八話
「がんばれよー!!」
「後で俺たちも応援に行くからな!!」
コンバット学校と戦う前日、ネストたち学校の代表者たちは試合会場の近くのホテルに向かうバスの前にいた。
そして代表者たちの周りにはそれぞれの家族や学校の友人たちが集まっている。
少し離れたところでは他の学校の生徒たちが遠巻きに見ていた。
「何て言うか、凄いな。まさかお前が学校の代表に選ばれるなんて」
「本当だよ。試合が終わって時間が有ったら私も鍛えて!」
「相手は世界大会にも出場しているらしいけど頑張りなさい。応援しているから」
ネストの前には当然、家族たちがいた。
学校の代表に選ばれていたことに驚き、そして応援してくると言う家族たち。
それに対してネストは冷めた目を向けている。
「ネスト……?」
その視線に気づいたからか家族はネストに対して声を掛けるが隠すことを思い出して冷めた目を消す。
家族たちは声を掛けた一瞬で冷めた目を向けられたのは気のせいだと考える。
冷めた目を向けられたと考えたくないのだ。
もし、それが気のせいでなかったら憎まれていることになる。
学校の代表に選ばれるほどの実力者に何をされるか分からないと必死に気のせいだと誤魔化す。
「ネストくん~。がんばろうね~」
そんな中、ネストにルーが抱き着いてくる。
そしてネストもルーへと抱き締め返したことでルーは満面の笑みを浮かべる。
周りの皆は女の子が男の子に抱き着いたことで黄色い悲鳴が上がった。
男子も女子も関係なく色恋沙汰だと楽しそうに歓声を上げ、そして同時に嫉妬や恨みの視線を浴びせる。
ピシリと音が鳴る。
「もしかして恋人かい?」
「違うよ~」
ネストの父親が互いに抱きしめた姿に恋人かと確認するがルーに否定される。
そしてネスト自身も頷いたことで困惑してしまう。
それは父親だけでなく近くで恋人じゃないと聞いた者たち全員だった。
例外は学校の代表者たちぐらいだろう。
学校では男性女性関係なく明確な拒絶をしない限り二人は誰にでもハグをしている。
特にこの二人は互いに相手を抱きしめ返してくれるからか、よく抱きしめ合っている。
「恋人同士じゃないのに抱きしめ合っているのか?」
話を聞いたのかルーの父親も近づいてくる。
その視線はネストに向けられており、恋人でもないのに娘と抱き締めていることに怒りを向けていた。
いくら娘が抱き着き癖があっても、抱きしめているのは男親として納得がいかなかった。
「あらあら」
そして母親はルーを見て楽しそうに笑う。
母親として勘が奔り、ルーを連れて少しだけ離れ耳打ちをする。
「もしかして、あの子のことが好きになった?」
「………ふぇ!?」
ルーは母親に言い当てられたことに驚き、顔を向ける。
その反応に母親は気分が良くなる。
誰にでも抱きしめているから、そんな感情は無いと思っていたがちゃんと誰かを好きになっていることに母親として安堵していた。
「今のところ彼にも恋愛感情は無いかもしれないけど貴女だったら好きになってもらえるわよ。私の娘なんだし」
母親に好きな人がいることがバレて応援されていることに恥ずかしくなるが同時に力強く感じる。
今までは試合のこともあったから積極的に行動できなかったが、終わったら暇な時間も出来る。
コンバット学校との試合が終わったら母親のアドバイスも受けて積極的に行動しようと考えていた。
「それで彼のどこが好きになったの?」
「………最初は誰も抱きしめても返してくれないけど、彼だけは最初から抱きしめ返してくれたのよ~」
ルーの理由に、そんな理由かと母親は呆れてしまう。
それはもしかしたら違う者が抱きしめ返して来たら好きになっていたんじゃないかと思ってしまう。
だけど今はようやく来た娘の恋を邪魔したくなかった。
「他の皆も偶に抱きしめ返してもらうけど、彼だけは恥ずかしがらずに最初から優しく抱きしめ返してくれて~」
他の者にも抱きしめ返されたと聞いて同性やノリの良い者なら確かにやるだろうなとルーの母親も納得する。
それにしても優しく抱きしめられたと聞いて少しだけ感心する。
普通は急に抱き締められたらノリで返すか何もできないでいるだろう。
その中で最初から優しく抱きしめられたのは出来るものは非常に少ないだろうし、だからこそ印象に残ったのだと考えられる。
