九話
「それじゃあ墓参りに行きましょう」
「わかっている!」
日曜日、レアーとライルは予定通りに墓参りに行く。
同性愛者だと思われたくないからレアーの頼み通りにそれぞれ時間をずらしていくことになった。
場所は既に聞いているし、途中でも合流する予定だ。
「それじゃあ先に行きますので」
レアーはそう言ってライクより先に出て行った。
「さてと、そろそろ明かす時期かな?」
レアーはライクが墓参りをした直後に自分の正体を話すつもりだった。
その時のライクの表情を予想して体がゾクゾクと震えてしまう。
きっと絶望をするのだろうと考えて頬の高揚を抑えられない。
「「「「「「「「……………」」」」」」」」」
そして頬を手で抑えるが、その表情が街中でする表情では無く見た者全てが意識を向けてしまって壁にぶつかったり、人と衝突したり、不意に車を運転する者もいて事故を起こしていた。
当然、車の事故だから被害は大きく何人か巻き込まれてしまっている。
死者も出ているだろう。
「楽しみだなぁ……」
それを無視してレアーは歩いていく。
自分のせいで事故が起きたとしても関係ないと思っているし、そもそも事故が起きたのは自分のせいだとも思っていない。
だから周りが騒がしくても無視をして目的地へと歩いて行った。
「うわぁ……」
ライクが部屋から出て墓地へと向かおうとすると事故が起きていることに引いてしまう。
パトカーや救急車のサイレンが大きく、どれだけの事故が起きているんだと呆れてしまう。
「そんなことよりさっさと急がないと……!」
目の前で事故が起きているが自分には関係が無いとライクは墓地へと向かっていく。
あれだけの数の者が集まっているのだから今更自分一人が行っても何も変わらないだろうと思っていた。
「それにしても何があったんだろう?」
ライクは目的地へと歩いて行きながら首を傾げる。
事故が起きるなんて珍しいと思っていた。
しかも周りには頭から血を流している者や喧嘩している者も多く、救急車も複数台走っている。
本当に何があったんだと思ってしまう。
「明日になったら新聞に何があったか載るわよね?」
詳しいことはもしかしたら新聞に載るかもしれないとライクは考える。
載っていなくても概要され分かれば良いやとも思っていた。
「うわぁ……。うちの娘、魔性の女かな?」
そしてレアーの父親の声が聞こえてきた。
自分と同じく遠巻きに見ており、気になることを口にする。
まるで、この惨状を生み出したのはレアーだと言っているようだ。
ライクは有り得ないと思ってレアーの父親に近づく。
「あれ?」
だが、どれだけ近寄ろうと歩いて行っても全く距離が縮まらない。
おかしいと思って周りの迷惑を考えずに走っても近づけない。
「まぁ、本当に悪いのはよそ見していた方なんですけどね……」
それだけを言うとレアーの父親は手を光らせる。
眩い光いライクは思わず手で顔を隠す。
それなのに他の者たちは何も反応をしていない。
まるで、そこにレアーの父親がいることにも、眩い光があることも気づいていないようだった。
ライクはそんなことがあるのかと信じられない気持ちになる。
「こんなものかな……?」
そしてレアーの父親は用が済んだとばかりに、その場から去ろうとする。
だがライクはそれに納得することが出来ず、それでも近寄ろうとする。
「その前に……」
その途中、レアーの父親がライクを見る。
その視線は子供の玩具を見つけたような視線だった。
それにライクは怯え立ち止まってしまう。
「娘と約束しているんだろう?早く行ってもらって良いかな?」
後ろからレアーの父親の声が聞こえてくる。
振り返ると後ろにレアーの父親がおり、声にならない悲鳴を上げてしまう。
先程まで必死に近寄ろうとして近づけなかったのにレアーの父親から接近されたことに警戒してしまう。
いくら相手がレアーの父親だとしても背後から話しかけらたら警戒するのが当然だ。
だけど何故、レアーの父親がそれを知っているのか疑問に思ってしまう。、
もしかしてレアーが教えてたのかと想像する。
「ほらほら言った言った」
さっさと行けと圧力を掛けられてしまう。
その言葉に圧されてライクもレアーの約束を守るために、この場から去ろうとするが何となく再度、レアーの父親を振り返る。
折角、会ったのだし挨拶ぐらいはと思ったのだ。
だけど振り返った時、そこにはレアーの父親はいなかった。
「あれ?」
最初からいなかった様な光景にライクは困惑する。
周りを見回してみてもレアーの父親がいた痕跡がない。
夢だったのかと疑ってしまう。
(白昼夢……?)
