十話
「久しぶりですね」
何となくレアーは育ててくれた親のいる喫茶店に帰ってきた。
父親が笑顔で迎えて来てくれて近づいてくる。
それに笑顔を返そうとしたら軽く頭を叩かれた。
「あいたっ!」
急に頭を叩いてきたことにレアーは混乱する。
何かしてしまったのかと思って怒られると恐怖していた。
「街中で何て表情をしているんだ……」
呆れたように文句を言ってくる父親に何のことだとレアーは思う。
意味が分からなかった。
「最近の新聞で多発事故のことが載っていたでしょう?」
父親の言葉に頷く。
ニュースでも多くの死者が出たと報じられていた。
それが何か関係あるのかとレアーは考える。
「あれ、君のせいで出た事故ですからね?君の表情に見惚れて車のブレーキをし忘れたり、信号無視して歩いてしまったせいですからね?」
「え?」
そんなこと知らないとレアーは思う。
自分の顔のせいで多くの者が死んだとか理解できなかった。
「どういうこと?」
「そのままの意味ですよ。街中でしないような表情をしてしまったせいで、それに見惚れて事故起こしてしまったんです。お陰で全員の記憶を操作するのも疲れました」
レアーには全く自覚のないことを言われても困惑するしかなかった。
それでも自分のせいで事故が起きたのなら、それを消してくれたことに感謝をする。
「ねぇ、見せられない表情をしていたって言っていたけど、どんな表情をしていたんですか?」
事故を起こしてしまう顔をしていたと言われてレアーは気になってしょうがない。
それを知っていたということは見ていたということだと父親に尋ねる。
「………愛おしい男に二人きりの時だけに見せる女の顔?多分、ライクって子と墓参りに行った日のことだと思いますけど、何を想像していたんですか?」
「……………あ」
父親に女の顔と言われたことよりもライクと一緒に墓参りに行った日のことを思い出す。
たしかに合流するまで色々と騒がしかった。
サイレンの音がうるさく、それでも自分は関係ないと歩いていたのを思い出す。
その時に想像していたのはライクの絶望していた顔だった。
どんな顔になるのか色々と想像して楽しんでいた。
その時の顔が事故を起こしてしまうぐらいに見惚れてしまう表情だったのかもしれないと自己判断する。
「思い出しましたか?」
「ライクの絶望した表情を想像していました……」
それを聞いて父親は微妙な表情を浮かべてしまう。
絶望した表情を思い浮かべて、あんな表情をするなんて、かなりのSだ。
恋人ができるとしても余程のⅯになりそうだと想像する。
「話は聞いていたけど、本当に血は繋がっていないのでしょうか二人とも」
愛人が二人の会話へと割り込んでくる。
二人の会話を聞いていて、どうしても確認したくなったらしい。
それだけレアーと父親がそっくりに感じたようだ。
「どうしたんですか?私とお父さんが血が繋がっていないのは知っていますよね?」
「えぇ。それでも相手の絶望した顔を想像して見惚れるような表情をするのは二人ともそっくりです。この方も相手を絶望させる方法を思いついては私や奥方も見惚れていました」
父親もそうなんだと聞いてレアーは少しだけ安心する。
同じことをするのは自分だけでは無いのなら、おかしいと自覚していても孤独に感じることは無い。
それに血が繋がっていなくても似ていると言われて嬉しかった。
「そうなんだ……。そういえばお母さんたちから、出会いの話は聞いていなかったから教えてもらって良い?」
父親たちの出会いの話を聞いていなかったとレアーは思い出す。
今後の出会いの参考として聞きたい。
「つまらないですよ?私なんて復讐の依頼で知り合って押しかけましたし。ただ奥方は助けられてから惚れて胃袋を掴んでいったと聞きますけど」
愛人の言葉に本当かとレアーは父親に視線を向ける。
それに対して父親は頷いた。
