七話
「クルド君、少しいいかい?」
代表の大将であるエストに呼ばれてクルドは何の用かと首を傾げる。
正確には代表としての話があるのは想像が付いているが内容が予想できない。
「分かりました。ちょっと待ってください。皆、それじゃ」
エストに対して少し待って欲しいと言ってクラスメイト達に別れの挨拶をする。
クラスメイト達も頑張れと応援してくれて見送ってくれる。
そしてエストと一緒に歩いている途中、そういえばネストは一緒に来なくて良いのかとクルドは疑問に思った。
「クルド君」
開いていた教室に入り二人きりでエストとクルドは向かいあう。
エストの真剣な表情にクルドは緊張してしまう。
「君は代表に選ばれていた」
クルドは何でそれを向かい合って話すのかと困惑する。
そして過去形を使われていることに嫌な予感がした。
「そしてネスト君は補欠として選ばれている」
今の状況を口に出されて更に嫌な予感がする。
「悪いけど君のような万能タイプより今は特化タイプのネスト君の方が必要だと思うんだ」
クルドはそれ以上、続けて欲しくないと思う。
今にも逃げ出してこの場から離れたい。
だけど逃がさないとばかりにプレッシャーを掛けていて逃げられない。
一年と三年の差もあるのだろう。
「だから君とネスト君の立場を逆転させようと思う」
その言葉を聞いてクルドは悔しさで歯を食いしばり拳を握りしめる。
笑顔でハグをするようになって壊れたのかと思っているが、それでも最近まで格下だと思っていた相手が自分より上に立つのは認められない。
酷くプライドを傷つけられた気分だ。
「ネスト君には他者の訓練に付き合わせずに自分のことに集中してもらって、君にはサポートに回ってほしい」
出来るよな、という視線にクルドは複雑な感情を抱いてしまう。
最初からサポートして選ばれているのなら文句は何も無かった。
だけどネストと交換する形でなったことに不満を覚える。
「…………」
壊れているのなら今更、更に虐めても問題ないだろうと思ってストレス解消をしよと考えていた。
「クルド」
そう思ったのがバレたのかエストはクルドに冷たい目を向けている。
クルドは何も口にしていないしバレていないと思うが、その冷たい目に考えていることばバレているんじゃないかと冷や汗を流す。
「ネスト君を虐めるなよ。虐めていたのを知っているんだからな?」
「………」
何で考えていたことがバレたのかとクルドは更に冷や汗を流す。
心が読めるのかと疑ってしまう。
「返事」
「はい!!」
どすの籠った声でクルドは返事を求められて反射で返事をしてしまう。
それでも信じられないのかエストは更にクルドへと警告をする。
「俺たちはお前がネストを虐めないか見ているからな。見かけたら殴ってでも止めるぞ」
「ひっ……」
殴って止めると言うが、これはありとあらゆる暴力を使って止める気だと察してクルドは怯えてしまう。
何せ目の前にいる男は大将だ。
つまり学校で一番強く、才能が有って一年で代表の一人に選ばれたクルドよりも格上だ。
敵対したと思えない。
「わかったなら出て行って良いぞ」
エストの言葉にこれ以上はここにいたくないと頷いてクルドは教室から出ていく。
急ぎ足で去る姿にエストはこれで危害を加えないだろうと安堵のため息を吐いて自嘲する。
「本当に今更なんだよな……」
決して自分は良い者ではないとエストは自覚していた。
前々からネストが虐められていたのは知っていたが、サポートとして手伝いに来るまでは目の前にいても助ける気も無かった。
それなのにサポートとして、そして代表の一人として選ばれたら助けるなんて本人からすればふざけているだろう。
もし壊れてておかしくなっているという話が嘘なら憎まれていてもおかしくない。
「まぁ、それよりも今はコンバット学校へ勝つために努力をするべきか」
上手くいったら同じ目的で協力し合ったとして憎悪は薄れるはずだとエストは打算する。
そうすれば復讐なんて後から考えないはずだと考えている。
「そういえば同じクラスだけどネスト君にはまだ言っていないけど良いか」
もともと補欠に格上げしていたが今は正メンバーとして更に格上げされたことを聞いたらネストも驚くだろう。