だが、それにしては自分の意識がハッキリとしている。
言われた言葉もハッキリと覚えている。
夢にしては記憶もしっかりしているから気のせいだとも思えなかった。
「あ、時間!」
そしてライクは言われたことを思い出して時計を見る。
思ったより時間を食っていたことに待ち合わせ場所に急いで行かなくてはいけないと走っていった。
「ごめん!遅れた!」
「そんなに時間も経っていないし大丈夫ですよ」
ライクはレアーが立っていた場所に慌てて駆けつけると最初に謝罪をする。
だがレアーは気にしていないとあっさりと許す。
遅れたといっても時間は5分も過ぎていないし気にしていなかった。
「はい、飲み物」
息継ぎをしているライクにレアーは飲み物を渡す。
念の為に飲み物を持ってきていた。
それに、もし足りなくなっても買えば良いやとも思っている。
「ふぅ……。ありがとう」
礼を言うライクに気にしてないと返すレアー。
そして一緒に墓地へと向かって歩いて行った。
「やっぱり人が少ないわね……」
墓地の中へと入るとレアーとライクしか誰もいなかった。
盆の時期でも無いから当然かもしれない。
「お盆の時期でもないからね」
レアーはそれが少しだけ寂しくなるが、ライクは全く思わなかった。
もっと正確に言えば気にする余裕すら無い。
「ここだよ」
そしてアウルの墓の前に来る。
レアーは内心、生きているのに自分の墓の前に立っていることに微妙な気分になる。
「ふぅ………。ふぅ………」
ライクはアウルの墓の前に立つと深く深呼吸を始めた。
自分の過去を思い出して後悔しているらしい。
そのまま数分が経つと雨もポツポツと降り始める。
「久しぶりだね。私はまだ生きているよ………」
これから目の前の女が何を話すのかとレアーは興味津々になる。
だが何を言われようと自分は許さないのだろうと確信していた。
「私はいつか医者になるよ。そして魔眼のことについて研究するつもり。だから呪っていても良いから見ていて………」
言い終わると同時に雨が土砂降りになる。
降水確率が低く晴れだと聞いていたから傘なんて持って来ていない。
当然、びしょ濡れになってしまう。
「このっ!?」
下着も透けて見えるとレアーがため息を吐いていると急に実の母親が現れライクを叩いた。
まさか実の母親が墓参りに来ていたなんて驚いてしまう。
そして産まなきゃ良かったと思っていたはずなのに墓参りに来ていたこと、そしてライクと一緒に墓参りに来た日が被ってしまったことに驚きと困惑と幸運が胸にあふれた。
「貴女は今更、墓参りに来たの!?」
「それは………」
「ふざけないで……!!」
そして更に叩く。
「貴女のせいで私の産んだ子供が死んだのよ……!それなのに今更墓参り?今更、罪悪感が襲ってきたの!?」
そして何度も何度もライクを叩く
レアーの実の父親は自分に責める資格は無いと思っているのか妻を止めようとし、ライクは無抵抗で叩かれている。
そして、レアーはそれを見てニコニコと眺めている。
少し気付かれない様に隠れているつもりだ。
「いい加減に八つ当たりは止めろ」
何度も何度も叩いている妻に夫は強い口調で止める。
その言葉に妻も手を止めて夫を見る。
「八つ当たりじゃな「八つ当たりだろうが!」」
妻の否定の言葉を遮って夫は断定する。
目の前の少女も娘が自殺した原因だが、それは自分達も同じだろうと考えていたからだ。
「君もごめんね……。今更だけど墓参りに来てくれてありがとう」
「いえ……。今まで来なくてごめんなさい」
その言葉に母親は苛立ちにそっぽ向き、父親は苦笑する。
他人を殺しておいて現実では罪を背負うことは無かった。
だから犯罪者として罰せられることもなく生きて罪を本当に自覚することが怖かったのかもしれないと父親は考える。
それでも墓参りに来たことに他の子供たちとは違い、マシな方だと思っていた。
他の子供やその親たちはアウルの両親が知る限り一度も来ていない。
「いいさ。他の子供やその親たち、そして先生だった大人たちも私たちの知る限り来てないからね。来てくれているだけ有難いよ」
父親の言葉にライクはそうなんだと赤面する。
まさか自分以外の者たちが来ていないなんて関わった者として恥ずかしかった。