「事実ですよ。彼女は昔から料理が美味くて、毎日の様に弁当にして作ってくれましたね。学校やバイトが休みの日にもわざわざ来て手料理をふるまってくれました。もうどこかのレストランに行くよりは妻の手料理の方がご馳走になっていましたね。当然、結婚した今では毎日がご馳走です」
「うわぁ……」
父親の発言にレアーは顔を赤くする。
こんなに長い惚気を聞くのは初めてだし、育ての親の惚気だと思うと恥ずかしくなる。
そして自分の手料理がご馳走なんて自分も言われたらと考えると羨ましくなっていた。
将来、結婚するのなら自分の手料理がご馳走だと言ってくれる者と結婚したいと思ってしまう。
そして、それは愛人も同じで奥方に嫉妬をしてしまった。
愛人には自分の手料理がご馳走だと言われた経験は無かったせいだ。
「………………っ」
そして離れて聞いていた母親は顔を赤くして隠れる。
偶然、中に入る手前にいて話が聞こえてしまった。
自分でもわかるぐらいに顔を赤く熱く感じてしまう。
そして、その場から離れ自分の部屋へとダッシュで戻っていった。
恥ずかしくて嬉しくて真っ赤になった顔を誰かに見せるなんてことは出来なかった。
「うん?」
「どうしたの?お父さん」
「いえ、気にしなくて大丈夫ですよ」
父親は妻が中に入らず引き返したことに疑問を持つがスルーする。
何か忘れものでもしたのかと考えていた。
「それなら、良いけど……」
そしてレアーも父親の言葉に納得していた。
父親を信頼しているからこそ気にも留めなかった。
「それと前に薬をありがとうございます!お陰で使った相手は私に依存してくれるようになりました!」
その報告を聞いて父親は嬉しそうに頷く。
娘の役に立ったのだと嬉しかったせいだ。
「待って下さい………!」
依存させたと聞いて愛人は話を詳しく聞こうと思った。
思った以上に犯罪的な方法で恋人を作ったのだと聞いて焦る。
そもそも恋人がいること自体に驚く。
そんな話は聞いたことが無い。
「相手はライクという子ですよね?どんな風に依存したんですか?」
そして二人は愛人の言葉を無視して会話を続ける。
待ってと言われたのに聞き届けている様子は一切ない。
そしてライクと聞いて愛人は困惑する。
それは確かレアーを虐めていた子で同性のはずだっと思い出す。
もしかして依存させた相手は恋人でも無いのではないかと、ようやく思い至った。
「恐怖と安堵が入り混じった表情を毎日していますよ。私が誰だか知っていても抱き締められないと眠れなくて、その度に首に手で軽く触れると可愛いぐらいにビクつくんです」
「へぇ、それは見てみたいですね」
「女の子の寝顔でもありますからダメです。別の者にしてください」
「それは残念です」
愛人は二人の会話を聞いてライクに同情してしまう。
やったことは許されないのかもしれないが反応を玩具にして見られるのは嫌だろう。
必要以上に怯えさせられているんだろうなと考えてしまう。
過去の自分の行動を後悔しているんだろなと予想する。
「ところでお父さん。事故のことに関しては誰も復讐しに来ないよね?」
「えぇ。最近では、その仕事もしていませんし来たとしても受け入れることは無いでしょうね。こちらからすれば、ちゃんと前を見ていれば防げた事故ですし。今回のことが無くても、いずれは余所見をして事故を起きていたと思いますよ」
身内だから贔屓をしていると思ったが、それ以上に父親の言葉に納得してしまった。
たしかに車を運転していたのに見惚れて事故を起こすなんて余所見をしていたということだ。
危険行為でしかなく、レアーを恨んで逆恨みでしかなく復讐とはいえない。
だからこそ父親も記憶を消したのかもしれない。
「そっか………」
レアーは復讐に来ないと聞いて安心したような、少しだけ残念な表情を浮かべる。
そのことに愛人は疑問に持ち、父親は何故か察した表情をする。
「さっきも言っていたけど本当にそっくりですね。俺も復讐とか来ないのか期待もしていますよ」
「ですよね!?復讐に来るとか楽しみですよね!?」
レアーの言葉に愛人は顔を青くする。
父親の方は良いのだ。
相も変わらず意味不明な能力から信頼できる。