「そうなのね。たしかに彼は優しそうね」
離れてネストを見るが確かに優しそうな顔をしている。
その顔と抱き締められた感想から娘の好みは優しそうな者だと母親は理解した。
「優しくて学校の代表者に選ばれる実力者か……。競争力は高そうだけど頑張りなさいよ」
母親の言葉にルーは頷く。
ルーからすればそんなことは分かっている。
だけど一番、有利なのは自分だとも考えていた。
何故なら訓練の時、一番近くにいたのはルーだった。
そして共に競い合い最も影響を与え合った。
「分かっているわよ~。試合が終わったら積極的にアタックするわ~」
娘の答えに母親は満足気に頷く。
自分の娘だからこそアタックしたら落ちるはずだとも考えているし、同時に失恋したとしても良い経験になると思っている。
それでもできれば娘の恋が叶って欲しいと思っていた。
「恋人でも無いのに抱きしめ合っているらしいが、そこはどう思っているんだい?」
ルーの父親はネストに娘と恋人でもないのに抱き締め合っていることに文句を言う。
恋人なら不満はあっても厳しく問いただすつもりは無かったが、恋人でないなら詳しく話を聞きたいと考えている。
ハッキリ言って娘も問題はあるだろうがネストに関しても酷く不快な感情を抱いていた。
「?そもそもルー先輩も抱き締めて来ていますよ?抱き締められたら抱き締め返すのが普通じゃないんですか?」
「お、おう」
ネストの言い訳にルーの父親は何にも言えなくなる。
目の前の少年からは、それ以外の理由はあるのかと本気で言っているように見える。
逆に問い質そうとする自分が悪いのかと考えてしまいそうになっていた。
「………それでも父親としては恋人でも無いのに娘と抱き締めあうのは止めて欲しいと思うんだが」
「本人に言った方が良いと思いますよ?そもそも俺以外にも抱きしめていますし」
ネストの言葉に更に何も言えなくなるルーの父親。
今度こそ娘には誰彼構わず抱きしめるのは止めさせようと決意していた。
「そうか……。恋人じゃないのか……」
ネストの言葉に恋人ではないことに家族たちは残念そうにする。
かなり可愛い子が息子に抱き着いていたから恋人だと思ったのに、誰にでも抱き着くと聞いて多くの者たちを勘違いさせてきそうな女の子だと思う。
「お前は彼女のことを恋人にしたくないのか?」
「特に恋人にしたいとは思っていないけど……」
ネストは自分の父親の質問に何とも思っていないと返し、ルーの父親はその言葉にまなじりを吊り上げる。
「………どういう意味だ?」
娘を恋人にしたくないと言っているようなネストの言葉に娘の何が不満だとルーの父親は思う。
それは是が非でも確認したいと考えていた。
そしてネストの言葉はルー本人や話が近くにいた者たちも聞こえており興味を引いてしまう。
「正直、他の男に抱き着いていたら、そんなつもりは無いと分かっていても嫉妬すると思うので。心が狭いと付き合えないと思います」
ネストの理由に父親も納得してしまう。
むしろ嫉妬するのが普通だから何も言う気にはならなかった。
それは周りにいる者たちも同じで確かにルーは可愛いが恋人にしたいかと思うと否定する者がほとんどだった。
ルー自身も母親に肩を叩かれ恋人が欲しいなら誰にでも抱きしめるのは止めないさいと注意されている。
「そろそろ出発するのでバスの中に乗ってくださいー!!」
牽引する教師がバスの中から乗るように促す。
まだまだ会話したいことがあったが迷惑を掛けるのは本意ではないと、それぞれが会話を止めて離れていく。
「ルーもだけど君も頑張れよ」
それでも最後の一言だけでもと、それぞれが応援の一言を送る。
その言葉にそれぞれが頷いてバスの中に入っていった。
「それにしても、まさかネストが選ばれるなんてな……」
聞こえないように離れたところからネストが選ばれたことに文句を出す者たちがいた。
口に出した者はネストのクラスメイトであり、つまりは虐めていた者達だ。
誰に対しても抱き締めるネストに壊してしまったと恐怖を覚えてしまっていたが慣れてしまい、離れたところにいることで、つい本音が出てしまっていた。