「…………私は貴方たちにも言いたいことがあります」
そしてライクは自殺に追い込んだ相手の両親が目の前にいることに丁度良いとアウルの墓の前で誓ったことを口にする。
それにどんな反応をしようと受け入れるし、道も違えるつもりもない。
「私は将来、医者になります。そして魔眼で苦しんでいる子たちを一人でも多く救ってみせますので覚えていてください」
「は?」
そう言ったライクの言葉に母親は思いきり叩き、父親も軽蔑の視線を向ける。
どちらもお前には無理だと何も言わなくても行動で、視線で言っていた。
「貴方たちに信用されなくても、無理だと思われても私は諦めるつもりは有りません。それと他のアウルと同じクラスの皆も同じです。それぞれが医者か先生になる夢を持っています」
「…………それなのに一度も墓参りにも私たちに謝罪しないのね」
アウルの母親に痛いところを突かれるが、それでも視線をそらさない。
嘘だとは思われたくなかったからだ。
「………………好きにしたら」
強い瞳で見つめてくるライクに母親はそれだけしか言えなかった。
父親も不信を眼を向けているがどんな結果になったとしても自分たちには関係ないと妻も伴って家に帰ろうとしていた。
パチパチパチという音が聞こえる。
それがライクとアウルの両親の会話が終わった直後だから自分達の甲斐を聞いて拍手をされたのだと三人とも理解する。
それが酷く不快だった。
「嫌っていても応援はするという態度。凄いです!」
「「え?」」
知った風に口にする女の子の声にアウルの両親は怒りが湧きあがる。
ここにいる以上、娘が自殺した関係者だと思っているからこそ許せない。
誰だと思って確認するが、顔を見て何も言えなくなった。
「何を言っているのよ、レアー!」
だが近くにいた少女の声に冷静さを取り戻す。
あまりにも娘に似ていたが、もう死んでしまったことを思い出す。
そして彼女がいたから墓参りに来たのだと察した。
「私がしたことは話したでしょ!何で喧嘩を売るようなことを言うの!?この人たちの方が傷ついているのに!」
全くだと両親たちは頷き、レアーを睨む。
そして文句を口にしようとして。
「本当に何で魔眼なんて持って生まれたのかしら?それさえなければ、もっと私たちは普通に生きていくことが出来たのに」
笑顔でレアーはそれを口にする。
「全くだ。いっそのこと両目をえぐるか?そうすれば魔眼も無くなるし誰にも危害を加えられなくなるだろうし。世の中、盲目の者だっているんだ。眼が無くなくっても生きていくことが出来るだろ、でしたっけ?」
あぁ、どちらも言ってましたよねという言葉に両親たちは顔を青くする。
それはライクも同じだった。
「なんで………?」
ライクの疑問にレアーは笑みを浮かべる。
有り得なかった。
今まで同じ悪夢を見た者たちは同じ事件の関係者だけだ。
そして、それも確認している。
だとすればレアーも関係者だと示していた。
「私のかつての名前はアウルですよ。お久しぶりですね、皆さん?」
レアーは人好きのする笑顔で三人に再開の挨拶をした。
「どういうこと……?」
ライクの疑問に両親たちも頷く。
死んでしまった娘が生きていることを、まだ信じることが出来なかった。
生きているのなら何で会いに来てくれなかったのか疑問だった。
「有り得ない!だって私はその眼鏡を外した顔も見ている!それなのに影響も受けていない!」
「あぁ、これ?」
だから嘘だと告げようとしてレアーは眼鏡を外す。
その様子にライクたちは身構えるが何も影響は受けていない。
やっぱり嘘だ、騙しやがってと思った瞬間に意識が落ちそうになった。
「う~ん。やっぱり、まだ制御が難しいですね」
アウルの両親たちは久しぶりの感覚を思い出す。
何度も味わってきた生命活動を強制的に弱らせられる感覚。
まさしく娘の魔眼だった。
そして、それはライクも同じ。
アウルの両親より圧倒的に受けた回数は少ないが、それでもこの感覚はずっと覚えていた。
自殺させてしまった相手の反抗を。
「一応、言っておきますけど。私はお父さんのお陰で魔眼を完全に制御できるようになったんですよ。まぁ、かなり訓練は辛かったですけど……」
