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五話

「まぁ、いいですけど……」


 どうせならとセイナとエマはいくつかの服を買った後、直ぐに事務所に戻ってきた。

 やっぱり本人がいた方が買おうとしている服が似合うかどうかよくわかる。

 買ってきた物は無難なワンピースと下着だけだ。

 ついでに事務員に服の荷物持ちを頼もうと思っている。


「良かったわね?事務員も一緒に服を選んでもらえるじゃない」


 セイナの言葉にレアーも嬉しそうにする。

 事務員にいろんな服を着てみてもらえるのは嬉しかった。

 それを言ってきたのは事務員の恋人だけど有難かった。


「その前に仕事時の名前はどうしましょうか?」


「それは今、決めること?」


 事務員の発言にそんなものは後でも良いだろうとセイナは考えるがレアーは疑問を顔に浮かべていた。

 他にも名前を考える必要があるのか不思議だった。


「レアーじゃないの?」


「それは仕事以外の時に使う名前ですよ?将来、学校に行くときや親しい人にだけ呼ばせて上げて下さい」


 名前はいくつもあるのは不便だとレアーは思う。

 呼ばれて反応するのが難しそうだった。

 そんなレアーに事務員は微笑ましそうにして頭を撫でる。


「大丈夫です。誰だって直ぐになれますから。それに仕事時とそれ以外で名前を変えるのは意味があるんですよ」


「そうなの?」


「はい。仕事時の名前を呼ぶことによって、皆さんスイッチが入ったかのように動きが変わりますから」


 事務員の言葉にレアーだけでなく、セイナとエマも驚いていた。

 名前を変えるのは過去の相談者から特定されることを防ぐだけでなく、そんな役割があったのだと知らなかった。


「何か希望はありますか?」


「レアーって名前は女神の名前なんですよね?それじゃあイラにしましょう。大地とは反対の天空の女神の名前です」


「うん!」


 事務員の言葉に嬉しそうにするレアー。

 どちらも女神の名前だからか満面の笑みを浮かべていた。



「ロリコン?」


「女神の名前を付けただけでですか?何となくですよ?」


 幼女に名前を新しくつけたり、それが女神の名前だったりと二人は事務員に対してロリコンなんじゃないかと疑ってしまう。


「だからって女神の名前を付けるの?」


「何かにあやかって名前を付けるのは普通でしょう?ただ単に今回は女神だっただけで?」


「仕事の最中はメイド服を着てもらうのに?」


「可愛いから相談者も気を緩めてくれて色々と話してくれるかもしれないでしょう?」


 そんな理由でメイド服を着てもらうのかと事務員を信じられない目で見る二人。

 レアーは良くわかっていないのか力になれるのだと聞いてキラキラとした目を事務員に向けていた。


「可愛いからって……」


「よく見てください。こんな小さい女の子が可愛らしい服を着て仕事をするんですよ?」


 そう言われてレアーがメイド服を着てお茶などを運んでいる姿を想像する。

 たしかに可愛らしい。

 自分も抱き締めたくなる。


「それは……」


 セイナは事務員の言葉に否定できなかった。

 こんな可愛い女の子がいたら、ついつい口が滑ってしまいそうだ。


「それよりも良い加減にデパートにでも行きましょう?服を大量に買いに行かないといけませんし」


 事務員の言葉にまだ言いたいことはあるが飲み込むことにする二人。

 まだロリコン疑惑は払拭していないが何時でも調べることは出来るとして今はこれ以上追及するのは止める。

 それでもいずれは実際はどうなのか確認するつもりだった。




「この服なんてどう?」


「これも良いですよ!」


 レアーを連れて復讐相談事務所の皆は服を買いに来ていた。

 特にセイナとエマがノリノリで服を選んでいてレアーを着せ替えして楽しんでいる。

 事務員は両手に服が入った袋を持ちながら、それを眺めていた。


「着せ替えするのは面白いんだろうけど、ほどほどにしておいてくださいね。何時までも試着室を使わせてもらうのは悪いし事務所でも出来るんですから」


「それはそうだけど……」