「最近ネストの奴、調子に乗っているし、またみんなで虐めるか?いくら代表に選ばれたとしても数で叩けば問題ないだろ?」
「そうだな。試合が終わって帰ってきたら、虐めるか皆に確認するか」
最近まで虐めていたことで格下だと扱っていた者が代表に選ばれ自分達より客観的に上のカーストに立ったことに不満を抱いてしまう。
それにルーという可愛い先輩とも仲良くなっており敵意を向けてしまう。
ピシリと音が鳴る。
「ネスト、今から約束をして良いか?」
バスが動く前にクルドがネストの前に来て約束をしようと話しかけてくる。
バスの中に入るのは代表だけでなくサポートも何人か一緒に乗ることができ、クルドもその一人だ。
「良いけど、どうしたの?」
「学校の大会が終わったら俺と戦ってほしい。今度こそ俺が勝って見せる」
そう言って敵意を向けてくるクルド。
それに対してネストは前の勝負から、そんなに時間が経っていないのに、またかと呆れてしまう。
ピシリと音が聞こえてくる。
「良いよ。大会が終わったら戦おう」
本音は嫌だった。
こんな短時間で挑まれても結果は変わらない。
するとしても、もっと後が良かった。
それでも頷くのは良い顔を見せて、本当は憎悪していると思わせないためだ。
ピシリという音が他者にも聞こえるようになる。
「サンキュ。それにしても、さっきから何かが割れるような音がしないか?」
ネストはクルドの言葉に満面の笑みが浮かぶ。
良い顔をする自分にも憎悪を向けてしまうが、それもようやく終わる。
「本当だ。ネストは何か知らないか?」
ピシリとした音が聞こえる方向にはネストがいる。
そしてネストに何か知らないかと確認すると満面の笑みを浮かべ腹がえぐれていた。
「キャアァァァァァ!!!!」
満面の笑みを浮かべたネストが倒れるのと同時に悲鳴が上がる。
ネストの腹からは血が溢れており匂いがバスの中に充満している。
そして大量の血が流れていることと内臓が飛び出ていることでネストは死んだと確信していた。
バスの中にいた者達は人が死ぬところなんて見たことが無いから女性のほとんどは悲鳴を上げ、男性も顔を青くしている。
中には男性女性関係無くに意識を失う者もいた。
そのせいで意識を失った者たちの一人はネストの残った片腕辺りから『這い出て来た黒い何か』に喰われる。
『這い出て来た黒い何か』の姿はオオカミのようにも見るし、蛇のようにも見えるし、まと鳥のようにも見える。
姿が全く一定せずに常に変わっていた。
「は………?」
ネスト以外に最初に喰われた者は頭から吞み込まれた。
あの様子だと痛みもなく死ねて幸運だと見ていた者達は思ってしまう。
死者が増えたことによる現実逃避だ。
そして『這い出て来た黒い何か』はそのまま意識を失った者たちに触手のようなものを伸ばす。
それを認識した者達は意識を失った近くにいる者を担いでバスの外に出た。
バスの外に出た者達は全員がバスの出入り口に移動せず壊して外に出たせいで、バスは壊れてしまう。
そのせいかバスが爆発した。
生きている者でバスに残っている者はいない。
残っているのは『這い出て来た黒い何か』だけだ。
「はぁ……はぁ……」
急に生きるか死ぬかの場面に出くわし、バスの外に出たものたちは呼吸を荒げる。
本気で死ぬかバスの中にいた者たちは思っていた。
一体、『這い出て来た黒い何か』は何なんだと思ってしまう。
ネストの片腕辺りから出てきたことも気になる。
「何があった!?」
「急にネスト君の片腕辺りから『黒い何か』が這い出てきてネスト君やネスト君が死んだことで意識を失った者を殺した」
エストの答えにバスの外に最初からいた者たちは何を言っているんだと呆れた視線を向ける。
目の前でバスが爆発したが、それでもエストの言っていることが理解できないでいた。
「何を言っているんだ?」
「事実だ。バスの爆発に巻き込まれたから『這い出て来た黒い何か』も死んだと思うが警戒はしろ」
そしてバスの中に一緒に乗っていた教師もエストの言葉が事実だと述べるせいで理解は出来ないが無理矢理納得する。
そもそも『這い出て来た黒い何か』とは何だと疑問を抱いていた。
そのまま数分ほどバスが燃え上がっているのを見てエストたちバスの中にいた者たちは息を吐いて地面に座り込む。