その姿を想像して、このことを教えるのが楽しみになる。
事前にクルドに教えたから伝える可能性はあるが、それは低いと予想している。
クルドの表情から立場が逆転したことにプライドを傷つけられたショックで教えないだろうと予想している。
それにあれだけ釘を刺したから嫉妬や復讐でネストを虐めないはずだ。
同じ三年や二年にも見かけたら助けるように指示しようとエストは考える。
「それにしても、まるで成り上がり主人公みたいだな」
虐められていたけど実力を認められて学校の代表に選ばれる。
そして実力者にまた虐められない様に護ってもらえるのは、まるでライトノベルの主人公のようだと思う。
更にそれに自分が関わっていると思うと、まるで物語の人物になっているようで面白くてしょうがなかった。
「くっそ……!」
ネストと自分の立場が正反対になったことにクルドは忌々しく声を上げる。
何となくで虐めていた奴が自分より立場が上になったことが認めらない。
虐めて壊したのは悪いと思っているが、それでも自分の方が強いとクルドは思っていた。
「クルド?どうしたんだ?」
心配して声を掛けてきた相手はクルドのクラスメイト。
気付かなかったが拳を壁に叩きつけていた。
おそらくは、その音に気付いて心配してくれたのだろう。
「いや、なんでも………」
なんでもないと答えようとしたがクルドは思いついたことがあって途中で止める。
まずは目の前のクラスメイトも一緒にネストを虐めた仲間だ。
ネストがクラス代表になったことを確認する。
「えっ、ネストが選ばれたの?……補欠じゃなくて?」
「補欠から正メンバーに変わって俺が補欠になった」
「………すごいな」
一緒に虐めていたからこそクラスメイトは冷や汗を流す。
つまり反撃をしなかっただけでクルドはそれなりの実力があったことになる。
復讐をされたらと考えると体が震えてしまう。
「どうしたんだ?」
「ネスト……」
「………」
二人が話しているとネストが二人の前に出てくる。
そのことにクルドはネストを睨み話していたクラスメイトは身体を震わせる。
「学校の代表の正メンバーにお前が選ばれて、俺は補欠になった」
「何それ?」
「事実だ。先輩も言っていたからな」
クルドの言葉に初耳だとネストは返す。
まさか補欠メンバーに加わるのはともかく正メンバーとして選ばれるのは予想外だ。
何で格上げされているのか理解が出来ない。
一部分では確かにクルドより優れているが全体的にはクルドの方が優れている。
「全体的には俺よりクルドの方が優れているのに?」
「まぁな!どうやら万能タイプの俺より特化したネストの方が良いんだって!」
ネストの褒め言葉にクルドは嬉しくなる。
実力を認められるのは例え相手が自分の立場を奪ったものだとしても嬉しい。
それにネスト本人が実力児たちはクルドの方が上だと当たり前の認識をしているのがため息を下げた。
「そういえば先輩が俺たちを気にして虐めていたら止めるってさ」
「今更じゃない」
「まぁな」
二人の会話にクラスメイトは顔を青くする。
片方は虐めの主犯で片方は被害者。
その二人が虐めのことで話していることに恐怖を覚える。
特にクルドは虐めの被害者に思い出させてどうするのかと思ってしまう。
確かに殆どではクルドの方が上かもしれないが一部ではネストの方が優れているのだ。
そこを利用して復讐されないと何で思っているのか不思議だ。
「そういえばお前は今日もルー先輩と訓練をするのか?」
「俺が代表の正メンバーに選ばれた理由は特化した部分でしょ。ならルー先輩と一緒に競い合うのが当然だと思うけど?」
ネストの答えにまぁ、そうだよなとクルドは頷く。
その反応にネストはどうかしたのかと首を傾げてしまっている。
「………悪いけど、今日は時間を潰して俺と戦ってくれないか?」
ネストはクルドの言葉に頷く。
多分、突然に交換さえられたことに納得いかないのだと想像できた。
そしてクルドはネストが自分より上だと認めてくれたことから悔しさは大分減ったが、それでも自分の立場を奪われたことにケジメをつけたいと思っている。
たった一度でも良いから戦いたい。
それさえ済めば胸のしこりも無くなって全力でサポートできると考えている。
