会話にディアロは戸惑ってしまう。
急にデートの約束をされても何も聞いていない。
「あ、これデートじゃないからディアロは安心して。単純に私とリィスで買い物に行くだけだから」
レイの言葉に公認とはいえストーカーと仲が良いことが分かってしまう。
そしてストーカーといえば、されている本人も知らない写真や本人しか知らない情報を持っているイメージがあった。
もしかして、それを聞こうとしているんじゃないかと考え、ディアロは更に同情された。
「アムルいるか?」
放課後、フェアニは再度アムルのいる教室に入ってくる。
それにアムルは反応しフェアニの元へと行こうとし、ギネカは腕を掴んで止める。
「すいません。アムルは私の恋人なんだけど何の用ですか?」
心配はいらないと言われた。
軽い雑用だけとも言われた。
だけどやはり恋人が別の女と一緒にいることが不満だった。
「うん?もしかしてアムルの恋人か?」
「そうですけど?」
フェアニの質問に頷くギネカ。
クラスメイト達はそれに対して三角関係じゃなくて既に恋人なのかと驚く。
「悪いけど、こいつを借りるぞー。奪う気は無いから安心しろ」
ギネカはその言葉に疑いを持つ。
だがフェアニの身体を見て、そして自分の身体と見比べて安心する。
チビで貧相。
例え、目の前の先輩が狙っていてもアムルがロリコンでない限り浮気をしないだろうと安堵する。
「分かりました。それにしても弱みを握られているって聞きましたけど、それが何か教えてくれませんか?」
「悪いけど秘密。誰にも教えないからこそ弱みになるしな」
そう言われるがギネカはそれでも気になって弱みを撮っているだろうスマフォを奪おうとする。
相手は年上だし自分の恋人をパシリにしているのだから罪悪感は無い。
奪われることは無いと自信を持っていても不快なものは不快なのだ。
「あっまいなぁ」
そしてフェアニは自分に伸びてきた手を叩き落す。
当たり前のことだ。
ここは世界的にもトップクラスの学校。
例外はいるが、たかが一年生が二年生に敵うはずもない。
「それではディアロ様、お騒がせしました」
そしてフェアニはディアロへと頭を下げて教室から出ていく。
どうやら昼はディアロもこの教室だと気づいていなかったらしい。
だから昼は頭を下げなかった。
だが気付いた今は頭を下げて教室から出て行った。
「…………何度も言うけどお前らも真似をするなよ」
「「「「「「「面白そうだからヤダ」」」」」」」
ディアロの崇拝者が出て来てからは学年問わず別のクラスの者が出入りする度にディアロへと挨拶をし、そしてクラスメイト達もそれを見て偶に真似をしていた。
自分より強い相手が、崇拝者の真似をするだけでからかうことが出来るのだから止める気は毛頭なかった。




