二話
「ぷくくっ」
アウルが教室から逃げたのを確認して教師は思わず笑ってしまう。
自分を見て子供たちも笑い、怒られないということは悪いことはしていないのだと思ってしまう。
教師はそれを察しても、むしろ好都合だと矯正するつもりはない。
「馬鹿だなぁ……。教室にはカバンとかあるから戻らなくちゃいけないのに……」
毎日、持って帰らなければいけないカバンなどを置いて行ったアウルを嘲笑う。
そのせいで逃げたとしても絶対に戻らなくてはいけないのだ。
アウルを虐めるチャンスはまだまだある。
「戻ってきたらアウルに嫌がらせをするか」
その光景を脳裏に思い浮かべて教師はアウルが速く戻ってこないかと内心ウキウキしていた。
「皆は何をする?俺は箒でまた突こうと思うんだけど」
「じゃあ私は雑巾をかける!」
「僕はまた水でもかけようかな……。それで風邪をひいたら学校も来ないだろうし……」
「天才!?」
子供たちはアウルをどうやって虐めるか楽しそうに話し合う。
先生は止めないし、むしろ参加しているから自分達がやっていることは悪いことだとは思っていない。
「ねぇ。私たちでアウルのパンツとか脱がさない?」
「あはは。ノーパンにするとかバレたらアウルのやつ、変態じゃん。もしノーパンだとバレたら襲われるんじゃない?」
「かわいそー」
どうやって惨めにしていくのか本当に愉しそうで、自分より立場の者が相手だとどこまでも歯止めがかからない。
アウルを自分達と同じ人間だとは思っていない。
「アウルも早く来ないかな?」
全員がアウルが戻ってくるまで家に帰ろうとする者はいなかった。
それだけアウルを虐めるのが楽しくてしょうがないらしい。
先生も止めるどころか協力して虐めを隠してくれる。
こんな面白いことが親にバレて叱られる可能性も低いのだ。
もっともっとアウルで遊びたいと思っていた。
「あ………」
そしてアウルが教室に意を決めた顔で入ってくる。
カバンも教室の中で持って帰らないと何時までも帰れないと覚悟したのかもしれない。
「ひっ……!」
歪んだ笑みを見せて子供たちはアウルを教室の中へと引きずり込む。
それがあまりにも恐ろしくアウルは悲鳴を上げる。
子供たちはアウルの悲鳴がまた聞くことが出来ると笑みを歪めた。
「あがっ!!」
腹を殴る。
「ごっ!?」
顔を殴る。
「ぐぶっ!?」
腹を蹴る。
「おぼっ!?」
頭を蹴る。
「おぼぼっ!!?」
意識を失っても水を掛けられて目覚めさせらる。
「やめっ……!?」
そして箒で突かれたり、雑巾で雑巾で拭かれたりする。
殴るけるなどの暴行でできた痣が水に沁みて痛い。
子供たちはアウルの悲鳴を聞こえても笑みを絶やさずに繰り返し暴行する。
悲鳴そのものが面白く、どこをどう攻撃すればどんな悲鳴が上がるのかと玩具としてしかアウルを見ていない。
先生も止めるつもりは無く死ぬ直前には止めようとしか考えていなかった。
「う……あ……」
何度も何度も暴力を振るわれアウルは悲鳴を上げる気力もついには無くなる。
どんなに殴ったり蹴ったりしても悲鳴を上げないアウルに飽きたのかつまらない顔をする子供たち。
それぞれが帰る準備を始める。
「何の反応もしないと詰まんないな」
「明日になれば、また面白い悲鳴を聞こえるんじゃない?」
「ばっか。一日で回復するわけないじゃん。ゲームじゃないんだぞ」
子供たちは笑って帰ろうとする。
一番最初に帰る準備を終わった子供が教室を出ようとして―。
「こらー!!」
校長の怒声が教室に響き渡る。
「何時までたっても校長室に来ないと思ったら何をやっているんだ!?」
校長に見られていたことに顔を青褪める子供たち。
そして同じく教室にずっといた先生も顔を青褪める。
「君もだ!教師の癖に何で止めない!」
そう言ってアウルを抱きかかえる校長。
「以前の時と同じように動画に撮っていたからな……。逃げられると思うなよ……!」
怒りの声を上げる校長。
「君はクビだ。二度と教師になれると思うなよ……」
僅かに意識が残っていた校長の声をアウルは聞く。
そして聞こえてきた動画を撮っていたという言葉。
ずっと助けずに自分が虐められている撮っていたと聞いて信じられなくなる。