「良いよ。突然のことだったんだろうし、それで勝っても納得してくれるんだろう?」
自分の気持ちを理解してくれたことにクルドは嬉しくなる。
本当にこれだけ自分を理解してくれる相手を面白そうだからと選んで虐めていた自分が憎んでしまいそうになる。
「当り前だ。総合能力じゃなくて特化している能力で選ばれたんだからな。俺が勝っても求めている能力があるということにはならない」
クルドの答えにネストも安堵する。
それで面倒な嫉妬や敵意を受けるのは嫌だった。
むしろ一回の勝負で悔しさ等を流そうとするクルドに尊敬してしまう。
これで虐めなんてしなければ憎悪を向けることも無かった。
「それじゃあ放課後になる前に試合をさせてくれと頼む?そういうのは早い方が良いだろうし」
「そうだな。昼休みになったら一緒に頼みに行こう」
ネストとクルドは互いに頷き合って教室へと向かって歩く。
その仲の良い様子をクラスメイトは見ていて困惑する。
少なくともネストがハグをするようになった最初の頃は壊れたのかと一緒に怯え罪悪感を抱いていた。
それなのに今では罪悪感が薄れ仲が良いように見える。
「そういえばエスト先輩って三年のどこのクラスだっけ?」
「さぁ?俺たちもだけど学年しか教えてもらってないからな。基本的に学年が違えば放課後とか訓練以外に付き合うことは無いし」
それでもエストが最初にクルドのいるクラスへと来れたのは虐めで目立っていたからだ。
それさえ無かったら聞き込みをして居場所を聞き出していただろう。
そしてエストとクルドの二人は昼休み、聞き込みをしてエストのクラスを見つけ出し試合の許可を貰うつもりだった。
「がんばれ~」
「代表に代わって選ばれたんだから勝てよ~」
「ネストが選ばれたのは特化型で求める能力があったからだ!クルドなら勝てる!」
昼休みクルドのネストの二人は大将であるエストを見つけて試合の許可をもらった。
そして放課後にいざ戦おうとすると周囲に一緒に選ばれた代表たちやサポートとしてくれる者たちが観戦しに来た上に野次や応援を飛ばす。
「………あの、訓練は?」
ネストの疑問にクルドも頷く。
自分達の試合より訓練をしていた方が遥かにマシなのに見に来たことが疑問だ。
「二人が気になって集中できないから見に来たの~。それに私はネスト君がいないと競い合う相手がいなくてつまらないもの~」
ルーの答えの前半の部分に二人は納得する。
学校の正メンバーを奪われた者と奪った者の試合。
やり過ぎないか心配になってしまったのだろう。
だが、ネストもクルドもやり過ぎるつもりは無かった。
「………取り敢えず、始めるか」
これ以上、観戦しに来た者たちと話をしてやる気が失われる前にクルドの試合を始めようと言葉に頷いてネストは構えた。
ネストの持っている武器は突撃槍。
その姿を見た瞬間、クルドや観戦しに来たほとんどの者が背筋を凍らせる。
平然としているのはルーだけだ。
「それじゃあ私が開始の合図をして良い~」
ルーの言葉に二人は頷く。
片方は冷や汗を流し、片方は今にも攻撃しそうな雰囲気を出している。
「それじゃあ始め~!」
「ぐぶっ!!?」
試合が始めると同時にネストはクルドにランスを突き刺す。
殺さないように刃先を丸めているために死ぬことは無い。
だが強い力で突き出されたためにクルドはすごい勢いで吹き飛び壁にぶつかる。
「俺の勝ち」
一瞬で終わったことに観戦していた者たちは何でネストではなくクルドの方が強いと選ばれたのかと疑問に思ってしまう。
こんな結果で終わってしまうなら、もともとクルドよりネストの方が強いんじゃないかと思ってしまう。
いくらルーと競い合うように鍛えていたとはいえ、圧倒的な差が付くほどに強くなるとは思えない。
スペックだけを見て決めた弊害で本当の実力で分っていないせいで引き起された事故だろう。
「待ってくれ……」
一撃で壁に叩きつけられたがクルドは意識が残っている。
その姿に頑丈だと代表者たちは更に評価を上げる。
立場を交換することになったが一年で選ばれたことに代表者たちはクルドに対する評価は高い。
二年より優れているらしいし来年では、ほぼ確実に選ばれるはずだ。