少しだけ表情を暗くするレアーに、もし普通の親子のような関係だったら心配していたかもしれない。
だが実際にはそんなことはなく、お父さんという言葉に反応してしまった。
いかがわしい関係にも思えるし養父だとも想像できる。
だが何よりも自分達から娘を奪って育てていたことに憎悪を覚えていた。
「本当に何で魔眼なんて持って生まれたのかしら?それさえなければ、もっと私たちは普通に生きていくことが出来たのに」
「全くだ。いっそのこと両目をえぐるか?そうすれば魔眼も無くなるし誰にも危害を加えられなくなるだろうし。世の中、盲目の者だっているんだ。眼が無くなくっても生きていくことが出来るだろ」
そして再度、レアーの口からその言葉が出てくる。
「二人とも、もしかして私のお父さんたちに憎悪を抱いていません?貴方たちが私を育てていても、こんな言葉を言うぐらいですから、いつか殺してたと思いますよ?」
「「………………!!」」
レアーの言葉に口をパクパクと開いて何も言えなくなる両親。
その言葉は言い放った自分達でも酷いモノだと思ってしまう。
だから離れることを決めたのだと言われても客観的に考えれば否定できない。
「あぁ、それと私が生きていることとかお父さんに育ててもらったとか口にすることは出来ませんよ」
嘘だと思った。
特にライクは皆に伝えたかった。
アウルが生きていることを。
そうすれば皆、自分の本当の夢を追えるはずだと思った。
皆、アウルのことを後悔して将来を決めてしまっていたからだ。
「それにしても知っていますか?」
そしてレアーの言葉に身体が震えてしまう。
何か聞いてはいけないことを話すのだと本能的に理解してしまった。
聞きたくないと必死に耳を抑えてしまう。
「えい!」
可愛らしい笑顔でレアーはライクの腕を蹴る。
両方とも蹴られてしまい折れ曲がっている。
「貴女たちの現在の夢は医師か教師ですよね?それお父さんに頼んでそういう風にしか呪いを掛けているのが理由なんです。そして、それは絶対に諦めることは出来ない」
レアーの言葉にライクは自分の持っていた夢が自分の意志で選んだことでは無いと言われてショックを受けてしまう。
誰かに人生を決められていると知って今までの人生は何なんだったのだと崩れ落ちてしまった。
「あはははははははははははははははっ!!!!」
レアーはショックを受けて地面に座り込んだライクを見て嗤う。
かつて自分に暴力を振るって虐めて来た相手が絶望したのだ。
気分もひどく良くなる。
「ねぇ、ライク?」
そんなライクにレアーは目を合わせる。
これから言う自分の言葉を聞き逃さないためにだ。
「何度も言うけど、貴女は決してこのことを他者に告げることは出来ませんよ。それが貴女と同じように私を虐めていた者たちでも」
レアーはそう言って手放すとライクは泣き崩れる。
全く許してくれていないことが理解したせいだ。
知らなかったとはいえ、レアーにあれだけ後悔していると言ったのに心に響いていなかった。
「レアーは一生、私を許してくれないの?」
「当り前でしょう?」
レアーの答えにライクはもう何も会話をする気力は無くなってしまった。
「?」
レアーはライクの許してくれないのかという疑問に首を傾げる。
許さないのは当たり前のことだ。
それなのに信じられないという顔をすることが理解できなかった。
レアーは今でも覚えている。
身体のいたる所を蹴られたり、殴られたりしたことを。
水を掛けられ汚されたことを。
何もしていないのに悪いことをしたことを自分の責任にさせられたことを。
虐められたことを、つい先日のことのように思い出せる。
何で許してもらえると思ったのが理解できない。
「…………久しぶりね」
そして、もう二人いたことを思い出す。
遺伝子提供者たちだ。
「そうですね、お久しぶりです。私はお父さんたちに拾われてから幸運でしたよ」
レアーの言うお父さんたちというのが自分では無いと理解しているのだろう。
それは誰だとアウルの両親たちは視線で問う。
自分達の娘を奪い、一生懸命悩んで付けた名前さえも奪った相手を知りたい。
「何ですか、その目は?私なんか生まれて来なければ良かったんでしょう?あなたたちに私のお父さんたちを責める資格はありませんよ」
ふざけるな、と思う。