 確かにもう一時間ぐらい使ってしまっている。

 それでも何も言われなかったのは運が良かったからだろう。

 良い加減に、ここらで試着をするのを止めて気に入った服を買ってから事務所で楽しむべきだ。


「レアーも気に入った服をいっぱい買えましたか?」


「うん!」


 事務員の質問に満面の笑みを浮かべて答えるレアー。

 それは良かったと事務員も笑顔を浮かべている。


「それじゃあレジに行って帰りましょうか」


「わかった!!」


 妙に幼い女の子に優しいことが気になるがセイナとエマも頷く。

 気になってしょうがないが、まずは事務所に帰って着せ替えを楽しみたい。

 そして事務員のロリコン疑惑を頭から一時的にでも追い出したかった。


「二人もいこ!」


 そんなことを思っているとレアーに腕を掴まれて引っ張られる。

 最初は敵意を持っていたのに一日も経たずに純粋に笑顔を向けてくる女の子に可愛いと思ってしまう。

 そんな女の子にはいはいと頷きながらレジへと向かっていき買った後は一緒に手を繋ぎながら事務所へと帰っていく。

 セイナとレアーは互いに笑顔を浮かべていた。




「二人ともあっという間に仲良くなりましたね」


 セイナとレアーが先に歩いている間にエマは事務員へと近づいていく。

 ハッキリ言ってしまえば慕っている相手に近づくチャンスだった。


「そうですね。君は一緒にいなくて良いんですか?」


「えぇ。いくらでも仲良くなれる機会がありますから」


 事務員の疑問にエマは何でもない様に答える。

 あんなに小さくてかわいい子なら、こちらから近づきたい。

 それに仕事着ではメイド服を着せると事務員は言っていたが想像するだけで可愛いことが分かる。

 エマはロリコンではないが事務員がメイド服を着せたがるのも分かる。


「それで本当にロリコンじゃないんですよね?」


 念のための質問だった。

 もし、そうだったらどうすれば良いのか悩んでしまう。

 このまま事務員のところに置いて毒牙に掛けられるのを放置すれば良いのか、それともそれを防ぐために孤児院から出て行けば良いのか迷ってしまう。


「何度も言うけどロリコンじゃないですからね?あの年頃の女の子に手を出すなんて想像するだけで吐き気がしますし」


 事務員の目を見て本気で言っていることをエマは理解する。

 だが下手をしたら幼い女の子を毒牙に掛けるよりも吐き気をすることをしているんじゃないかと考えてしまう。


「それじゃあメイド服が好きなんですか?」


 それは今更だし、自分達も多くの者たちの不幸を楽しんでいるから何も言えない。

 それよりも今は事務員の好みの方が大事だった。


「…………そうなのかな?ただ単に可愛い仕事着と言ったらメイド服だと思っていましたし」


 ウェイトレス服もあるが、世の中メイド喫茶はあってもウェイトレス喫茶何て聞いたことが無い。

 男にとってはメイドの方が憧れがあるのだろうとさして呆れてしまう。

 でなければ人気になったりしない。


「じゃあ私もメイド服を着ますか?」


「小さくてかわいい女の子がお手伝いとしてメイド服を着て頑張るのが良いのであって、事務所で貴女たちが着るのは違和感があるよな気がするんですが……」


 メイド服を着ると言ったのに、やんわりと拒否されてエマは不快になる。

 言っていることは分かる。

 事務所にメイド服を着た者がいるのはおかしいというぐらいは。

 それでも同い年の女の子がメイド服を着るというのに何の反応もせずに拒否されるのは女のプライドが傷ついた。


「そうですか。ちなみにセイナがメイド服を着たらどう思いますか?」


「………その前に女の子にとってメイド服って可愛い服装ですか?」


「?はい」


 何で今そんな質問をしてくるのか疑問だったがエマは肯定する。

 メイド服も可愛いし着るのも嫌ではない。

 むしろ着てみたいとも思っていた。


「なら好きで着ているんだなぁと思いますね」


 事務員の答えに恋人がメイド服を着てもそんな反応なのかとため息が出る。

 だけど同時に一度、本当にそんな反応をするのか試してみたいと思う。

 セイナとレアーにも話して一度全員でメイド服を見て反応を確かめようと声を掛けようと考えていた。