今年は参加できなくても、まだ二年は残っているから今は能力を上げれば良いと思っていた。
「もう一度、頼む……」
「え?」
クルドの頼みにネストは困惑する。
一度だけで良いと言っていたし、今ので実力差は分かったはずだ。
どれだけ総合的に能力が優れていても反応できなければ意味が無い。
「もう一度戦ってあげれば~」
困惑しているネストにルーも頼みを聞き入れてあげろと声を掛ける。
自分も同じことを経験していたから分かる。
まさか圧倒的な実力者があることを認められなくて何度も挑まれた経験がルーにもあった。
それと同じだからルーはネストに戦って上げろと提案する。
どうせ納得するまで何度も戦いを挑むのだ。
諦めるまで実力差を分からせる必要があった。
「それじゃあ行くぞ」
そう言ってクルドは剣を構える。
ルーも試合を開始するための準備をしており、それらを見たネストは逃げられないのだと理解して槍を構える。
「始め~」
「おごぉ!!」
そして一回目と同じように壁に叩きつけられる。
全く反応できなかったことが悔しいのか、また立ち上がって勝負を挑もうとしていた。
そしてルーも変わらずに試合の開始の準備をしている。
そして。
「がっ!!」
「ぶぶぅ!?」
「ばはっ!?」
「ぼほっ!?」
何度も何度もネストに挑んでは反応すらできずにクルドは壁に叩きつけられる。
その姿に呆れる者もいれば感動して見ている者もいる。
「まだ……まだぁ!!」
その姿にネストはイライラしていた。
少しで反応していれば不快に思わなかった。
だけどクルドは全く反応できないのに何度も挑んでくる。
それがたまらなく不快だった。
どこからかヒビが入った音がする。
「…………」
だからネストはこれ以上は相手をしないために更に一撃を集中して研ぎ澄ます。
ルーもクルドが起き上がるたびに試合の準備をするのなら、クルドの意識がなくなれば試合の準備をしないはずだとネストは考える。
「………舐めるなよ」
クルドもネストの雰囲気に今までの一撃とは違うと察する。
今度こそ反応してみせると剣を構えなおす。
「始め~!」
その言葉と同時にネストの突撃槍が襲ってくる。
今までとは違い、ゆっくり動いて見える。
これなら避けれると動こうとするが体が動かない。
そして突撃槍がゆっくりと近づいてき、触れたと思った瞬間に激しい衝撃に襲われてクルドの意識は暗闇の中に落ちていった。
「これなら、もう挑んでこないだろ」
ネストは会心の手ごたえがあったことに、これで意識を失ったはずだと確信する。
まだ帰るには時間があるだろうし、保健室に運んでから訓練をしようと思っていた。
「ここは……?」
クルドが目を覚ますと辺りには白い空間で囲まれていた。
よく見るとそれはカーテンであり、そんなものが学校にあるのは一か所しか思いつかない。
「保健室か?」
目を覚まし扉を開けると保険教師がいた。
「クルド君、起きたんだ?そろそろ訓練は終わると思うけど帰るかい?」
「そうですね。もし保健室に来たら帰ったと伝えてもらって良いですか?」
クルドの言葉に保険教師は頷く。
既に外は暗くなり始めており、訓練がもう少しで終わったと思ってもおかしくない。
「分かった。気をつけて帰るんだよー」
クルドが帰り支度をするのを見て保険教師は無事に帰るように注意して見送った。
「何でだよ……。俺の方が強いから正メンバーに選ばれていたのに。交換するようになったのも重要な部分が一部だけだとしても俺よりも優れているからじゃないのかよ……」
全体的には自分の方が優れていると自分も他の皆も認めていたのに全く相手にならかったことにクルドは絶望していた。
特にネストも全体的にはクルドの方が優れていると言っていたのに実際にはボコボコにしていた。
クルドはあの言葉は嘘だったのかと思ってしまう。
「畜生……!」
クルドは普段なら皆と一緒に帰っていたが今日はそんな気分では無かったし顔も見せたくなかった。
自分より本当は強かったネストへの嫉妬と怒りを見せたくなかった。
「何で隠していたんだよ…」
実際に戦ったネストは圧倒的に自分より強かったことを思い出してクルドは愚痴をこぼしていく。