本当はもっと早く助けてくれたのに、そうしてくれなかったことで、この学校では自分の味方がいないのだと理解できてしまった。
「う………」
「アウルさん!?」
心配そうに声を掛けてくる校長の声を嫌悪を抱きながら自分の腕を無理矢理にでも動かす。
目的は自分のサングラスを外すことだ。
「何を!?」
「あぐっ!」
アウルがしようとしていることを察して校長は手を放して地面に落としてしまう。
そのお陰で反動で腕を動かさなくてもサングラスを外すことが出来た。
そしてアウルは首を力を込めて動かす。
それだけで魔眼の力で目に映った全ての者の生命活動を弱らせる。
もっと殺意もしくは力を込めたら殺すことが出来た。
だがアウルは無意識にでも殺人犯になるという恐怖で誰も殺すことはなかった。
「一体何があったんだ!?」
アウルの父親は仕事場に娘が魔眼を使って多くの者の生命活動を弱らせたと聞いて早退する。
強力な魔眼であり容易く人を殺せる力なのに、それを使ったアウルに怒りを覚える。
育て方を間違えてしまったのかと後悔している。
「この病院か!」
今、娘のいる場所を聞いて病院と答えられたアウルの父親は娘のせいで生命活動が弱くなった者たちのために病院にいると思っていた。
「申し訳ありません!!」
そして病院の中に入ると見たことがある大人たちがいた。
おそらくはアウルと同じクラスの子供たちの親たちだろう。
アウルの父親が謝ろうとすると先に謝られてしまった。
「私たちの子供が貴方の子供をあんなに痛みつけて申し訳ありませんでした!」
そして謝られた内容にアウルの父親は首を傾げてしまう。
何があったのかは知らないが魔眼を使って生命活動を弱らせたのは知っている。
それは一歩間違えれば殺してしまいかねなかったのだ。
それだけ強力な力を持っているのだからアウルが悪いと考えている。
「いえ。魔眼という強力な力を持っているのに危険性をわからずに使った娘が悪いです。本当に申し訳ありません」
アウルの父親の言葉にクラスの子供たちの親は何を言われたのか最初は理解できなかった。
だけど、まだ彼の娘の状態を見ていないのだと思い出し、それを見れば意見を翻すはずだと考える。
その時にこそ、もう一度謝ろうと考える。
「何で魔眼を使ったんだ!!お前の魔眼は人を簡単に殺してしまうと前にも言っただろう!?」
そして全身痣だらけで病院のベッドに寝ているアウルを見ての発言に信じられない者を見る目で見てしまう。
クラスの子供たちの親からすれば、あれだけの目にあったのだから魔眼を使われてもしょうがないと理解できてしまう。
そうしないと自分が死んでしまうのだから。
むしろ、そこまで痛みつけた自分達の子供の方が信じられない気持ちでいっぱいだった。
「どれだけ腹が立っていたとしてもな。人を殺してしまったらダメだろう!?」
だけど今は自分達のことより、自分の娘を責めているアウルの父親を止めることを優先するべきだ。
アウル自身が死にかけていたから魔眼を使ったのだと考えないのだろうか疑問だ。
それとも魔眼を持っているから何もかもアウルが悪いと思っているのかもしれない。
「…………」
「何か言い訳をして見ないか!?」
見るからに声を出せるように見えないアウルに理不尽なことを口にするアウルの父親。
虐待しているとして警察などに連絡した方が良いかもしれない。
子供たちの親も自分の子供がいなければ引き取りたいと考えてしまう。
「あなた!?アウルは!?」
アウルの母親も来る。
彼女の登場に子供たちの親はもしかしたら大丈夫かもしれないと期待をする。
そして何を言うのかと見ていたら娘をはたいていた。
そのことにクラスの子供たちの親は頭が真っ白になってしまう。
「何で魔眼を使ったの!?簡単に人を殺せてしまうのよ!?我慢ぐらいしなさい!!」
もしかして彼女たちは自分の娘が嫌いなんじゃないかと疑ってしまう。
何故なら全身痣だらけなのに娘を心配するよりも先に魔眼を使ったことに怒ったのだ。
校長先生が持っていた動画を見れば確実にアウル以外の子供たちが悪いと魔眼を掛けられた当人の親たちも思っていたのにだ。
「あの?」
「あぁ。すみません!うちの娘が!謝罪はしますので、どうか許してください!」