流石に『這い出て来た黒い何か』も燃え死んだと思って安堵していた。
「本当に何だったんだアレは?」
急に現れて殺していった『這い出て来た黒い何か』の存在にバスの中にいた者たちも疑問を抱く。
先程までは気を抜いたら殺されるんじゃないかと思っていて考える余裕は無かった。
「そういえばネスト君がいつも手放さなかったアクセサリから『這い出て来た黒い何か』が生まれたような気がするんだけど……」
ほとんどがネストの片腕辺りから這い出て来たとしか認識していなかったから正確な場所を口にした者に本当かと視線を向ける。
それに対して首を縦に振ることで頷き、真実だと理解する。
「だとしたら『這い出て来た黒い何か』のことを知っているのはネスト君だけか……」
何であんなに危険なモノを手放さず、ずっと身に着けていたのも疑問だ。
そのせいでネストは死んだし、関係の無いはずだった者も死んでしまった。
もしかしたら自分達も死んでいたんじゃないかと考えると死んでしまったとはいえネストに対して怒りを抱いてしまう。
「………何で~?」
そしてルーはこれからアタックしようとしていた男の子が死んだことに絶望していた。
恥ずかしいが母親にも応援されて、これからだと未来に希望を持っていたのに奪われてしまった。
その喪失感がルーの胸を満たす。
「ルー……」
ルーの心情を察してか母親が娘を抱きしめる。
エストの話を聞く限り、意味も分からず目の前で好きな男の子が死んだのだ。
トラウマになってもおかしくない。
そしてルーの父親も先程まで会話していた若い少年が死んだことにショックを受けていた。
あまりにも若すぎる少年が死んだことが信じられないでいる。
それが事実だと認識するのは実際に死体を見てからかもしれない。
だが、その死体も爆発したバスの中にあったから判別はつかないのかもしれないか。
「そんな……」
そしてネストの家族たちも絶望していた。
折角、少しずつ家族の仲が良くなってきたのに、その一人が死んでしまったと聞いて絶望していた。
これからは少しずつ仲が良くなってきた息子を虐げた罪悪感と一緒に生きていかなければならないと考えると後悔の念が押し寄せて来ていた。
せめて、もっと早く虐げていたことを自覚して治し、一緒に生活したかった。
それがもう叶わないことを認識して辛くなる。
「サリカだけは絶対に護る」
子供が自分達と離れて生活させるのは無しにする。
息子が死んだこともあり、残されたもう一人の子供とも離れて暮らすなんて考えられなかった。
死んでしまったらしい息子の遺体がバスの中にあることにネストの両親たちは早く火が消えて欲しいと思っていた。
死んでしまったと聞いているが、それでも実際に確認したかった。
バスの中にいた学校の代表者たちからも『這い出て来た黒い何か』のことは聞いていたが、あれだけの炎の中、バスの外に出てこないことに燃え死んだんじゃないかと判断していた。
そして、それはバスの中にいて実際に見た学校の代表者たちも同じように判断していると考えている。
地面に尻を付けて安堵している以上はそうとしか思えない。
だからネストの父親は消防者を呼んで火を消そうと考えた。
このまま燃えたままにしていると、どこに飛び火するか分からないから誰も否定は出来ないだろう。
『這い出て来た黒い何か』も燃え死んだと誰もが思っていた。
「もしも……」
そしてネストの父親が電話を掛けた瞬間にバスの中か黒い何かが飛び出しネストの父親の頭を吹き飛ばした。
ネストの父親は頭が吹き飛んだことで即死し、携帯を落として倒れる。
「え?」
『もしもし?どうしましたか?』
突然のことにサリカの困惑した声と携帯から聞こえ場違いの声が辺りに響く。
バスから飛び出した黒い何かにバスの中にいた者たちは死んだんじゃないのかと恐怖の視線を向けてしまう。
普通は死んでしまう炎の中で生きていることに非常に恐ろしく覚えてしまう。
あれで死なないのなら、どうやったら死ねるのか疑問に思う。
そしてバスが爆発して木っ端みじんになる。
ネストや意識を失って死んだ者もバスの中身と一緒に吹き飛び四肢の一部がもげてしまっていた。
そのせいで死んだ者の家族は『這い出て来た黒い何か』に憎悪を抱く。