「そういえば……」


 ふいにレアーの服を買っていた最中のことを思い出す。

 買っている最中、今思い出せば我ながら少し騒がしかった気がする。

 そうなればスタッフの人が注意しに来るはずなのに誰も来なかった。


「今思い出せば騒がしかった気がしますけど、誰も来なかったのは事務員が何かしたからですか?」


 エマのその疑問に事務員は今更気付いたのかと笑みを浮かべる。

 本当はもっと長くいることは出来たかもしれない。

 それでも事務員に途中で止められてしまったのだと理解して少しだけ不満を持つ。

 もしかしたら、これ以上の荷物は持てないから終わらせたかもしれない。

 だけど事務員の両手に荷物は、これ以上は持てないだろうが、その場合はエマやセイナも持つつもりだった。


「そうですよ。変に質問されて答えたくなかったですし。特にレアーは来たばかりの子供ですからね。色々喋ってしまったらマズいです」


 そして今も同じような魔法を使っているのだろう。

 誰もがそこに誰かがいると認識していて邪魔にならない様に避けてくれているのに、その誰かを正確に理解していない。

 不特定多数の相手に無差別に認識の妨害を違和感なくしている。

 その上で事務所で働いている皆は互いに認識することが出来る。

 どういう理屈なのか理解できずに困惑してしまう。


「なるほど……」


 そのおかげで冷静になり、他にも理由はあるんだろうなとエマは予想する。

 特定の者以外には存在を認識させないなんて魔力を大量に使うはずだ。

 もしかしたら魔力はギリギリで今にも魔法が解けてしまうのかもしれない。。


「もしかして魔力はギリギリだったりしますか?」


「?そんなことは無いですよ」


 事務員はそんなことを言ってくれるが正直に言って心配させないようにそう言っているだけなんじゃないかとエマは考えてしまう。

 駆け足でエマは先を歩いている二人に近づき転んだりしないように二人の手を引っ張って事務所へと急いでいく。

 その姿に事務員はエマに感謝をしながら、三人の後を追って事務所へと向かった。



「急にどうしたの!?」


「………」


 セイナとレアーは急に腕を引っ張られて走らされたため腕が少しだけ痛くなり、その原因となったエマを睨む。

 走っていた間は突然のことで何も言わなかったが止まったことで文句を言える。


「そんなことより今は早く事務所に入ってください!!」


 その不満も言いたかった文句もエマの焦ったような声に消えてしまった。


「本当にどうしたの?」


 言われた通りに事務所に入り、そこでようやく安心したかのように息を吐いたエマにセイナは心配そうに声を掛ける。

 レアーもエマに対して心配そうな顔を向ける。


「気付いていたかは分かりませんが服を試着した時に騒いだり、帰り道の途中ですれ違う人たちが私たちをちゃんと認識していませんでした」


 エマの言葉にセイナはそういえばと思い出す。

 すれ違う者たちはともかく試着室で騒いでしまったのに注意を受けることさえなかった。

 事務員が不特定多数の者たちに認識を妨害していたんじゃないかと今思いつく。

 精神や思考を操る魔法は禁忌だからこそ思考から抜け落ちてしまっていた。

 普段からも操作しているような気がするが、事務員の言葉を信じるのなら事務所に目的の相手をおびき寄せるだけだから気にしていなかった。


「特定の相手だけ認識できて、それ以外は認識させないなんてことをしたら魔力も大量に使っていると思ったんです。その上で魔力が切れたら突然、現れたことになります。面倒なことになるかもしれませんから慌てて事務所に連れてきました」


 エマの言い分にセイナも納得する。

 やっていることは禁忌だからこそバレたらヤバイ。

 だけど同時に普段から似たようなことをやっているから魔力に関しては余裕があるんじゃないかと考える。


「でも普段から似たようなことをやっていない?」


「あ……」


「魔力は余裕がありましたけど事務所に掛けているのとは違いますよ。事務所を見つけれて入れるようにするのは特定の条件を満たした者だけ。今回は条件に関係なく手当たり次第に魔法を使いましたから」