そしてレアーの言葉に何も言い返す資格は無いことも理解していた。
夢を毎日見ているのだ。
レアーに自分達が何をしたのか、何を言ったのか、学校で何を経験していたのか。
知っているからこそ何も言う資格は無かった。
それでもアウルは自分達の娘だった。
今からでもやり直したいと思うのは当然じゃないかと考える。
「お父さんは凄いんですよ。私に魔眼の制御方法を教えてくれましたし、戦うための力も与えてくれた。まぁ、戦う力も魔眼を制御するのも辛い訓練をする必要があって、何度か泣いてしまいましたけど」
レアーは当時のことを思い出したのか目を遠くする。
余程、辛かったらしい。
それなら自分達の元に戻って欲しいとアウルの両親は願う。
昔のことは後悔しているし、二度と同じことはしないと誓うことも出来る。
だから一緒に暮らそうと思う。
「それでも強くなれた実感もありましたから文句や不満は無くなりましたけどね。きっと遺伝子提供者のあなたたと一緒にいたら何時までも魔眼を制御できなかったでしょうね」
さっきも言っていたが魔眼を制御できるようになったとアウルの両親は耳にする。
実際に魔眼を防ぐ効果のあるだろう眼鏡を外しても魔眼の影響を受けなかった。
それなら一緒に暮らしても平気なんじゃないかと思える。
「ねぇ、また一緒に暮らす気は無いの?」
「はぁ………?」
アウルの母親の疑問にレアーは思わず問い返す。
何で、今更一緒に暮らせると思っているのか意味が理解できなかった。
ライクもそうだが、なんでやり直せると思っているのか理解不能だ。
父親の呪いで同じ経験を夢で繰り返し常に正気でいるようにさせられているから、やり直せないのは分かっているはずだ。
「死んで欲しいと言っていた癖に何を言っているんですか?」
「それはすまない………。それでも頼む!」
毎日、悪夢を見るのは死んだアウルの呪いだと思っていた。
だけど実際にはそうではなく、自分達の罪悪感が原因だと考えてしまった。
それなら一緒に暮らして罪悪感を減らしていけば悪夢を見なくなるんじゃないかと予想してしまう。
「………あぁ、そういうこと」
そしてレアーも何で一緒に暮らそうとするのか理解してため息を吐いた。
一緒に暮らしたからと言っても悪夢を見ることには変わらない。
ライクに言った呪いが自分たちにもかかっていないと思っているみたいだ。
そもそもライクはお父さんが呪ったと言った。
なら自分達は呪われていないと何故思うのか理解でき合い。
自分たちは違うと考えるなら好都合だと思い、勘違いさせようとする。
「あなたたちの見る悪夢は呪いですよ。だから一緒に暮らしても悪夢は変わらずに見ますよ」
「何を言っているの………?」
「本当ですよ。お父さんが呪われているって言ってましたし、本人に解かせないと一生悪夢を見るままだって言ってました」
その言葉に信じられないという顔をするアウルの両親。
レアーも嘘は言っていない。
色々と隠しているだけだ。
「アウル!それでも私は………っ!?」
「私の名前はレアーです。間違えないでください」
レアーは自分のことをアウルと呼ぶアウルの両親を反射的に蹴ってしまう。
もうレアーはアウルじゃないのだ。
そういう意味ではアウルの墓があることは不自然でも何でもない。
虐められ親からも望まれなかったアウルは死に、生きているのは喫茶店の店主の娘のレアーなのだから。
「それではさようなら。もう二度と会うことが無いように祈っておきますね」
レアーはアウルの両親を後にして帰ろうとする。
用はもう済んだのだ。
一生、呪われて苦しんでいろとレアーは思っていた。
そして本当に育ててくれた父親たちに感謝する。
決して狂わず自殺しないようにしてくれたのだ。
正気でいるからこそ苦しむし、更に苦しめることが出来る。
すごく有難かった。
「アウル!!」
レアーだと言ったのにアウルと呼ぶかつての両親にレアーは不快な気分になる。
暴力でも自分はアウルではなくレアーだと語ったのに、アウルと呼ぶ両親が腹立たしくなる。
「頼むから……っ!!」
何かを言いそうになった母親をレアーは裏拳を叩きつける。
話なんて聞きたくも無かった。
「頼むから……?もしかしてやり直そうと思っているんですか?………ふざけないでください!!」