だが娘に関しては違う。
幼いころから育ててきたから、そんなものを期待するレアーに心配してしまう。
「止めて!!」
だから愛人は絶叫した。
もしここに妻もいたら同じように止めていただろう。
父親と同じような能力は確実に無いし復讐とかされたらと思うと不安だ。
「貴女はお父さんと同じような能力を持っていないんです!危険だから止めてください!今も私たちが復讐されていないのはお父さんの能力のお陰ですからね!?」
「………わかっていますよ」
不服そうに頷くレアー。
復讐の相談をできるのは父親だけだと理解している。
それでも復讐をされに来るのを期待しても仕方がないじゃないかと思っていた。
誰にも気付かれずに行動をするのは寂しい。
それが愚かなことだとしても気付いてほしいと祈ってしまう。
「お願いだから、貴女まで止めて……。貴女はお父さんじゃないの…………」
不服そうにしてしているのが気付いたのか必死に止めようとしている愛人に、レアーも反省する。
ずっと自分を見守って育ててきた者たちの一人だ。
考え直すのも当然だ。
「まぁ、女が復讐されると聞いたら色々なことが考えられますからね。逆に男は怪我や最悪死ぬことで済むこともありますし」
色々という言葉にレアーも愛人も身体を震わせる。
予想してしまったのは性関係のこと。
好きでも何でもない相手に身体を開くのは嫌悪感が湧く。
「それが嫌なら復讐や憎悪に巻き込まれない様にした方が良いと思いますよ。たまに無理矢理、共犯にさせられて復讐された者もいますし」
そのぐらいのことは知っているとレアーは頷く。
どれだけの数の復讐をレアーが見てきたのは父親も母親も愛人も知っている。
可愛らしいメイド服を着てお茶を出していたのは恥ずかしい思い出だ。
「だから相手に流されないように意志はしっかり持ちましょうね。流されたら地獄に落ちる可能性もあるんですから」
父親の言葉にしっかりと頷くレアー。
連帯保証人等や隣にいたという理由だけで復讐に巻き込まれたくない。
それに完全に恨みを買うのはゼロにするのは無理でも少しでも減らしたいと考えていた。
「久しぶりね」
「お母さん?」
どうにか落ち着いて顔の熱が冷めた後、母親が部屋の中に入ってくる。
そして母親の顔を見てレアーは腹の音を鳴らしてしまう。
先程の会話で父親が母親の料理に胃袋を捕まってしまった話のせいだ。
「腹の音が聞こえたけど、ご飯はまだ食べていないの?」
腹の音が聞こえたことにレアーは顔を赤くして頷く。
だけど丁度良いと思っていた。
今はどうしても母親の料理が食べたい。
「お母さん、今日は一緒にご飯を食べて良い?」
「当然でしょ。それにしても偶に帰ってきているけど一緒に食べるのは久しぶりね」
そういえばと母親の言葉に三人とも頷く。
たしかに久しぶりだ。
でもだからこそレアーは母親の手料理が楽しみになってしまう。
「本当ですね。お母さんの久しぶりの料理ですし楽しみにしますね」
「はいはい」
期待でプレッシャーを掛けられて母親は苦笑する。
そんなに期待をされても母親からすれば毎日の様に食べていたから新鮮さは無いだろうと考えている。
だからこそ、そこまで美味しいとは思われないと考えていた。
慣れてしまったらこその弊害かもしれない。
「相変わらず美味いですね」
例外がいるとしたら自分の夫ぐらいだ。
忙しい時を除いて毎日の様に味の感想を伝えてくる。
その上に美味しそうに食べるものだから苦にもならない。
昔はレアーも美味しそうに食べていたのに、やはり慣れてしまったせいだなと思ってしまう。
「むぅ~」
「どうしましたか?」
そしてレアーの方を見ると一口食べる度に頭を悩ませる姿が目に入る。
急にどうしたのか疑問だ。
少なくとも寮に行くまでは普通に食べていた。
「どうしたら、ここまで料理が美味しくなるのでしょうか?」
不思議そうに首を傾げているレアーに苦笑してしまう。
そして、それは父親も同じで少しだけ期待の眼を向けていた。