いくら総合的にクルドの方が優れていても圧倒的に一部分が優れているのなら勝てないのだと分からせられる。
あれだけ強いのに虐めていた時にはやられっぱなしだったのが理解できなかった。
あれだけ強ければ好きなだけやり返せたはずなのに。
「くそっ……!」
思い出せば思い出すほど悔しさでクルドはどうにかなりそうだった。
やられっぱなしだったのも本当はバカにしていたんだと思ってしまう。
それらを考えて憎くなってくる。
「そういえばネストの奴は急に笑顔で抱きしめてくるようになったんだよな?」
あれから怯えもあったとはいえ虐めるのは止めるようになった。
そして、それから少しずつネストに好意を持ち親しくなった。
憎悪を隠すために自分も同じことをするべきかとクルドは考える。
だけど同じことをするのは怪しまれそうだとクルドは別の方法を考えようとする。
「いや、そもそも憎悪を隠すためにネストと同じことするのは意味が分からないな。ネストが俺たちを憎んでいるとは限らないだろうに……」
ネストの真似をすることを一度考えて、やっぱり無理だとクルドは考える。
異性に抱き着くのも恥ずかしいし嫌いな相手を抱きしめるのは想像するだけで吐き気がする。
やっぱりネストは自分達を嫌っていないか壊れているのだと想像が出来てしまった。
「壊してしまった可能性を考えると俺がネストを憎む資格は無いのかもしれないか……」
そう考えてもクルドはネストへの憎悪は全く消えない。
自分の立場を奪った敵として見てしまう。
ネストさえいなければ今も代表だったと考えてしまっていた。
「まずはネストに勝つための方法を考えないと…」
ネストの方が強いから正メンバーに返り咲くのは今年は難しいだろう。
もしかしたら来年はネストは最初から正メンバーに選ばれるかもしれない。
立場を奪う機会は無いかもしれない。
それでもボコボコにされた復讐をクルドはしたかった。
自分も多くの者たちの前でボコボコにされて嘲りの笑みを向けられたのだ。
ネストに同じだけかそれ以上の恥を晒さなければ納得がいかない。
「目標は来年の今頃にはネストに復讐を成功させることだな」
相手の方が格上だが勝つための方法は分かっている。
ネストがクルドより優れているのは突撃力。
それに必要なのはスピード。
つまりはネストの行動に反応出来るようになる必要がある。
「反応速度の訓練が必要だな」
クルドは特化した能力でも一番、厄介なのはスピードなんじゃないかと考える。
パワーに特化していても避けたら意味が無い。
頭脳に特化して罠や戦術を練っていても全て避ければ意味が無い。
実体験したのがスピードに特化したモノだけだから一番厄介だとクルドは考えていた。
「それにしても本当に何でネストは俺たちに虐められていた時にやり返さなかったんだ?」
あれだけの実力があればやり返すことも出来た。
それなのに全くやり返すことはなく、クルドたちはネストへの虐めはエスカレーションしていった。
普通は裸にして写真を撮り弱みにするなんて相手を余程、格下だと思えないと出来ない。
むしろ同じ人間だと思っていなかったのかもしれない。
クルドは我ながら何であそこまで出来たのかと疑問に思い、やり返してくればネストに対してこんな罪悪感も憎しみも複雑に抱かなかったと怒りを向けてしまう。
「絶対に復讐してやる」
ネストに自分が大勢の前で味わった屈辱を味合わせてやるとクルドは誓った。
「クルド、来なかったな……」
「そうだな。もしかしたら保健室にまだいるかもしれないし行ってみるか。……ネストは来るなよ?負けた相手だから興奮するかもしれないし」
ネストとクルドの試合が終わり、訓練に移行したが終わってもクルドは来なかった。
もしかして、まだ意識を失っている可能性があると思い代表者たちの中でも三年と多くても二人だけが保健室に行くことを決める。
「わかった。ネストにも言っておく。それじゃあ、またな」
誰が保健室に行くか相談する。
最終的には二人だけで行くことになった。
ネストには保健室に行かないようにして、保健室に行くもの以外は全員が帰る。
「それじゃあ行くか」
保健室に行くのはエストとガイトだけだ。
「すいません」
「はい。どうしましたか?」