「いえ、どちらかと言うと私たちの方が悪いのですから謝らなくても気にしないのですが……」
「何を言っているんですか?魔眼を使われたのでしょう?なら悪いのは私たち、特にアウルです。申し訳ありません」
全身痣だらけで見ていて痛ましいのに悪いのは自分達だというアウルの母親。
アウルが哀れでもともと少なかったアウルへの恨みが完全に消えてしまう。
何でそこまで自分の娘を悪者にしたいのか疑問だ。
「そもそも家の子供が、あなたたちの子供に暴力を振ったからこうなったんですから……」
そこまで言ってようやくアウルの母親も謝るのを止めてくれる。
これ以上、我が子を信じない言葉を聞きたくなかった。
「そうですか……。なら貴方たちも謝らなくて大丈夫ですよ。どうせ魔眼を持っている家の子供が怖かっただけでしょうし」
「魔眼を持っているというだけで暴力を振るわれたのに気にしないんですか……?」
「いつ魔眼で攻撃されるか分かりませんからね。気持ちは分かります」
恐る恐る確認するが頷かれてしまう。
そして頷かれたことで親であるのに子供が怖いのだと理解できてしまった。
自分たちも子供が魔眼を持っていたら同じようになるのかと恐怖し、こうなりたくないと思う。
そして自分達の子供が魔眼を持っていないことに運が良いと考えた。
たしかに自分達の子供は見ていて痛ましい姿になるまで女の子を傷つけるが、まだ幼い。
今からなら矯正できると考えれる。
だけど魔眼を持っていたら矯正することも諦めてしまうんじゃないかとアウルの両親を見て考えてしまった。
「本当にあの子は……!」
アウルの母親は娘が自分と同じクラスの子供達と教師、そして校長を魔眼に掛けて病院に運ばれたと聞いて忌々しく思う。
ただサングラスを外して見られただけで生命活動が危険になる。
それで何度、自分と夫が病院に運ばれたか数えきれない。
何で魔眼を持って生まれたのかと恨んでしまう。
「あなた!?アウルは!?」
そして病院のベッドの上で全身痣だらけでになっているアウルを見て良い気味だと思っていた。
故意でなくても何度も他者の生命活動を弱らせたのだから当然の報いだと考えていた。
「あの?」
「あぁ。すみません!うちの娘が!謝罪はしますので、どうか許してください!」
娘と同じクラスの子供たちの親が声を掛けてくる。
娘のせいで命の危険に子供たちが晒された。
だから何かを言われる前に謝る。
やっと魔眼を持って生まれた娘から平日の間とはいえ日中は解放されるのだ。
そして学校側も魔眼を持っているからと受け入れさせてくれと言われた。
今の状況を手放したくなかった。
「いえ、どちらかと言うと私たちの方が悪いのですから謝らなくても気にしないのですが……」
「何を言っているんですか?魔眼を使われたのでしょう?なら悪いのは私たち、特にアウルです。申し訳ありません」
そして向こう側から気にしていないと言われ、それどころか謝罪をされる。
とてもありがたかった。
もしかしたら娘はまだ学校に通っても大丈夫なんじゃないかと思ってしまう。
「そもそも家の子供が、あなたたちの子供に暴力を振ったからこうなったんですから……」
魔眼をかけられたというのに先に手を出したのはこちらだと謝ってくれる者たち。
なんて優しいのだとアウルの母親は感動する。
アウルの両親からすれば先に手を出したとしても魔眼を使われて生命活動を弱らせたのだ。
責められてもしょうがないと思っていた。
「そうですか……。なら貴方たちも謝らなくて大丈夫ですよ。どうせ魔眼を持っている家の子供が怖かっただけでしょうし」
「魔眼を持っているというだけで暴力を振るわれたのに気にしないんですか……?」
「いつ魔眼で攻撃されるか分かりませんからね。気持ちは分かります」
何故かクラスの子供たちの両親に信じられないような目で見られてしまう。
まるで軽蔑されているような視線が疑問だ。
それとも魔眼を持っているという理由で両親である自分たちも子供に対して警戒しているのだと思われているのかもしれない。
だが他の者も自分達の子供が魔眼を持っており被害を受けていたのなら気持ちが分かるはずだとアウルの両親は思っていた。
「運が良かったわね?」