料理の腕が気になるということは喫茶店を継ぐということだ。
将来の夢は好きにして良いと思っているが、それでも喫茶店を継いでくれるというのなら嬉しい。
「急にどうしたの?」
「私も寮に入って自分で料理を作っていますが、ここまで美味しい料理は作れたことは無いです……。作ってあげた者たちは美味しいと言ってもらえるけど、これと比べると……」
レアーの言葉に母親は更に苦笑する。
それは当たり前のことだろうと思っていたからだ。
生まれて来てから料理を作ってきた経験の差が違い過ぎる。
「料理を美味しく作れるようになりたいなら何度も練習するしかないわよ」
「そうですね。今度、一緒に練習しますか?」
母親と愛人の言葉にレアーも頷く。
それしか料理の上達方法が無いのなら受け入れるしかない。
「料理に興味があるのなら将来は専門学校ですか?将来なりたい職が見つかったら応援しますから教えてくださいね」
「わかりました……」
「前は医療に興味があるって言ってましたしね」
将来の夢が決まっておらず、揺れてしまっていることにレアーは恥ずかしくなった。
それに育ての親たちが期待してくれていることにプレッシャーが掛かって早く決めなきゃと焦ってしまう。
「焦らなくて良いですからね?昔の私みたいなことをしなければ」
「「「え?」」」
父親の発言に三人が驚く。
まさか父親がそんなことを言うとは思っていなかった。
それにレアーは焦っていると言われて心を読んだのかと予想する。
「さっきも言われていたけど、君は私じゃないんです。同じことをしたら直ぐに捕まってしまいますよ。同じ能力を持っているわけでも無いんですし」
父親の言葉に妻と愛人の二人は深く頷く。
今も捕まらずバレずに過ごしているのは父親のお陰だ。
理不尽な能力を持っている夫に二人は睨む。
少なくとも夫がこんな能力を持っているからレアーに関しても裏に関わったしまうんじゃないかと心配してしまう。
父親が大丈夫だったから自分も平気だと勘違いしてしまうんじゃないかと思う。
「それは………」
「私と同じ能力を手に入れれば大丈夫だし便利になると思いますが、どうやってこの能力が手に入ったかは私にも分かりませんから手に入りませんよ」
その言葉に妻と愛人は安堵のため息を吐く。
同じような能力が他の者の手に入らないのなら安心できる。
もし他にもいたら世の中は世紀末だろう。
なにせ洗脳や思考操作など使い方を考えれば簡単に世界征服できる能力だ。
危険極まりない。
世の中、洗脳して仕返しての繰り返しだ。
能力の入手方法が分からないのは嘘かもしれないが、伝えないのならそれで良いと思う。
娘には今からでも平穏無事に生きて欲しいと願っていた。
本当に裏の世界にはもう関わってほしくない。
夫も復讐相談なんてしていないし、このまま二度と関わらない様に妻と愛人の二人は祈る。
かつての言葉を信じるのなら子供ももう少ししたら生まれるらしい。
人の憎悪や悪意、妬みなどを幼い子供たちには見せたくない。
自分達みたいに異常に惹かれるのではなく、普通に育ってほしかった。
レアーが帰った後、夜も遅くなり明日の準備をしてベッドの中に潜る。
妻も既に寝てしまっており、夫は目を覚まして寝室から出る。
「ふっ」
そして愛人が夫の命を狙って刃を突き立ててくる。
それが、とても愉快だった。
「どうした?」
夫は愛人に裏切られたとは全く思っておらず当たり前のように刃を掴んで問いかける。
そして愛人も受け止められるのは予想通りだと動揺すらしない。
「やはり強いですね。それでも全力で挑ませてもらいます」
愛人は本気で殺す気で夫の命を狙っている。
夫のことは愛しているし子供が産まれるのも嬉しい。
だが、それでも命を狙うのはそれが夫の望みだからだ。
両手に持った刃を振るう。
だけど夫はそれを少し動いただけで躱し切ってしまう。
動いたのはほんの肩幅ぐらいの距離でしかない。
それを何度も何度も繰り返す。