 理解は出来ないが違う魔法を使ったと事務員が言うなら、そうなんだろうとエマたちも納得しようとする。

 それでも魔力を使った量自体は多いんじゃないかと考えていた。


「それよりも事務所に着いたんだし着せ替えはしなくて大丈夫なんですか?それなら先に仕事で着るメイド服を決めてもらいたいんですが?」


 事務員はそう言ってどこからか復讐種類のメイド服を空中に浮かばせる。

 メイド服だけでも数種類あることにレアーは目を輝かせ、エマとセイナはいつの間に買っていたんだと信じられないような顔を向ける。

 しかも服を買いに行った場所ではメイド服なんてなかったはずだ。


「いつの間に買ったの……?」


 その上に荷物持ちをさせて、ずっと傍にいたから本当に驚いてしまう。


「?これは現物じゃなくて映像ですよ?選んだ物を現物として作ってもらうつもりですけど……」


 事務員の言葉にエマもセイナもメイド服に触ろうとするがすり抜ける。

 それで事務員の言っていることが本当だと理解した。


「どれか一つなんですよね?」


 どれも可愛いとレアーは目を輝かせて見る。

 同時にどれか一つだけなのが残念そうだ。


「頑張って仕事したら一着ずつ増やしますよ?」


「ホント!?」


 今は幼い子供だから何度も仕事着を入らなくなるし、そのついでだ。

 何度服が入らなくなるか疑問だが大きくなることを実感できるし、その日が楽しみに思える。


「全部、ロングスカートなのね……」


「家事もやらせるのに短いスカートって足が汚れません?」


 全てがロングスカートであることに気付いてセイナが疑問を持つが事務員に答えを返される。

 ロングスカートである理由から本当に仕事着として使わせるつもりのようだ。


「そうね。それならこのメイド服が良いと思うわね。黒いから汚れてが付いていても目立たないわ。他の服は次の機会にしたらどう?」


「………うん、わかった」


 セイナの意見にレアーは頷く。

 どれも可愛い服で選ぶのが難しかったがレアーのことを考えて意見を出してくれるなら、それでも良いと思った。

 それに頑張ればいつかは他の服も選べるから、簡単にセイナの意見に頷くことも出来た。


「じゃあ、これで良いですね?………それじゃあ、ちょっと出かけてきますので」


 どのメイド服にするのか決まったら事務員は事務所から出ていく。

 もしかしたら実際に選んだメイド服を買いに行ったか頼みに行ったのかもしれない。


「わかったわ。いってらっしゃい」


 セイナは事務員がどこかに行っている間にレアーが一番似合う服を決めようと思う。

 そして可愛いレアーを見せて驚かせようと考えていた。


「それじゃあ二人とも事務員が帰ってくるまでにレアーを可愛くして驚かせましょう」


「そうですね!」


「へっ!?」


 セイナは二人に目標を告げ、エマは賛同しレアーは驚いてしまう。

 そしてセイナとエマの二人は早速買ってきた服を並べ、どれが似合うのか話し合う。

 レアーは最初は大人しく着せ替え人形になっていたが色んな服を着れることに楽しくなり途中からポーズを取り始めた。

 そして着せ替えさせていた二人はそれを見て笑顔を浮かべていた。



「着てもらうメイド服を決まったので作ってもらえますか?」


「分かりましたよ。決まったメイド服を見せてください」


 とある服屋に事務員は入り開口一番にそんなことを言うが、相手も特に不快に思わずに話を進めていく。

 他に客がいないのもあるお陰だろう。


「黒を基調としたメイド服か……。汚れても良いようにからか?」


「仕事着ですからね。それと同じのを何着か作ってください」


 同じ服を何着も作るよりは他にも違うデザインの服を作った方が楽しい。

 他のデザインもあるから、それは作っちゃダメなのか疑問だ。


「何着も作るなら他のデザインの服も作っちゃダメなのか?」


「ダメです。他のデザインのメイド服は頑張ったご褒美としてプレゼントするつもりなので」


 仕事着でもオシャレを楽しみたいのなら仕事を頑張ってからだという事務員に服屋も納得する。

 そもそも普通は仕事着でオシャレなんて出来ない。

 ある意味、当然といえば当然だ。

 それでも確認したのは着る相手が幼い女の子だからだろう。


「そうか。ところでお前のところの他の女子もメイド服を着るのか?」


「?いつも通りマントで良いでしょう?」


 事務員の言葉に服屋の主人はため息を吐き、そして店の奥から出てきた奥さんも呆れたような視線を事務員に向けていた。