娘の同じクラスの子供たちの親が自分たちを睨んで目の前から去っていったのを確認してアウルの母親は自分の娘に問いかける。
その瞳には怒りがこもっており、アウルは恐怖を覚える。
「子供たちはどうか知らないけど、親御さんたちは自分達の子供の方が悪いって」
「………」
そんなことを言われてアウルは何も言葉を返すことができない。
全身が痛く意識を保っているだけでもギリギリだった。
「本当に何で魔眼なんて持って生まれたのかしら?それさえなければ、もっと私たちは普通に生きていくことが出来たのに」
娘が魔眼を持って生まれたせいでアウルの両親は何度も大変な目にあってきたし死ぬような思いもした。
何よりも出産直後に手術室にいた全員に魔眼をかけられてしまい死にかけた。
生きていたのは運が良かったからだろう。
だから魔眼を持って生まれた娘に殺されかけたのもあり、娘に対して厳しい。
「全くだ。いっそのこと両目をえぐるか?そうすれば魔眼も無くなるし誰にも危害を加えられなくなるだろうし。世の中、盲目の者だっているんだ。眼が無くなくっても生きていくことが出来るだろ」
「それもそうね」
アウルの父親の言葉に母親は頷きアウルの片目に手をかけようとする。
もう片方の眼にも父親の手を指し伸ばされた。
「……………っ!!?」
両親に眼をえぐられそうになってアウルは恐怖で涙目になる。
そして逃げようと必死に動こうとするが身体は全く動かない。
身体がガタガタと震え歯がガチガチとなっている気がする。
そして二人の手がサングラスの隙間から差し込んで来る。
「すいませんー!!失礼しますね!」
その瞬間、両親の手が引っ込みアウルは安堵した。
運よく看護師が病室に入って来なければ眼を奪われていた。
その痛みを想像して看護師に心底感謝する。
「どうしましたか?」
「そろそろ面会時間の終わりなので連絡に来ました。どちらか病室にお泊りになりますか?」
どうやら面会の終了時間のことについて報告をしにきたらしい。
そのことに感謝しながら二人は泊ることを拒否する。
「いえ大丈夫です。それじゃあ明日も来るから大人しくしているのよ」
それだけを言って両親たちは自分達の家へと帰っていく。
取り繕っていたが娘がいないことに安堵し、内心喜んでいた。
娘がいないのなら癇癪で魔眼を使われることは無い。
今までも事故でしか使われたことは無かったが、それでも警戒はしていた。
「どうしましたか?」
誰もが寝ているだろう深夜にアウルのいる病室に一人の男の声が響く。
アウルからすれば知らない男が音もなくに入ってきたことに怯えてしまう。
「………!?」
悲鳴を上げようとするが全身の痛みのせいで声が出ない。
そのこともあって顔をさらに青褪めてしまう。
「安心してください。私は危害を加える気はありませんよ。ただ何となく気になって入っただけですから」
何となくで女の子の部屋に入ってきた目の前の男を信じられない目で見てしまう。
正直に言って信用ならない。
「ところで誰かに対して殺したいと思っていませんか?」
「………」
何を言っているのかと冷めた目でアウルは目の前の男を見る。
「そうでなくてもやり返したいと思う相手はいると思うのですが?」
目の前の男はどこかで自分達を見ていたのだとアウルは考える。
だから自分が憎んでいると思ったのだと察する。
見ていて助けなかったのだから信用できない。
「そうですか……。これでも何があったのか知らないのですが残念です。それでも復讐に興味があるのなら連絡をしてください」
冷めた目で目の前の男を見てしまうアウル。
そのまま男が自分の額に手を当ててくる。
「!!」
それと同時に目の前の男の情報が頭の中に流れてくる。
こんな魔法は知らない。
自分が知らないだけであるのかもしれないが、こんなまさにお伽噺のような魔法を使われるのは始めてだった。
それと同時に本当に自分のことは何も知らないんじゃないかと考え始める。
「おや?」
男は自分に対する視線が変わったことを察して色々な魔法を使い始める。
姿を消したり透明になったり音を消したりと目の前で実演する。
それらを使ってアウルの病室に入ってきたのだと理解させてくる。
アウルは有り得ないはずのそれらを見て目を輝かせた。