「クルドが意識を戻ったか確認したかったんですが?」
「あぁ、彼なら先程、帰りましたよ。意識が戻った時間がつい先ほどだったので、今から行っても何も出来ないと言っていましたし」
クルドは既に意識を取り戻し、そして帰ったと聞いて納得する。
先程、意識が戻ったのなら確かに訓練場に来ても何もできなかった。
すれ違ったのが少しだけ残念だ。
「そうですか。ありがとうございます。それじゃあ、また明日」
保険教師に教えてくれたことに頭を下げてエストとクルドは帰り始める。
そんな二人に保険教師は手を振って見送った。
「それにしてもネスト、強くないですか?何で代表に選ばれなかったのが不思議なんですけど?」
「さぁ?一年だから書類上のスペックだけで決めたんじゃないか?」
決めたのは学校の教師たちだ。
生徒は勝ちたいのにスペックだけで決めるなんて教師は手抜きにもほどが程がある。
「ところで先輩ならネストに勝てますか?」
ガイトの疑問にエストは苦笑する。
多少は早くなったがエストからすればルーの方がまだまだ速い。
対処できる程度のスピードだ。
「当然。まだまだルーの方が速いし、俺なら勝てる」
ルーより強いからエストは大将に選ばれているのだ。
それより遅いネストでは勝てないと口にする。
「お前はどうなんだ?」
むしろ質問をしてきたガイトはどうなんだと疑問に持つ。
エストからすればガイトではネストと良い勝負をするようにしか思えなかった。
どう考えているのか疑問だ。
「………勝てると思います?」
「さぁ?良い勝負はするんじゃないか?」
自分から勝てると言わないのなら勝つのはネストだとエストは考える。
エストからすると実力は互角だろうと見ていた。
それなら勝者を決めるのはどちらがより勝ちたいかという気持ちだけだ。
他人に勝敗を尋ねている時点で勝てるモノも勝てなくなると考えていた。
「くそっ!」
ネストは家にある部屋に戻りクルドとの試合を思い出す。
「憎いのは俺の方なのに……!」
クルドと何回も戦っている途中に憎悪の視線を向けられた。
壁に叩きつける度に憎しみの視線が向けられてネストは不快になった。
能力的に優れているのはクルドの方だが実際に戦いになるとネストの方が強いのは本人も驚いていたが、だからと言って憎しみの視線で向けられるのは腹が立った。
憎いと思うのも殺したいと思うのも、それは自分が思っていることで向けられるいわれはないとネストは思っている。
「…………」
何となくネストは収納アクセサリから黒くて丸いモノを取り出す。
試合の最中にも何度がヒビが入ったような音が聞こえた。
もしかして収納アクセサリの中に入っているこれから聞こえて来たんじゃないかと思っていた。
「やっぱり!」
それには前に見たよりも深くヒビが入っていた。
そのことがネストにとって凄く嬉しくなることだった。
ひび割れているということは、それだけもう少しで復讐が果たせるということだ。
その日が待ち遠しくて仕方がない。
「早く割れて生まれないかな。事務員の言葉を信じるなら、これさえあれば復讐が出来るんだ」
誰も彼も皆殺しにしたくてしょうがなかった。
一人ではどうしても人手が足りなかった。
だから諦めていたが事務員に生まれて運が良かったと思える。
これさえ生まれれば全員に復讐できるのだから。
「本当に俺は運が良い。これが手に入ったんだから」
ネストは黒く丸いモノを手に取って楽しそうに笑う。
頭の中では既に復讐で皆殺しになるのが確信していた。
事務員に騙されているとは夢にも思っていない。
「あぁ、そういえばコンバット学校の奴らもいたな」
彼らにも復讐したいとネストは思っている。
だけど、まずは自分の身近にいる者からだ。
確かに屈辱も覚えたが、一番憎いのは学校の皆と家族の者たちだった。
コンバット学校の者が強いというのもあるが優先はするべきなのは身近な者たちだ。
「まずは家にいる者たち。そして次に学校にいる皆だ。コンバット学校は最後で良い」
ネストは誰も彼にも憎悪の矛先を向けている。
もはや自分にとって不快な相手は全て敵だとネストは認識していそうだ。
ネストの憎悪に誰も気づいていない以上、誰にも止めることは出来ないだろう。