「アレが何なのかどうでも良い……。殺してやる!!」
死んだ者を確認したことで彼らの友人や家族が憎悪を抱いて逃げることを忘れさせる。
それぞれが武器や魔法を構えて『這い出て来た黒い何か』に向けた。
「何をしているんだ!逃げろ!」
その行動にエストは悲鳴を上げる。
こちらが反応できずに殺されたことを理解していない。
そして武器を向けた者たちはエストに対して子供が友人が殺されたのに逃げろと言うエストに対して信じられないと不信の感情を向ける。
怒りで自分が勝てない相手だと理解していない。
そのせいで皆が死んでしまう。
一人は身体を引き裂かれ、一人は喉元を食い千切られ、一人は首をはねられ、一人は心臓を貫かれて死んでいく。
あまりにも圧倒的で羽虫を振り払うような気安さで人が死んでいく。
その光景にエストは絶望して見ていることしかできない。
当たり前のように自分達を殺している姿に勝てないと思ってしまう。
友人や後輩、家族が殺されても怒りや憎悪も湧いてこない。
エスト以外のバスに乗っていた者たちは、目の前に光景に怒りや憎悪を覚えて攻撃に出ている。
その姿にエストは理解が出来ないと見ていることしかしていなかった。
むしろ何故、勝てないと諦めて逃げないのか不思議に思っていた。
今もこうして見ているだけで実力差がハッキリと分かってしまう。
逃げるべきだとも思ってしまう。
だけどエストは逃げることはせずずっと見ていた。
逃げられないと諦めているせいなのかもしれない。
何も行動せず、ずっと死者が増えていくのを見ていた。
「何をしているの~!?」
そんなエストに何をしているのかと叫ぶ女子がいる。
友人や家族が殺されたことに怒りや憎悪を胸に攻撃するのでもなく、逃げろと言った癖にその行動もしていないエストに怒りをぶつける。
身近な者を殺されたのに『這い出て来た黒い何か』に怒りや憎悪を抱かず逃げようとするエストに怒りが湧くが、同時に何も行動しようとしていないことに邪魔だとルーは思っていた。
そもそも目の前で身近な者が殺され、殺した存在がいるのに勝てる勝てないなんて考える方がおかしい。
普通は感情のままに行動しているはずだ。
「逃げるなら逃げてよ~!ハッキリ言って邪魔~!!ただでさえ相手が強すぎるのに~!!」
ルーの言う通り死者の数が積み重なっていく。
圧倒的な実力差があるのに戦えているのは数の差だろう。
生徒と教師とその家族たち。
数百対一の勝負になっている。
それでも少しずつだが数が減ってきていた。
「本当にアレは何なんだよ……」
数多の死者を積み重ねていく『這い出て来た黒い何か』にエストは愚痴をこぼす。
アレの正体を知っているかもしれないネストも死んでしまい、正体を知る術が無い。
もし知っていて身につけていたのなら、自分達はそれだけのことをしたのかと生きていたらネストに問い詰めていた。
炎の中にいても爆発を受けても『這い出て来た黒い何か』に傷は見られない。
かなり頑丈だとわかってしまう。
頑丈でスピードもあり、攻撃力もある。
理想的な存在だが、それが敵に回って殺しに来ていることが最悪だった。
そして逃げようと『這い出て来た黒い何か』の実力に逃げようとしていたのはエストだけでは無かった。
エストとは違い行動にも移そうとしている。
友人や家族、恋人が目の前で死んでも生き残りたいと逃げようとしていた。
だが全員が逃げることは出来なかった。
「はっ、はっ!」
自分が生き残るために逃げようとしていた者たちは、この場から離れようと走ってもいつの間にか元の場所にいた。
疲れているし走った実感もあるのに、何度もこの場から離れようと走っているに気付いたら走り出す前の位置にいることに恐怖で涙が出そうになる。
目の前にある光景では学校にいた皆が次々と死んでいく。
代表者に選ばれた者たちでも成す術もなく殺されている姿に自分達では何も出来ずに殺されるのだと絶望していた。
それでも生きたいと思っている。
だから何度も絶望しながらも逃げようと行動する。
「何でだよ……!?」
それなのに、どうやっても逃げ去ることが出来なかった。
「ネストの奴……!何を身に着けていたんだ!?」