小学生のアウルにでも存在しない魔法だと教えられ理解しているのに目の前で見せつけられているのだ。
目の前の男がこれ以上に不思議なことをしていてもおかしくないと思い始める。
本当に自分のことを知らないのだと信じ始めていた。
「それにしてもサングラスを着けているんですね?邪魔だと思うんですが外しても大丈夫ですか?」
「………」
アウルは首を振ろうとするが動かせない。
魔眼を持っていることも伝えれない。
危害を加えてしまうと焦り始めていた。
「大丈夫ですよ。魔眼も持っているんでしょう?」
え?と思う前にサングラスを外され目の前の男を直視する。
マズいと思うが、その前に眼の間の男が目を無理矢理に開かされた。
「………っ!」
サングラスを外して直に目の前の男を見てしまったことに必死に自分は悪くないとアウルは言い聞かせる。
「へぇ。思ったよりも綺麗な眼ですね」
だから聞こえてきた声がアウルは信じれなかった。
今まで魔眼を見てきた者は意識を失っていた。
それなのに目の前の男は平然としている。
「そんなに驚かなくても魔法などの抵抗力が強ければ当り前ですよ?大会とかテレビで見ませんか?魔法が直撃したのに無傷な者もいたんでしょう?」
そう言われてみれば確かに本当なら火傷をしているはずなのに無傷な者が大会にいた。
魔法に対する抵抗力が強ければ魔眼の影響は受けないのだとアウルは希望を持つ。
限られてはいるが生まれ持った魔眼の影響を受けない者も入るのだと。
「それにしても酷い怪我ですね。治して上げましょうか?」
そういえばとアウルは思い出す。
何も口にしていないのに先程から考えていることが読まれて会話をしている。
それも魔法なのかと考える。
「そうですよ。ところで君は復讐したくないですか?その程度の魔眼。鍛えていれば無効化できるのに持っているからと攻撃され親にも恐れられている。私だったら復讐していますよ」
アウルは目の前の男の言葉に魔眼を無効化していたこともあって話を聞く気になっている。
初めて自分の魔眼の影響を受けない者を見たせいでテンションが上がり好感度が高くなる。
彼女にとっては初めてのサングラスなどで妨げられていない状態で見た者なのもある。
それに目の前の男が言っていることが事実なら今まで会ってきた誰もが抵抗できる手段があったのに行動していなかった。
そのことが苛つかせる。
「ねぇ。復讐できるの?」
アウルの言葉に目の前にいる男は頷く。
母親は何かあったら自分の話を聞かずにアウルが悪いと言ってくる。
父親も同じ。
そしてクラスメイト達は自業自得なのに仕返しだと暴力を振るってくる。
こんな状況から逃げたいとアウルは思う。
その為には皆いなくなれば良いと単純に考える。
「できますよ。その代わりに君の未来を貰いますけど」
「未来を……?」
「はい。これからは一緒に暮らして事務所の家事をしてもらいましょう。少し時間が掛かりますが学校にも行ってもらいますね。後は名前を変え二度と両親に会えなくなりますね」
「なる!!」
両親と二度と会えないと聞いてアウルは食いつく。
全身を痣だらけにされて暴力を振るわれたのに何も聞かずに自分が悪いと断定されてアウルは深くショックを受けていた。
きっと、これからも本当に悪くなくても自分が悪いとされて両親に信じてもらえないのなら二度と会いたくないとアウルは思っていた。
「さてと……」
男はまずはアウルの怪我を魔法で治す。
一瞬、自分の身体が光ったら痛みが無くなってアウルは驚いてしまう。
怪我を治す魔法を使える者はごく僅かで今まで見たことがない。
一生で会えるかどうかの確立だ。
「それじゃあ、この場から消えようか」
そう言って男はアウルをお姫様抱っこをする。
アウルは自分を助けてくれた男の人がお姫様抱っこをしてくれたことに顔を真っ赤にする。
「それと私の名前は…………です。人前では呼べない様にしますし、それ以外では事務員とでも呼んでくださいね?」
自分をお姫様抱っこしている男の言葉にアウルはコクコクと頷く。
半分は話を聞いていなかったが事務員と呼ぶことはアウルは理解できた。
「…………。…………。…………。あれ?」
聞いた名前を呼ぼうとするが声に出せない。