愛人は刃を振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るって、振るい続け。
そして夫はそれを躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱して、躱し続ける。
次第には愛人は何をやっても攻撃は当たらないんじゃないかと思ってしまうが、それでも諦めない。
夫がこれを楽しんでいるからだ。
一歩間違えば死んでしまうのに夫はこれを楽しんでいる。
そして最愛の者を殺してしまうのに愛人も楽しんでいた。
自分の手で最愛の者を殺した想像をすると興奮し、どうしてか笑みがこぼれてしまう。
実際に殺したらどんな風になってしまうのか愛人は興味を湧いてしまっていた。
「その程度……?」
夫の言葉に愛人は更に攻撃の激しさを増す。
蹴りを放ち、魔法を撃ち、家の中の被害を全く考えずに暴れる。
「相変わらずだなぁ……」
だが夫は愛人がいくら暴れても家の中で被害が出ない様にすべてを抑える。
本当ならに物音が激しくて寝ている妻も起きるかもしれないが、夫が全て押さえているせいで物音がせず妻は気付かずに寝てしまっていた。
「ほら、がんばれがんばれ」
悔しそうにしている愛人に夫は声援を送る。
それが更に愛人を悔しくさせる。
何をやっても敵わないのが悔しくさせ、そして気持ち良くもなってしまう。
「ああああぁぁぁぁぁ!!」
更に力を振り絞り愛人は夫へと挑んでいった。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……」
「相変わらず弱いなぁ」
愛人が止まり地面に膝をついて息継ぎをする。
その様子を見て夫は楽しそうな目で見る。
毎日の様に襲い掛かってくるが、一度も攻撃を掠らせられたことはない。
そして、これからも受けるつもりは無い。
だが本気で殺しに来ていて楽しかった。
「全く勝てる気がしないのですが……」
夫に全く攻撃を当てられないことに愛人は愚痴ってしまう。
これで夫が楽しんでいるか疑問だ。
こんなことで何時まで夫が楽しんでくれるのか疑問だ。
飽きられたら、いつか捨てられそうで不安になる。
「もしかして俺がいつか捨てるかもと不安になっていますか?」
「………」
夫の疑問に愛人は頷いてしまう。
どう隠しても相変わらずの鋭さで嘘はバレると思ったのが理由が素直にうなずいた理由だ。
「大丈夫ですよ。俺は絶対に貴女を捨てません。だから安心して下さい」
そう言って抱き締められるが、それでも愛人は不安を抱く。
いつ気が変わって捨てられてもおかしくないと不安を抱く。
究極的には一番大事なのは妻だけで、必要とあれば捨ててしまうのだろうと確信してしまっている。
「でも、いざとなったら妻だけを助けて後は見捨てるでしょう?」
その言葉に夫は少しだけ驚き、そして軽く頷く。
愛人はそれを見てやっぱりかと思うだけだ。
不安を抱くのも当然だろう。
だから飽きられないために娯楽として愛する者を殺しに向かっていた。
「お願いします。私に子供が産まれたら、その子も一緒に助けてください。私の優先度は子供の後で良いです」
「良いですよ。最優先は妻、その次に二人の子供たち、そして貴女にしましょう」
まさか妻の子供だけだ泣く自分の子供も、そして同じように優先してくれることに愛人はありがたく思う。
自分の子供は妻の子供と同じように大事にしてくれることが分かったお陰だ。
安心して、これからも夫を殺しに行ける。
ついで殺されてしまっても子供は大丈夫だと確信が持てた。
「汗もかいたし風呂に入ってきたらどうですか?休んでる間に風呂も沸かしますよ」
「…………一緒に入りますか?」
風呂を沸かすと聞いて愛人は服をはだけさせる。
妻は寝ているし気付かないと思っているし、隠れてやることに興奮してしまっている。
「そうだな。…………じゃあ、一緒に入るか」
自分の誘いに乗ってくれたことが嬉しくて愛人は笑う。
そして夫の腕に抱き付き、風呂場へと一緒に向かった。