「マントだけじゃなくて何か仕事着としての服を送りなさいよ。服を新しく作って送るのが幼い女の子だけだなんてロリコンだと思われるわよ」


 そして奥さんも事務員に苦言する。

 事務員はそんなことでロリコンだと思われるかと信じられない気持ちになりながら主人にも視線を送るが頷かれてしまう。

 それでようやくセイナとエマにも服を送ることを決める。


「………それじゃあ、どんな服を送れば良いですかね?流石に事務所にメイドがいるのは違和感なんですが?」


「幼い女の子にさせているんだから今更よ。メイドになりたいかはともかく可愛い服だから着たいと思う女の子は多いから渡してみなさい?」


 奥さんの助言に事務員も頷く。

 同じ女性だから考えていることも納得できる。


「………わかりました。それじゃあ二人の分のメイド服も頼みますね。といってもサイズは知りませんから後になりますけど」


「大丈夫よ。サイズについては私も良く知っているから」


 事務員の言葉に満足したのか奥さんは笑顔を浮かべ、それだけを言って店の奥に引っ込む。

 おそらくは服のデザインを考えにいったのだろう。


「あぁ~。取り敢えず一週間後にまた来てくれ。そのぐらいになったら必要な分のメイド服も出来ているだろうし」


「分かりました。それじゃあ一週間後」


「おう。それとお金の方だが今回も無料で良いからな。お金が気になるなら、うちのデザインの服を着て見せてくれれば良い」


 服屋の主人の言葉に有難いが、本当にそれだけで良いのか不安になってしまう。

 だけど服屋の主人たちにとっては当然のことだ。

 事務員のおかげで復讐を成すことが出来た。

 そして警察にもバレておらず怪しまれてもいない。

 それが事務員のお陰だから出来る限り配慮する。


「ちゃんとお金を稼いでいるんですか……?」


「当然!それにこんなことをするのはお前さんだけだ!遠慮なく貰ってくれれば良い!」


 復讐相談事務所に来て珍しく復讐だけを成功し反撃もあっていない相手だからこそ、ここまで好感を抱かれているのだろうなと事務員は予想する。

 他の反撃された復讐者だったら好感を抱かれていないはずだ。


 だが事務員としては好感を抱かれていても、その好意のせいで復讐を推奨させる行為を止めようとしているんじゃないかと不安になる。

 そうならないように言えない様に様子を見ていた。


「わかりました。それじゃあ今度、とりあえずイラという名前の幼い女の子を連れてきますね。ついでにその場でメイド服を着てもらいましょう」


「それは良いな!」


 その場で試しに着て貰るのなら多少のズレもチェックできるから有難かった。

 新しい子がどんな子なのか気になる。


「事前に言っておきますけどイラは魔眼を持っていますからね?眼鏡やサングラスを付けていても外さないで下さいね?」


「は……?」


 魔眼を持っていると聞いて何となく、その幼い女の子の境遇を想像してしまう。

 その内容は悲惨なもので捨てられたのだと予想してしまった。


「そうか……。気を付ける。お前も魔眼の影響を受けたからって捨てるなよ」


「当然ですよ。それに、あの程度の魔眼では影響何て受けませんし」


「………」


 事務員の言葉に相変わらず規格外だと呆れる服屋の主人。

 何が出来て出来ないのか、さっぱり理解できない。

 しかも今は出来ていないだけで、いつの間にか出来るようになってもおかしくないと思っている。


 そして願わくば復讐を推奨する行為も幼い女の子を育てている中で考え直して欲しいと思う。

 親の責任として子供に罰が下されることもあるのだから。

 たしかに服屋の主人たちは事務所の力を借りて復讐をしたから止める資格は無いが、それでも事務員が復讐の協力することをいつかは止めて欲しいと祈っていた。





「…………これだわ」


「…………そうですね。これが一番、似合いますね」


 イラに一番似合う服が決まって二人は満足げな笑みを浮かべる。

 そしてイラは二人が選んだ服を鏡で見て嬉しそうな顔をする。


「あとは事務員に見せるだけね」


「そう「可愛いですね。選んでくれた二人にもお礼を言いましたか?」……ですね?」


 突然に事務員の声が聞こえてきて三人とも酷く驚く。

 声の聞こえた位置から距離を取って警戒すらしていた。


「………驚きすぎじゃないですか?」


 事務員は事務所に帰ってきて自分に見せるためにおめかしをしたイラを見て感想を言うが警戒されたことにショックを受けてしまう。

 そんなに存在感が無かったか疑問だ。


「いや、だって存在感が全くなかったわよ……?何時の間に入ってきたのよ……!?」