ネストが常に身に着けていたアクセサリから死体を量産している『這い出て来た黒い何か』が出てきたと聞こえていたから、死んでしまったネストに対して文句をこぼす。
少なくともネストが身に着けて居なければ、こんな目に遭わなかった。
「俺たちが何をしたって言うんだ!?」
逃げようとしていた者たちは世の中の理不尽に泣き叫ぶ。
そして今度こそ逃げ切って見せると『這い出て来た黒い何か』に背を向ける。
そしてドンという何かを叩きつけた音がしたのと同時に逃げようとしていた者たちの前に『這い出て来た黒い何か』が現れた。
ドンという音も『這い出て来た黒い何か』が地面を思いきり踏み込んだ音だったのだろう。
そのことに思い至り、目の前の『這い出て来た黒い何か』から逃げようと背中を向けてしまう。
殺しに来た化け物相手に背中を見せるという隙だらけな行動に『這い出て来た黒い何か』は容赦なく、それぞれの心臓に黒い何かが突き刺す。
「え……?」
それだけで逃げようとした者たちの何人かは死に、まだ生き残っていた者たちは悲鳴を上げる。
そして、まだ生き残っていた者たちも黒い何かを頭に振り払われて、頭が吹き飛び死んでしまった。
他にも自分が生き残るために逃げようとしていた者たちは、この場から離れようと走ってもいつの間にか元の場所にいた。
疲れているし走った実感もあるのに、何度もこの場から離れようと走っているに気付いたら走り出す前の位置にいることに恐怖で涙が出そうになる。
目の前にある光景では学校にいた皆が次々と死んでいく。
代表者に選ばれた者たちでも成す術もなく殺されている姿に自分達では何も出来ずに殺されるのだと絶望していた。
それでも生きたいと思っている。
だから何度も絶望しながらも逃げようと行動する。
「何でだよ……!?」
それなのに、どうやっても逃げ去ることが出来なかった。
「ネストの奴……!何を身に着けていたんだ!?」
ネストが常に身に着けていたアクセサリから死体を量産している『這い出て来た黒い何か』が出てきたと聞こえていたから、死んでしまったネストに対して文句をこぼす。
少なくともネストが身に着けて居なければ、こんな目に遭わなかった。
「俺たちが何をしたって言うんだ!?」
逃げようとしていた者たちは世の中の理不尽に泣き叫ぶ。
そして今度こそ逃げ切って見せると『這い出て来た黒い何か』に背を向ける。
そしてドンという何かを叩きつけた音がしたのと同時に逃げようとしていた者たちの前に『這い出て来た黒い何か』が現れた。
ドンという音も『這い出て来た黒い何か』が地面を思いきり踏み込んだ音だったのだろう。
そのことに思い至り、目の前の『這い出て来た黒い何か』から逃げようと背中を向けてしまう。
殺しに来た化け物相手に背中を見せるという隙だらけな行動に『這い出て来た黒い何か』は容赦なく、それぞれの心臓に黒い何かが突き刺す。
「え……?」
それだけで逃げようとした者たちの何人かは死に、まだ生き残っていた者たちは悲鳴を上げる。
そして、まだ生き残っていた者たちも黒い何かを頭に振り払われて、頭が吹き飛び死んでしまった。
誰も彼もが逃げられずに死んでしまう。
まだ生きている者たちは身近な者たちが殺されたことに怒りを持つ者もいれば絶望している者もいる。
怒りを抱いた者たちは武器を構えて『這い出て来た黒い何か』を向けており、絶望している者たちは地面に座り込んで怒りを抱いた者たちが殺されるのを見ていた。
どれだけ皆が強くても『這い出て来た黒い何か』には勝てない。
それが分かっているのに怒りを抱いて攻撃するのは破れかぶれになっているからだと絶望している者たちは想像してしまう。
そして絶望している者たちも、どうやっても逃げられないのならと武器を手にし始める。
死んでしまっても、この絶望から逃げられるのならどうでも良くなっていた。
「ルーはまだ生きているのか………」
最初から戦っていて、まだ死んでいないルーを見て絶望していた者たちは尊敬する。
ルー以外の者だったら既に死んでいただろうし、実際にほとんどの者は死んでしまっていた。
そして自分以外のほとんどは死んでしまっているのにルーの眼は怒りと憎悪で輝いている。
だから少なくとも彼女の力にもなりたいという思いが、まだ生き残っている者たちに沸き上がっていた。