どういうことかと首を傾げてしまう。
「ついでに呪いをかけて呼べない様にしましたので。これで間違えて呼んでしまう可能性はなくなりましたね?」
笑顔でそう言ってくる事務員にアウルは顔を引き攣らせてしまう。
いつの間にか呪いを掛けていたことに信用しようと思ったのは間違いなんじゃないかと考えてしまっていた。
「あと君の名前も変えましょうか?今の名前を呼んで親御さんが騒がれたら面倒ですし」
親御さんに騒がれると聞いて、それは無いとアウルは思う。
きっと自分がいなくなったことに清々するはずだとアウルは考えていた。
「大丈夫だと思う。だって私なんか生まれない方が良かったって言うもん」
「そうですか。それでも私は名前を新しくつけて上げますね。それで君もかつての親からもらった名前を捨てて縁が切れることになるでしょうし」
「わかった。おねがい」
縁を切れると聞いてアウルは事務員に新しい名前を頼む。
「それじゃあ君の新しい名前はレアーにしましょう。女神の名前です」
「ふぇっ!?」
女神の名前と聞いてアウル改めレアーは顔を赤くする。
初めて言われた言葉に恥ずかしくなる。
「…………そうだ。少し下を見ませんか?」
恥ずかしくなって顔を事務員の胸に埋めて隠しているとそんなことを言われる。
言葉通りに見てみると綺麗な夜景が広がっていた。
「うわぁ!!」
「いずれは夜になったらいつでも見れるように色々と仕込んであげますからね」
「本当に!?」
そういえばいつの間にかぶつかっていた風も止んでいた。
それは事務員が動きを止めたからかもしれないが足場も無いのに泊まっていることが異常だ。
そして空中で止まっていることに空を飛べること、そして教えてもらえることにテンションが上がる。
「えぇ。厳しいかもしれませんが諦めなければ教えて上げますからね」
事務員のことにアウルは歓声を上げて喜んだ。
「ここが新しい家になりますよ」
そして案内された場所は路地裏だった。
ポツンと復讐相談事務所と書いてある看板もある。
家の中も汚いのだろうなと思いレアーは中に入るのに覚悟を決める。
「結構、部屋も空いているし大体の好きな部屋は使っても大丈夫だからね。一緒に決めようか」
「………」
外観からは想像できないぐらいに中は綺麗でレアーは驚きで言葉も出ない。
あくまでも路地裏に立っていて、夜も遅いから汚く見えただけだかもしれないとレアーは反省をする。
「まずは一階と二階はどっちが良い?」
「事務員はどっちに選んで欲しいですか?」
逆に聞き返すレアー。
そのことに少しだけ嬉しくなり事務員は二階だと答える。
「じゃあ二階にします。………もしかして一階は仕事に使ったりするんですか?」
レアーの疑問に事務員は満足そうに笑う。
思っている以上に賢かった。
それにこちらのことを考えて配慮してくれる点も凄く嬉しく思っている。
「そうだよ。君は頭が良いね。勉強も教えて上げたいと思っちゃうよ。まぁ、実際に教えるのはセイナかエマって者でしょうけど」
「セイナ……?エマ……?」
「明日にも紹介するけど一人は恋人、一人はバイトですよ」
女性らしき名前が出てきてレアーは目を吊り上げて質問するが恋人がいることらしいことに不満を持つ。
だけど今は一緒に暮らしていないらしいし自分の方が一緒にいる時間が長くなるはずだと予想する。
そしていつかは自分の方が好きになってもらおうと考えていた。
「まぁ、二人とも………。一人は変態ですけど君の魔眼の影響を受けないでしょうから安心してください。二人も可愛くて小さい君のことは気に入ると思いますし」
「えへへ」
事務員に可愛いと言われてレアーは嬉しくて笑う。
そしてそのまま部屋を見ていき、ある程度とはいえ他より広い部屋で生活することを決める。
「ここですか……。取り敢えずベッドは用意しておきますね?」
事務員はその言葉と同時にベッドを召喚する。
そのことに驚く気力もレアーには無かった。
その様子に事務員は苦笑してレアーを抱っこしてベッドに運ぶ。
「………ありがとうございます」
眠そうにしながらもベッドに運んだ事務員に礼を言うレアー。
そのことに事務員は笑いながら眠れるように頭を撫でていた。