殴った母親を髪を掴んで殴りやすい位置まで持ちあげ、もう一度殴る。
レアーはふざけたこと言おうとする母親に腹が立っていた。
散々、生まれて来なかったら良かったのにと言ってきた癖にやり直せると思っているが怒りを覚える。
それを実の両親に言われてどれだけレアーが傷ついてきたのか知らないのだろう。
だから、やり直せると思っているのかもしれない。
「どれだけ産まなければ良かったと言われて傷ついた来たのか貴女に分かりますか!?私は絶対に二度とあなたたちとは暮らしません!!」
「知っているわ……」
「は?」
「どれだけ傷ついたのか知っているわよ!何度も何度も悪夢で見て経験した!!だから、やり直させて………」
涙を流して頼むかつての母親。
それを見てレアーは思いきり腹を蹴った。
「おごぇ……!!?」
「「は?」」
ショックを受けながらも意識を戻していたライクとかつての父親はそれを見て呆然とする。
涙を流して頼んだのに、それを無視して蹴ったのだ。
アウルの不信感が敵意が伝わってきて、どれだけ自分達に憎悪を抱いているのか理解してしまう。
「はぁ……。何度も言いますが私の名前はレアーです。そして父親も母親も喫茶店の店主。もうあなたたちの娘ではありません」
レアーはそれだけを言って今度こそ寮の部屋へと戻る。
二度とアウルとして生きることは無いとかつての両親とライクに示していた。
「ただいま………」
ライクは寮の部屋に戻るといつものように声を掛ける。
きっとレアーはいないのだろうなと考えていた。
もし自分だったら自分を虐めていた相手と一緒に暮らすなんて耐えることは出来ない。
「おかえりなさい」
なのに部屋の中からレアーの声が聞こえてくる。
それが恐ろしく、それ以上中に入ることを恐れてしまう。
「どうしましたか?」
笑顔で向こうから来たレアーが恐ろしい。
もしかしたら虐めていた復讐として今まで耐えていたのかもしれない。
そして正体がバレた以上、復讐が始まるんじゃないかと考えてしまう。
「レアー………」
「くすっ。ほら来てください」
怯えていてるライクにレアーは微笑んで手を広げる。
それを見たライクは当たり前のようにレアーへと近づいていく。
そして広げられた腕の中にライクは包まれてしまう。
「え?」
あまりにも自然に自分から抱きしめられに行ったことにライクは困惑してしまう。
自分のことなのに意味が分からなかった。
そしてレアーはそのことに満足げな笑みを浮かべる。
「きっと貴女は私の腕の中じゃないと安眠も出来ないしょうね。可哀想に……」
それを否定しようとライクはレアーの腕の中から抜け出そうとするが力が入らないし、そもそもやる気さえも起きない。
むしろ更に自分から力を入れて抱きしめてしまっている。
「本当に可愛いなぁ……。こんなに私に依存してしまって、いつでも殺してもオッケーだと言っているようなものですよ?」
そう言って首に手を掛けられるライク。
その上に軽く絞めらて命の危険を覚えてしまう。
「ねぇ、私はあなたたちを一生絶対に許さない。呪いを解く方法を見つけても教えない。だから、ずっとずっと苦しんでくださいね?」
レアーの言葉にふざけるなと思う。
だけどライクはレアーを振りほどくことが出来ない。
レアーの全てを受け入れてしまっている。
「ここまで依存したら、貴女は私に何をされても逃げることは出来ませんよ。本当にどれだけ私に甘えているんだか……。私だから目的もあって受け入れていますが、他の者だったら拒否されているでしょうね?」
「あ………」
目的があったからとはいえ今まで受け入れてくれたレアーの行動を思い出すと否定できなかった。
自分だったらあまりにも甘えて来ていて嫌だった。
「ほんっとうに可愛い!!きっと私だけじゃなくても貴女は誰かに抱きしめられないと寝られないんじゃない!?卒業して離れ離れになるまで、ずっと可愛がって上げるからね!」
レアーの言う通りだとしたら自分以外に誰かいないと眠ることが出来ないことにライクは顔を青くする。
恋人でも作らない限り寝ることすら出来ないのだろう。
そして、それを更に悪化させようとするレアーにライクは絶望した。