 セイナの言葉に頷く二人。

 そのことに事務員は鈍すぎるんじゃないかと不安になる。

 イラはまだ幼いからともかく他の二人は心配になってしまう。

 どちらとも容姿は並よりは上だ。

 念のために鍛えてやるべきかと事務員は考えてる。

 ついでにイラも今の内から鍛えようかと悩む。


「…………少し不安ですので、三人とも鍛えましょう?」


 突然の事務員の言葉にエマとセイナの二人は身体を震わせる。

 正直に言って事務員に鍛えられるのは怖い。

 圧倒的な実力差でボコボコにされるんが分かり切っている。

 それを避けるために何が不安なのか確認する。


「気付いたら後ろから襲われて色々されていそう……」


「「……………!!!」」


 事務員の言葉に色々と想像して顔を青くし、そして顔を赤くして声にならない怒りが湧く。

 心配してくれているのは嬉しいが、想像されたことが嫌だった。


「…………?…………?」


 イラは自分より年上の三人が何を話しているのか理解を出来ずにオロオロとしていた。

 ただ事務員が自分達を心配してくれているのが分かったから是非とも鍛えてもらおうと考えていた。


「あの……?」


「どうしましたか?」


 言葉に出来ないほどの怒りが湧き、どうぶつけるか悩んでいた二人を置いてイラは事務員に話しかける。

 内容は鍛えてもらうことに了承することだった。


「私も強くなりたいです!鍛えてください!」


「「え?」」


「分かりました。泣いても止めませんし、逃がしませんからね」


 良い笑顔で言う事務員の言葉に嘘は無いと何となく理解するイラ。

 どれだけ辛いか分からないからこそ、それでも覚悟を決めたと思って頷く。


「止めなさい!!」


「そうですよ!殺す気ですか!?」


 そんなイラにセイナとエマは止めようと説得しようとする。

 事務員が心配してくれるのは有難いが、心が折れたりするのが目に見えている。


「殺しませんよ?ただ死にかけることはあると思いますが」


 その言葉に全力でイラを事務員から引き離す二人。

 イラも少しずつ恐怖を覚えてくるが、それでも撤回する気にはならない。

 当たり前のように死にかけるなんて言われるが、それでも死ぬことは無いのなら積極的に参加しようと思う。

 もう何も出来ずに暴力を振るわれるのは嫌だった。

 同じようなことがあったら抵抗できる力が欲しいとイラは思っている。


「………それでもお願いします」


 イラの言葉にエマとセイナの二人も顔を見合わせる。

 これは何を言っても説得を受け入れることは無いだろうなと想像する。

 そして二人は幼い女の子が参加するのに自分たちが参加しないのは情けなく感じて参加することにする。


「………………私も参加するわ」


「………………お願いします」


 ものすごく嫌そうに参加することを決めた二人。

 事務員にとっては嫌でも参加させるつもりだったから、あまり変わらなかった。


「訓練に関しては一週間のうち六日はひたすらに基礎鍛錬。後の一日でひたすらに組手にしますので。それと最低でも一時間は訓練に使いますからね」


「「え?」」


「わかりました!」


 一時間と聞いてセイナとエマの二人は本当に事務員かと疑い、イラは取り敢えず元気に頷く。

 セイナとエマにとっては事務員のことだから、もっと時間をかけると思っていたが予想よりも楽そうで安心する。


「イラは身体がまだまだ幼いですし負担を掛け過ぎるのも問題ですからね。他にもセイナとエマと一緒に訓練させるなら同じ時間で同じ内容をさせた方が気合も入るでしょうし」


 どうやらイラを中心に鍛えようと考えているみたいだ。

 だからこそ思ったよりも楽そうなのかもしれない。


「……?基礎訓練だけで他の技術については教えないんですか?」


「組手をするので戦い方はその時に覚えてください。基本的に何か口を出す気は無いです」


 自分で戦い方を覚えろという事務員にエマとセイナはため息を吐く。

 あれこれ言われないのは有難いが、勝つための技も教えてもらいたかった。

 そしてイラは不安げに事務員を見る。

 戦いや暴力的な喧嘩などしたことも無いからしょうがない。


「イラに関しては組手をしながら教えていきますから安心してくださいね。ある程度戦えるようになったら厳しくしていきますが」


 組手を教えるという事務員にイラは安堵し、そして厳しくするという言葉に少しだけ緊張していた。

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